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「――蛾だ」
「死んでますね……」

広い公園の片隅、遊ぶ子供もいない真っ昼間。
一組の男女が、しゃがみ込んで虫の死骸を覗き込んでいた。

「叩かれたような痕跡はあるが、噛みつかれた形跡はないな。
 ……今回の件の『ターゲット』は、確か『箱入り』だったな?」
「はい。そう聞いています。
 病院に行く時とか以外は、おうちから出たことはないとか」
「さっき見つけたフンも、人工的なペットフードの成分だけからなるものだった。
 ならばこれも、本能的に飛び掛かってみたはいいが、その後どうすれば良いか分からなかった……
 それを食べていいのか悪いのか、判断がつかなかった。そんなところだろう」

帽子からコートから白づくめの、長身の男は立ち上がる。
眼鏡をかけ、何やら耳の上に長い角のような飾りをつけた少女も、立ち上がる。弾みで豊かな胸が揺れる。

「じゃあ、この近くに居るということでしょうか」
「その可能性は高いな」

男はそう言うと、タイミングよく懐の中で震えた携帯電話を取り出し、耳に当てる。
待っていた連絡が来たらしい。手持ち無沙汰な少女は、周囲を見回すともなく見まわす。
どこまでもしっかりと続く大地。木々の向こうにそびえる近代的なビル。
少女が『記憶』を取り戻すまで『当たり前』と思っていて、そして、今は全然『当たり前』ではない光景。

『SPW財団調査部です。『ターゲット』を見つけました。やはりその公園の中です』
「詳しい場所を教えろ。すぐに向かう」

男は携帯電話を耳につけたまま歩き出す。少女は長い栗色の髪を揺らしてその背を追う。


  ―――――


先ほどの電話の声の主の姿などどこにもない、公園の中の別の一角で。
白い男と小柄な少女は揃って頭上を見上げていた。

「あー、危ない……!」
「ちっ……登ってみたはいいが、降りられなくなったか……!」

高い木の上、細い枝の先。
消え入るような鳴き声を挙げていたのは、白い子猫だった。
見るからに落ち着かない様子で、周囲を見回している。

「うーん、あそこまで木登りするのは無理ですねぇ……
 かといって、あの子も動けないようですし……ああ、落ちちゃったら受け身も取れないっぽいです」

何故か大きな虫眼鏡を片目に当てて、眼鏡の角つき少女は嘆息する。
虫眼鏡近くの虚空には、何やら赤い輪のようなモノが浮かび、焦点を合わせるかのように動いている……
こことは異なる世界の技術による、分析の術の一端であった。
白いコートの男は溜息をひとつつくと、ポケットに突っ込んであった片手を出す。

「手っ取り早く済ませるぞ、サーヤ……いや、『マスター』」
「あっ、ちょっ、『アーチャー』さん?!」

いつの間にか男の傍に立っていたのは、男と同じくらいの背の、筋骨隆々たる半裸の男の姿。
肌の色からして普通の人間ではありえない、その『人の姿をしたヴィジョン』は、そして指で何かを弾いた。
ヒュッ。
ガッ。
メキメキ……バキッ!
射出された『小さなパチンコ玉』は狙い違わず子猫の乗っていた枝を直撃し……
悲鳴を挙げる余裕もなかった子猫は、枝もろとも垂直に落下。
男とその傍らのヴィジョンは、そして、


 『スタープラチナ・ザ・ワールド』!

 ……っと、そうだ、『使えない』んだったな」

一瞬、『何か』をやりかけて……しかし、すぐに『気が付いて』。
それでも悠々と余裕をもって、足からスライディングするような姿勢で子猫の下に到達。
落ちてきた子猫を、しっかりと受け止めた。
背後から、サーヤと呼ばれた少女の安堵の溜息が聞こえてくる。

