――知る人ぞ知る、東京ドームの地下深くに隠された、地下闘技場!
そこは今夜もまたむせ返るような熱に包まれていた!
八角形の砂場の闘技場を囲む観客席には、大勢の客が今か今かと戦いの開始を待っている!

「青龍の方角! SUTEGORO王者、空松伸之介ッ!!」

ワアアアアッ!
アナウンサーの絶叫と共に、観客からは大きな声が挙がり、一人の男が拳を天に突き上げる!
日本人離れした195cmの長身! 手も長ければ足も長い!
圧倒的なリーチから繰り出される、目にもとまらぬ圧倒的なラッシュ!
キックボクシングやムエタイを渡り歩いた果てに、先の大晦日には国民的格闘イベントで見事優勝!
立ち技であれば今の日本で最も強い日本人と言っても過言ではないッ!

「白虎の方角! 柔道(やわら)の堕ちた若君、亀村豪気ッ!!」

ワアアアッ!
対する反対側から入場してきたのは、これも大きい! 身長ならば僅かに劣るが、体重なら遥かに上回る!
かつて高校柔道を席巻し「柔道(やわら)の若君様」の大岡リョーゴの再現とまで謳われながらも!
オリンピックのメダルを期待する周囲を振り切って総合格闘技に転向!
ブーイングを浴びながらも全米各地の大会で連戦連勝!
投げて強い、組んで強い、殴っても強い!

立ち技日本一、VS、寝技日本一!
今宵も凄まじいカードが成立したぞ! 東京ドーム地下闘技場は、もはや沸騰寸前だ!

「はじめェッ!」

ドーン!
太鼓の音と共に、低い姿勢で飛び出したのは柔道出身の亀村ッ!
教科書通りの超低空タックル、しかし速い、圧倒的に速いッ!
誰もが思う、「組めば亀村の勝ちだ」と!
捻りもなくしかし思い切りよく、初手から亀村が組みに行くッ!

しかし空松も素直に組まれるようなタマではないッ!
低空タックルに合わせたのは……

「ち、超低空アッパーカットぉッ!?」

アナウンサーも絶叫する!
膝を合わせて潰すのが定石の低空タックル、しかしそこにまさかの地を這う魔拳!
これもまた、驚異的な腕の長さとリーチを誇る空松ならではの技!
大胆に足を開き、ほとんど地面を擦るくらいの勢いで繰り出される拳が亀村の顔面を襲う!

ドンッ!

弾け飛ぶ両者! 弾け散る砂!
舞い上がった砂が晴れた時………空松は無事! 亀村も無事!
いや、亀村の鼻から一筋の鼻血が垂れる……
刹那のうちに拳はガードしたものの、そのガードの上から叩き潰されたのだ!

オオオオオオオオッ!
さらに地下闘技場は沸き立つ! 互いにそんな簡単に決着するような二人ではない!
仕切り直しの恰好になった二人は、じり、じりと、慎重に距離を測り……

「……ふわぁぁぁぁぁ。つまらんのぉ」
「!?」
「!?」
「「「!?」」」

突如、その極限の緊張を破ったのは……たった一人の、大あくびである!
亀村も、空松も、アナウンサーも、観客も!
一瞬、試合を忘れてそのあくびの主に注目する!

「つまらん。ほんとつまらん。
 ……わし、もう帰るわ。後は勝手にせい」
「ちょっ……御老公ォ!?」
「そんな、つまらんって」
「な……なんということだァ!! まさにこれからという時にッ!!
 地下闘技場オーナー、徳川光成氏からの突然のダメ出しだァッ!!!」
「み、みっちゃーん! 戻ってきてー!」
「おいどうすんだよこの試合! せっかくいい所だったのに……!」

地下闘技場はあまりのことに大混乱! 両雄ともに試合続行どころではない!
それにも関わらず!
羽織袴姿の禿頭の老人は、てくてくと、心底退屈そうな顔で、そのまま闘技場を出て行ってしまうッ!
いったいどうなってしまうんだぁッ、この闘技場はッ!!!


