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「キャスターの嬢ちゃん。走れるか?もしくは走る気はあるか?」
「どうでしょー。なんだか地震みたいにゆらゆらしてる気が」
「よしわかった。何にもしなくていいから俺の背中に乗ってくれ」
ホル・ホースは玉藻が走る気がないと判断するや否や、彼女を背負うと決断。
玉藻も玉藻で、彼女自身が楽だと判断したのかなにも考えていないのか。珍しくホル・ホースの指示にまともに従い彼の背に身を預けた。
「ちょいと揺れるが勘弁してくれよ!」
言うが否や、彼は走り始める。
ズキズキと痛む手首や人一人ぶんの重量に堪えながらも彼は、全力で駆ける。
彼がなぜそこまでして走りたがるのか―――あのDIOに酷似したサーヴァントから一刻も早く離れるという意味合いもある。
だが、それ以上に彼が恐れているのは、『自分の拠点を特定される』ことである。
聖杯戦争はまだ始まったばかりだ。
これが制限時間が短く、もっと狭い範囲でならいざ知らず、期間はもっと長く、範囲は町ひとつぶんにも及ぶ。
果たして、いまの時点で脱落する主従がどれほどいるだろうか。
おそらくそうはいまい。目的地を定めているならまだしも、先ほどのように何組もが偶然出会うのがレアケースなだけで、本来ならばこの時間は本格的な準備段階のはず。
町を探る。マスターに目星をつけておく。身体を充分に休める。人によりけりだが、少なくとも『どのマスターがどこにいるか』はまだわからない者が多い。
もしも相手のマスターの見つけることができれば、戦いはかなり有利に運ぶことができる。
奇襲。脅迫。交友。なににおいても先手をうつことができる。
ホル・ホースが恐れたのはそれだ。
流石になんの手順や仕掛けもなしに自分の居場所が特定されることはないだろう。
だが、もしもDIOに酷似した彼が、『あのマスターはここにいるだろう』と片っ端から家宅捜索―――あるいは家屋破壊に勤しむような真似をすれば。
ホル・ホースが最も恐れる男同様、それほどの力があったとしたら。
せめて自分の痕跡は可能な限り消しておかなければならない。
吸殻一本、髪の毛一本ですらだ。
ホル・ホースはひた走る。一刻も早く己の部屋に戻るために。
路地裏。ここからは速度も緩み、自然と足音も抑えたものになる。
曲がり角。真っ直ぐ。曲がり角。曲がり角―――
タタタ
「―――!」
曲がり角の向こう側から向かってくる足音を耳で捉えた彼はピタリと止まる。
妙だ。こんな人気のない道はそうは通らないはずだが...
(まさか...いや、『奴』なら俺に気配を悟られるような真似はしねえ)
DIOにせよDIOのそっくりさんにせよ、彼らが自分にこうもあっさりと気づかれるような足音は鳴らさない。
いや、奴等でなくてもマスターであれば逃げ場の少ないこんな道は慎重に進むはず。
実際、自分にしても可能な限り急いではいたが、この路地裏に入ってからはなるべく気配を殺しつつ走っていた。
となれば、この足音の主はこの路地裏をさほど警戒する必要のない場所だと思っていることになるのでは?