  ―――――



職業、探偵助手。
あの『空の世界』、どこまでも青い空が広がり島々が浮かぶ世界と変わらぬ、それが少女の肩書だった。

助手と言いながらも、探偵そのもののような仕事をしているのも一緒だ。
請け負う仕事のほとんどが、迷い猫探しのような、ある意味でつまらない仕事なのも一緒。

違うのは――助手として補佐をする相手。
こちらでの『探偵』は、既にほとんど引退したような身分の老探偵。
半ば道楽で閑古鳥の鳴く事務所を開けたままにしている老人だった。
サーヤに対しても良くしてくれる有難い雇い主ではあったけれど。
『記憶』を取り戻した今、物足りなさを感じるのは否定できない。

「今日はありがとうございました、承太郎さん……いえ、アーチャーさん」
「呼び方はどちらでもいい。大したことじゃない」

依頼主の所に子猫を届けて、事務所に戻る帰り道。
小柄な少女は長身の男……自らのサーヴァントに改めて礼を言う。

サーヴァント。聖杯戦争。英霊。ソウルジェム。
そう、元居た『空の世界』で、失せもの探しの依頼を受けて。
ちょっとした冒険の果てに探し出した『失せもの』こそがソウルジェムだった。
気が付けばこんな土地で、自分の頭に生えた角もアクセサリーだと思い込んで、日々を過ごしていた。
事務所のオーナーである老探偵を『先生』と呼ぶたびに、何か胸の奥にざわめくものを感じながら。

「『スタープラチナ』さんにも、『SPW財団』の人にも、お礼を言いたいんですけど」
「どちらもサーヴァントとしてのオレの一部だ。独立した人格を持つ存在じゃあない」
「そうなんですか? なら、承太郎さんに重ねて『ありがとう』って言っておかなきゃ、ですね」

不愛想な態度を崩さない男に、サーヤはそれでもニッコリと微笑む。
まだ浅い付き合いだが、悪い人ではないのは分かっている。

「それで……承太郎さん。承太郎さんの方は、欠けた『記憶』、戻りましたか??」
「いや……まだだ。
 こうなると、これは『戻らないもの』と考えた方がいいかもな」

サーヤの問いかけに、白い服の男は表情を一切変えないまま応える。
サーヴァント、アーチャー、空条承太郎。
彼は英霊であり……自らが『殺された』という自覚をもっており……しかし。
自らが死んだ時の状況を、殺された相手の心当たりを、一切思い出すことができずにいた。
英霊の座からも、その時の状況を調べることはできなかった。

「仗助に会いに来て、そのまま『弓と矢』を探すことになったのは把握している。確保したことも憶えている。
 問題はその先だ。記憶に奇妙な空白がある。
 まさかヒトデの論文のためだけにオレが杜王町に留まっていたはずがない。『何か』があったんだ。
 さらに、英霊の座からの俯瞰でも、SPW財団の調査でも知ることができないとなると……
 何らかの能力による妨害、情報の抹消を疑わざるを得ない」
「情報の抹消、ですか……」
「おそらくはスタンド能力。
 オレはおそらく、追跡すら拒む『能力』の前に、負けたんだ」

男は天を仰ぐ。少女もつられて空を見上げる。
どこまでも地面が続き、あるいは海が続いているというこの世界ではあるが、見上げた空の青だけは変わらない。
これと同じような空の下、この冷静沈着な男が敗北し、記憶すら奪われた……
サーヤにはとても想像することができなかった。

「そんなオレがこの土地に呼ばれた理由。
 ……根拠はないが、『何か』に引き寄せられた可能性がある」
「何か、って……」
「それは1つではないかもしれない。
 可能性としては、さっき挙げたオレの死に関わる『何者か』、あるいはその縁者。
 それから、もう一つは……DIO」
「DIO?」
「英霊、アーチャーとして使えるはずの能力が1つ、何故か使えなくなっている。
 『スタープラチナ・ザ・ワールド』。
 最大で2秒、時を止める能力であり……かつて俺達が戦った相手、DIOが持っていた能力。
 奴もまた、この場に関わっている可能性がある。
 英霊の立場からも理解できないこの状況……あいつも呼ばれているのなら、あるいは」

