東京都心にもまだこんな空き地があったのか、と驚くような広さの野原。
普段は野球少年たちが練習に使っていると思しきグラウンドの一角で、二人の男がキャッチボールをしていた。

一人はかなり体格のいい高校生だ。ドルマークの付いた改造学ランを着ていることからも分かる。
顔は高校生には見えないほどイカついが、意外にも年相応に無邪気な目で球を追っていた。

もう一人は、野球選手のユニフォームを着た外国人だった。
いかにも白人といったようにこちらもかなり体格が良く、先程の高校生と並ぶとやはり大人の風格を感じさせる。

外国人は、素人とは思えないほど綺麗なフォームでボールを投げた。
彼の手から放たれた白球は、放物線を描き、するりと高校生のグローブの中に収まる。

高校生はそれを見て、嬉しそうに口笛を鳴らした。

「やっぱ、アーチャーは元野球選手だけあって上手えな~~ッ!」

彼は虹村億泰という。
杜王町在住のぶどうヶ丘に通う高校生だったが、朝起きたら聖杯戦争に巻き込まれていたのだ。
とりあえずサーヴァントと会った億泰は、クヨクヨ悩んでいても仕方がないと、親睦を深めるためにキャッチボールを申し出たのだ。

「『元』やないんやで。ワイは生涯現役や」

それに若干怪しい関西弁で応えながら、再びキャッチしたボールを投げ返したのは、先程出会ったばかりである彼のサーヴァントだ。
生前の名は、ベーブ・ルース。今なお「野球の神様」として野球を愛する者たちに讃えられる怪物選手である。

「ところで、億泰ニキ。こんなところで油売っててもええんか? いくら予選期間や言うても、いろいろ準備とかあるやろ」

ベーブ・ルースは、聖杯戦争に参加するサーヴァントとして至極真っ当な疑問を呈した。

「……うーん、オレはなァ~~。色々深く考え過ぎると頭痛くなっちまうから、出たとこ勝負で行くことにするわ」

億泰はしばらく考え込んだ後、ものすごく考えなしとも適当ともとれる発言をした。

「それより、アーチャー! オレと野球で勝負してくれよ~! あの憧れのベーブ・ルースの投球を生で見てみてえんだ」

ななっ、いいだろ? と上目遣いにすり寄ってくる億泰にベーブ・ルースは、ほな三球勝負やで、と快諾した。

しばらく軽い準備体操を行った後、両者はバッターボックスに相まみえた。

「ししっ、こりゃあ帰ったら仗助と康一に自慢できるぞ。あの露伴先生も流石におったまげるに違いねえぜ」

スケベ心を丸出しに、億泰はバットを構えた。

「よーし、いつでも来いっ!」

億泰のスタンド『ザ・ハンド』のスピードはBランクだ。
スタンド同士のラッシュを捌き切ったという経験から、意外にも億泰は目には自信があった。

「ほな、行くで。よろしくニキー」

ベーブ・ルースがボールを握り、ピッチングフォームをとる。
次の瞬間には、球は五百メートルほど後方のゴミ箱を貫通して土手にめり込んでいた。
球が目で追えなかったとかのレベルではなく、どのタイミングでボールが手から離れたのかすら億泰には分からなかった。

「ありゃ、かなり手加減したつもりがちょっと速すぎたやで。すまんな」

本気で申し訳無さそうにベーブ・ルースは頭を下げた。

続く第二球。
先程よりかは球速が遥かに遅いのか、億泰にも目で追うことはできた。
だが、肝心のスイングが付いていかない。振り遅れてしまうのだ。

「く、クソーッ!」

億泰は地団駄を踏み、しかもそれで勢い余ってバットで自分の頭を叩いてしまった。
だがそれがいい衝撃になったのか、億泰は何やら攻略法を思いついたようなニヤケ面になった。

