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思い返せば浮かれていたのだろう。
自分は一人ぼっちじゃあなくなって、先輩だから後輩の前で良い所みせようと張り切って。
でも、人間だったら「良くある事」「良くある失敗」。
肝心なところで駄目。恥ずかしい………ただ。
彼女の場合は違った。
それが日常の些細なシーン。部活の最中や勉強会、お菓子作り――在りふれたワンシーンだったら、どれほど良かったか。
それが死線を交えた怪物との戦闘でなければ、どれだけ良かっただろうか。
ちょっとした失敗が命取り。
彼女だって、幾度も戦いを経て、戦闘経験は豊富だったのに。
あの時だけ。
ふと、隙を見せてしまった瞬間。
彼女は怪物に頭をばっくりと切断され、死に絶えたのである。
折角恵まれた後輩の前で。
「――――――――!!!!」
洒落たショッピングモールの一角で買い物カゴが落下し、ザワザワと雑音に紛れて響いた。
幸いな事に、誰にも注目されておらず。
少女――
巴マミはバクバクと張り裂けそうなほど動悸を起こす胸を抑えながら、しゃがみこんでカゴを手に取った。
既にカゴへ入れてある茶葉やクッキーを目にして、何とか落ち着こうと呼吸を整える。
(ああ……駄目ね。私…………)
マミは理解していた。自分が――魔女との戦いで命を落とした事を。
魔法少女。……魔女と戦う使命を背負った者。
彼女が白い獣に願い、ソウルジェムを手にした事で契約は成立してしまった。
孤独な戦いを常に強いられ続け。どこか寂しさも抱えていた。
分かっていた筈なのに。
魔女の結界で命を落とせば誰にも『死んだ事すら知られず』に終わってしまう恐怖。
自分が死ねば誰かが死ぬ事も。
あの後……居合わせた後輩達はどうなってしまったのか。想像したくなかった。
否。
ひょっとしたら。
マミは買い物を終えて帰路につきながら、聖杯戦争参加の切符である透明なソウルジェムを掌に乗せる。
お菓子の魔女の結界内でソレを拾った。と考えられた。
正確には、彼女自身記憶にない。
死んだ先に偶然、そのソウルジェムが落ちていただけかも。
(どういうことなのかしら……)
マミの不安はソウルジェムと聖杯戦争の結びつき。
恐らく魔法少女を勧誘する白い獣・キュゥべえと関与があるのは明白だが、彼が現れる様子はまるでなく。
代わりに、聖杯戦争と関わりありそうな様々な『ウワサ』を耳にするようになった。
何故、死んだ筈の自分が生き返っているのか。
聖杯戦争とキュゥべえ……もしくは魔法少女が関係あるのか。
聖杯で……もう一度、何かを願えるというのか。
疑問を抱え続けても好転しない。
やはり、聖杯戦争が始まるまでは――マミが険しい表情のまま自宅マンションの扉を開けば
「おかえりなさい、マミ~」
と、中性的な黒髪の美少年がにっこりな笑顔で出迎えてくれた。
彼こそがマミの召喚したサーヴァント・ランサー。
偉大な英霊とは思えない雰囲気の、マイペースな彼に少々驚きながらもマミは「ただいま」とほほ笑む。
家に誰かいる……誰かが帰りを待ってくれる。
普通じゃ『当たり前』のこと。マミにとっては感傷深いものだった。
束の間。ランサーはごそごそと彼女の懐を探ってお菓子をちゃっかり入手している。
えへへと満足げなランサーに対し、マミは「もう」と呆れつつ。満更ではなかった。
「マミが買ってきてくれるお菓子も、作ってくれるケーキも美味しいですよ」
子供っぽい無邪気な笑顔を浮かべるランサー。
彼が戦う姿すら想像つかないほど、穏やかでひと時の平穏が流れている。
「飲み物を用意するから」とマミがキッチンで準備を始め、改めてクッキーを頬張る少年をカウンター越しから眺めた。
自分と同じように、影ながら怪物と戦っていた人間には思えない。
少年は『魔女』ではなく『喰種』を屠る英霊である。
喰種。人を喰らう者。
能力はヒト成らざる捕食器官を持ち合わせるが、姿形は人間そのもので、パッと見た目で判断つけるか怪しい。
ランサーが相手してきたのは、そんな存在。
人々の平和を守る為なら、魔法少女と違わないかもしれない。でも………
マミは、幾度も不安を脳裏に過らすのだった。
ルール上。聖杯戦争はサーヴァントを倒して、その魂をソウルジェムに回収すればいいだけ。
だから戦闘はサーヴァント同士で行えば良い筈……しかし。
……彼女が不安に思うのは、マスターも敵として襲ってくる可能性。
悪意ある人間だったとしても、ひょっとして自分と同じ少女だったとしても。
説得が通じないような。そんな人間だった場合、どうすればいいのか………
前ぶれも無く唐突にランサーが告げた。
「ちょっと準備運動してきたですよ」
「準備運動?」
「はい。この近くで小さい恐竜を見かけたです」
