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────痛みがあった

産まれた時から、人生などなかった。身体に流れる血が、己を産んだ者が何者かが、この世に産まれ出でた瞬間に全てを決めていた。
彼らは憎み、蔑み、嗤っていた。「ヒト」を、この身にも半分流れている血を。故に奴隷とし、踏みにじり、平らげた。文字通り、我らはただただ家畜であった。


────痛みがあった

私は逃げた。なぜ、こんなにも苦しいのだろうか、と。なぜこんな苦しみの中で生きているのかと。私は苦しむためだけに産まれてきたのかと。それをただ誰かに教えてほしくて。ただただ逃げ出して
……逃げた先にあったのは、ヒトであることを捨てた鉄の男。


───痛みがあった

私は捕らえられ、鞭打たれ、ケモノ達の檻に入れられた。それは折檻ですらなく、ケモノに喰われようともどうでも良かったのだろう。
私は祈った。何に対する祈りかも分からなかったが、ただがむしゃらに祈りを捧げた。何も考えられなかったが、言葉にするならきっと、私は「救い」を求めていたのだろう。
だから、祈り、祈り、祈り。祈り果てて




「───だがお前は間違えたのだ。生けるも死せるも喰らう喰屍鬼(ピシャーチャ)よ」

己が召喚した男は、感情の籠らぬ冷徹な声で、そう告げた。



◆◆◆



気がつけば、宇宙にいた。

少年の目の前、いや四方八方に広がるそれは、煌めく星々が満遍なく散りばめられた何処までも続く無重力の闇であった。
無重力に逆らえず身体の自由が利かない少年の目の前にいる男───アジア系の古き伝統的な衣装に身を包んだ灰褐色の偉丈夫───は、まるで自身こそがこの宇宙の中心であるかのように、無重力など知らぬと威風堂々に立ってる。

「……間違え、た?」
「見よ、あれを。あの奈落を、生命の悉くを陵辱し蹂躙する地獄と化した世界を」

男が告げた刹那、宇宙は反転する。無限に続くかと思われた暗闇に焦点が合わさり、色が灯る。先ほどまで何もなかったそこに、ある一つの世界の大地が浮かび上がった


赤い

赤い


真っ赤な血と、肉と、臓物に彩られた大地が、そこには広がっていた。

犬のような、だが元がなんだったのか分からないくらいグチャグチャなキメラのような巨大な生物が人を喰い、喰った分だけ質量を増やし、巨躯を支える為に更に喰らいの連鎖を繰り返していた。

大地から生える肉の触手が、逃げ惑う人々を、あるいは立ち向かう戦士たちを捕らえ、握りつぶし、小さな小さな地面の穴に骨が砕ける音と肉が潰れる音を響かせながら引きずり込み、己の身体の一部としていた。

数多の人々が身体をかきむしり、血を流し、悶え、溶け、形を失い、再び人のような形になり、肉の従者となって、かつての友や仲間を襲っていた。




戦場だ

血と肉で溢れ返った───地獄



「そら、いたぞ。肉の軍勢の頭目、この無辜の叫喚地獄を産み出した元凶だ」


何者かが指し示したそこには、国があった。肉の城壁と城。その中心に、その姿はあった。


大きなフードで覆われていて、その顔ははっきりとは伺えない
だが分かる。奴隷として産まれ、反逆者として上り詰め、肉を統べし王となり、世界を滅ぼさんとその力を振るった者。


あれは、あの男は


「お前だ、イオン。───魔術師王、崇高なるカルキスト・イオン、それがお前の未来の姿だ」
「………」

少年は───イオンと呼ばれたその少年は、言葉を忘れたかのように息を飲み、目下の地獄を見つめる。

「貪欲にも神を喰らい、強欲にも救いを望み、世界を救わんと得た力で世界を滅ぼそうとした、なり損ないの救世主(マイトレーヤ)。それがあれだ、それがお前の未来だ」

金属が擦れる音がイオンの耳に届く。気がつけば男の手には長く蛇のようにうねる剣が握られていた。

「我が正義(ダルマ)、そしてヴィシュヌの化身(アヴァターラ)の名に於いて、その首即薙いでおくべきだが。汝は仮にも我の召喚者。慈悲である、最後の一息程度の時間は赦そう」

