[1]
私のマスターは優しい少女だった。
魔術師でもなければ、特出するべき身分でもない、一般的な高校生。家族は母と父、弟の四人暮らし。
凄惨な過去はなく、非常な現実もなく、絶望の未来すらない。平凡な少女だ。
何故、聖杯戦争に巻き込まれたのかも分からない彼女は、一人想い悩んでから本心を私に告げる。
聖杯は欲しくない。
誰も殺したくない。
サーヴァントを倒せればマスターを殺す必要はないから、と。
特別、追記する事項はない。
[2]
私のマスターは名家の魔術師だった。
聖杯戦争の存在を把握しており、何故このような場に巻き込まれたのか懐疑的だったが、根源へ到達する為、聖杯の獲得を目指すようだ。
まあ、それが魔術師が目指すべき到達点であり、平凡な動機でもある。
聖杯を獲得する為にあらゆる手段を用いて良いと言う。
無論、この箱庭にいる人間を魂食いする許可だ。
サーヴァントだけでなく、マスターも殺しておけと命じた。再契約の恐れがあるからだ。
追記:家族がいたらしいが妻も息子も用無しと、一昔に始末したようだ。
[3]
私のマスターは獣だった。
何等かの人体実験により特殊な出生と特殊な体質を持ったものらしい。
人類が契約者ではない事もあるようだ。
論外の為、次に移行する。
[4]
私のマスターは自殺志願者だった。
聖杯という奇跡の願望機を知り、人生をやり直せると希望を見出そうとしているようだ。
実にくだらない。
[5]
私のマスターは医者だった。
[6]
私のマスターは警察官だった。
[7]
私のマスターはアイドルだった。
[8~5000]
私のマスターは探偵だった。私のマスターは怪盗だった。
私のマスターは漫画家だった。私のマスターは小説家だった。
私のマスターは殺し屋だった。私のマスターは殺人鬼だった。
私のマスターは人外だった。私のマスターは吸血鬼だった。私のマスターはAIだった。私のマスターは宇宙人だった。
私のマスターの願いは世界平和だった。私のマスターの願いは復讐だった。私のマスターの願いは聖杯戦争の破壊だった。
私のマスターの願いは世界征服だった。私のマスターの願いは救済だった。私のマスターの願いは聖杯戦争の掌握だった。
私のマスターは
[16411~60000]
少し話をしよう。
何も私は適当な事はしていない。
これは――私の弟(と呼ぶべきなのか)の受け売りなのだが、
人間には個体差があり、一握り、砂粒程度の確率で面白い個体が稀にいるらしい。
それで私は先程から60000……今は800000を過ぎたか、幾千幾億の次元を観測し、私と契約する運命にあるマスターを選別中な訳だ。
だが……やはり私には人類に価値を見出すのは無謀かもしれない。
どれも同じ個体。どれも大差ない個体だ。
観測し続けるだけ無駄。いっそ人類以外のマスターと契約するのは構わない……が、例の弟にあれこれ突かれるだろう。
人類と契約しなかったのか、いや契約したら契約したで嘲笑されるのが想像つく。
しかし、だ。
ここまで試行錯誤し、適当かつランダムに算出して構わないと結論を導くには早計だ。
[19838746]
私のマスターは少女だった。
理解してはいたが、この聖杯戦争において明確なマスターの基準は無いようだ。しかし……ふむ。漸く『当たり』をひいた。
彼女は非常に困惑しているようだが、気丈に、上品な少女として振る舞った。
「貴方が……私のサーヴァント?」
こう見えて彼女は100年の時を繰り返した魔女。
最早、それは意味を為さず。平凡な女子生徒として過ごしているが、経験は十分あると言える。
何せ――その繰り返した時は凄惨で残忍で非常で最終的に彼女が死に至る惨劇なのだから。
もう少し繰り返せば、彼女と同類の人類は幾つか現れるかもしれないが……そろそろ打ち止めにしよう。
この次元を確定させる。
確定した時点で、この観測は終わり、一筋のレールとなる。
宝具を終えた人類に感じ得ない衝撃を、少女は感じたのか僅かに焦りを浮かべ「何…?」と困惑した。
さて……弟は何と始めるのだろう。
こういう経験がありそうな彼に、興味本位で聞いておくべきだったか。いいや、聞かずとも私は知り得たのだが。
興味が無かったものだから仕方あるまい。
何はともあれ、それらしく私は振る舞う事にする。
「ええ、その通りです。マスター。
この度はセイバーのクラスとして召喚されました。しがない時の神です」
微笑を浮かべたつもりだが、これで良いだろうか?