普通の顔で報告する彼の様子に、何ら焦りも緊迫感もない。緊張感に欠けているのは悪い表現だが。
自分らしく在り続ける強さを強調させているとも捉えられた。
マミは、少しばかり顔を強張らせる。
「それって『ウワサ』に聞く……やっぱりサーヴァントの仕業なのね?」
「ですねえ」
ランサーはカーペットに座り込みながら上の空で返事をした。
『恐竜』に関するウワサを彼女も知っている。だけど、あれが事実であったら………
ランサーが倒したのは小さいもの。マミが恐怖を覚える最悪のケースじゃなかった。
聖杯戦争が開始される時は近い。
覚悟を……覚悟を決めなくては………
「私…………もう一度、戦えるのかしら」
あれ以来、魔法少女にも変身していない。魔女とも無縁な生活が続いたせいで、感覚も遠のいている。
こんな自分で大丈夫なのか。
「マミ。魔女がどんなものか僕には分かりません。でも」
ランサーは変わらぬ様子で言う。
「お仕事が終わった後、ゆっくりお菓子を食べられる時間は僕達、同じだと思います」
戦いが終わって、平凡な日常で。
そう例えば、後輩達と一緒に楽しくお茶会を開いて。魔法少女同士で相談しあったり、それ以外の普通の話をしたり。
確かに……本当は、そんな事を願っていたに違いない。それが叶おうとしていた。
「ええ……そうね。きっとそう」
もう一度だけ、奇跡も魔法もあるならば――あの日常へ。
アラもう聞いた? 誰から聞いた?
おめかしの魔女のそのウワサ
秘密のお家で毎日お茶会を開いている、優しい魔女
彼女が振る舞うケーキとお茶は格別美味しい!
でも、食物を口にしたヒトはみんな魂が抜かれちゃって
誰ひとりお茶会から逃げられない
きっと彼女はとっても寂しがり屋なんだって
見滝原の住人の間ではもっぱらのウワサ
ココカラダシテー!
【クラス】
ランサー
【属性】
混沌・中庸
【ステータス】
筋力:C 耐久:A++ 敏捷:B 魔力:E 幸運:D 宝具:C
【クラススキル】
対魔力:C
魔術に対する抵抗力。
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
【保有スキル】
沈着冷静:A
如何なる状況にあっても混乱せず、己の感情を殺して冷静に周囲を観察し、最適の戦術を導いてみせる。
精神系の効果への抵抗に対してプラス補正が与えられる。混乱や焦燥といった状況に対しては高い耐性を有する。
喰種殺し:A
人を喰らい糧とする怪物を屠り続けた功績。
喰種または吸血鬼、もしくは人を喰らう怪物に対し攻撃のプラス補正。
また、それらに対しての感知が鋭く。気配遮断・霊体化などの潜伏効果を打ち消し、捕捉する。
痛覚遮断:B
如何に傷つけられようとも肉体が怯む事がない。
戦闘続行と組み合わせれば、決定的な反撃に成功できる。
戦闘続行:C
名称通り戦闘を続行する為の能力。往生際の悪さ、もしくは生還能力。
【宝具】
『ⅩⅢ Jason(ジューゾーズ・ジェイソン)』
ランク:C+++ 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大補足:1~10人
13に通じる場所に居た怪物から造られたクの字型の大鎌。ランサーの象徴たる宝具。
喰種と呼ばれる人喰いを狩る武器であり、人を喰らう性質を持つ敵に対して特攻ダメージを与える事が可能。
【weapon】
サソリ
小型ナイフ計56本。義足の右足に収納されており『ⅩⅢ Jason』同じく喰種特攻の効果が付与されている。
【人物背景】
喰種を狩るもの。喰種捜査官の一人。
かつて喰種に飼われスクラッパーとして優れた運動神経と痛覚の鈍さから、保護された後に捜査官へと道を期待されていた。
しかしながら、当時は精神面・価値観共に問題が多く。
ランサーとして召喚された特等クラスの時代に至るまでは、人間として成長するまで困難を極めた。
場合によってバーサーカーで召喚される事もある。
黒髪の中性的な美少年。まるで人形のようで、女装しても違和感がない。
戦闘時でなければ、のんびりゆっくりお菓子を食べている。
【聖杯にかける願い】
とくにない。
薄々感じ取っている『怪物』たちは狩ろうと思っている。
【聖杯にかける願い】
不明。彼女自身まだこの状況に困惑している。
できれば聖杯戦争に関与しているキュゥべえと接触したい。
【能力・技能】
魔法少女としての戦闘技術
ただし、お菓子の魔女に敗北した後の為、精神面が不安定で支障を来すかもしれない
彼女の基本的な魔法はリボン
敵を拘束したり、マスケット銃を作りだすなどバリエーション豊富
【人物背景】
見滝原中学校の三年生。孤独な戦いを強いてきた魔法少女。
彼女に関することは説明するまでも無い。
参戦時期はお菓子の魔女に敗北した後。
最終更新:2018年05月14日 00:28