見滝原の公園近くの寂れたホテルの一室で、ある男が目覚める。
しかしそれは目を覚ますなどという生温いものではなく、飛び起きると言った方がいいような目覚めであったが。
飛び起きた余波で、既に使い古されてボロボロになったベッドは今にも壊れそうにギシギシと音をたてて軋む。
男はその端正な顔立ちを恐怖心に歪め、顔中から汗を噴き出している。息も絶え絶えだ。
中途半端に突き出した左腕はまるで、『何か』から逃がれようとしているかのようである。
そんな異様ともいえる寝起きを披露した彼だったが、異様なのはそれだけではない。
有り体に言ってしまえば、彼が着用している服。
普通、寝起きと言えば、パジャマを想像するのが常だろう。
しかし、彼が着ているのはパジャマどころか普段着としても着用しないようなウェスタンファッションなのである。
100人の人間がいたとして、92人は彼のことを徹底したコスプレイヤーか何かだと認識するだろう(そして残りの8人は脳ミソの代わりにクソが詰め込まれている異常者だ、と考えるだろう)。
しかし彼が所有している衣装はあいにくこれだけなので仕方がない。
『夕陽のガンマン』に出てくるクリント・イーストウッドを彷彿とさせる西部劇さながらのカウボーイ風の服を纏った彼の名は
ホル・ホース。
『幽波絞』と呼ばれる精神エネルギーを持つ凄腕の殺し屋だ。
彼は備え付けのサイドテーブルから煙草のケースを掴み、その中の一本を咥え、未だ恐怖に震える指でライターの火をつける。
(チクショオーッ、またあの夢だぜ)
ここ数日、彼は毎晩のように悪夢に悩まされていた――尤も、そのおかげで彼は記憶を取り戻し、『聖杯戦争』への切符を手に入れたのだが。
彼の心は――邪悪の化身に支配されていた。
『何か……用か?』
『それで…といったのはおまえのことだよ、ホル・ホース』
『情報連絡員なら誰にでもできるぞ』
『2度も失敗して…逃げ帰って来たな…』
『殺して来てくれよ。わたしのために』
『さもなくばわたしがおまえを殺すぞ!』
『本当にオレを撃とうとしているのか?』
ホル・ホースは過去に2度もジョースター一行を仕留め損ねていたのだ。
そして3度目もまた、失敗した。
ならば待ち受けている運命が「死」のみであることは『トト神』を見るまでもなく確実だ。
実際、
DIOからもそういった旨のことを告げられていた。
このままおめおめと退院後にDIOの元へと戻れるはずもない。
いや、既にホル・ホースを始末すべく刺客が放たれているかもしれない――そんなことを考えていたのだが。
(ラッキーだったぜ。前にDIOの館からくすねておいた宝石のおかげで一時的にでもヤツから逃れてこれたんだからなッ!
おまけに、なんでも願いを叶えてくれる願望器だと! こいつぁついてるぜ!)
聖杯をDIOに捧げれば――いや、聖杯の力でDIOや配下どもを亡き者にしてしまえば。
命の危険はなくなるし、財宝だって総取りだ。
だが、それには熾烈な争いを勝ち抜かねばならない。他の参加者を蹴落とし、『奪う者』にならねば。
もはやホル・ホースからは恐怖は消えていた。
汗が引き、呼吸の乱れも消え、その瞳には『覚悟』が宿っていた。
「DIO! おれはあの時てめーに屈服させられ跪いちまった。呪うぜ……精神的に屈した自分をな!
だがな、魂だけは死んでも売り渡さねぇ! 2度とあの時のみじめなホル・ホースには絶対に戻らないッ!」
(な~んて啖呵切ったが、あいつで大丈夫なのかねぇ)
『一番よりNo.2』を人生哲学とするホル・ホースにとって誰とコンビを組むかは死活問題だった。
そういう意味では相方をあてがってくれる聖杯戦争のシステムはありがたいものだったのだが――召喚されてきたサーヴァントが問題だった。
ステータスを確認しようにも、靄がかかったようになって見えないのだ。
しかもそのサーヴァントは、ホル・ホースが尊敬している女――それも年端のいかぬ少女だった。
(召喚した時に魔法少女だとか言ってたからキャスターってやつなんだろうが……相方の能力を知らないってのはやりにくいぜーッ
ファンタジーやメルヘンみてーにどジャアあああ~~~ンって感じにお菓子の家でも出せんのかッ!
そもそもあんなお嬢ちゃんを戦わせていいのかよーッ)
(あれ? そういえばそのキャスターはどこ行きやがったんだ?)
