東京二十三区の裏ではある麻薬が流行している。
それは紙麻薬『天国への回数券(ヘブンズ・クーポン)』。そして、それの改悪版『地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)』。
趣向用の『天国への回数券』は一般人に出回っているが、改悪版の『地獄への回数券』は肉体強化――ある種のドーピング薬だ。
これを用いて荒稼ぎや他の組との抗争をする裏の住人は多くいる。
深夜、都心の一角で段ボールに入った紙麻薬を取引している極道らと売人の姿がここにも。
中にある商品(ブツ)を確認する為、中身を開く。
独特な匂いと形状を流し見し、極道の一人が「よし。いいだろう」と仲間に合図し、現金の入ったアタッシュケースを売人に渡そうとした時。
幹部の男が静止した。
「おいぃ、待てやぁ。なぁ~~~~んか妙じゃあねえか、コイツは」
「み、妙って。変なこと仰らないで下さいよ。商品は間違いなくこうして……」
すると幹部が自分の手元にあった『地獄への回数券』の一束を取り出し、怒鳴った。
「見てみぃ! 『HELLS COUPON(ヘルズ・クーポン)』やのうて『HEALTH COUPON(ヘルス・クーポン)』書いてあんぞぉ!!」
「えっ!?」
売人も目を丸くした。
『誤字』いや『誤植』! 『地獄への回数券』の一束分に表記されている綴り字(スペル)が異なるのである。
それを聞いた他の極道らが、全ての紙麻薬を確認した。すると……
「アニキ! この『天国への回数券』……『A』と『E』の並びが違ってるぜぇ~~~!!」
「『COUPON』じゃなくて『CAPCOM』! ゲーム会社になってやがるっ!!」
「つか文字の形(デザイン)違くねぇかぁ?」
通常、このような表記ミスはクレームの対象になる。
販売元は相応の対応が求められるだろう。
だがしかし、ここはよりにもよって表ではなく裏の世界。ましてや極道相手。
書類の誤字程度なら、多少目を瞑るにしても、商品の誤字――麻薬汁に浸した紙麻薬の誤字。
そもそも元となる紙自体、大量生産・大量印刷されるものくらい、誰にだって理解できる。つまり――
「偽物(パチモン)だぁ!!!」
徐々にだが裏の世界で『天国への回数券』および『地獄への回数券』の偽物が出回っている噂が広まり出した。
これを変に怪しまれなかったのは、売れ筋の麻薬だから偽物(パチモン)が出るのは自然の摂理だと思われたからだろう。
本当の本当に、それらの文字が『誤植』してただけで、本物だったとは露知らずに……
☆
人類から切り離せないものは幾つかある。
たとえば三大欲求。
たとえば死。
たとえば戦争。
たとえば――……『誤植』。
変な話、人類は言葉を、文字を扱う種族である。故に『言い間違え』や『誤字』『脱字』は切り離せないのだ。
いくら慎重に生き、いくら高学歴で、いくら年月を重ねようが、決して避ける事はできないもの。
古来の偉人から現代の若者まで、書き損じからタイピングミスまで。
言語の誤りは避ける事の出来ない障害の一つ。
実は、それを齎す悪魔がいる。
名を『ティティヴィラス』。
膨大な書の中に必ず潜むとされる悪魔は、偶々、いつからか紛れ込んでいたある書物の一つを見つけた。
外宇宙の神がこちらの世界に降臨しようと施した罠の一つ、ある神の黙示録である。
それを見つけた悪魔は――その書物に『いたずら』をし、誤字脱字まみれの陳腐なものにしてしまった。
まあ、悪魔とはそういうもの。
神に逆らうもの。神を嘲笑するもの。
全うであるか、邪であるかはどうでもいい。
とは言え。
不可思議なのだが、これはこれで邪神の降臨を未然に防いだという、謎の功績として人理に記録されたのだった。
☆
「……ってな訳でぇ。なんでしょうね? 俺としちゃぁ世界を救うとか、正義感があった訳じゃないんすよ。
どっちかっつーとぉ……こう。パラパラ本を捲ってたら、間に虫が入り込んでて『うわ!気持ち悪っ!!』的な感覚で潰したみたいな~……
えーと。分かります? 旦那。無意識に虫潰して『君、凄い事したじゃん!』って褒められても。ねえ?
