.
薄暗い土蔵の中で、月明かりが差し込み、鎧を纏った青のセイバーが召喚され
セイバーの前で地べたに倒れるように座る少年。
……少女のSNSアカウントのダイレクトメッセージで、そんな画像と一緒に、あるコメントが書き込まれた。
『問おう。貴方が私のマスターか』
「えっとぉ。多分?そうですー」
一人の少女『田中摩美々』が、気だるそうに自分のスマホ画面に答えた。
☆
東京二十三区内には、あらゆる人々、あらゆる企業、あらゆる事業、あらゆる娯楽、あらゆる学校、あらゆる施設、あらゆる交通……
流石は日本の中心。
豊かで素晴らしいもので溢れかえっている。
ここに居れば、何か困る事はない程だ。ここは、自由で満たされている。
何ら支配などされていない……誰もがそう思っているだろう。実際、誰もが疑問を抱かないだろう。
しかしそれは――日常にありふれた事、過ぎてしまい。
それが脅威になる事を知りながらも、無意識に利用して、日常に、社会に、世界に溶け込んだ事で危機の対象とすら認識されていない。
皆、誰もが使っているから大丈夫だと慢心しているからこそ、想像しえないのだ。
『期間限定キャンペーン!「Red Rider」の公式アカウントをフォローし事前申し込みを完了させよう!』
『「Red Rider」にてアカウント開設中! フォローの方、お願いします!!』
『現在、商品の在庫がありません。商品の入荷情報は「Red Rider」のアカウントにて報告します』
『当日生配信決定! 該当の「Red Rider」のカモーンが10万RC(リ・カモーン)達成でプレゼント!』
たとえば、SNSである。
東京二十三区内で使用されているSNS『Red Rider(レッドライダー)』。
『カモーン(来たれ)』と呼称されるユーザーの投稿する文章一つで、様々な事が起きる。
一般的には商品宣伝、交通情報、有名人の私生活のワンシーン、共通の趣味を持つ相手探し、他愛ない日常の愚痴。
時には人々を混乱させ
時には人々を扇動させ
時には人々を激昂させ
誰かを貶め、誰かを慰み者にし、
誰かに同情し、誰かに哀れみ、
誰かを応援し、誰かを奮い立たせ
誰かに先導し、誰かに突き動かし、
そして――誰かに『死』を与える。
ネットの炎上とは、観方によっては『内乱』で『内戦』なのだ。
戦場は『地上』ではなく『ネット』へと移行した。
人類から戦争は切り離せない。
時代が経つにつれ、姿形が変化し、やり方も多様化し、意識も単純化しただけである。
どう変化しようが概念と役割は変わることなく、最後の終末は成就されるのだ。
『ヨハネの黙示録』に記述されている終末の四騎士の一人。
神から地上を分割統治する権利と地上の人間を殺す権利を与えられし死の天使。
『戦争』の象徴――『レッドライダー』。
それが、セイバーとしてSNSに顕現した。
……セイバー?
☆
「なんかー、みんな普通に使ってて不思議な感じですよねぇ。実はマスターの人とかも利用してるかもしれませんよー」
能天気な口調で『田中摩美々』が言う。
彼女もSNS『Red Rider』の利用者であり、普通に書き込みを投稿(カモーン)して、気になったアカウントをフォローしている。
無論、ここでは企業とか日常的な投稿ばかりではなく、東京二十三区内で起きた事件の情報もあれこれ飛び交っていた。
普通は誰が書き込んでいるか分からない、信憑性がない、判別が難しいSNSの情報のどれを信用すればいいのか。
そうじゃなくても、ネットの情報に惑わされるなと言われるものだ。
これを頼りに聖杯戦争をやっていこうとする人間は、早々いない。
だが、摩美々は出来てしまう。
なんせ召喚?したサーヴァントがこのSNS『Red Rider(レッドライダー)』そのものなのだから。
改めて考えると、バリバリ真名丸出しな英霊?だが。
ここまで清々しいと誰も「SNSそのものがサーヴァント」とは考えないかもしれない。いや、考えられて堪るか。
レッドライダーは念話などは使わず、摩美々のアカウントのダイレクトメッセージで会話をしてくる。
