.
黒奴美人は半開きの戸棚です
中には濡れた珊瑚がしまってある
――ジャン・コクトー
.
――――
俺は、そいつ程弱そうな白人を見た事がなかった。
黒い色をみるや下卑た輝きを瞳に湛え、体の良い農奴か家事手伝い、そして、サーカスの見世物になるかどうかしか考えない馬鹿野郎。
銃を腰に差してなければ、自分の強さすら認識出来ないあの思い上がった阿呆共。俺が見た白い肌をしたサル共は皆、そんな奴らばかりだった。
肌の色、持ってる土地の広さ、金。そんな物でしか、人を判別出来ない奴ら。黒人である俺達を、農園の歯車としてしか見ない奴ら。俺らに対してのみ、強く出れるキリギリス共。俺にとっての白人とは、そんな奴らだった。
――だがそいつは。
マスターと仰ぎ見なければならない――死んでも御免だが――その男は、俺の知る白人のイメージを、尽く裏切る、そんな男だった。
「……」
そいつは、一言も、何も言葉を発する事なく。
シャベルを使って地面を掘っていた。一時間近い時間をかけて、漸く、そいつの膝下までの深さの穴を掘る事が出来た。
何を埋めるのか、と言われればゴミである。確かにゴミに相違ない。俺達が呼び出されたミタキハラ・シティ。
その外れの教会跡近くのボロボロの廃屋から、その白人を立ち退かせようとしたギャング――ヤクザと言う名らしい――の一人。
それを、男は埋めようと言うのだ。シャベルを振う男の近くには、首を銃で撃ち抜かれた、黒とも白とも違う、黄色がかった赤っぽい肌の男の死体があった。
と言っても、もうすでに死体の為か。凄い速度で青褪めかけているのだが。
その白人は、単調な作業が好きらしい。
飽きもせず、休みを挟む事もなく、ただひたすらに、穴を掘る。人を埋められるだけの大きさの穴を作ると言う事は難しい。
昔俺が農園で奴隷として働いていた頃、同じような作業をしていた事があるからよく解る。あんなひ弱そうな白人に務まるような、作業じゃない。
ない筈なのだが、黙々と、奴は続けている。それがまるで、自分の性にあっているのだと言わんばかりに。錆の浮いたシャベルを、軍手とやらを付ける事もなく振い続ける。
「手伝って欲しいか?」
意地悪の悪い事を俺は言ってみる。手伝うつもりは、勿論ない。奴が白だからだ。
言葉を受けて、その白人は俺の方を振り向いた。顎に生えた髭を、髑髏の形になるように剃った異様な風体の白人。
何処にでもいそうな奴の典型のような男だったが……そうではないと、奴の目が語っている。両目の底で輝くその瞳は、異様な雰囲気を持っている。狂気と言う名の空気が、あの白人の目の其処で凝り固まっていた。
「自分で殺した相手の落とし前ぐらいは自分でつける」
そうとだけ言って、奴は再び穴に集中。シャベルを振い始めた。
強情、強がり。そんな物とも違うらしい。本心からそう言っているようだ。
「アンタからはやる気って物を感じられないな。聖杯戦争に勝ち抜こうと言う気力がない」
その言葉を受けて、奴は、スコップを振う手を止めた。
そして、今度は身体ごと俺の方に向き直らせ、ザックと、シャベルを地面に突き刺してから口を開いた。
「聖杯とやらを必要とする、と言う意味じゃあ、確かに気力はないかも知れない」
「聖杯以外に目的があるのか」
「無論」
奴は即答した。
「俺は自己を高める為に此処にいる」
「人を殺す事が修行なのか、イカれたHonkyだな」
Honky、その言葉は、俺を『目覚め』させた、流離の歯医者であったドイツ人から習った言葉だった。
白人共の肌の色を、血を浴びたみたいに怒りで真っ赤にさせる魔法のワード。相棒であり恩人であったあのドイツ人は人前で使うなと言っていたが、
俺はそんな事はお構いなしだ。マスターを挑発する為に口にした言葉だったが、奴は無反応だった。ある種の力強さを宿した瞳で俺を見ている。
怒ってはいないようだった。だが――怒ってはいないのに、大した速度で腰のホルスターに掛けられたコルトを引き抜こうとし始めた。
確かに、速い。だが、その程度の速さでは南部の荒野を生きる事は出来ない。奴以上の速度で俺は、腰のホルスターに差されたレミントンを引き抜き、その銃口の照準を奴の額に合わせた。その時点でまだ、俺のマスターはコルトを引き抜こうと言う段階だった。奴と俺との速さ比べはこの時点で、素人でも明白な物にだった。
「撃て。果たし合いは、お前の勝ちだ」
