マスターである
ディオ・ブランドーは、サーヴァントであるランサー、
レミリア・スカーレットを連れ夜の見滝原を散策していた。
否、正確に言うならランサーに連れられてディオは夜の街を散策していた。
形式的な主従こそディオが主だが、実際はランサーの方が余程主だ。
実際、この散策もランサーの発案だった。これが戦争であり、敵であるサーヴァントをただ待つなどランサーの性に合わなかったのだ。
「そんな物適当なNPCを操るなり、使用人に命令して探させれば良いだろう」
とディオは言ってみた。
「退屈だもの。それに戦いは先手必勝よ」
と返された。
「ぼくを連れて行かなくていいじゃないか」
ともディオは言ってみたが
「あなた、私に荷物持ちをさせるつもり?」
と言われた。何となく予想の付く話だった。
この事に思う所は多々あるが、父を毒殺するまでの期間を思えばなんてことは無い。
聖杯を手に入れるまでの我慢だと思えばいい。
それにしても
「変われば変わる物だ」
聖杯戦争の舞台、見滝原を歩きながらディオは思わず呟いた。
聖杯戦争開始前にも多少はこの町を歩いていたが、やはり何度見ても未来の日本というのにはどうも受け付けない。
平和で、住んでいる住人がどいつもこいつも腑抜けて見えるのが気に入らないのか、町が綺麗すぎる事に違和を感じるのか。ディオには分からない。
だが少なくとも、夜の町は昔住んでいたイギリスの貧民街よりは余程ましだと思えた。
絡んでくる人間もまずいない、居たとしてもセイヴァーと誤認しているのかヘコヘコして逃げていく。
やがてしばらく歩いていると、ランサーから念話が入ってきた。
『サーヴァントを見つけたわ』
それだけ言ってランサーは念話を切り、飛んで行ってしまう。
何のことは無い、要は敵を見つけたから戦う。というただの報告だ。
別に指示が欲しい、と言った事ではない。最も、貧民街の喧嘩ならともかく本物の怪物の戦闘に対し出来る事などたかが知れているだろうが。
ディオも一応は追いかける。万が一の事があってはいけないし、まかり間違ってこんな序盤に脱落など冗談ではない。令呪を切る必要が出るかもしれない、そう思ったからだ。
だがしかし次の瞬間
『サーヴァントがそっちに行ったわ!』
そんなランサーの念話が届いた。
『何だと!?』
『何なのこいつのスピード、速すぎる!』
ディオの声にも答えず、ランサーは敵のスピードに驚いている。
何が最速の槍兵だ、と内心で毒づきながらともかく一旦身を隠そうとする。
しかし、気付けば目の前には、1人の男が立っていた。
年は40手前位だろうか、牧師か神父か、ともかく教会に関連しそうな格好をしている。
この見滝原に来てからは見た事の無い服装だ。
そして、ディオの目には目の前の男のステータスが見えていた。
「こいつ、サーヴァントか……!?」
パッと見英霊になど見えないが、それを言うならランサーも羽が生えていなければただの子供にしか見えない。
そんな事より
(なぜ攻撃してこない……?)
こんな考えをディオが巡らせるより前に殺すなど、目の前の男からすれば容易なはずだ。にもかかわらずディオは未だ生きている。
何か意図があるのか、それともただの甘さか、どちらにせよ生き残る芽はある、と判断したディオ。
だが次の瞬間ディオは目の前の男から信じられない言葉を聞く。
「DIO、なのか……!?」
その言葉を聞いてディオは確信した。
こいつ、セイヴァーの知り合いか!?