『はあ、そうっすかぁ』みたいな。リアクションも薄くなるってもんですよ」
そう語る男は、一言でたとえるなら社畜だった。
ボサボサで手入れされてない深緑の髪に、どこか無気力そうで目の下に隈……
ではないがそれっぽい皺があるのとジト目のせいで余計疲労感を隠せない顔立ちに緑の細眼鏡。
サラリーマンよろしく、だらしないスーツ姿という服装で、社畜っぽい雰囲気が加速していた。
しかし、彼――ティティヴィラスこと『フォーリナー』を召喚したマスターは、彼をこき使ったりはしていない。
逆に、何もしていない。
フォーリナーに何か命令するまでもなく、まるで悟りを極めるかの如く、ただただ無心無表情無言を貫いていた黒髪の男。
突然、口を開いたかと思えば「お前は何をした英霊だ」という質問だった。
フォーリナーは英霊ではなく悪魔だと、先程の語りをした……訳である。
黒髪の男『ミリオンズ・ナイブズ』の事をフォーリナーは全く知らない。
何をしてきたのか。
何をしたいのか。
本来なら一つ二つ話しておくべきものを、今日まで何も話して来なかったが、最初の会話がこれだから真面目なんだろうなと
フォーリナーは何となく思う。
ナイブズが更に問いかけた。
「お前は悪魔だ。なのに人類の生存に貢献した事をどう思う。人類から嫌悪されたお前は、そうすべきではなかったと後悔しているか」
その問いにフォーリナーは、ドン引いた。
ナイブズの指摘内容じゃあなく、その問いをしてくるナイブズの人柄にドン引いた。
うわ、馬鹿真面目な奴じゃん。コイツ……と。
悪魔だからこそ多くの人間を知っているフォーリナーだからこそ、もうこの時点である程度、ナイブズの人物像が予測できてしまう。
馬鹿真面目に色々考えて、その結果空ぶって、恨み買ったり苦悩したり不幸になるタイプ。
頭もいいし、ひょっとしたら強いかもしれない。いや、強い存在だから、そういう事を考えて馬鹿なことやって自滅しそうな。
所謂、堅実すぎる王様。本人は真面目に国を想って行動してるのに周囲から理解されない奴。
なんでこんな奴がマスターなんだよ~と内で嘆きつつ、フォーリナーは適当に流した。
「すいやせん。俺、馬鹿なんでそーいう発想なかったっす。マジで。えーと、まあ、考えてみても何とも思わないもんですね。
あと。人間は俺を嫌ってるかもしれないっすけど、俺は嫌ってないっすからね」
「何故だ」
「旦那。好きの反対は嫌いじゃないんすよ。『無関心』っす。俺、人間に対する感情は『無』ですから。ホント。
憎いとか嫌いとか、そーいう感情あるのは、元々無意識に好きだった奴っすよ。興味とか好意がないとマジで『無』っすから」
俺が好きなのは言葉だけっすよ、と。まるで世界が恋人のような謳い文句を言うフォーリナー。
強がりではなく本当の事実である。フォーリナーは悪魔で、人間への理解はあるが、彼らに対する感情は『無』。
関心あるのは『言語』だけ。
フォーリナーが念の為、今なら聞けるかと思い尋ねる。
「ところで、旦那は聖杯の願い事って決まってるんすか?」
「……強制的な連行と収容を実行した奴の提案を素直に飲むとでも」
あぁ~~~~~良かった~~~~~馬鹿真面目で! フォーリナーはちょっと安心した。
喜びを誤魔化すように「俺も適度に様子見した方がいいかと思いますよ」と意見を述べたのだった。
実際、この聖杯戦争は訳が分からない部分が多過ぎるし、胡散臭い。
フォーリナーとしては面倒な事、ならなきゃいいなーと不安を覚えていた。
☆
人間は滅ぼすべきだ。
今は、滅ぼすべきなのか。滅ばさないべきか。そう変わりつつある。
だが悪魔が言うには――対象に好意なければ、そもそも関心すら抱かないものだと。
とんだ皮肉だ。
二十三区と呼ばれる都市に住む人間は、大して変わらない。
土地や世界が違えば何か変わるかと観察したが、驚くほどに変わらなかった。人間は人間だった。どの世界でも人間は変わらない。
ここまで来れば不可思議だ。
環境が変わっても、在り方は不変なのか。
故に――まだ結論は導けない。
人間は生存(いき)るか、死滅(くたば)るか。
【真名】
ティティヴィラス@悔悛論+クトゥルフ神話
【クラス】
フォーリナー
【属性】
中立・中庸
【パラメーター】
筋力:C+ 耐久:D+ 敏捷:B+ 魔力:D+ 幸運:A 宝具:EX
【クラススキル】
領域外の生命:EX
外なる宇宙、虚空からの降臨者。
邪神に魅入られた訳ではなく、彼なりに空気を読んだ結果、これである。