幻のように揺らめいていた剣が少年に向けられた瞬間、整列する兵隊のように真っ直ぐに伸び、少年の首の直ぐ横に刃が添えられる。
鈍く鋭く冷たく、明確な殺意がイオンに突きつけられていた。いや、厳密にはそれは殺意ですらなく、男にとっては機械のようにただ実行するだけの動作だったのかもしれない。
いずれにせよ、このままなにもしなければ男は剣を振るい、イオンの首は容易く刈り取られるであろうということは明らかだった。


「……機械の男が言ったのです」

項垂れ、四肢を力なく無重力に漂わせていたイオンは、囁くような掠れた声で呟いた。

「痛みを、苦痛を捨てたければ肉体を捨て、機械の身体になれと。肉を銅に、骨を鉄に、臓器を絡繰に、血を水銀とせよと。あなたは、それをヒトと呼びますか?ヒトだと思いますか?」

ポツリポツリと惑える心の内を、こぼれ落ちる雫のように少しずつ、だが抑えきれないと言わんばかりに言葉を絞り出す。


「苦しみを捨てるために肉体を捨て、鉄の塊になることがヒトの正しい形なのでしょうか?身体に流れる血を水銀にすることが?そんなもののどこがヒトなのだ?ヒトは鉄の塊になるために産まれてくるのか?苦痛を捨て、感じなくなることが救いなのか?ならばなぜヒトは肉を伴って産まれてくる?なぜ?
私は未来で世界を滅ぼしうる魔王になりうるかもしれない。しかし私は、ここにいる私は、なにも知らずなにも成していない、ただの無力な子どもです。
悪として殺されるならばそれは良い、正しいことなのだから。しかし、なにも成さず、なんの答えも得られず、産まれてきた理由すら知ることなく……暗闇の中でただ無価値に死ぬのは耐えられない……!だから」

イオンは顔をあげ、男と顔を合わせる。それは死に直面している者の顔ではない、目の奥には惑いがありつつも、生への執着を思わせる灯が灯っていた。

「だから……殺さないで、ください」

命乞い。言ってしまえばそれだけの惨めにも見える行為。だが、惨めであろうとも、生殺与奪の権を握られてなお生きることを諦めていないことは意志を固めたその顔を見れば分かることだった。

「……悪徳(アダルマ)を成し、広め、死をもたらしうるお前という悪を見逃すことはできない。それが我が正義(ダルマ)ゆえ」
「であれば導いてください、正しい人。私が道を違えぬように、私の悪心の芽を摘むために、どうか……どうか。私は答えを知りたい、産まれてきた意味を、生きる価値を、救いの道を

───どうか私を導いて、私はまだ、生きていたい」

静止する空間。冷たい断罪の刃。横たわる音無き祈りと殺意。一瞬にも永劫にも感じられる無限の時間の末、



「………しょ~~~がないなあ~~~~もお~~お!!」


場違いの緩んだ声が、響いた。


◆◆◆


一瞬にして、風景が切り替わった。

太陽は落ちきり、辺りは夜の暗闇が支配していた。宇宙の絶対的な暗闇に比べれば目を刺激する明るさに思わず目をしばたかせる。
草木が擦れ乾いた囁きのような音が耳を擽る。遠くに未だ眠らぬ人の忙しなさを象徴するかのように走る車のエンジン音が聞こえる。
夢から覚めた時にあれは夢だったのかと自覚する感覚を覚えた。あの宇宙空間での問答は、全て幻だったのだと漸く気付いた。
ここはイオンがあの宇宙空間に飛ばされる前に居た場所……オンボロ孤児院の裏手。大きな樹木の前だった。
ああそういえば、とイオンは思い出す。
この東京二十三区において、オンボロ孤児院の院長に不気味に疎ましがられていた孤児であった。今も院長からお前はクズだの社会のゴミだの良く分からない難癖をつけられ、躾と称してこの樹にロープで縛り付けられていたのだった。

ロープ自体は問題なくすぐにほどけたものの、院内に戻る気も起きず樹の下で蹲り、この街に馴染めない異物のような自分は何者なのかをずっと問い続けて、かつての自分を思いだし、そして……

「僕君の未来(こと)三度見したもん「なんだこの大魔王!?」って、もう初手首落としといたほうがよくねってさあでもほら僕一応君のサーヴァントだし話する猶予くらいはあげてもいいかなあって」

目の前にはラフな軽装を身に纏った、10代半ば程、イオンよりやや歳上そうな灰褐色の少年がいた。見た目こそ幼いものの、顔立ちから先程の宇宙空間でイオンを殺そうとした男と同一人物なのだと察した。
大袈裟な身振り手振りで、矢継ぎ早に少年は捲し立てる。先程までの神々しさはどこへやら、話の内容こそ物騒であるものの、話し方のテンションは幼い見た目通りのものだった。
この少年こそ、マスターとなったイオンが召喚したサーヴァントだった。

