"さがしています!"
"…………………"
"…………………"
"■■しょうがっこう、〇〇ハル、〇さい"
"ワレはするどいツルギをふるうか"
"…………………"
"せんじつ、がっこうをでてかられんらくがとれません"
"ワレはみとおすチエをもつか"
"…………………"
"とくちょう、あおいりぼん、こがら、ひだりうでがない"
"ワレはみちびくトクをもつか"
"…………………"
"みかけたかたはどなたかごれんらくください"
"ワレはナニモノかしっているか"
"…………………"
"…………………"
"言フ莫レ"
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ハルちゃんですか? ええ、知っています。
なんていうか、儚いっていうのかな、そんな雰囲気の子でしたね。
でも、なんというか、隔絶した雰囲気があるっていうわけでもなくて、うーん……。
一生懸命なんです、オドオドしているときもあったけど、意志が強い、んですかね?
頑張って、明るくあろう、みんなと過ごそうって、がむしゃらになっていましたね。
もしクラスの雰囲気が悪ければ、いじめられたりしたかもしれませんけど……。
クラスではそんなことはなかったです。それに……。
ハルちゃんひだりうでがなかったから、だからみんな気を使っていたんだと思います。
カワイソウだから、気を使っていて、使っているうちに仲良くなっていったって感じです。
そう、そうですね、今は、皆恥ずかしがり始めているけれど、
友達なんだって皆思ってると思います。
カワイソウ、カワイソウ。
貴様は彼女がカワイソウだと思うのか? 彼女は強い娘だ。神を退ける意思を持った娘だ。
憎むべき神に呪われている娘だ。だからこそ、彼女は立ち向かわなければならない。
彼女は神から解放され、神を意のままとしなければならない。願いを押し通す我を持たねばならない。
貴様らのへらへらとした同情で価値を棄損されていい娘ではないのだ。
……やはりだめだな。ハルをこのような空間に置いていては、
彼女にはちゃんとした場を用意しなければ。聖杯を取り、我の世界の幸福を味わえるように。
そうだな。彼女は幸せにならなければならない。教育を行っていかなければ。
まずは……貴様から。
隻腕の少女が夜の自然公園を駆けていた。
彼女が息を切らせるたびに首掛けライトが揺れて、一歩足を踏み出すと左の袖が舞った。
口元は引きつりながらも、目元は前を見据えている。夜を見通さんとする意志に溢れた目であった。
「ハル、頑張れ」
見守る影は、風変りであった。
現代においてはコスプレと思われそうな巫女装束、が中途半端に武官のように改造された服装である。
時代公証人にこのような服装が当時に存在したかと尋ねたところで、鼻で笑われるだろう珍妙な恰好である。
その包まれた体は貧相であり、ただ艶やかな髪がポニーテールにくくられ、切れ長な瞳には狂気を宿していた。
現実にそぐわない美人の人型は、同じく現実にそぐわない、黒い靄からのっぺらぼうの人型に至るまでに追い回される少女、
拙い身体能力で必死に躱して、目的を達成しようとする彼女を見ていた。
かけがえのない宝石を見るような眼であった。かすかな羨望を滲ませているような眼であった。
そうしているうちに、隻腕の少女は遂に最後の化生を振り切り、蜘蛛が吐いたような糸に吊るされているもう一人の少女の下に至る。
目が覚める様子がない彼女を、隻腕の少女は裁ち鋏を取り出し、何とか拘束を解こうとして──
──瞬間、拘束されている少女の体が燃え上がった。
燃え上がり、黒ずんでいく少女の身体を、隻腕の少女は茫然と見送った。
心が無茶苦茶にかき乱されて、意識していないのに呼吸が止まらなくなっている。
彼女に、黒ずんだ手が伸びる。それは燃える少女の手であり、追いついた化生の手である。
それを切り払った美人──セイバーは、もはや視点も定まらない隻腕の少女──ハルに、ようやく声を掛けた。
「カワイソウニ、ダメだったなあ、ハル」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
セイバー、さん。とハルは過呼吸気味の声で呼んだ。
セイバーは震える彼女の背中を優しく擦る。聞こえてきた声は印象と異なる慈愛に満ちた声である。