◆
この聖杯戦争にライダーとして召喚された
エンリコ・プッチは、当然の如く聖杯に願いがある。
その為には他のサーヴァントの撃破は必要不可欠だが、今はそれをしようとライダーは思っていない。
ならば何をしようとしているのか。
それはライダーの友、セイヴァーとして召喚された吸血鬼DIOと会う事だ。
自身の目的とDIOの目的は一致する、ならば力を貸す事に不具合など一切ない。
彼はライダーの知っている彼ではないかもしれないが、彼がDIOである以上ライダーは尽くすのみだ。
なのに、DIOを知っていそうな人間に話を聞いても詳しいことは聞けなかった。
まあ、討伐令が出ている現状で居所の手がかりを残すなど間抜け以外の何物でもない。
近々集会があるらしいが、それにDIOは直接出ないらしい。
彼に救われた人間が、勝手に集まっているようだ。ならばそんな場所に用は無い。
という事でライダーが出した結論は、『自分でコツコツ探すしかない』だった。
マスターのほたるが言うように、DIOのマスターが見滝原中学の生徒ならそちらから接触する手もあるが、吸血鬼であるDIOが一緒に登校するとは思えない。
ほたるに情報収集させるのも手だが、あの子にそれが出来る気はしない。
となるとやはり自力でどうにかするしかないのだが――
「やはりそう容易くはいかないな」
現在午前0時過ぎ、プッチはマスターであるほたるを寝かせ、ソウルジェムを預かり1人夜の見滝原に出ていた。
マスターを放置する事にリスクはあるが、まだ聖杯戦争は序盤も序盤。彼女がマスターだと気取られる事はまず無いだろう。
もしかしたらNPCを手当たり次第に魂喰いするサーヴァントが居る可能性もあるが、その場合を考え宝具ですぐに戻れる範疇でしか行動していない。
やはり何か手がかりを、と歩道上で考えていた所で
「くっ、いきなりか!」
いきなり攻撃を受けそうになった、がライダーはほとんど勘で攻撃を避けた。
なぜ避けられたかライダー自身ですら把握できない。スタンド使いとしての勘か、それとも運命が生かしているのか。
ともかく避けたからにはその場で棒立ちなどありえない。ライダーは咄嗟に身を隠した。
次はどこから攻撃が来るのか、とライダーが警戒していると、さっきまでいた歩道に少女が空から降り立っていた。
特徴的な帽子を被った、そう言う趣味があるなら欲情しかねない美しい少女。
そして背に生えた黒い翼。これだけで彼女が人間でない事が分かる。
「避けられてしまったわね」
そしてこの言葉で彼女がさっきの攻撃の主だと分かる。
「ま、いいわ。
こんなにも月が紅いから、本気で殺すわよ」
少女はライダーにそのまま攻撃を仕掛ける。
その攻撃は並みのサーヴァントなら回避不可能だろう。
「ふん」
だがライダーの宝具『神の思し召し(メイド・イン・ヘブン) 』を使えば回避は容易だ。
ライダーはDIOに会うまで消耗は極力抑えたかった。
なのでサーヴァントと戦うよりマスターを狙い、極力手間を省いて敵を始末する事にした。
ライダーはとりあえずランサーが飛んできた方向へ向かい、マスターを探す。
いるのなら良し、いないのならそのまま逃げるだけだ。
少し進むと、この日本ではまず見ないだろうイギリス人が居た。
金髪の少年だ、10代前半だろうか。
隠れようとしていたが、その前に少年の前に立つ。令呪が見えたのでほぼ間違いなくさっきのサーヴァントのマスターだろう。
「こいつ、サーヴァントか……!」
そこで目の前の少年の声が聞こえた。その声にライダーは聞き覚えがあった。
まさか、と思い顔を見ると少年はライダーのよく知る友人の顔だった。
そんな、君は……。
「DIO、なのか……!?」
ライダーが茫然としている隙に、さっきのサーヴァントが戻ってくる。
当然サーヴァントはライダーに攻撃をしようとするが、
「待てランサー!」
何と少年が攻撃を止める。
ランサーは不満そうにマスターである少年を見るが、少年もまた負けずに睨む。
さきに折れたのはランサーだった。さっきライダーを逃がしたせいでバツが悪いのだろう。
だがライダーからすればそんなことはどうでもいい。
重要なのはDIOと会話する事だ。とはいえここは路上、いくら真夜中とはいえあまり道の真ん中で長話をするべきではないだろう。
「DIO……、積もる話はあるが場所を変えないか? ここでは目立ってしまう。
近くに公園がある、そこへ行こう」
なのでライダーは場所変えを提案した。
一方、少年は相手に主導権を握らせる事にいい気はしなかったが、この場の支配者は間違いなくライダーだ。
「いいだろう」
だから少年は素直に従った。
場所は変わり公園。
そこでは少年少女と大の大人が、近くにベンチがあるにも関わらず立ったまま会話するという何とも言えない光景があった。
「まずは自己紹介といこう。
私はエンリコ・プッチ、この聖杯戦争にライダーとして召喚されたサーヴァントだ」