「あの、さっきのは」
「格好よかったっしょ!!」
「かっこ……」
「だって僕君のこと殺す気しかなかったし。でもあっさり終わらせるのは可哀想かなーって、まさかあんな祈りされるなんて思わなかったもん」

あーあ、とでも言いたいかのようにわざとらしく残念がり、イオンに背中を向け脱力しながら上体を前のめりにぶらぶら揺らす。だがすぐに姿勢を正し、顔だけをイオンに向けた。

「君は苦しくとも生きることを選ぶんだね」

騒がしかった様子から一転し、その顔は笑みを浮かべていたが、目の奥底には対象を観察する冷徹な理性があった。

「……はい」
「僕に導いて欲しいと言ったけれど、この「眼」には未だ羅刹の君の姿が見えている。もし君が悪道へ一歩でも踏み出そうものならばこの剣で即座にその首切り落とす。それでも?」

とんとん、と腰に巻きつくように携帯している剣を指で叩く。先程の宇宙空間でも突き付けられていたあの長く柔い剣だった。もしもがあれば、この剣で今度こそ殺すのだと。

「構いません。……いいえ、むしろお願いします。あれは私にとっても望ましくない未来です、そうなってしまう位であれば、貴方の手でその可能性を絶ってください」

だがイオンは臆することなく、むしろ頼み込む形で己のサーヴァントに願い出る。死を恐れてはいるが、悪に堕ちるのはもっと恐ろしいと、その意味合いはサーヴァントにも十分に通じた。

「……分かりました。その覚悟があれば僕も切り替えます。サーヴァント・アルターエゴ、真名【ジャガンナータ】、維持神ヴィシュヌが化身(アヴァターラ)が一つ、これより君をマスターとして認め、君に立ち塞がるもの全てを薙ぎ払う剣となり、君に仇成すもの全てから守る盾となりましょう」


観念したかのように肩を落とし、踊るような仕草でアルターエゴはイオンへと向き直る。その顔はどこか満足げにも見えた。

「……先程まで僕を殺す気だった人の台詞とは思えないですね」
「だーかーら切り替えるっつったじゃーん。それとも殺気ダダ漏れで後ろついてきて欲しい?」
「嫌です」

でしょー?とカラカラとこれまた胡散臭く笑う。何となく調子の抜けるアルターエゴの様子を尻目に、イオンはこの聖杯戦争での方針を話し始めた。

「アルターエゴ、私はこの聖杯戦争を勝ち抜き、優勝を目指そうと思っています」
「その心は?」
「私はこの聖杯戦争を試練と受け取りました。間違っていてもそう思い込むことにします」
「ほうほう」
「試練とは、乗り越え過程で得た経験を我が物とすること。そして聖杯戦争の勝利条件とは聖杯を獲得することです」
「だから優勝を目指すと」
「はい、ですが他のマスターの命までは奪う気はありません、血を流したくはない。極力サーヴァントの無力化を目標とします」
「では聖杯を獲得したとして、君は聖杯に何を望む?」
「ありません」
「無い」
「ええ、ありません。……いえ、一応この場合「元の世界に帰る」が願いでしょうか。だが私に必要なのは聖杯戦争という試練を乗り越えること、聖杯は精々その証(トロフィー)。願望機に願わなければ果たせない「程度」の願望などない」
「虐げられてきた人々を救うことは?」
「それは私自身の手で果たさなければならない使命です。それに」

イオンが一度言葉を区切る。その顔に柔らかな、少しイタズラっぽい笑みを浮かべながらアルターエゴへと視線を合わせる。

「私は世界を滅ぼしうる程の力を手に入れる男です。そこにあなたの正義の矯正が加わればきっと……成せないことなど何もないと、そう思うのです」
「……言ってくれるじゃないの」