男の言葉に、一緒に空を見上げていた少女は、少し考え込んで。
ふと何かに気付いたように、ポン、と手を打った。

「……なるほど!
 それはきっと、『運命』ってことなんですね!
 バロワ先生と怪盗シャノワールみたいな感じの!」
「……運命?」
「承太郎さんと、そのDIOさん! そして、謎の殺人者!
 世界が変わっても、英霊になっても、『自分と関係していない訳がないと思えるほどの信頼』!!
 わたし、応援しますから!! DIOさんや殺人犯との対決、ぜったい応援しますから!!」

拳を握りしめて、目をキラキラさせる少女。見下ろすアーチャー。
一筋の冷や汗を流しながら、そして英霊は絞り出すようにつぶやいた。

「イカれているのか……? 応援……?? 運命、だと……???」




【クラス】
アーチャー

【真名】
空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 Part4 『ダイヤモンドは砕けない』

【属性】
中立・善

【ステータス】
筋力:A 耐久:B 敏捷:A 魔力:C 幸運:D 宝具:B?(いずれもスタンド能力を含む)

【クラススキル】
対魔力:C
 魔術に対する抵抗力。魔術詠唱が2節以下のものを無効化する。
 有名なエピソードがある訳ではないが、落ち着きを得た承太郎に生半可な術は通用しない。
 ……とはいえ、『ネズミの弾丸』のように、生半可ではない術ならば通用するということでもある。

単独行動:D
 マスター不在・魔力供給なしでも長時間行動できるスキル。
 ……なのだが、4部承太郎はむしろ単独で行動したエピソードを欠いている。
 そのためこのスキルを持たない他のサーヴァントよりは多少マシ、という程度に留まっている。
 基本的にアテにはできないスキル。

【保有スキル】
追跡:A
 高い観察力と豊富な知識を活用し、神秘の力に頼らずに対象を追跡する複合スキル。
 動物相手なら僅かな痕跡を手掛かりに、人間相手なら探偵のような地道な調査で対象の足取りを掴む。
 そのために必要な一般的知識も適宜自動的に獲得する。
 時間がかかってしまうことはあるが、いったん何らかの手がかりを得たならほぼ必ず対象に到達できる。

冷静沈着:B
 いついかなる時も慌てずに最善最良の策を考えることのできる能力。
 精神に影響を与える効果に高い耐性を得る。
 また負傷によっても思考力の低下などをきたさない。

【宝具】
『SPW財団の支援』
ランク:C 種別:対軍宝具(支援) レンジ:1 最大捕捉:1人(自分)
 スピードワゴン財団(SPW財団)の支援を受けることができる。
 サーヴァントの側の言葉で表現すれば、「非戦闘用で直接姿を見せない使い魔」のような存在。
 アーチャークラスの場合、以下の2つの目的に限局して利用できる。
 ・物資調達
 お金を出せば購入可能な量産品を必要なだけ入手できる。銃刀法などの制限は無視できる。代金は不要。
 ただし実際に使用する目的であること(換金目的などではないこと)が条件。普通の通販程度の手間を要する。
 また後述するベアリング、ライフル弾については別枠扱い。
 ・情報収集
 それなりの諜報機関なら人間技で収集可能な情報を集めてくる。調査結果は携帯電話に伝えられる。
 ただし何について調べて欲しいのかをアーチャーの側から指示する必要がある。

『星の白金(スタープラチナ)』
ランク:B 種別:対人宝具(自分) レンジ:1 最大捕捉:1人(自分)
 高いパワーと速度、精密操作性を誇る人型スタンド。
 射程は短く、本体と重ねるようにして使うことがほとんど。
 引っ込めておくこともできるが、後述のベアリングの使用など、基本的に戦闘では常時展開することになる。

『もうひとつの世界(スタープラチナ・ザ・ワールド)』
 ランク:―(EX) 種別:対人宝具(自分) レンジ:1 最大捕捉:1人(自分)
 無敵のスタープラチナの切り札、『時間を止める』能力。
 『ネズミ狩り』エピソードの再現であるアーチャーは、最大2秒までの時止めが可能。
 ……のはずなのだが、何故か今回の召喚では使用することができない。
 アーチャー自身にも理由は不明。「英霊として召喚されたなら、本来なら可能なはず」という理解に留まる。