眉一つ動かす事なく、Honkyは言った。『リンゴォ・ロードアゲイン』と言う名のHonkyが。
動揺している風を全く感じさせない。怯えている風にも、全然見えない。俺との早撃ちの結果を、正統な物として墓場まで持って行くつもりであるらしかった。
「殺すのは後回しにしてやる。それよりも――続きが気になる。話してみろ」
「ふざけるな。公正な殺し合いの果てにあるのはどちらかの明白な死だ。恥辱と凌辱は、男の世界から最も遠い考えだと知れ」
此処で明白に、リンゴォは怒気を露にした。言葉にも明白に、怒りの念があった。
「俺が生きるのは男の世界じゃなくて生き死にの世界でな。決闘に負けた奴が、勝った奴の言い分を全て聞く事も、男の世界に必要な事なんじゃないか?」
リンゴォが閉口する。屁理屈である、と思っているのかも知れない。しかし、理がない訳じゃないとも。思ってるそんな目だ。
癪と言うような態度で、そいつは口を開いて、話の続きを口にする。
「オレの目的は、俺を殺しに掛かって欲しい事だ。真正面から公正に、そして、顔も過去も知らない俺を明白に殺してやると思えるだけの、『漆黒の殺意』を伴わせてだ」
「それに何の意味がある」
「オレを、高めさせてくれる」
やはり即答だった。それも、奴の心の深根の部分にまで行き届いてなければ、出てこない程の即答振りだ。
「人としてオレは未熟だ。聖書の事も全然解らないし、手紙の書き方だってどうすれば良いのかこの歳で悩む位だ。穀潰しの田舎者。そんなオレを、公正な殺し合いは聖なる領域に高めさせてくれる」
話を続ける内に、力強い輝きがリンゴォの奴の目で底光り始めた。狂気と言う名の輝きが。
「オレはまだ、オレの人生に立ちはだかる山を登っている途中だ。公正なる果し合いだけが、オレをその山の頂に到達させようと後押ししてくれる」
「解るか?」、リンゴォが続ける。
「ウソも卑劣もない殺し合いは、聖なるものなのだ。神聖さは、立ちはだかる崖を登り詰める力となる。殺し合いによる勝利は、崖から落ちようとするオレを助ける活力となる。オレは、オレの成長の為に果し合いを望む。聖杯戦争には、これしか期待していない」
今になって、俺は解った。実を言うと、俺は如何してリンゴォを初めて見た時、この男が弱そうに見えるのか理解が出来なかった。
別段どこも病弱に見えず、瞳の奥の輝きも確かなものなこの男の何処に、俺は、弱さを見出したのか?
だが、リンゴォの考えを聞いて漸く悟った。こいつは――この、髑髏の髭を持った男は、奴が言う所の『果し合い』でしか自己を確認出来ないのだ。
だから、弱いのだ。黒人奴隷のように、弱いんだ。自分が何処の国から連れ去られ、祖父や祖母の名前すら知らず。
ただ大農園(プランテーション)で、疲労で濁った瞳をして、長い時間での立ち仕事で痛みを訴える背中と脚と腰を叱り付けながら、生綿を摘む事でしか、
己を実感出来ない黒人の奴隷。リンゴォは確かに白人なのかも知れない。だがこいつは、ただ『肌が白いだけの弱者』だ。
寄り添える物が全くない黒人奴隷と、俺がマスターと認めねばならないリンゴォ・ロードアゲインは。まるで同じ人間にしか俺には見えなかった。
「ブルームヒルダのいない、ジークフリートか」
南部の荒野を共に歩き、共に同じ飯を喰らい、共に同じ紅茶を分けて飲んだ、あのドイツ人の男性から聞いた話を思い出す。
高い山の王者であるヴォーダンなる
神の怒りに触れた姫、ブルームヒルダ。火を吹く竜が住む山に建てられた牢屋を、これまた地獄の業火で取り囲んだ所に閉じ込められた、
プリンセス。そしてこの姫を助ける為に現れた、命知らずの英雄、ジークフリート。あの男から聞いた話では、ジークフリートはブルームヒルダを救って幸せに終わったと言う。
強さと志だけは立派だが、愛する伴侶を――強さと志以外に寄り添える何かを持たなかったら、ジークフリートは如何なっていたのだろう。
俺はきっと、目の前にいるこのリンゴォのような男になってしまったのではないかと思う。戦いと勝利でしか己を見つめられない男。弱者。
そしてそれは生前、俺が歩みかけた道だ。偶然俺がカルーカンの大農園で働いていなければ。ブルームヒルダと言う名の妻がいなければ。
――キング・シュルツと言う名の賞金稼ぎと出会っていなければ。俺はきっと、アヴェンジャーと言う霊基で英霊の座と言う場所に登録すらされなかった、
ただの無名の黒人奴隷として一生を終えていたかも知れない。寄り添える物が一つ、いや、何もない奴隷として終わっていたかも知れない。