あの最悪の未来のビジョンをそう前向きに解釈するかと、アルターエゴは感心している様子を見せた。

「ならこんなとこでグズグズしてる場合じゃないね。速やかに行きましょう!速やかに!」
「わっ」

アルターエゴは突然ひょいとイオンを持ち上げ脇に抱える。イオンは回る視界と変わる体勢に驚きの声をあげるが、アルターエゴは気にすることなく腰を低く下げる。

「とう!」


「……銀河だ。地上に銀河が広がっている」
「どう?」
「綺麗です。でもどこか怖いですね。夜にあれだけの光の恩恵に預からなければ生きていけないだなんて」
「辛辣ぅー。でもそれが今の時代なんだよ」
「そうなのですか……ヒトは逞しいのですね
ところであの、アルターエゴ」
「なにー?」
「なんか下から風を感じるというか……地面が迫ってきてるというか……ぶっちゃけ落ちてませんか?」
「落ちてるよ?」
「落ちてるんですか!?浮遊とかできないので?」
「え、できなくはないけどずっと上空がいい?」
「いや良くはないですが……!」
「じゃ着地どこにするー?人がいるとこ?」
「いや……」

呑気な様子のアルターエゴを尻目にイオンは頭を回転させる。だがしかし土地勘が全く無い東京でどこが良いなどと当然分かるわけもなく、人々と地上に被害が及ばないようにすることくらいしか考え付かなかった。

「人の少ないところ、あとは任せます!」
「オッケー。さーて僕ら二人空の旅、第一歩はどこになるかな!」

負荷が掛からない程度に落下していき、跳んだときとは逆にミニチュアのように見えていた煌びやかな街が迫る。雑多に溢れた喧騒のなかに、マスターとサーヴァントは紛れるように消えていった。


◆◆◆


(こんなつもりじゃなかったんだけどなー。やっぱ「彼」とはいえ子どもの身体だからかなー情緒に行動が引っ張られてら
君の名に泥を塗るつもりはないけど、君もあの竜王カーリヤを命まではとらなかったのと同じってことでさ。これも一興ってやつよ。
……ね、『クリシュナ』)

ヴィシュヌの8番目の化身(アヴァターラ)、クリシュナ。叙事詩マハーバーラタや聖典バガヴァッド・ギーターに知られるヒンドゥー教の中心的英雄である彼を知るものがいれば、十人中十人がこのサーヴァントを幼い姿のクリシュナだと思うだろう。
だが実態は違う。その中身は幼いクリシュナの姿を形をしたインドの土着の神ジャガンナータ。神である以上、サーヴァントとしての召喚は不可能であるが、自らが同一視されているクリシュナの幼少期の姿(正確に言うと、かつてそうだったかもしれない概念的な姿)をとることでサーヴァントとして現界したのだった。

(あーあ。マイマスター、君があの悪王カンサぐらい悪辣であれば命乞い程度首ごと薙ぎ払ってやったのに)

この幼き彼の者の身に刻まれた記憶を脳裏に呼び起こす。
カンサ。自らを殺すものの予言に怯え、妹デーヴァキーの子どもを次々と殺し、なお生き延びた予言の子クリシュナを殺すために次々と羅刹や悪魔を差し向けたあの悪王と呼ぶに相応しい悪逆非道であったなら

(でも君はそうでなかった)

アルターエゴは思い出す。この目で「視た」少年の未来を。反逆の王に歓喜する狂える人々の情景を


『イオン様!お受け取りください!貴方のためです!!』

王が築き上げた王国、その宮廷のバルコニーにて、我が子を引き裂き、内から引きずり出した血と細い骨と小さな臓物を、母であった女は己の子の血で全身を濡らしながら恍惚の表情を浮かべ、頭上で見下ろす王へと掲げた。その女だけではない、他の人々も女と同じく残虐に子を殺し、辺り一面を血と臓物で染め上げ王へと献上した。
それは捧げ物だった。奴隷となっていた彼らの感謝の印。哀れにも、あまりにも無知な非道にして無垢の証。


『彼らは救われることができる』
『そうでなくてはならない』


だが王は彼らを糾弾しなかった。それどころか崩れ落ちるように膝をつき、堪えきれず涙さえ流した。彼らはただ知らないだけなのだと。己を支配していたものたちの古きしきたりしか知らぬ、哀れなる奴隷なのだと。
優しいのか、甘いのやら。愚かにも彼らを哀れみ、彼らの救済を本気で望んでいた。無知にして赤子を平気で殺し贄とする者たちのことを

(命なら僕も昔捧げられたけども、ねえ。それがなんで「ああ」なったのか)

なにかの阻害が働き、肝心の悪道へ堕ちるきっかけとなった要因を視ることはできなかった。
それができれば苦労はなかった。これからのことを考えるなら。


───どうか私を導いて
───私はまだ、生きていたい


(願われちゃったからには、応えるさ。神なので。なあに、迷えるものを導くのは御者の務めさ。だろう?クリシュナ)