(ただの通行人なら大人しく俺が道を譲ればいいだけだ。なんにも難しいことじゃねえ)
とはいえ、もしも万が一他のマスターである可能性も考慮し、密かに掌にスタンド『皇帝(エンペラー)』を発現させる。
彼のスタンド、皇帝は暗殺銃の像。こういった『相手が能力を知らない』場面でこそ真価を発揮する。
ホル・ホースは耳を澄ませて足音の主を待つ。
変に警戒心を抱かず。聖杯戦争に臨むマスターではなく、単に怪我をした妹を背負い帰路につく通りすがりの一般人と化し。
その掌の微かな殺意すらかき消すような平常心で歩みを進める。
そして主は姿を現す。
その可愛らしい制服。幼げで大人しめな風貌。靡く黒の清楚な三つ編み。頬を微かに染めて息を切らす様。
そんな、戦いとは無縁な少女の姿にホル・ホースはホッと胸を撫で下ろしかける。
が。
少女の顔が強張り、互いの視線が交差する。
瞬間。
ホル・ホースの背筋が凍てつき始める。
理由はわからない。だが、確かに覚えのあるこの怖気。
その正体を引きずり出す為、瞬時に脳細胞が駆け巡る。
「あー、DTBのお友達ですね~」
えっ、と少女が言葉を漏らすと同時、ホル・ホースの脳裏に黒い影が吹き出してくる。
影は瞬く間に顔すら見えぬ漆黒の人影を作り上げ、ぽっかりと空いた三日月の輪郭だけが影の口のように浮かび上がる。
そんなホル・ホースの脳内など知る由もなく、彼の背の少女はのんびりと告げる。
「確か刺すといいことが...まあいいや。死んどいてください。なんとなく」
同時に、影は嗤うように囁いた。
『本当に俺を撃とうとしているのか?』
カチリ、と全ての歯車がかみ合ったかのように冷や汗が噴出す。
ホル・ホースは咄嗟に壁際に背を押し付け玉藻の動きを制御した。
「ゆ、らぁっ!」
「れ、令呪を以って命じる!!いま、あの子を攻撃するんじゃねえええええ!!」
張り上げた声に従うように、玉藻はピタリと止まり攻撃体勢が解除された。
わけがわからないといった表情の少女だったが、彼らの一連に遅れて警戒の姿勢をとる。
(お、思い出した。この娘は
暁美ほむら!DIOの野郎と一緒に指名手配されてたマスターだ!!)
玉藻の言葉でようやく思い出せた。
この儚げな少女はなんの縁があってかあの怪物と組まされたマスター。
絶賛指名手配中にして超弩級のアンタッチャブルだ。主に相方のせいだが。
「ま、待ってくれ。いまのはちょっとした手違いってヤツだ。俺はなにもDIO様に逆らうわけじゃねえ!さっき他の主従に襲われたんで警戒心が抜けてなかっただけだ。
その証拠に貴重な令呪を使ってまで止めたんだ。まずは話を聞いてくれねえか!」
必死に言葉を捲くし立てるホル・ホースを見て、ほむらはキョトンと目を丸くする。
(こ、ここまで必死に弁解してんだ。せめて話を聞くのが人情ってやつだろぉ!?)
如何にDIOといえど、ここにいるのは英霊の一騎。
無論、彼がマスター、しかもこんな年端もいかない娘に主導権を渡しているとは思えないが、それでも関係としては主従。
せめてこの娘が少しの情けをかけDIOにひとこと物申してくれれば、あとは話術の勝負。この場から見逃してもらえる可能性も見出せる。
そんなホル・ホースを訝しげに見るほむらだが、程なく意を決して口を開いた。
「えと...詳しく話を聞かせてくれませんか?」
この時、ホル・ホースの頬が緩んでしまったのは言うまでもないことである。
☆
ホル・ホースは語った。
自分がDIOの配下であること。つい先ほど、この近辺で交戦してきたこと。ほむらとDIOが指名手配されていること。
「私たちが...なんで...?」
「俺にもわからねえ。確かなのは、ちょいと『公平さ』ってモンが欠けてることだけだ」
「......」
わざわざ自分にだけ不利な条件をつける。
その行為で誰が得をするのか―――思い当たるのは、魔法少女を産み出すキュゥべえくらいのもの。
あれは確かに信頼などできないヤツだ。
けれど、こんな聖杯戦争のように回りくどい方法で直接害する手段をとったことはない。
なにより、あれにとってこの行為がなんの利益をもたらすかもわからない。
(そうなると、キュゥべえが指名手配書を配った可能性はあまり考えられない...なら、セイヴァーの方に意味があるの?)
召還してしまった自分で言うのもなんだが、あのセイヴァーは間違いなく『悪』である。
何処かで恨みのひとつやふたつを買っていてもおかしくないし、それなら彼に不利になるよう仕向ける意味も解る。
けれど、それならセイヴァーの能力を完全に封じたり、宝具を使用不可能にしたりとやりようはいくらでもあるはずだ。
いくら聖杯戦争の主催とてそこまでは干渉できないとしてもだ。
セイヴァーに恨みを持つものであったとしても、いまの彼はあくまでも表層をなぞっただけの偶像に近いもの。
現に、彼自身が『俺』と『私』は別物である旨を伝えてきたし、ホル・ホースはセイヴァーの部下と名乗ったが、セイヴァーは顔写真まで特定した資料を見てもホル・ホースが部下であることには言及しなかった
そんな偶像的な者を斃したところで、果たして意味はあるのだろうか。
(...いまは、気にしても仕方ないかもしれない。重要なのは、これから先、私たちは誰からも『標的』にされるかもしれないということ...!)