ホル・ホースが慌てたように自身のサーヴァントを探そうとしたその瞬間―――
「――ぴたり」
「ッ!」
彼の首筋に、わざわざ横を向かなくても確認できるような重厚感のある刃物が突きつけられた。
凄腕の暗殺者であるホル・ホースに気配を悟られずに背後に回り込むのは人間離れした芸当――ならばサーヴァント。
このままではあとコンマ数秒もしないうちに彼の頭は斬り落とされるであろう。
そこで問題だ!
首に刃物を当てられているこの絶望的状況、どうかわすか?
3択――ひとつだけ選びなさい
答え① ハンサムのホル・ホースは突如反撃のアイデアがひらめく
答え② キャスターが来て助けてくれる
答え③ かわせない。現実は非情である。
(おれが○をつけたいのは答え②だが期待はできない……あのトボケたようなキャスターがここぞとばかりにジャジャーンと登場して「まってました!」と間一髪助けてくれるってわけにはいかねーぜ。やはり答え①……自分でなんとかするしかねーぜ)
瞬時にそう判断した彼はサイドテーブルを蹴り上げた。
そして相手が気をとられている隙に座ったままの体勢でベッドから転がり落ちる。
「武器を持ってないと思って甘く見たなッ! あんさんの負けだッ!」
煙草を吐き捨てながら右手を上げる。
メギャン!
するとホル・ホースの掌にどこからともなくリボルバー式の拳銃が現れる。
これこそが彼のスタンド『皇帝』。この至近距離であれば彼の独壇場。寸分違わず相手の眉間に風穴を開けるだろう。
―――が、彼の『皇帝』が火を噴くことはなかった。
彼は攻撃しなかった――否、攻撃できなかったのである。
「ゆらーりぃ……あなたマスターですよね?そのひだ」
喋るのに疲れたらしく、そこで言葉を切って休憩する。
「りての令……なんだっけ……? ゆらり…ええっと……左ってどっちだっけ……? あれ? あたしって誰だっけ? ああ、
西条玉藻ちゃんでした」
その銃口の向かう先にいた、脳内のネジが2,3どころかすべて抜け落ちてそうな少女は―――紛れもなく彼のサーヴァントだった。
「にゃあにいいいい~~~~~ッ!?」
「えーっと。そう。あなたはあたしとあたしのマスターが聖杯を獲るのに邪魔です。だから――」
自分で「じゃきーん」と擬音を口にしながら両手に携えた刃物を胸の前で交差させる。
「ズタズタの八つ裂きにしちゃいます。えへへ」
「ま、待てよ、キャスターのお嬢ちゃん! おれだ! ホル・ホースだ! お嬢ちゃんのマスターだッ!」
「? あたしのマスターは子お……いえ、それは生前の話でした………生前……あたし死んだんですか?
まあいいや、それであなたがあたしのマスターなんでしたっけ」
「ああ、そうだよ!」
「じゃあ刺しちゃいけないですねー……ゆらりぃ……それなら誰を殺せばいいんですかね……えっと、手近なところでまず自分から……」
言いかけて慌てて首を横に振る。
「ダメダメ、自分は刺しちゃいけないってちゃんとあたし学びました。『馬の面に屁を浴びせると鬼が笑う』です……」
そんな自身のサーヴァントの様子を見て、ホル・ホースはハットを目深に被りため息をつく。
「……」
(おいおい、こいつ大丈夫なのかあ~~~ッ!! しょ、正気の沙汰じゃあねーーーーこっ、この女!)
ホル・ホースがハットの下から訝しむような視線を送っていると、彼女は「えへへ」と照れたような笑みを浮かべる。
凝視していて気がついたのだが、どうも彼女の姿を明瞭に捉えることができない。
この間合いで、しかも弱々しいライトスタンドだとはいえ、光源だってきちんとあるのに。
まるで膜が張っているかの如く、その姿は曖昧だ。
(そういえば、さっきだってまるで気配を感じられなかった……このおれの背後をああも容易く……)
ひょっとしたらこのサーヴァントはスゴいやつなんじゃねーのか。
そう考えると、自然に闘志にますます火がついて熱くなってくる。
どんどんと熱さは増していく。
ホル・ホースの中で燃えたぎる闘志は―――
「いや、ちがうッ! これは! ベッドが燃えているんだッ! アチぃっ! キャスター、さっさと逃げるぞ! さもないとおれたちまで……」
先程ホル・ホースが吐き捨てた煙草が出火の原因だったが、そんなことはお構いもなしに逃げようとする。
そんな彼を尻目に、「ゆらり」と呟いて燃え盛るベッドの足を掴む者がいた。
「おいっ! おめー自殺願望か!? 何やってんだよ、キャスター!」
「火事は怖いですからねー。『地震はおやじの元』って言葉知らないんですか?」
彼女はその細腕のどこにそんな力があるのか、ベッドを持ち上げると、そのまま――投げた。
窓の外に。
幸い、ホテルのすぐ裏は公園の池なので二次災害はなさそうだが。
(迅速な火元の排除、冷静な判断力……間違いない、コイツは“アタリ”だッ! これなら聖杯を獲ってDIOの野郎どもを始末できるッ!)
