少女は、どうすればいいのか分からなかった。

知らないと宣った父親に対して、どうすればいいのか。
一人で船に乗ったら駄目と言われて、どうすればいいのか。
母親が帰って来なかったら、どうすればいいのか。
ノートがなくなったら、どうすればいいのか。
くさいと言われても、どこがくさいのか。

愛犬がいなくなったら、どうすればいいのか――……


今だってそうだ。
少女――『久世しずか』は、何故か東京二十三区のどこかに放り込まれて、そこで何故か生活してて。
挙句。聖杯戦争のマスターとして選ばれた。

でも、一つだけ。
聖杯戦争を勝ち抜けば『聖杯』を得られて、『聖杯』を使えばどんな願い事も叶うのだ。


『聖杯』を使えば


きっと


「保健所の人がチャッピーを食べちゃったかもしれないから。だから保健所の人の胃の中を調べたいの」


彼女はチャッピーという愛犬の死を受け止められずにいる。
だから、支離滅裂な発想を繰り返していた。
しずかは狂気に憑りつかれている。普通に考えれば、胃の中を調べたところで、何だと言う。それでチャッピーが生き返る訳でもないのだ。
胃の中で断片が生きているのだろうか?
常人には理解できない思考回路であった。


「その為に聖杯が欲しいの」


だけど必死に少女は訴える。自分が召喚した英霊に対して。


そしたら



「へぇえぇぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~~……じゃあよぉ。チャッピーってのはぁ、美味いのかぁ??」

「………………………………え」

「美味いから食われちまったんだろぉ? 俺も食ってみてぇなぁぁ~~~~~~~」



口元が血塗れに染まった男が、しずかの召喚したライダーが、彼女以上の猟奇的な返事をするのだった。






人々は、どうすればいいのか分からなかった。

正体不明の殺人事件に対して、どうすればいいのか。
警察が必死に捜査したが手がかりが掴めず、どうすればいいのか。
次々に狙われる女性達らは、どうすればいいのか。
ターゲットとされる娼婦は、どうすればいいのか。
危険と言われても、どう危機から回避すればいいのか。

正体不明の殺人鬼が現れたら、どうすればいいのか――……

今尚、殺人鬼の正体は分からない。
ジャック・ザ・リッパー。あるいは切り裂きジャック。

医者であるとか。

警察であるとか。

女性であるとか。

男性であるとか。

悪霊であるとか。

悪魔であるとか。

散々、色々、幾度も語られても誰も正体は知らない。分からない。誰も理解できない。
つまり可能性は無限大。
久世しずかが召喚したライダーのジャック・ザ・リッパーも、可能性の一つ。

本来なら日本に在来している怪異、妖怪。
奇妙な表現かもしれないが――血肉を食う為、風に『乗って』やってきた『外来種』の怪異『鎌鼬(かまいたち)』。
それがライダーのジャック・ザ・リッパーである。






しずかは凄まじい形相で訴える。


「チャッピーは食べないで!」


必死な少女を他所に血塗れの着物を纏い、イタチの尾が生えたライダーは、逆ギレする。


「俺はぁ美味い肉が食いてぇんだよ。美味いんだろ、チャッピーって奴はぁ。俺にも食わせろ!」

「ちゃ……チャッピーは食べ物じゃない」

「食われた言ってたじゃねーか。あ! 美味いから独り占めしようってかぁ!?」

「チャッピーは犬だもん」


しずかがおずおずと述べた事実にポカンとライダーが表情を浮かべる。


「……はぁああぁぁぁ~~~~~? 犬畜生だぁ? ケッ、冗談じゃねーわ。
 犬とか食った事あっけど美味くねえよ。つーかよぉ。人間は犬食うのか? 味覚どうかしてんだろ」

「食べない……チャッピーは食べ物じゃない」

「あーあ。食いモンの話してたら腹減って来た。ちょっくら肉食ってくるわ」

「………」






東京二十三区の一角で女性の惨殺事件が発生した。
その残忍な手口から切り裂きジャックの再来と警察関係者内部で噂されている……







「ねえ、ライダー。聖杯、手に入れてくれるの」

「聖杯なあ。俺は美味い肉食えればいいんだけどよぉ。聖杯は美味い肉出してくれんのかぁ?」

「そうだよ」

「ふ~~~~~~ん。じゃあ手に入れるかぁ。……あのさぁ」

「なに?」

「チャッピーってよぉ。実は無茶苦茶美味い犬だったりしねぇかぁ?」

「チャッピーは食べ物じゃないよ」






【真名】
ジャック・ザ・リッパー(鎌鼬)@史実+民間伝承

【クラス】
ライダー

【属性】
混沌・悪

【パラメーター】
筋力:C 耐久:D 敏捷:A+++ 魔力:D 幸運:D 宝具:C


【クラススキル】
騎乗:EX
 騎乗の才能。このライダーの場合は風と同化し、風に騎乗する。

対魔力:C
 魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
 大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。


【保有スキル】
霧夜の微風:A
 他のクラスで顕現した場合に付随する『霧夜の殺人』が変化したもの。
 夜間に限り同ランクの気配遮断の効力を得る。

悪禅師の風:B
 あくぜんじのかぜ。切り裂かれた瞬間は痛みや出血はないが、
 時間差で激痛と出血が生じ、通常よりも症状が長く続く一種の呪い。

魔力放出(風):A+++
 魔力を自身の武器や肉体に帯びさせる事で強化する。
 ライダーが放出する風そのものが刃のように鋭く、人体を切り裂く。

神性:E
 地方によっては鎌鼬は悪神の仕業とされている逸話から、微弱に獲得しているスキル。


【宝具】
『暗黒都市倫敦悪煙濃霧(グレート・ロンドン・スモッグ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1~1000
 かつてロンドンを覆い尽くしたスモッグ公害を引き起こす硫酸の霧を大嵐に巻き込み、放つ。
 対人特化のジャック・ザ・リッパーにしては珍しい広範囲の攻撃である。


【人物背景】
世界中にその名を知られるシリアルキラー。別名『切り裂きジャック』。
ジャック・ザ・リッパーの正体は無数に存在する。
『堕胎された赤子の霊』『正体不明の切り裂きジャックの幻影』など、それらは『切り裂きジャックの可能性の一つ』である。
このライダーも可能性の一つ。

日本に在来する妖怪『鎌鼬』。
それがロンドンにまで渡り、娼婦の血肉を食らっていたというもの。


【weapon】
大鎌


【外見】
イタチの尾が生えた男。体格は細身で目の瞳孔が常に開いている口元が血だらけ。
髪はイタチっぽい茶色のショートヘア。
簡素な薄緑の着物を身に着けているが、血塗れ。


【サーヴァントとしての願い】
美味い肉が食いたい




【マスター】
久世しずか@タコピーの原罪


【聖杯にかける願い】
チャッピーを取り戻す


【能力・技能】
なにもない


【人物背景】
父親と別居し、水商売する母と貧困生活をし、学校ではいじめられている。
そんな――よくいる普通の少女。


【捕捉】
チャッピーは食べ物ではありません。
最終更新:2022年05月17日 21:20