【weapon】
ベアリング
 パチンコ玉。アーチャークラスでの召喚時のメインウェポン。
 ただスタンドの指で弾くだけではあるが、高い命中率を誇る飛び道具。有効射程はおよそ20m。
 弾数はほぼ無限であり、一応魔力を消費して作成しているが消耗は無に等しい。

ライフル弾
 アーチャークラスでの召喚時の、とっておきの切り札。
 ベアリングよりも遥かに長い射程・高い命中精度・高い威力を誇るが、数に限りがあり乱発はできない。
 基本は4発。
 英霊の武器として魔力消費による再作成も不可能ではないが、過去の逸話に反することであり、消耗は激しい。


 もちろん素直に殴り合いをしても強い。
 むっちゃ強い。

【人物背景】
 ジョジョの奇妙な冒険第四部にて登場した、白い服の承太郎。海洋学者。
 歳を経て落ち着きと幅広い知識を手に入れた。その分、爆発力にはやや劣る部分がある。

 アーチャーのクラスでの召喚は、主に『ネズミ狩り』のエピソードを反映したもの。

 また同時に、英霊としての彼は『バイツァ・ダスト』で『爆殺された』時の霊魂が座に登録された存在。
 『バイツァ・ダスト』の『情報の抹殺』という特性から、彼は吉良吉影に関する記憶を根こそぎ喪失している。
 座からそれに関する情報にアクセスすることもできないが、そこに情報の欠損があることは認識している。

 さらに『スタープラチナ・ザ・ワールド』が使用不可能な現状について、DIOの存在や関与を疑っている。

【サーヴァントとしての願い】
 欠落している記憶、自らの死にまつわる状況を知りたい。
 ただしこの願いの優先順位は決して高くはなく、目の前の状況に対応することの方が大事。


【マスター】
サーヤ@グランブルーファンタジー

【能力・技能】
 独自の魔法的技術と推理力の組み合わせにより、いくつかの補助的効果を発揮できる。
『状況整理』
 じっくり思考し現状を把握することで、味方にかかっている弱体効果を1つ解除する。
『証拠発見』
 愛用の虫眼鏡を構えることで発動。
 対象の弱点を看破するとともに、何らかの手がかりを得る確率を上げる。
『真相解明』
 火属性の物理的ダメージを発生させ、精神的動揺とちょっとした隙を生じさせる。

 いずれも連続使用は難しく、またサーヴァントの場合は抵抗の余地が十分にある。
 しかし非サーヴァント相手であれば、実はそれなり以上に戦える能力を備えている。

【人物背景】
 名探偵バロワに付き従う、探偵助手。
 種族はドラフ族、性別は女性(頭から生えた2本の角と低身長、大きい胸が女性ドラフの種族的特徴)。
 推理力を欠き力技に走ることの多い迷探偵バロワを推理力と観察力で支える存在であり、本当の探偵役。
 しかし彼女は探偵バロワと怪盗シャノワールの関係性に惚れ込んでおり、あえて助手の立場に身を置いている。
 主人公(グラン/ジータ)の騎空団と行動を共にすることも多い。

【ロール】
 探偵助手。実質上、探偵そのもの。
 ほとんど隠居状態の老人探偵(オーナー)が半ば道楽で続けている探偵事務所に所属。
 たまに浮気調査や迷い猫探しの依頼が来る程度。ヒマな時間の方が多い生活。

 ちなみに、『サーヤ』という姓の無い名であることや、頭に生えた角については不思議とツッコミを受けない。
 角についてはアクセサリーの一種として認識されており、基本的にスルーされている。
 あまり目立つものでもなく、むしろ大きな胸の方が人々の記憶に残りやすいほど。
 聖杯戦争関係者(サーヴァントや、記憶を取り戻したマスター)ならば違和感を抱ける可能性がある。

【マスターとしての願い】
 元の世界に帰りたい。
 ただし、承太郎の過去や現在の状況に対する興味の方がやや強い。
最終更新:2018年06月05日 16:17