 ☆


「キャスター! キャスターはおるか! おい天海! てんかぃぃぃ!」
「こちらに。
 しかし御老公、真名の連呼はご勘弁頂きたく」
「おう、キャスター! 聖杯戦争はどうなっとる。何か動きはないか?!」
「気の早い主従がちらほら動き出してはおりますな。
 しかし、御老公に見て頂くほどの派手な動きは、まだ」

都内某所、とてつもなく広いお屋敷にて。
闘技場をほっぽりだして帰ってきた老人を迎えたのは、こちらも禿頭の老人だった。
しかしこちらは背が高い。
顔に刻まれた皺は重ねた年月を感じさせるものの、背筋はピンと伸びた長身。
その身を包むのは仕立ての良い黒いスーツで、細い目には只ならぬ鋭い光が宿っている。

「いやァほんと、『記憶』を取り戻してからというもの、地下闘技場もつまらなくて死にそうじゃ。
 刃牙もおらん。独歩ちゃんもおらん。勇次郎もおらん。
 渋川翁も克巳も花山も本部も……だーれもおらん。
 なんで今さら、あんな低レベルな闘いを見なけりゃならんのじゃッ!」
「この『東京二十三区』での『最強』程度では、御老公の御眼鏡には叶いませぬか」
「あんなもん、刃牙ならあくびしながら片手間で瞬殺じゃよ。
 まあコッチにも、隠れた猛者はおるのかもしれんがのォ……」

小柄な老人は小さくぼやく。
聖杯戦争のマスターとしての記憶を取り戻す前なら、あの程度の戦いでも素直に楽しめた。
しかし、もうダメだ。
どうやら『ここ』には居ない猛者たちとの思い出が、あまりにも鮮烈過ぎる。

「ところでどうなった、例の準備は?」
「ああ、あらかた出来上がっております。こちらにどうぞ」
「ほう、ほう、ほう!」

二人は広い屋敷の一室に入る。
何十畳もある大広間には、ちょっとしたテーブルほどもある、八角形の板が五枚、並んでいる。
板の縁には八卦の模様が刻まれており、中央は窪んで静かに水を湛えている。

「名付けまして『遠見の水盤』。我が『陣地』となりし土地の映像ならいつでも映し出せます」
「ほほぅ」
「現時点では山手線に囲まれた範囲の内側全て。どこでも『見る』ことができます」
「例えば東京ドームとかもか?」
「出しましょうか。地下闘技場でよろしいですかな」

背の高い方の老人が、手にした錫杖で水盤のひとつを軽くつつく。
途端に水面が音もなく揺れて、現れたのは先ほどの地下闘技場。
既に第二試合が始まっているのか、筋肉質な男がふたり、顔を腫らしながらボコボコに殴り合っている。
背景に映る観客席は、泥試合を前に、いまいち盛り上がっていない。
小柄な老人も水盤に触ってみる。
念じるほどに、画面が変わる。
東京ドームの地上部分で行われている。プロ野球の試合。
さらに画面を転じて、夜の東京ドームの外見。
映し出された人々は、こちらの方に誰一人として目を向けずにいる。

「ふぅむ。コレは向こうからは分からんのか?」
「ですね。使い魔を飛ばしている訳でもなく、自分の『陣地』に対する権利を行使しているのみですので」
「詳しい理屈は分からんが、なんにせよ、好きに観戦できるということじゃな――」

小柄な老人、徳川光成は、そこでニヤリと笑う。

「この『聖杯戦争』とやら。
 あいつらのつまらん試合より、こっちの方がよっぽど面白いわい」

日本最後の黒幕。
莫大な財を持ち、莫大な権力を握り、法も好きに踏みにじって遊ぶ究極の道楽人。
そんな徳川光成は、しかし今まで情熱を注いできた格闘技に飽き果てて、ここに新たなる趣味を見つける。

古今東西の英雄がその武を競う、聖杯戦争。
特等席で観戦するに足る、究極の『闘い』である。

「楽しみじゃのぉ、楽しみじゃのぉ。早く戦い始めぬかのぉ」
「私の方でも情報収集は進めております。
 面白そうな闘いが始まるようでしたら、お知らせ致します」
「山手線の中だけってのも狭いのぉ。もう少しなんとかならんか」
「少し時間が要りますな。
 原理的には東京全てを手中に収めることも可能ですが、手間がかかりまする。
 どこか優先すべき場所の希望などありますかな?」
「そうじゃのぉ。銀座や日本橋方面は抑えときたいの。あとは新宿の都庁あたりもじゃ」
「承知致しました。地道に広げて行きましょう。とりあえずは東西にもう少し広げる格好で」

彼ら自身も参加者であり、マスターであり、サーヴァントであるにも関わらず。
禿頭の主従は傍観者としての準備に余念がない。
それは決して油断でもなければ慢心でもない。

徳川光成の財と権力。生まれ持った豪運。そしてキャスターの風水による運勢操作能力。
積極的に誰かを倒すのには向かないが、「倒されないこと」に関しては飛びぬけた能力を誇る。
そもそもとして、直接には『危機に出会わない』。
脅威と対峙しても、『攻撃される流れにならない』。
そんな方向の幸運に特化した主従である。
何か藪蛇なことでもしでかさない限り、簡単には脱落しない二人なのだ。