「いきなり真名を名乗るの……!?」
ライダーの言動に驚くランサー。だがライダーにとっては必然だ。
例え目の前に居るDIOが自分を知らなくても、関係を聞けば納得してくれるはずだから。
「……ディオ・ブランドーだ」
「そのサーヴァントのランサーよ」
向こうも自己紹介をする、といってもライダーからすれば知っていることだが。
ライダーは言葉を紡ごうとする。
「DIO、君は――」
「待て、その前になぜお前がこのディオを知っているか教えろ。
お前からすればぼくは知り合いだろうが、こっちは知らないんだ」
だがその前にディオに遮られた。
もっともだ、とライダーは思う。
DIOの身長は190を超えていたのに、目の前にいるDIOはそれよりはるかに低い。
それに自身を知らない、というのもおかしい。
ならこの矛盾を解決する方法は何か、それは『自身と出会う前のDIOがマスターとなっている』事だ。
それも子供、となれば吸血鬼になるよりも前だろう。ひょっとしたら石仮面の事すら知らないかもしれない。
だからライダーはディオに説明した。
石仮面の事、ジョースターとの因縁の事、スタンドの事。
かつてDIOから聞いたことを、今度はディオに話す。
「道具で作られた粗雑な吸血鬼になる、それがディオの運命?」
ディオは黙って聞いていたが、ランサーは煩わしい合いの手を入れてくる。
「大事なのは生まれでは無い、どう生きるかだ」
「そして時を止めるスタンド『ザ・ワールド』ね……。
時を止めるヤツなんて私からすれば身内だけど、使用人よ。
どんなに広い館でも一瞬で掃除出来て、私が望めば紅茶が出てくる。そんな程度の力よ」
「貴様……!」
「おい」
ランサーの物言いに怒りが滲み出るライダー。
それをディオはせき止める。
「そんな事より、お前はこの聖杯戦争で何を願う。
このディオの邪魔になる様な真似は許さんぞ」
「そんな事はしないさ。
私は、未来の君が教えてくれた『天国』に全人類を連れて行きたいと思っている」
「天国? 吸血鬼なのに?」
「『天国』というのに神父の私に合わせた言い方だ。精神の向かう所、と言う話だ」
そして今度は『天国』について語る。
世界を一巡させ、全ての人間が未来を虫の知らせの様に感じ取る世界。
運命によって固定され、回避する事の出来ない未来が生まれる世界。
どんな悪い事も、あらかじめ起こると分かっていれば覚悟が出来る。
その覚悟が幸福だ、とライダーは熱弁する。
「醜悪な世界ね。いや、停滞を是とする幻想郷の住人が言っていいのかは分からないけど……。
でもこれだけは確かね、そんな天国に住みたがる人間など居ないわ」
しかしランサーは天国を一蹴する。
ライダーはそれが気に食わない、だがマスターが賛同してくれれば令呪でどうとでもなるだろう。
そう、ライダーは確信していた。
例えこの考えに思い至っていなくても、DIOは必ず天国を目指すと。
だから、こんな事はライダーの想定外だ。
「この、汚らしい阿保がァ―――――――ッ!!」
DIOが己の言動に赫怒し、怒鳴り散らすなどライダーにとっては想定外すぎる。
◆
ディオにとってライダーの話は驚きこそあったが、本質的には自分には関係ないものと捉えていた。
ライダーの言葉がないにしても、今自分が吸血鬼という訳ではないし、スタンドなるものは使えない。
そんなものを手に入れる未来があったとしても、今ないのであれば興味深いが意味はない。
しかし、ライダーの語る天国は別だ。
確かにディオは天国を目指している。
しかしディオは認めない。
「この、汚らしい阿保がァ―――――――ッ!!」
ディオは我慢強い人間である。
ダリオを殺すと決めたときも、怪しまれない為に毒薬を使い根気強く殺した。
そしてこのディオは知らないが、彼はジョナサン・ジョースターと侮れないと見るや7年間友情を演じることも出来る。
それと同時にディオは我慢弱い人間だ。
これもこのディオは知らないが、口だけでも肯定しておけばいい場面でも、父親の名誉に誓えと言われて誓えなかった事がある。
母親を侮辱され、衝動的に酒瓶で人を殴る事もある。
「そんな、路地裏の負け犬がほざく下らないたわ言以下の薄汚い世界が貴様の言う天国だと!?
そしてそんな世界をこのディオが目指すことになるだと!?」
だからディオ・ブランドーは認めない。
この世界を認めれば、母はもう1度父のせいで死んでしまう。
そして、父であるダリオ・ブランドーがもう1度己の目の前に現れることになる。
そんな世界が天国であるものか。
あってたまるか!
「殺せ、ランサ―――――ッ!!」
「はいはいっと」
極大に膨れ上がった怒りはそのまま殺意となり、ランサーを通じてライダーに襲いかかる。
しかしライダーは、ランサーの攻撃が当たる前に公園から姿を消した。
「逃げたか……」
「どうするの、ディオ?