「おっ、なにか思いついたみたいやな。ほな、億泰ニキ。ラスト一球行くやで!」

「野球の神様」ベーブ・ルースが三度目のピッチングフォームをとり、ボールを投げた。
三球目ももちろん、ストレートだ。

すると、億泰は不敵な笑みを浮かべ、自身のスタンド『ザ・ハンド』をちょうどストライクゾーン手前に出現させた。

「『ザ・ハンド』ッ! ストライクゾーンの『空間』を削り取れェ――――ッ!!」

『ザ・ハンド』はその右手で触れたものを何であろうと削り取ることができる。
『立入禁止』の看板を削り取れば『立禁止』になるように、断面は元々そうであったかのようにピッタリと閉じた状態になる。

ならば何もない『空間』を削り取った場合は何が起こる?
そう、周囲のものが引き寄せられたり、逆に自身を瞬間移動させることができるのだ。

そして今回、『ザ・ハンド』によって空間が削り取られ、ボールは自動的に億泰のバットへと引き寄せられる――。

だが、見事ヒット! ……とはならなかった。
億泰が想定していたよりも球速が速く、空間ごとボールも削り取ってしまったからだ。

「う、うおっ! これが本当の『消える魔球』だ……!」

当初の野望はどこへやら、文字通りの『消える魔球』の発明に大喜びする億泰。

「億泰ニキ、水を差してすまんのやが、ボールがこの世から消えた場合って判定どうなるんや……?」

「野球の神様」はマスターのあまりの無邪気っぷりに、困り顔で肩をすくめた。





【真名】
ベーブ・ルース@史実

【クラス】
アーチャー

【属性】
中立・中庸

【パラメーター】
筋力:A+ 耐久:B 敏捷:D 魔力:E 幸運:D 宝具:B

【クラススキル】
対魔力:D
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

単独行動:B
 魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 マスターを失っても二日間現界可能。

【保有スキル】
直感:B
 戦闘時、常に自身にとって最適な展開を感じ取る能力。
 視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。

天性の肉体:C
 生まれながらに野球選手として完全な肉体を持つ。
 このスキルの所有者は、常に筋力が1ランクアップしているものとして扱われる。

投擲(球):A
 野球ボールを弾丸として放つ能力。
 ちなみに左投げである。

【宝具】
『打撃王(ザ・バッター)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~9 最大補足:1
 飛んできたものを打ち返す、非常に単純な宝具。
 ただし、惑星級の攻撃だろうと必中必殺の呪いだろうとバットを振れば打ち返すことができる。
 もちろん打ち返されたものを『捕球』できなければ、落ちた場所にいる対象はそれをモロに食らうことになるだろう。
 また、もし飛んでくるものがなかった場合の応用技として、その辺りの瓦礫などを千回打ち出す『千本ノック』があるらしい。

【人物背景】
アメリカ合衆国出身のプロ野球選手。
球界に残した偉大な功績から「野球の神様」の異名を持つ。
生涯通算成績は、714本塁打、2213打点。

【外見】
エセ関西弁である「猛虎弁」を器用に喋る謎の外国人。
バットとグローブを常に持ち歩いている。

【サーヴァントとしての願い】
強者と打ち合ってみたい。


【マスター】
虹村億泰@ジョジョの奇妙な冒険 Part4 ダイヤモンドは砕けない

【聖杯にかける願い】
基本的にはなし。
だが、父親を元に戻せるのであれば、聖杯に頼むかもしれない。

【能力・技能】
スタンド『ザ・ハンド』
破壊力:B スピード:B 射程距離:D 持続力:C 精密動作性:C 成長性:C
右手の平で触れたものを何でもガオンッと削り取ってしまうスタンド能力。
応用として、空振りで瞬間移動を行ったり、逆に対象を自分の方に引き寄せることができる。

【人物背景】
横を短く刈り上げて上にまとめた黒髪と、顔にバッテンの傷が特徴的なスタンド使いの高校生。
単純で喜怒哀楽が激しく、怒るとすぐ手が出たり、悔しいとすぐ泣いたりするが、基本的には気のいいお人好しである。

【捕捉】
参戦時期は本編終了後。
最終更新:2022年05月02日 21:32