落下の風を全身に浴びながら、自らの「外側」へと届かないと分かっていながら語りかける。邪悪の可能性を秘めた少年との聖杯戦争。今、その初めの一歩をしかと踏みしめた。





【真名】
ジャガンナータ@ヒンドゥー教の伝承+クリシュナ伝説

【クラス】
アルターエゴ


【ステータス】
筋力:B+ 耐久:C 敏捷:A++ 魔力:A 幸運:B 宝具:A+


【属性】
秩序・善


【クラススキル】
騎乗:A+
騎乗の才能。獣であるのならば幻獣・神獣のものまで乗りこなせる。ただし、竜種は該当しない。


対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではライダーに傷をつけられない。



【保有スキル】


ヴィシュヴァールーパ(重):EX
全宇宙を内包するといわれるアルターエゴはその一端を「重み」という方向性をもって発揮することができる。竜王カーリヤを宇宙の重みで血を吐くまで押し潰した逸話から。
物理的な防御はもちろんのこと、神の加護や概念的な防御でさえも宇宙そのものの重みで貫通する。
この「重み」は重力に縛られない。真下に、真横に、天に向かって縦横無尽に「落ちる」。宇宙に方向などないのだから。


ジャガーノート:A
幼少の頃から数々の羅刹や悪魔を倒し、予言を恐れた悪王さえも殺した。その逸話と己の名を由来とする「ジャガーノート」の意味が混合してスキルとして昇華したもの。

アルターエゴは戦闘中、戦闘に積極的な行動を取るとダメージボーナスが加算されていき、逆に消極的になると減算されていく。特に混沌や悪属性、魔など「悪に類するもの」に対しては大幅な加算補正がかかり、数秒対峙しただけでも破壊的な威力になる。この効果は戦闘終了時にリセットされる。


千里眼:A+
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
透視、未来視、過去視さえも可能とする。


幻力:D+
マーヤー。神々が有する神秘的な力。人の認識に干渉し惑わす幻影の術。
このスキルと千里眼を組み合わせ、対象に過去や未来の可能性を見せることもできる。


神性:A
維持の神ヴィシュヌの完全な化身(アヴァターラ)であるクリシュナと同一視されているため高ランクとなっている。


【宝具】
宇宙主の行進(ラタ・ヤートラー)
ランク:A+ 種別:対人/対軍宝具 レンジ:2~50 最大捕捉:200
ジャガンナータを祀る祭事を再現した宝具
巨大な山車(ラタ)を展開し、範囲内にいると何処からともなく「ハレー・クリシュナ」の歌が聞こえ、その歌を聞いたものは判定を行い、失敗したものはトランス状態ないしは戦意喪失の状態異常に陥る。状態異常中にラタに轢かれたものは強制解脱───即ち即死する。判定は毎ターン行われる。
判定なしに乗り物として使うこともできる。


宇宙主の蹂躙(ジャガンナート・ラタ・ヤートラー)
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:2~100 最大捕捉:500
「宇宙主の行進」に「ヴィシュヴァールーパ(重)」の性質を帯びさせたもの。宇宙の重みを持って他を圧倒し蹂躙する戦車と化す。



【人物背景】
ヒンドゥー教で信仰されている神。ジャガンナートとも。名前は「世界(宇宙)の主」を意味する。
元々はインド洋東岸オリッサ地方の土着神だったが後にヒンドゥー教に習合し、ヴィシュヌあるいはヴィシュヌの化身クリシュナと同一視されるようになった。ヒンドゥー教の四大聖地の一つであるプリーにあるジャガンナート寺院に兄・バララーマと妹・スバドラーと共に祀られている。
ある時インドラドューマという王がヴィシュヌ神から夢の中で神像を作るように告げられ、老いた彫刻家に巨大な丸太から神像を彫るよう依頼する。その際彫刻家から彫ってる最中は絶対に部屋を覗かないように忠告されたが、数日たったある時王は部屋を覗いてしまう。物音がしていたはずの部屋の中に彫刻家の姿はなく、そこには手足のない未完成の木像だけが残されていた。
この逸話から、寺院に祀られている神像には手足がないのだという。


プリーで催される悪王カンサを討ったクリシュナの帰還を祝うラタ・ヤートラー祭では、ジャガンナータ像を乗せた巨大な山車(ラタ)が通りを練り歩く。かつてはこの山車に轢かれ死ぬと天国へ行けると信じ進路に身を投げ出す信者もいたほど
そこから転じて「歯止めの効かない巨大な力」「犠牲を強いる絶対的な存在」などを意味するジャガーノート(juggernaut)という単語が生まれたという。
余談だが、このラタ・ヤートラー祭は日本の京都で催される祇園祭の原型ではないかという説があるらしい。