彼?はネットミームを多用し、コミュニケーションを図ってくる。
ベッドで横になった構図で、ハゲた白衣のおっさんと看護師がいる病室の画像と共にコメントがつく。
『いいですか、落ち着いて聞いてください』
『貴方は聖杯戦争のマスターに選ばれました』
『貴方が召喚したのは私、セイバーのレッドライダーです』
一見、悪ふざけと感じられるが、実の所レッドライダーは真面目である。
彼を含めた『ヨハネの黙示録』の四騎士は支配、戦争、飢饉、疫病という概念そのもの。
姿形はなく、人格もない。
なのでマスターとコミュニケーションを取るとしたらSNSの概念に沿ったやり取り……ネットミームとなる訳である。
そして、摩美々本人もそうだった。
一見、気だるそうで独特なゆっくり口調が真剣さを感じられず、不真面目に見えるが、全然真面目である。
昨日まではアイドルとして活動していたのに、記憶を取り戻せば、自分はアイドルではないし、聖杯戦争に巻き込まれていた。
昨今の事件も相まって、決して危機感を抱かない訳ではない。
……全然そんな風に見えないが。
「セイバーさん。もう他の人達の情報とか手に入れてますかぁ?」
挑発気味に聞こえてしまう(本人はその気無し)摩美々の質問に対し、レッドライダーはある漫画の1ページのコラ画像を載せる。
謎の黒タンクトップの三人組に対し、一人の男性が彼らをこう呼ぶ。
『聖杯戦争犯罪三銃士を連れて来たよ』
話を聞く女性と少年が『聖杯戦争犯罪三銃士?』と驚いていると、男性が彼らを紹介していくと共に彼らもコメントを残す。
『人を香水で奴隷化させるサーヴァント』
『肉盾確保を優先させます』
『人を無差別に発狂死させるサーヴァント』
『渋谷区中心で活動してます』
『フラッシュ☆プリンセス!のヒース様推しです』
本当にロクでもないメンツと紹介文に摩美々「わー」と棒読みながら、ヤバイなとリアクションをした。
彼らの具体的な戦力は分からないようだが、レッドライダーの情報通りでいくと、
まともな手段を取らない、まともじゃない連中だ。
果たして、彼らを相手にただの少女・田中摩美々は生き残れるのか?
ふと不安に思った事を摩美々は尋ねた。
「ちなみにー。セイバーさんはSNSじゃないですか。どうやって戦うんですか、サーヴァント倒せるんですか?」
レッドライダーの返答は、ゲームキャラの金髪男性の画像と共に『大丈夫だ、問題ない』というコメントだった。
一応、倒す手段はある……らしい。
どうやるかは不明だが。
摩美々はもう一つ質問する。
「セイバーさんの願い事ってなんですかぁ?」
白背景にクソデカ強調フォントで『5000兆円欲しい!』と文字だけ起こした画像を貼り付けるレッドライダー。
あんまりにも意味不明な欲望象徴だったが、摩美々は何故か「ないですかー」と納得した。
そう、これすら一種のネットミーム。
何故か具体的な『5000兆円』という数字も欲望も、ただの画像に過ぎない。
摩美々が虚をついた通り、つまるところ『願いはない』が正解だった。
そして、摩美々も特別な願いはない。将来なりたい自分がなかったように、特別な願いはない。
変なところで似通った主従である。
だが……
――ま、摩美々ーーーーっ!!
あの面白い反応、叱ってくれる人、捕まえてくれる人。
自分がいるべき世界に帰りたい。
「プロデューサーがいる世界の方が楽しいですしー。元々のところに帰りたいですねー」
対するレッドライダーはSNSの『OK』スタンプで返事をするのだった。
【真名】
戦争(レッドライダー)@ヨハネの黙示録
【クラス】
セイバー
【属性】
中立・中庸
【パラメーター】
筋力:- 耐久:- 敏捷:- 魔力:A++ 幸運:EX 宝具:EX
【クラススキル】
騎乗:EX
今日に至るまで平原で街道で塹壕で草原で凍土で砂漠で海上で空中で泥中で湿原で
この地上でありとあらゆる戦争行為が行われた。
そして、現代社会において、内戦と内乱は地上ではなく――インターネットで行われている。
………何故?