笑う程ツイた偶然があったから、俺は俺として此処にいる。そしてリンゴォは、ツイてなかった。それだけの事なのだろう。
「ブルームヒルダ? ジーク、フリート?」
リンゴォが疑問気に言った。知らない言葉のようだった。
「気にする程の言葉でもない」
レミントンをホルスターにしまい、俺は言葉を返した。今まで、リンゴォの頭に照準を向けたままであった。
「勝負はお預けにしておいてやる。その神聖な殺し合いとやらで十分自分を高めきったら、また早撃ちの勝負を受けてやる」
「お前は、サーヴァントとして――」
「その名前はやめろ。心底反吐が出る。俺を呼ぶなら、アヴェンジャーか自由人(フリーマン)と呼べ」
名前自体が決まり事でそうなっているのかも知れないが、俺はもう奴隷などと言う名で呼ばれるのは御免だ。次に呼ぼうものなら、殺してやるつもりでもあった。
「解った。フリーマン。お前はアヴェンジャーとしてどのように、聖杯戦争を迎えるつもりだ」
「目的はない。向かってくる奴を、撃つ。それだけだ」
「汚らわしい対応者。貴様のような男をオレはそう呼ぶ」
「お前はそれに負けた」
リンゴォが黙った。
「撃って、勝って。お前の足掻く様子を見てやるよ」
本当は、違うのだろう。人種も境遇も違うこの白人が。異なる未来を歩んだ『俺』が。
聖杯戦争を勝ち残って、そして聖杯戦争自体が。何をリンゴォに齎すのか、俺は見たいだけなのかも知れない。見届けたい、だけなのかも知れない。
「貴様なぞ外れも良い所だな、『ドジャンゴ』」
「本当に殺し合い以外は駄目みたいだな」
テンガロンハットを指で摘まみながら、笑顔を浮かべる俺。
サーヴァントと言われるのは我慢が出来ないが、名前を間違えられると、実は俺も嬉しい。キメの台詞を言えるからだ。
リンゴォ自体は、脳内に浮かび上がった俺の真名とやらを無意識に口にしただけなのかも知れないが、発音の仕方が違う。
「俺の名前の『D』は発音しない」
直に、続けた。
「俺の名前は『ジャンゴ』と読む」
誰に名付けられたのか解らないその名を、俺は気に入っていた。白人の無教養さを当人に刻み込んだまま、死を運ぶ銃弾を、ぶち込めるからだった。
【クラス】
アヴェンジャー
【真名】
ジャンゴ@ジャンゴ 繋がれざる者
【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷B 魔力E 幸運A+ 宝具C
【属性】
中立・悪
【クラススキル】
復讐者:C+
復讐者として、人の恨みや怨念を集めやすくなるスキル。
平時ではそうでもないが、敵対的な行動をとった場合ヘイトを向けられやすくなる。また特に、白人系のサーヴァントやNPCの場合これは顕著になる。
忘却補正:C
人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃はクリティカル効果を強化させる。
自己回復:E+
アヴェンジャーは時間経過で魔力が回復しない。
代わりに、投影する銃器の修復と弾丸の補充は、本人の魔力とは関係なしに勝手に行われる。
【保有スキル】
射撃:A++
銃器による早撃ち、曲撃ちを含めた射撃技術。A++は百年に一度の天才。
アヴェンジャーは特に、どんな銃でもそつなく扱える事と、相手の意識の外を狙った不意打ちの射撃に天稟の才能を見せる。
ファニング:A+
射撃の中の技術、『ファニング』の練度。クイックドロウとの相違点は、このスキルは複数人を一時に早撃ちで殺せるかどうか。
このランクになると、状況次第であるが一気に四人以上は戦闘不能の状態に持ち込む事が出来る。
窮地の智慧:B++
危機的な局面において優先的に幸運を呼び込む能力。生前は命の危機に陥る事がままあったが、その全てを抜群の幸運と己の実力でアヴェンジャーは切り抜けている。
【宝具】
『黒よ、白を喰らえ(アイハブアドリーム)』
ランク:C++ 種別:対人宝具 レンジ:1~100 最大補足:1~20
アヴェンジャーの持つ、銃器を扱う事への天稟の才能が宝具となったもの。
即ち、銃器を手にしたアヴェンジャーの技術全体を包括して宝具と扱い、言ってしまえば固有スキル。
アヴェンジャーは初めて対峙した相手で、かつ初回の一回に限り、銃を現在進行形で手に持っている状態であっても、相手からはその銃を発射する瞬間を知覚出来ない。