「なあ、ハル。貴様は頑張った」
「確かに、貴様が助けようとしたこれはもう灰になって跡形もないが……」
「貴様は持てる力を全て使って彼女を助けようとした。それは認められてしかるべきだ」
でも、助け、助ける、ことが、で、できませんでした。
「そうだな、力を尽くしても、理不尽は関係なくお前のものを奪い去る」
何度も経験しただろう。呟くような声から、ハルは当初セイバーに抱いてた警戒心を拭い去るような、
強い慈しみを感じた。事実、セイバーは心の底から彼女に同情していた。
「なあ、ハル、許せぬよなあ。貴様はカワイソウだ。ハルよ。理不尽な力、神」
「おおよそ人知の及ばぬ事柄に翻弄されて、傷つけられてばかりだ」
そして、お前は立ち上がるなあ。常人では及ばないような強い意志を持っているのだ。
だから、お前は誰よりも見返りを得るべきだ。その失った腕に見合うだけの幸福を。
ハルは落ち着くことができない。今もふらふらと定まらない視線が泳いでいる。
「取り戻そう、ハルよ。我と貴様。理不尽を手にして理不尽を打倒しよう」
「失った何もかもが手に入る、そんな器があるではないか、ハル、共に──『もう、いやだ』」
獣の遠吠えのような、人の世の理から外れた雄たけびが響き渡った。
空間が割れて、赤い掌と剣呑な光が空間を割い現れる。
赤い手は、後ろに狂った眼球がいくつもくっ付いていた。掌は裂けて妙に整った歯がカチカチと噛み合う。
一瞬ごとに鋏を鳴らすその姿は、まぎれもない荒神である。薄れた信仰の古き神、コトワリ様の顕現であった。
「ハル、カワイソウな奴だ。お前はまだこんなものに捧げようというのか」
コトワリ様──縁切りの神は、対となる悪意に堕ちた縁結びの神とは異なり、
未だに人の願いに対してシステマチックに応える部分を残している。
そして、零落し始めた部分は、ハルのことをとても気に入っていた。
だからこそ、願われ呼び出された役目に応じて、カシャンカシャンと鋏を鳴らし、
盟約を果たさんと、令呪が浮かぶ残された右腕に狙いを定め──
「言フ莫レ」
セイバーの蠱惑的な口元に人差し指が一本。ピンとたてられたその指は、それだけで荒神を消し去った。
「カワイソウニカワイソウニ、このままでは貴様は、一生神の玩具のままだ」
「生き残ってしまった罪悪感に囚われるのはやめろ、叶わぬ望みを断ち切るな」
「貴様は我と同類だ。そして貴様は我が最も救済けたかった者にそっくりだ」
「カワイソウニ。我が救ってやろう。人間たる我が」
だから我と貴様にふさわしい対価を。求めるのだ。
「ハル、おやすみ。また明日」
ハルはそれ以上聞いていることができずに、意識を失った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ハルは目を覚ました。故郷とは異なるこの都会の空の色は真っ暗。
今日も再び夜が来て、彼女は夜の街をふらふらと廻る。
チャコ、チャコ。彼女が一緒にいたはずの犬を探して。
あなたの神が、夜を呼ぶ。
【真名】
足利義教@史実
【クラス】
セイバー
【性別】
女性
【属性】
秩序・悪
【パラメーター】
筋力:D 耐久:D 敏捷:D 魔力:C 幸運:EX 宝具:EX
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:D
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
悪御所:B
セイバーの所業と風聞への民たちの嘲り。
セイバーはあくまで自身の信念と民衆のために政を行ったが、中央集権的な体制は多くの反感を生んだ。
そして彼女が持つ人間らしい繊細な感情は蔑みに過剰に反応してしまう。
彼女と接するあらゆるものはその行動に警戒心を高めることから、交渉の成功率が著しく下がる。
神仏の代理人:A+
セイバーが将軍の座に就くに至った経緯に加えて、彼女が抱える歪みそのもの。
このスキルが発動する限り同ランクの神性を彼女に与える。
神授特権 : A
本来所有していないスキルを、短期間顕現することが出来る。神は我を選んだ。
神性の一定時間の低下を代価に、多岐にわたるスキルを獲得することができる。
神意に由るものは自我に依りて為すべき務めを為さねばならぬ。
【宝具】