「聖杯戦争、見ていたいのぉ……できれば今回だけでなく、次も、その次も見たいのぉ」
「それが御老公の『願い』ですか」
「そうじゃの。聖杯とやらが手に入ったら、そんなことでも願うかの。
 ずー--っと聖杯戦争を見ていたい、とな」

光成は子供のように笑う。どこまでも無邪気に笑う。

「そういう天海は、おぬし、何を望むんじゃ」
「そうですな……大きな願いは、あると言えばありますが。
 こたびの召喚では、とても叶うものではないと諦めておりました。
 しかし御老公の楽しむ姿を見て、今になって浮かんだ願いがあります。
 おそらく、これならばそこらの『聖杯』でも叶えられる、そんな願いが」
「ほぅ」

長身のキャスターは、そしてうやうやしく頭を下げた。

「このキャスター、『南光坊天海』。
 首尾よく聖杯を手に入れた暁には――
 この霊基に、『ルーラー適性』を賜りたく存じます」





【クラス】
キャスター

【真名】
南光坊天海@史実・日本

【属性】
秩序・中立

【パラメータ】
筋力:D 耐久:D 敏捷:C 魔力:A 幸運:B 宝具:EX

【クラス別スキル】
陣地作成:EX
魔術師として有利な陣地を作り上げる能力。
作れる陣地の性能はランクB相当(神殿には至らない)だが、2つの点において隔絶した超性能を誇る。
ひとつは、範囲の広さ。
召喚されて間もない現時点で『山手線に囲まれた内側』全てが彼の陣地となっており、さらに拡張も可能。
作業の時間さえあるのなら、原理的には東京二十三区全域を彼の陣地とすることすら可能。
もうひとつは、ステルス性。
魔術師としての陣地を構築しながらも、そこが陣地であると認識させない高度なステルス性を誇る。
ランクとしてはA+相当の隠匿性を持っており、並大抵の眼力では看破不可能。
ただしステルス性の代償として、陣地内に他の英霊が陣地を作成することも妨げられない。

かつて天海は江戸を魔術的に創造し、数多の仕掛けを構築した。
その後の江戸/東京の繁栄の程を考えても、その実力は確かなもの。
しかし同時にそれは非常に分かりにくいものであり、見ても分からず、諸説紛糾するものとなった。
他ならぬ東京にて召喚されたことで、彼の陣地作成スキルは絶大なボーナスを受けている。

道具作成:A
魔力を帯びた器具を作成できる。
天海の場合、特に「誰か他の者の弱点を突く武器/道具」の作成に長けている。
この能力は史実上のエピソードとしても該当するものがなく、記憶もなく、本人も少し首を捻っているが。
相手の正体を知り、ある程度の分析の時間があれば、必ず何かしらのモノを作成できる。

ただしそのためには、それなりの作業時間と魔力、材料が必要となる。
時間の短縮や材料の不足を、魔力消費で代替(ショートカット)することも可能である。
だが、不足量によっては令呪の魔力が要るし、さらに無理が過ぎれば彼自身の命を代価とすることになる。



【保有スキル】
高速読経:C
高速詠唱と互換の能力。特に陣地内では行使可能な術を瞬時に発動させることができる。

英雄作成:B
王を人為的に誕生させ育てる技術。
史実では特に死後の徳川家康の神格化に一役買った能力。
対象にカリスマや幸運などの能力を与え、強化する。
今回はマスターである徳川光成に対して行使しており、ただでさえ破格な社会的能力と豪運を増幅している。

風水:B+
吉方や凶方を把握する魔術の一系統。
これを高いレベルで修めており、必要に応じて方角の意味を書き換えるようなことも可能。
例えば江戸の設計にあたっては、実際の方角とは異なるにも関わらず、富士山を『北』に見立てるようなこともした。

千里眼(江戸):C
東京限定で、遠隔地で起きていることを把握する能力。
ひどく大雑把に、派手な物事が起きていれば見てきたかのように感知することができる。
特に地形の大きな変化やビルの崩壊などを伴う事態があれば、たちどころに察知可能。
本来は風水の能力の延長線上のものであり、気の流れの変化を察知している。地形が変われば流れも変わる。

【宝具】
四神相応・江戸結界(ししんそうおう・えどけっかい)
ランク:EX 種別:対都市宝具 レンジ:東京 最大捕捉:東京

魔術都市としての江戸を作り上げた天海ゆえの、東京そのものの宝具。
風水の力を活用し、対象の運・不運を操作する。
対象の幸運値のパラメータを一時的に上下に一段階変更する(BランクならAもしくはDになる)。
さらに加えて、幸運を与えたなら何かしら都合のいい物事が、不運を与えたなら不都合な物事が頻発する。