☆
100年の惨劇を乗り越えた少女『古手梨花』は、自身に起きた事に実感が湧かなかった。
彼女はハイソな生活を求め親友と共に聖ルチーア学園に入学する。
知り合い曰く『温室野菜の生産工場』『幽閉されたら洗脳されるか発狂するか』と怖い話を吹っ掛ける場所。
挨拶が「ごきげんよう」で始まり、落第生は補習地獄の特別クラス。不良生は反省室という独房送り。
お嬢様学校の皮を被った刑務所とも呼べる空間。
奇妙な事にそこで梨花は、充実した生活を送っていた。
100年繰り返し、猫を被って本性を装い続けた魔女にとっては逆に過ごしやすい洒落た空間だったのだ。
ある意味、彼女が聖ルチーア学園に惹かれたのは一種の波長が合ったからと言える。
だが……長くは続かなかった。
「沙都子……」
親友の名をぼやき、梨花は自室とされるマンションのベランダから大都会・東京の景色を眺める。
長く田舎で生きた彼女にとって、街灯とネオンの光は宝石のように美しく。眩い。
逆に、目に悪く感じてしまう。
そこへ――
二十代ほどの童顔で、くしゃくしゃ癖毛の黒短髪と紫眼。白のオーバーコートを羽織り、黒スーツ姿の男性。
梨花と契約を果たしたサーヴァント・セイバーは、ワインとキムチという不釣り合いなセットを手に、姿を現す。
穏やかな口調でセイバーが言う。
「こちらで宜しいでしょうか。マスター。人間の生活とは縁遠い立場なもので、如何せん物の価値が分かりかねるのですが」
高級レストランの支配人のようにセイバーがワインの銘柄を梨花に見せる。
ベルンカステル産の赤ワインに梨花は、溜息混じりで「ありがとう」と礼を告げつつ。
セイバーに席を外すようお願いする。
独り、グラスに赤ワインを注ぎ、キムチをつまみにする……
今のお嬢様学校生活ではありえない素行。しかし、かつて自分が行っていた行為を嗜んで再度溜息を漏らす。
何故、聖杯戦争に……以前の問題。
――では、ごきげんよう。裏切り者の梨花。
学園のエントランスで親友に呼び止められ、そこで、シャンデリアが落下した。
否、恐らく、親友が得意とするトラップが発動したのだ。
昔はいたずら半分なトラップとして微笑ましく思えたソレで、梨花を巻き込み、自分諸共……
そこまで彼女は追いこまれていたのか?
彼女が妙な事を口走っていたような気もする。
分からない。
何もかも納得できない。
元の世界に戻り、そして親友の――沙都子に……どうすればいいのか。
「それにしても……時の神、ね」
真名は明かしてはいないがセイバーがそう名乗ったのを思い返し、梨花はかつての友の存在を脳裏に浮かべた。
「変なところで縁があるものね。――羽入」
☆
100年を生きた、とは言えど彼女はすぐに行動を移さないようだ。
惨劇から縁遠くなり、かつての威光も薄れてしまったのか。感覚を取り戻していないだけか。
いづれにしろ……
時の、時空間そのものたる空虚の神格にとって、これはただの興味本位で暇つぶしなのだ。
【真名】
ヨグ=ソトース@クトゥルフ神話
【クラス】
セイバー
【属性】
秩序・悪
【パラメーター】
筋力:D 耐久:D 敏捷:E+++ 魔力:A 幸運:A 宝具:EX
【クラス別スキル】
対魔力:A
Aランク以下の魔術を完全に無効化する。
事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。
【保有スキル】
神性:-
ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。より肉体的な忍耐力も強くなる。
本来は高い神性を誇るのだが、時空間そのもの、根源そのものへと昇華された為、不可思議だが神性はない。
無名の霧:A
狂気に満たされた神格から齎された異端。
精神干渉系の類を無力化する所か、干渉を試みた者の精神にダメージを与える。
最極の空虚:A+++
時空間と隣接する事で通常感知不可能な霊体化状態のサーヴァントを感知。