神性:B
その体に神霊適性を持つかどうか、神性属性があるかないかの判定。
ティティヴィラスの場合は、宿った湖畔の神性によるもの。
【保有スキル】
高速読解:EX
あらゆる言語を読み解くスキル。
たとえ言語そのものを目にしなくとも、言語が記されている媒体を視認するだけで、
中身を覗き見る事が可能。言語特化の千里眼。
高速詠唱:E+++
魔術の詠唱を高速化するスキル。
ティティヴィラスの場合は、文章へのいたずらをするスピードが神がかっている。
狂気:D+
不安と恐怖。調和と摂理からの逸脱。
周囲精神の世界観にまで影響を及ぼす異質な思考。
ティティヴィラスの場合は、自ら施した誤植に対する疑心暗鬼を呼び起こす。
誤字蒐集:A
言語の誤りを悪事として勘定する逸話のスキル。
人々が犯した言語の誤りを吸収し、一時的にパラメーターの底上げをする。
【宝具】
『全能万人であろうと逃れられない誤り(ミッシング・キャラクター)』
ランク:EX 種別:対言語宝具
魔導書の文章、召喚の呪文、宝具の詠唱といった言語に纏わるものを無茶苦茶にする嫌がらせ特化の宝具。
これにより魔術や召喚の不発、宝具解放の阻止をする。
また、外宇宙の神に纏わる言語をぶちこんで、邪神をその身に宿す脅威を簡単に量産できてしまう事も……
流石のこれは、ティティヴィラスも「する訳ないだろ。常識的に考えて…」と真顔で否定している。
ただし、その逆も可能で、外宇宙の神に纏わる言語を無茶苦茶にし、狂気に侵された存在を正気にできる。
【weapon】
ペン?
身の丈ある青緑色のインクが入ったガラス製のペン……ではなく実は『棘』をそれっぽく加工したもの。
湖畔の神性が持つ人格を消失させ、アンデッドを産む体液を流し込む『棘』が由来。
本来狂気の体液だったものを、ティティヴィラスは誤植する為のインクに活用している。
攻撃時はインクを斬撃のように飛ばし、軌道を描いて攻撃できる(FGOのゴッホのような感じ)。
【人物背景】
無駄話、言い間違え、読み飛ばし、誤字脱字、誤植など文章あるいは言葉に誤りを持ち込む悪魔。
所謂、誤字脱字は妖怪のせいならぬ悪魔のせい。
犬も歩けば棒に当たるし、猿も木から落ちる。河童も川流れをするし、弘法も筆の誤りをする。
言語を扱う者全てにとって切っても切り離せない存在である。
ティティヴィラスは、あろうことか外宇宙の神に纏わる魔導書に『誤り』を持ち込んでしまう。
しかし、皮肉にも彼の持ち込んだ言葉の誤りにより、外宇宙の神の存在が正確に伝わらず、降臨を阻止したという
謎めいた功績を遺し、英霊の座に刻まれる。
とは言え、外なる神の存在を認知してしまった為、降臨者(フォーリナー)となった。
これまでの説明通り、好き勝手いたずら嫌がらせ悪ふざけはしない。しても常識の範囲で収めている。
たとえば、人類史に関わるようなヤバイ事は決してしない。
邪神の降臨を阻止したように、空気は読める奴。実はコイツも中途半端に真面目である。
愛しているのは言語だけ。
人類に対する感情は無。人類がいなければ言語は生まれないのだが、だからといって好きになる訳ではない。
【捕捉】
ティティヴィラスと接触した湖畔の神性とは『グラーキ』。
彼?で有名なのは『グラーキの黙示録』と呼ばれる書物。
これを数多の書物に紛れ込ませ、降臨の媒体にしようとしたがティティヴィラスによって
無茶苦茶な内容となって台無しにされてしまう。グラーキの方は、相当怒り心頭らしい。
【外見】
深緑のボサボサショートヘアと緑の細眼鏡をかけた男性。
どこか気苦労してそうな社畜顔をしている。
普段はスーツ姿だが、戦闘時はトゲのような青緑色のファーがついたコートを纏った容姿に変貌する。
【サーヴァントとしての願い】
とくにはないが、ヤバイ事が起きるなら空気を読んで対処する
【マスター】
ミリオンズ・ナイブズ@TRIGUN MAXIMUM
【聖杯にかける願い】
胡散臭いものは信用しない、まずは見極める
【能力・技能】
人ではない存在。
プラントと呼ばれる力が備わっているが髪は黒く染まり切っており
万全に使う事はできない。
【人物背景】
人類滅亡を目論んだ孤独の王。
本編終了後からの参戦。
【捕捉】
『天国への回数券』および『地獄への回数券』の偽物が出回っている噂がありますが
ティティヴィラスの誤植と狂気によるもので、誤植された『回数券』は綴り字などがおかしいだけで本物です。
最終更新:2022年05月15日 11:43