指名手配にされてしまった以上、少なくとも自分たちにいい印象を持つ者はそうはいない。
仮に他の主従と組むことがあっても背中を預けることはできないと考えるべきだ。
「どこに行くかは知らねーが、向こう側には好戦的な奴等がいるから気をつけな」
「...わかりました。ありがとうございます」
「それと、ひとつ聞きてえんだが、いいかい?」
「なんですか?」
ほむらは早く行きたい衝動に駆られながらも、情報提供をしてもらった手前、無碍には扱えないと彼からの質問に応じることにした。
「さっき出くわした好戦的なサーヴァントなんだが、DIO様にそっくりなんだ。『同一人物ではなくてもかなり近しい』とかいえばいいのかわからねえが...
ともかくそいつに攻撃されてな。
どこからともなくナイフが現れて、気がつきゃこの通りザックリやられてた。なにか見当がつけば教えてもらいてえんだが...」
「気がつけば、やられてた...」
言葉にしてみて察する。
ホル・ホースの遭遇したサーヴァントの行使した能力はおそらく『時間の停止』。
時間が停止している中は、同じ能力の者でなければ認識が出来ず、そうでないものは止まっている間のことを認識することも抵抗することもできない。
ホル・ホースが、眼前で投擲されたはずのナイフを認識できなかったとすれば、やはり時間の停止による攻撃を受けたとみていいだろう。
「......」
彼に明かすべきだろうか。そのサーヴァントの能力、あるいは自分とセイヴァーの能力のタネを。
彼はDIOの部下であり、刺そうとしてきたサーヴァントも必死に止めてくれた。
ならば、彼は敵ではなく味方。そう判断できるだろう。
「あの...」
だが。
だからといって易々と信用していいものだろうか。
そもそも、彼は何のためにこんな深夜に出歩いていたのか。
情報収集。何のため?
可能性が高いのは、聖杯を狙うためだ。
聖杯を狙う以上、他の主従は突き詰めれば敵であり、一時の共闘はともかく全幅の信頼を置けるはずもない。
それはこちらだけでなく彼からしてもそうだろう。
いまは敵でなくともいずれは敵対するかもしれない。それを探るにはホル・ホースという男を知らなければならないが、いまはそんなことをしている場合ではない。
いま優先すべきはまどかの安否の確認だ。彼を見極めるのはその後でいい。
「ごめんなさい。わたしにもわからなくて...」
だから、いまはまだ教えない。
嘘をつくのはちょっぴり心苦しいけれど、全てを正直に話すような迂闊なことは出来ない。
もちろん、まわりまわってまどかに害を加えかねないことは絶対にだ。
「そうか。まあ、なんにせよ気をつけるこった。DIO様がついてるなら大概のことはどうとでもなるだろうがよォ」
「ホル・ホースさんも気をつけてください」
「おう。お互い頑張って生き残ろうや、ほむらの嬢ちゃん」
ペコリ、と丁寧に一礼をして去っていくほむら。
その背を見つめながら、ホル・ホースは思案する。
(DIOの野郎はいまはいなかったみてえだな)
実をいえば、ホル・ホースはほむらを撃つべきか悩んでいた。
自分には『女には暴力を振るわない』というひとつの信条がある。人種老若全てに分け隔てなくだ。
しかし、それはあくまでも自分の命がかかっていない上でのこと。
もしも自分の命がかかれば。あるいは殺されそうになれば、彼は躊躇わず引き金を引くことができる。
少なくとも、映画かなんかのように、女の為に身を投げてまで護ろうとするほどの信条ではないことは確かだ。
ならば撃ってしまえば全てから解放されるのでは―――その選択肢は取り下げた。
その理由はやはり彼女の背後のDIOの存在が大きい。
ホル・ホースはほむらとの会話中も警戒を怠らなかったが、DIOの影は微塵も感じなかった。
しかし、それが自分あるいはほむらを試しているのか、敢えて単独行動しているかがわからなかった為、DIOが本当にいまの状況に関与していないかの判断の根拠になりえなかった。
もしも引き金を引いたのを彼がどこかで見ていれば、自分は明確に彼に『敵』だと認識されてしまうだろう。
それだけは勘弁だ。奴と戦いになれば勝ち目などない。
(OKベイベー、種は仕込んであるんだ。いまは焦ることはねぇ)