「おれたちは無敵だッ! タマモとこのホル・ホースは無敵のコンビだぜーっ!!」
―――――このとき、ホル・ホースは不幸にも2つの読み違いをしていた。
1つは、彼のサーヴァントである西条玉藻はキャスターなどではなく、文字通りのバーサーカー、狂戦士であること。
これについては、彼女が初対面のときに「魔法少女、西条玉藻ちゃん、です……」と言ってしまったのに加え、後に図書館で玉藻前という妖狐の記述を見つけてしまったのが原因なのだが。
2つ目は――この戦争の舞台にDIOがいるということだ。
【真名】 西条玉藻@クビツリハイスクール
【クラス】 バーサーカー
【属性】 混沌・中庸
【パラメーター】
筋力:B+ 耐久:D 敏捷:A+ 魔力:E 幸運:E 宝具:C
【クラススキル】
狂化:EX
読んで字の如く狂戦士。
一応コミュニケーションはとれるが、意思の疎通はほぼ不可能。
全てのパラメーターをアップさせる。
【保有スキル】
澄百合学園:A
表の顔は天下に名だたるお嬢様学校。
しかし、その実態は傭兵育成機関。
自らのステータスを隠蔽し、筋力と敏捷のステータスに補正を得られる。
殺戮技巧(道具):C
使用する道具の「対人」ダメージ値のプラス補正をかける。
戦闘続行:B
瀕死の傷でも意識を失わない限り戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
【宝具】
『闇突』
ランク:C 種別:対人宝具(自身) レンジ:― 最大捕捉:―
常時発動型宝具。
霞のように捉えられない彼女の通り名にして存在そのもの。
Bランク相当の気配遮断とAランク相当の精神汚染を得られる。
さらに彼女が戦いに「病み付き」になったときに、筋力に補正を得る。
【Weapon】
大振ナイフ2つを逆手持ちで装備している。
右手にエリミネイター・00。
左手にグリフォン・ハードカスタム。
【人物背景】
全国に支部を持つ澄百合学園の生え抜きの1年生。
期待のルーキーとして『クビツリハイスクール』に登場するも、気絶している間に糸で首を切断されて死亡。
その強烈なキャラクター性故か、主人公の戯言遣いの記憶に色濃く焼き付いたようで、度々回想されている。
その後、スピンオフ作品の『零崎軋識の人間ノック』では花も恥じらう初等部時代の彼女が描かれている。
【サーヴァントとしての願い】
ゆらぁーりぃ……聖杯獲ったら子荻先輩喜びますかねぇー
【マスター】 ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険 第3部 スターダストクルセイダース
【weapon】
『皇帝』
【破壊力:B スピード:B 持続力:C 射程距離:B 精密動作性:E 成長性:E】
拳銃の形をしたスタンド。
撃ち出される弾丸もスタンドであるため、弾道を自在にコントロールしたり瞬時に消したりできる。
弾数はスタンドパワーの続く限り無限でリロードも必要なし。
【能力・技能】
スタンド使い:傍に現れ立つ精神エネルギー『スタンド』を使う者。 スタンド使いはひかれ合う。
【人物背景】
DIOがジョースター一行に差し向けたスタンド使いの1人。
No.2をモットーとしており、スタンド使いには珍しく他人に能力を隠さずにコンビを組む。
初登場時には、J・ガイルとのコンビでアヴドゥルを一時再起不能にするものの、花京院とポルナレフの2人によってJ・ガイルが殺されたために逃亡した。
2度めの登場では、味方のはずのエンヤ婆に逆恨みされてポルナレフ共々殺されそうになるが、なんとか生還。ジープを奪って退却した。
その後は伝令係めいたことをしていたものの、DIOに咎められる。その際、DIOを暗殺しようとするが、能力の片鱗をみせられ失敗。
物語の終盤で、同じく相方を失ったボインゴと無理矢理ではあるがコンビを組んで承太郎たちのもとへ姿を現した。
ブスだろうが美人だろうが女を尊敬しているらしく、嘘はつくが殴りはしないと豪語していた。
外伝小説の『OVER HEAVEN』ではDIOから、その善にも悪にも属さない飄々とした性格をもって、個人的な好みとして捨てがたいと評されている。
【参戦時期】
ボインゴとのコンビが敗れ、入院している最中。
【マスターとしての願い】
聖杯を獲り、その力でDIOとその配下どもを斃して粛正から逃れる。DIOの財宝もすべて頂く。
最終更新:2018年05月27日 10:39