この宝具は事実上、彼が「陣地」とした範囲内でしか使用できないが、同時に抵抗不能で対象数に上限はない。
英霊をこれだけで仕留めるのは困難ながらも、足止めや妨害には効果的。
他の運気や偶然を操作する能力とは、相殺しあう可能性もある。

【weapon】
錫杖。
キャスタークラスにも関わらず、近接戦闘の技術は高く、それなり以上の戦闘が可能。
ただし今回は能力値が追いついていないため、積極的に自分から戦うものではない。

スキル・道具作成で武器を作ることも可能で、戦国期の武士の武器なら本人も使用可能。
こちらは準備さえできれば、相手の弱点を突くものになる。
仮にキャスターが積極的な攻勢に出るとしたら、相手に合わせて作った武器が頼りとなる。

【人物背景】
謎の多い僧侶、南光坊天海。
徳川家康に仕え、江戸の設計に関わったとされる人物である。
特に良く知られているのは、家康の死後の扱い。東照大権現の名で日光に祀るようにしたのは彼の案である。
そのほかにも、江戸を風水的に整え、様々な仕掛けを施したとされるが、不明な点が多い。
前半生にも謎が多く、かの明智光秀と同一人物だったという珍説もある。

今回召喚された天海も謎の多い存在であり、また本人も完全には自らの全体像を把握できていない。
弱点狙いに強い道具作成スキルについても、自身でも詳しく説明できずにいる。
どうも複数の「天海」のエピソードが交じり合って混在している模様。

【外見】
禿頭の老人。背は高く、腰は曲がっておらず、意外と筋肉も残っている。
黒のスーツ姿で、ステッキの代わりに錫杖を持っている。錫杖以外に僧侶の要素はみられない。

【サーヴァントとしての願い】
この聖杯戦争を可能な限り観戦する。

英霊としての大目標は別にあるが、今回の召喚で叶うとは思っていない。
ただし、それを目指すための段階として。
首尾よく聖杯を手に入れたならば、己の霊基に『ルーラー適性』を付加する。
そうして、いつかどこかの聖杯戦争を仕切る権限を手にする。




【マスター】
徳川光成@刃牙シリーズ

【マスターとしての願い】
聖杯戦争を可能な限り観戦し続けたい。
可能であれば「次以降」の他の聖杯戦争も特等席で観戦したい。

【能力・技能】
圧倒的な財と政治力。
あらゆる法を曲げて許されてしまうほどの実権の持ち主。
財力も圧倒的なものがあり、道楽のようなことに何億と注いで全く揺らぐ気配もない。
そしてそれらの権力・財力の使い道についても知り尽くしている。

凄まじいまでの豪運と生き延びる運命力。
かつて一度、末期がんに侵され、全身に腫瘍が転移したこともある。
が、奇跡的な確率の事態として、特に治療することもなく治癒してしまった。
また権力をものともしない暴を極めた男たちと何度も対峙しつつ、傷ひとつ負っていない。
圧倒的な豪運と運命力の持ち主で、こと、生き残ることにかけては飛びぬけたものがある。

【人物背景】
徳川将軍家に連なる徳川の一族の現当主にして、日本の最後の黒幕。
常に和装で過ごす、小柄な禿頭の老人。
圧倒的な財力と権力を持つ道楽者。

男たちが戦う姿を観戦することに全ての情熱を注ぎ、東京ドーム地下に秘密の巨大な闘技場を所有している。
武器の使用以外は全てを許すこの闘技場の戦いは、全ての格闘者にとって憧れの舞台となっている。
その一方で、多数の観客を入れておきながら秘密は守り抜く管理も徹底している。

【役割(ロール)】
日本で屈指の資産家にして黒幕。
圧倒的な財と政治力を誇り、数多の法を踏み倒し無視し、総理大臣すらも顎で使う。
その権力基盤はこの二十三区でも健在。
東京ドーム地下の地下闘技場も所有し運営している。




【備考】
キャスターが「道具作成」スキルで「遠見の水盤」を作成しました。
キャスターの「陣地」内であればどこでも音声付の動画として観察可能です。
気配等はなく、見られていることを認識することは困難です。
水盤は現時点で5枚あり、5か所を同時に観察することができます。

ただし、見たい場所の指定などは見る側が行わねばなりません。
また、相手側も見られていると分かったならば、魔術による妨害等は比較的容易です。

【備考】
山手線の内側全域、および徳川邸をキャスターの「陣地」としました。
今後も拡張予定で、とりあえず東京駅東側の方向と新宿駅西側の方向に延ばしていくようです。
最終更新:2022年05月16日 23:19