『神明裁判』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
"言フ莫レ、言フ莫レ"
神の名のもとに目の前の出来事へ都合のいい現実を押し付ける、真の意味での『神造宝具』。
セイバーの神性の低下と引き換えに現実改変を引き起こす。正に神意の具現化である。
しかし、大規模な改変、例えば一部区画の消滅や敵対者の存在抹消などは行うことができず、
また、セイバー自身を除いて、完全に無防備でもない限り、他マスターやサーヴァントの改変は成功しない。
消費する神性は、改変する事象の内容による。
本来ならば、性別や立場から将軍になることができなかった彼女を象徴する宝具であるが、
彼女が宝具を使うのか、彼女が宝具に使われているのか、境界は実にあいまいだ。
『万人恐怖』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
"その有様に市井のものは何も言うことがなかった"
神性をすべて消費したときに強制的に使用する。
荒神のような姿に変身し、筋力耐久敏捷を2ランクアップ。
戦闘続行:Bと狂化:Aを得る代わりに、神仏の代理人と神授特権を失う。
歪められた現実と自身の呪怨をエネルギーとして、秩序を破壊する怪物となる宝具。
正体看破のスキルか真にセイバーの正体を知る者相手にはランクアップが適用されない。
皆、彼女が何者なのか興味はなかったし、利用するものは己のために口をつぐんだ。
【Weapon】
天下五剣
【聖杯への願い】
神意を超えて、私が理想とする世の中を実現する。
ハルにも願いを叶えさせ、共に神から自由になる。
【解説】
足利幕府征夷大将軍、足利義教はその六代目に当たる。
四代目将軍に当たる足利義持は五代目である息子が死んでも、
自身が危篤に陥っても後継者を決めなかった。
そこで幕府の重臣たちは4人の義持の兄弟の中から、
"神意によって選択する"という名目で。籤を持って後継者を定めようと試みる。
いくつかの暗闘の末、応永一月十七日、ついに籤が開封された──
──選ばれたのは、誰も入れた覚えがない天台座主の娘であった。
無から発生した真の王権神授に幕臣たちは恐れ戦き、彼女は六代目に就任した。
彼女は当初こそ神仏の導きに従い、その教えと理想の元で民を慈しもうと試みたが、
それこそよくある話である。人間が求めるものは当世利益であり、一日の糧。
神も仏も直接は人を救わず、自分をもって時代外れな救済を行おうとしている。
──ならば、衆生の救済を行うのは、神仏並びに人々の総意である我の意思だ。
彼女はそれから、自身への権力集中と軍事力の向上に取り組み、その栄光を毀損するものに容赦をしなかった。
結果として、彼女は道半ばで彼女がただ一人の小娘に過ぎないと思い込んだ有力武家により討たれる。
彼女が何者であったのか? 知るものは皆が口をつぐみ、ただ歴史と名前のみが世界に残された。
経緯から傲慢さと自信にあふれる性格であり、自分以外の神仏をいたく嫌っている。
自分が神仏の力を借りていながら、それを自分の力のように振るっていることを指摘されると激昂し、
また自分が結果として神のようにふるまっていることを自覚していない。
今回の聖杯戦争においては、神授特権スキルによりハルを理解し、心の底から同情している。
ハルを昼は眠らせ、その間に方法や場を捜索し、
夜ごとに教育を行うことで、自分とともに神に立ち向かってほしいと考えている。
【外見】
FGOの信長の色を変えて、恰好をより巫女や僧服に近づけたような姿。
【マスター】
ハル@深夜廻
【聖杯にかける願い】
■■、■■■。チャコに会いたい。……ユイ。
【能力・技能】
かつて縁結びの神及び友人との縁を切るために左腕を切り落としている。
ハルが持つ裁ち鋏を依り代として顕現する縁切りの神……、であるが、
セイバーによって今は半ば封印状態にある。
【人物背景】
どこにでもいるただ臆病なだけの少女は、夜を廻って愛犬を失い、
深夜を廻って、友人を失った。結果として、逆境をはねのける強い意志を得たが、
心はどこか夜の闇にとらわれたままである。そして、
"そういうもの"を持っている娘を、古来から神は逃しはしないものだ。
最終更新:2022年05月15日 16:43