ヨグ=ソトース自身のみ上下左右、あらゆる空間に降り立ち、自身の時間を加速させ高速移動・攻撃を行う。
根源接続:-
擬似サーヴァント召喚の為、このスキルは使用不可となっている。
【宝具】
『色彩の煌(アカシックレコード)』
ランク:E 種別:記憶宝具 レンジ:1~99 最大補足:1000
ヨグ=ソトースの周囲に漂い七色に輝く球体状の粒子。事象、想念、感情が記録されている記憶の断片。
元来ならあらゆる次元、あらゆる全てを把握できるが、擬似サーヴァントの制限によりレンジ内の記憶しか収集できない。
また、これらの粒子を変幻自在に操作し、遠距離攻撃することが出来る。
『原初の言葉の外的表れ(クリフォー・ライゾォム)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1~? 最大補足:1
ある魔女が持つ鍵が門を開く鍵ならば、こちらは門を閉じる鍵。白銀の鍵剣。
『根源』たるヨグ=ソトースがこちら側に接触しないように、門を施錠し続ける為のもの。
固有結界など時空間に影響を与える類を攻撃可能とする。
また『閉ざす』役割がある為、何らかの『解放』を防ぐ事も可能。
『不変かつ無限である現実(パラレルワールド)』
ランク:EX 種別:観測宝具
あらゆる時空間に接続し、時空間そのもの、かつ過去・現在・未来を含有する為、
全ての次元……即ちパラレルワールド全てのヨグ=ソトースは、どれも同一でヨグ=ソトースという無茶苦茶なもの。
しかし、擬似サーヴァントとして召喚された彼は、この宝具を僅かの間しか。
そして、たった一度のみしか発動できない。
だが、彼にとっては刹那だけで十分。幾億、幾那由他も存在する次元を観測し、一つの次元に確定させる。
簡単に説明すると『たった一度だけ、好きな世界線を一つだけ選べる』宝具。
この宝具は既に使用され、使用不可である。
【人物背景】
アザトースが自らの分身として産み出したものの一つ。
門にして鍵。全にして一、一にして全。
漆黒の闇に永遠に幽閉されるものの外的な知性。
あらゆる時間・空間に隣接する。あるいは時空そのもの等。
召喚されたのはヨグ=ソトース本体ではなく擬似サーヴァント『ウムル・アト=タウィル』。
ウムル・アト=タウィルがヨグ=ソトースの化身とされる事が多いが、実際は何らかの事件を通し、幸い中の不幸に合い。
『根源』の一歩手前まで至ったものの、肝心な『銀の鍵』を所持しておらず。
彷徨うハメになった平凡な青年である。
それを知った『這い寄る混沌』が、彼に『案内人』としての役割を与える。
ウムル・アト=タウィルは若者だったり老人だったり。
生きていたり、死んでいたり、観測上非常に曖昧な存在だが。
ゆるやかに生命として死に向かっているのは確かで。いづれは普通の人間と同じ、死に至る。
一見、穏やかな微笑と雰囲気を漂わせる不思議が詰まったように感じられるが、
良心や慈悲・愛情すら持ち合わせない、高慢に気取っているつもりもなく、嘲笑の蔑みすら無い。
ただ、執念深さは特出しており、良くも悪くも『這い寄る混沌(兄弟)』似である。
【容姿・特徴】
二十代ほどの年齢ながら童顔。くしゃくしゃ癖毛の黒髪短髪・紫眼。
白のオーバーコートを羽織り、黒スーツ姿の男性。
【聖杯にかける願い】
とくになし、興味本位で古手梨花の行く末を見届ける
【マスター】
古手梨花@ひぐらしのなく頃に業
【聖杯にかける願い】
元の世界に戻る……そして、沙都子に関しては……
【能力・技能】
殺害される運命から逃れる為に、100年も時を繰り返した。
最も、これは彼女自身ではなく彼女に憑りつく『羽入』と呼ばれる神の力。
今では意味をなさない。
【人物背景】
同じ時を繰り返した100年の魔女。
惨劇を乗り越えたその後、親友と共に聖ルチーア学園へ進学。
学園で有意義な生活を行っていたのだが……
シャンデリア落下事故後からの参戦
最終更新:2022年05月07日 15:17