【保有スキル】
扇動:A
人々を先導し、煽り、戦争行為を仕向けるスキル。
だが、このレッドライダーの場合は、ネットの炎上に特化している。
もう少しこう、何というか、手心というか……
無辜の世界:EX
『内戦』や『内乱』に対する人々の恐れが生み出したイメージが色濃く反映されたスキル。
イメージがあまりにも雑多な為に召喚時はプレーンな存在になる。
今回はSNSとして顕現した。意味不明である。
管理者権限:EX
宝具により実体化したSNS『Red Rider』のアカウント管理を行う権限。
ユーザーが書き込んだ情報の取得、ユーザーから魔力を回収したり、ユーザーの位置情報を取得したり
ぶっちゃけ、やりたい放題。あーもうめちゃくちゃだよ。
ただし、このスキルの対象はSNS『Red Rider』の利用者のみに限られている。
【宝具】
『来たれ、炎上よ、来たれ(ドゥームズデイ・カム)』
ランク:EX 種別:概念宝具 レンジ:- 最大補足:-
Red Rider(レッドライダー)は人理に本社を置く英霊召喚システムのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)。
投稿は『カモーン(来たれ)』と呼ばれ、限られた文字数だけで投稿できる。
Red Riderを利用するにはパソコンや携帯電話・スマートフォンから自身のアカウントにログインし
画面のボックスに999文字以内で内容を入力。『カモーン(来たれ)』ボタンを押して投稿が完了する。画像・動画の投稿も可能。
多くの企業がRed Riderにて宣伝広告を行い。アプリや他ウェブサービスアカウントとの連携機能も充実している。
……真面目に解説すると、舞台である東京二十三区内にて利用されているSNS『Red Rider』。
それがセイバー・レッドライダーそのものである。
人類が恐怖し、支配され、必須となっているSNSの概念を引き離す事は不可能。
どこかの会社で運営しているのではなく、概念が実体化している為、ウイルス等でどうこう出来る代物ではない。
仮にインターネットを消失しても、書き込む媒体(スマホやパソコン)がある限り利用できてしまう。
実質、マスターを倒さない限り、消滅はしない。
『剣、饑饉、死、獣(ソーシャル・デス)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1
己の結界内において他者に『死』を与える数多の物を具現化させ、その力を行使するスキル。
環境が完全に整えば、神話における『終末』を魔力が許す範囲でのみ再現することも可能。
このレッドライダーが与える死は即ち『社会的死』。
社会において存在が受容されず、存在が社会として孤立され、今後社会に生きていけない、死んでいるも同然な状態。
ぶっちゃけネタ的な意味合いに聞こえる。
実際、マスター相手に使用したらネットで炎上するだけである。
ただ、サーヴァント相手に使用すると効果は絶大的。
相手の神秘性を陳腐にし、一時的(この聖杯戦争時のみ)に『無辜の怪物』を与え、在り方を歪ませてしまい。
最悪、サーヴァントそのものを消滅させる驚異的な宝具。
また、この宝具を発動させるには人々を扇動させ、相手を貶め、炎上させる必要があり、炎上が沈静化すると不発に終わる。
場合によっては、サーヴァントが神聖化され、相手を強化してしまう事もある。
所謂、諸刃の剣である。
【人物背景】
『ヨハネの黙示録』に記述されている終末の四騎士の一人。
神から地上を分割統治する権利と地上の人間を殺す権利を与えられし死の天使。
小羊が解く七つの封印の内、二番目に登場するレッドライダー。
人類の『戦争への恐れ』を象徴するもの。
これは本来なら英霊でもヒトでも悪霊でも幻影ですらない。
生命体ではなく『戦争』という概念そのもの。
人類の『戦争への恐れ』を象徴するもの。この世から『戦争』が絶えない限り滅びはしない。
戦争、内戦、内乱は時代によって変化している。
そして――ネットワークからありとあらゆる人々に拡散される情報、そして炎上、時には死を与えるもの。
現代社会における皮肉の象徴としてレッドライダーは『SNS』となって顕現した。
ネットの画像・ネットミームを多用する個性的でふざけたキャラに思える。
だが、本人?は割と真面目。
彼?は人格や姿形すらない、知識の塊・聖杯戦争に忠実なロボットのようなもの。
その為、ネットの画像・ネットミームを活用して、マスターとコミュニケーションを図っている。
Q.こんなナリして本当にセイバーなんですか?
A.俺はセイバーだ。誰が何を言おうとセイバーなんだ。
……一応、レッドライダーは終末に現れる際、大きな剣を握っているとされるので、それがセイバーの由来である。
【外見】
なし
強いてあげるなら、真っ赤な馬に乗り大きな剣を握っている騎士……のアイコン。
【サーヴァントとしての願い】
5000兆円欲しい!
【マスター】
田中摩美々@アイドルマスターシャイニーカラーズ
【聖杯にかける願い】
生きて帰ること
【能力・技能】
アイドルとしての一定の技術を持っている。
他にもピアノなど様々な習い事を経験しており、絶対音感持ちだったりする。
彼女曰く、努力なんて一度もした事ないらしく。
色んな事が出来ても、興味がなくなって飽きて辞めてしまう。
【人物背景】
ダウナー系で面倒くさがりな高校生。
のんびりゆくっり口調で、前述の能力も相まって真剣みがないように感じられるが割と本人は真面目。
『悪い子』を自称しているのも、誰かに叱って貰う為であり本物(マジ)の悪人ではない。
【捕捉】
二十三区内のロールは普通の高校生でアイドルをやっていません。
最終更新:2022年04月30日 16:54