サーヴァントとしてのジャガンナータは自身の神像である「手足のない未完成の木像」を「完成しきっていない小さな姿」だと自己解釈し、自らが同一視されているクリシュナの「未熟な幼少期」というそうだったかもしれない可能性の姿をベースにすることで召喚が可能になっている。ゆえにクリシュナの姿をしているものの、その人格(神格?)は多少クリシュナの影響はあるものの、ジャガンナータ独自のものとなっている。
この「幼いクリシュナ」は悪王カンサを倒すまでの時期を指しており記憶も保持しているものの、それ以降は伝承に語られるような客観的な記録しか保持していない。
故にマハーバーラタの英雄アルジュナの親友としての、あるいはバガヴァッド・ギーターで語られるような神としてのクリシュナは他人のように感じている。
形式上とはいえクリシュナの姿をとっているため、彼の義務(ダルマ)を遂行することに迷いはなく、悪しき存在は容赦なく殲滅する。


【外見】
黒髪黒目で灰褐色の少年のような見た目。曼荼羅のような繊細な紋様が施された黒の袖無しハイネックに丈の短い黄色の袖無しパーカーを羽織り、青いミリタリー風カーゴパンツを着用。孔雀の羽を模したネックレスを首からさげている。手は二の腕から先が、足は太ももから先が青と黒のグラデーションになっており、宇宙の星を思わせるように煌めいている。


【Weapon】
ウルミ
改造されたスダルシャナ・チャクラ。いつもはベルトのように腰に巻いてるがあまり使わない。武具など前座。

偉大なる木像神
どこぞの石像神をパク……参考にした武器(?)アルターエゴの御神体そのものでヴィシュヌの信託をもって作られているため神秘強度は高く滅茶苦茶硬い
伸縮可能でアルターエゴは時折これを召喚して蹴ったり投げたりブン回したりして攻撃する。扱いが雑


【サーヴァントとしての願い】
マスターを導き、行く末を見届ける



【マスター】
イオン@SCP Foundation


【聖杯にかける願い】
優勝狙い、だが願いはない


【能力・技能】
生体操作
リハクタァクと呼ばれる肉体を操作する術。イオンは幼少の頃よりこの術に長けており、自他の肉体を変形させることができる。


【人物背景】
───昔々、この世界とは少し違う世界の昔々。人とよく似た人ならざる者達の国とその文明があった。その国では人間は奴隷であり、家畜として食べられていた。
その国で産まれた一人の少年がいた。少年の母はその国の女であったが父は人間だったので、少年は奴隷として扱われていた。
ある日、その国で崇められていた神が少年に才能を見出だし、力を与え、少年は神を喰らう術(すべ)を得た。詳細は定かではないが、少年はその力で神あるいは神の使者を喰らったとされている。
力を得た少年はみるみる内に頭角を現し、やがて奴隷達を率いて国に反逆し、自らが王の新たな国を作り上げた。
だが、王の猛進は反逆に留まらず、いつしか他の人間たちの国まで侵略し始めた。奴隷たちの為に立ち上がった反逆の王は、いつしか世界を蹂躙し恐怖で支配する邪悪なる王となった。
なぜ、そうなってしまったのか
初めからただの邪悪だったのか
力と共に欲望まで得てしまったのか
喰らったと思った神に飲まれ、正気を失ったのか
定かではない。いずれにせよ、長い長い時間、夥しい数の死者を出した戦争の結末は、王を異次元の彼方へと封じることで終結した。……秘密と真相も、また
そんな昔々の、少年にとってはほんの少し未来の、お話


以下、本作を執筆するにあたり参考にさせていただいたSCP Foundationの記事リンクです。

サーキシズム-ハブ
ttp://scp-jp.wikidot.com/sarkicism-hub
サーキシズムへの人類学的アプローチ──ケーススタディ01: サルヴィのヴァシニャ
ttp://scp-jp.wikidot.com/sarkic-case-study-01-the-vas-n-a-of-sarvi
蛇について
ttp://scp-jp.wikidot.com/about-the-serpent


この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき提供されています。



【捕捉】
  • アルターエゴは東京二十三区を上空から確認しました。
  • 二人がどこに着地するかは不明です。
最終更新:2022年05月17日 22:39