尺だけどあいつ速さだけは大したものよ。この私の目でも追えないのだから」
「ならマスターの方を仕留めればいい」
「……そうね」
「それにあいつは討伐令の出ているセイヴァーの味方をしかねないサーヴァントだ。
セイヴァーの情報も手に入れたし、そいつの情報と合わせて他の参加者にばら撒けば妨害にもなるだろう」
「セイヴァーはともかくライダーは大した情報は無いけれどね」
ランサーの言葉にディオは一瞬押し黙る。
よく考えれば自分はライダーの真名位しかわからない。
それでもディオは表情を変えることなく言った。
*
「いくぞ、ランサー。あのライダーはどんな手を使ってでも地獄に落としてやる。そいつに味方する奴もな。
そして未来のぼくも同じ事を考えているのなら、そいつも同じくだ」
「ええ、異論はないわ。
でもどうするのディオ? どっちも今の私達に仕留めることはできないわ。だってどこにいるか分からないもの」
「そうだな……」
ディオは考える。それはこのまま他の参加者を探すかどうかだ。
このまま探すのもいいが、今は序盤も序盤。情報が集まるまで動かない奴もいるだろう。
ならそれに習い、こちらも動かずある程度盤上を見極めてから動くのも手だ。
一旦帰るか、このまま他の参加者を探すか。
ディオが出した結論は――
【C-3 公園/月曜日 未明】
【ディオ・ブランドー@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態] 健康、怒り(極大)
[令呪] 残り3画
[ソウルジェム] 有
[装備]
[道具]
[所持金]数万円
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、天国へ行く。
1.セイヴァー(DIO)とライダー(プッチ)はどんな手を使ってでも殺す。そいつらに味方する奴も殺す
2.他の参加者と接触したら、ライダー(プッチ)の知っている情報をばら撒く
3.一旦帰るか、それともこのまま他の参加者を探すか――
4.あいつらの言う『天国』など、俺は認めん。
[備考]
※ライダー(プッチ)のステータスを確認しました。
※ライダー(プッチ)の真名を知りました。
※自身の未来(吸血鬼になる事、スタンド『ザ・ワールド』、ジョースターとの因縁)について知りました。
【ランサー(レミリア・スカーレット)@東方project】
[状態] 無傷
[装備] スペルカード
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの運命を見定める
1.ライダー(プッチ)の言う『天国』は気に入らないので阻止する。
2. 一旦帰る? それともこのまま散策する?
[備考]
※ライダー(プッチ)の真名を知りました。
※ディオの未来(ディオが吸血鬼になる事、スタンド『ザ・ワールド』、ジョースターとの因縁)について知りました。
◆
「ハァ……ハァ……」
ライダーはディオから逃げ出し、離れた所にいた。
『神の思し召し(メイド・イン・ヘブン) 』を使えば逃走は容易である。
勿論戦ってもそう簡単に負けるとは思わなかったが、ライダーは逃げた。
ライダーはショックを受けていた。それも生前では絶対に味わうことのない程のショックをだ。
討伐令が出されたDIOの見覚えのなさにも驚いたが、それでもここまでのショックは無かった。
姿は間違いなく知っているDIOであったし、救世主などと呼ばれても本質は変わらないだろうと思っていたからだ。
だがディオは違う。
ディオは天国を拒絶した。
なぜかは分からないが、未来の自分が目指しているものを過去の自分が否定したのだ。
何が違うのか。
100年の時を過ごしていないからか。
吸血鬼になっていないからか。
ジョースターを侮りがたい敵と見ていないからか。
ライダーには分からない。ともかくディオは拒絶した。
「それでも私は天国を目指すぞ、DIO」
だとしてもライダーは折れない。
例え神を愛する様に愛している者に拒絶されても。
なぜなら希望があるから。
あのDIOは厳密には己が友人となったDIOとは違う、と。
年齢が変われば考え方も変わる、そう考える事にした。
ショックはある、大きくある。
でもここは戦場だ。そして相手はライダーの心理的動揺など感知しないのだから。
「とにかく、早くセイヴァーのDIOと合流したいが……」
とはいえそれも難しい。
なら一旦マスターの元に戻るのも手だろう、未だ寝ているだろうがこちらも動揺が残っているし、時間が欲しい。
勿論割り切らなければならないのは分かっているが。
この夜はマスターの護衛に徹するのも戦術だ、どのみち1人ではセイヴァーのDIOを探すのは無理だろう。
そしてライダーは進みだす、己の望む未来を掴むため。
ライダー、エンリコ・プッチは諦めない。
【D-4 見滝原中学校付近/月曜日 未明】
【ライダー(エンリコ・プッチ)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態] 無傷、精神的ショック(極大)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:『天国』を実現させ、全ての人類を『幸福』にする
1.セイヴァー(DIO)を探す。他のサーヴァントと戦闘はしないようにする
2.一旦マスターの元へ戻る。
[備考]
※DIOがマスターとしても参加していることを把握しました。
※ランサー(レミリア・スカーレット)の姿を確認しました
最終更新:2018年06月24日 23:02