だがこの効果は、この宝具で相手を殺しやすくするためのお膳立てに過ぎない。
この宝具の真の効果は、アヴェンジャーの殺意と敵意で威力が跳ね上がる点。
相手が白人系サーヴァント或いはNPCであった場合にアヴェンジャーが拳銃を発砲した際、相手の耐久・敏捷・幸運と、防御・回避に纏わるスキルのランクを半減させる。
また相手が白人系のサーヴァントでなくとも、相手を殺意と敵意を抱いた状態で銃を撃った場合には、宝具の威力がBランクの対人宝具並に上方修正され、
防御・回避に纏わるスキルのランクが半減すると言う効果になる。上2つの効果は重複し、白人系サーヴァントが相手でかつ、
アヴェンジャーが対象に敵意と殺意を抱いていた場合には、この宝具の効果は最大まで発揮され、その場合には『相手サーヴァントは耐久・敏捷・幸運ステータスが半減、防御・回避に纏わるスキルが一時的に完全消滅した上で、Aランクの対人宝具並の威力の銃弾を発射する』、と言う効果に変化する。
この宝具の悪辣な点は、2つある。1つは、技術と意思力と言う2つの点に宝具の概念が割かれている事による、消費魔力の少なさ。具体的にはDランク相当の燃費である。
そしてもう一つは、この宝具が真の効果を発揮するのには、『相手が白人である』と言う事すら必要がないと言う事。
例え相手が白人でなく、黄色・黒色人種であろうが、地球外の生命体であろうが、アヴェンジャーが極限まで憎い・殺したいと思った場合には、白人であろうが関係なくこの宝具は最大限の威力で発動される。
【weapon】
レミントン M1858、デリンジャー、コルト・ドラグーン等、ジャンゴ作中で使った銃器を投影し、これを扱う事が出来る。
【人物背景】
南北戦争直前のアメリカ南部にいた黒人奴隷。
ドイツ人賞金稼ぎの歯科医キング・シュルツが追う標的の顔を偶然知っていた為彼に助けられ、三兄弟を仕留めた後、天才的な射撃の腕をシュルツから認められ、
銃の扱い方と賞金稼ぎと言う仕事を教え込まれ、その才能を開花させる。
離れ離れになった妻ブルームヒルダを、悪しき大農園の主人から救い出した彼のその後は、杳としてしれなかったと言う。
白人と、それに与して取り入ろうとする黒人やそのほかの人種に対する怒りにクローズアップされており、他の適性クラスはアーチャー或いは、ガンナーである(アヴェンジャー自体も適性クラスの一つである)
【サーヴァントとしての願い】
聖杯自体は、聖杯戦争を勝ち抜いたバウンティとしてしか思っていない。詰まる所、願いはない
【マスター】
リンゴォ・ロードアゲイン@ジョジョの奇妙な冒険 第7部 スティール・ボール・ラン
【マスターとしての願い】
聖杯自体には無い。聖杯戦争自体が齎す公正な殺し合いが、自分を高めてくれる事を願っている。
【能力・技能】
スタンド・『マンダム』:
背中に取り付くような形状のタコのようなスタンド。
『破壊力-なし/スピード-A/射程距離-なし/持続力-E/精密動作性-なし/成長性-C』と言うステータスを持つ。
但しスタンドの持つステータスは、サーヴァントの持つステータスと同じ出力を出せると言う意味ではない。あくまでもスタンドの中で、このステータスと言う意。
自分の腕時計のツマミを回して秒針を6秒戻すことで、現実の時間もきっかり6秒だけ戻す事が出来る能力を持つ。
戻った後は、戻す前に起こった事の記憶のみが残るため、相手の攻撃を先読みして回避することが可能。
効果範囲は広く、少なくとも当聖杯戦争においては、一地区、或いは都市全体の時間を巻き戻す事が出来るのかも知れない。
【人物背景】
SBRに登場するスタンド使いの一人。大統領の刺客として登場したが、当人には刺客としての意識は薄く、ただ自己を高めさせる公正な闘いを求める人物。
嘗ては臆病で皮膚が弱く、原因不明の出血もあって身体も弱い少年時代を送っていたが、兵士に家に強盗に入られた事件で、
銃を奪って母と姉を殺害した強盗兵士を逆に殺し返す事で、自分が進むべき『光輝く道』を見出した。
同時に、彼の心に巣食っていた不安や原因不明の出血なども治まり、この経験から、『公正な闘い』は人間を成長させると信じ、『男の世界』に生きる事を決めた。
ジョニィ達と出会う前の時間軸からの参戦。
【方針】
基本は待ち。自分の事を聞き、殺し合いを挑んで来た者のみを相手として選ぶ
最終更新:2018年06月05日 16:08