いまのところ、彼女からの信頼は『敵ではないが信用もできない』程度のものだろう。
構わない。信頼が深ければそれに越したことはないが、いまは『自分はこの男にはいまのところ攻撃はされない』と認識させていればそれでいいのだ。
仮に自分がまともに戦えば、鼻で笑い一蹴されるだろう。それは天地がひっくり返っても覆らない事実。
しかし、ホル・ホースがDIOに対して有利な点がある。それは、自分がマスターであるのに対して彼はサーヴァントであるという点である。
マスターであるほむらが攻撃するなと命じれば、DIOもそれに従う他はない。
その隙をつき彼女を攻撃してしまえば、DIOに勝利をあげることも不可能ではない。
流石にあっさりと攻撃を許してしまうほど彼女もバカではないだろうが、そのための、先の『令呪使用』だ。
ホル・ホースは玉藻に『彼女にいま攻撃するな』と命じた。
その命どおりに、彼女はほむらへの攻撃を中止した。
しかし、その『いま』さえすぎてしまえば、玉藻もまたほむらへの攻撃は可能となる。
もしもほむらがこのことに気づかず、自分は玉藻には攻撃されないと認識していれば、玉藻からの奇襲は絶大な効果を発揮するだろう。
(とはいえ、仕込みは完全じゃねえ。ここらでほむらの嬢ちゃんからのポイントを稼ぐのもいいが、この怪我と拠点のこともある)
信頼が深ければ深いほど、ほむらへの仕込み―――云わば、DIOへの叛逆の種は実りやすくなる。
いま何処へと急いでいる彼女を手助けすれば、自然と信頼は芽生えていくだろう。
だが。
自分たちはいま怪我をしている。その治療を優先し、これからの聖杯戦争に臨むのも決して悪手じゃない。
なにより、ほむらに関わるのは自然とDIOに関わる機会を増やすことにもなる。
正直にいえば奴と会うのは嫌だ。味方だとしても絶対に嫌だ。
なんのリスクもなしで最後まで勝ち抜けるとは思わないが、状況によってリスクを回避するのも大切なことだ。
「キャスターの嬢ちゃんよ。オメーはどうしたい?」
くるりと顔を横に向け、背中の相棒を確認する。
が、彼女は鼻ちょうちんを出しながら居眠りしていた。きっと、ほむらとの会話に飽きて寝てしまったのだろう。それも最初の数分で。
サーヴァントは別に寝なくてもいいはずなのだが、きっと彼女にはそれすらどうでもいいくらい暇だったのだろう。
(まあ、聞いても無駄なのはわかってたけどよ)
ただ、第三者の意見が聞きたいという欲求は抑えられなかったのだから仕方ない。それが適わないのも仕方ない。
ガクリと肩を落としつつ、ホル・ホースはぽつりと呟いた。
「さて、どうするべきかねぇ...」
【C-2/月曜日 未明】
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]健康、魔法少女に変身中
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]見滝原中学校の制服
[道具]学生鞄、聖杯戦争に関する資料、警察署から盗んだ銃火器(盾に収納)
[所持金]一人くらし出来る仕送り
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得。まどかを守る。
1.まどかの家に向かう
2.学校には通学する
3.セイヴァーに似たマスターは一体…?
4.またセイヴァーのそっくりさん...あと何人いるんだろう
[備考]
※他のマスターに指名手配されていることを知りましたが、それによって貰える報酬までは教えられていません。
※セイヴァー(
DIO)の直感による資料には目を通してあります。
※ホル・ホースからDIOによく似たサーヴァントの情報を聞きました。
【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(中)手首負傷、DIOに対する恐怖(小)
[令呪]残り2画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]貧困
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得、DIOとは接触したくない
0.1の方針を優先するか、リスク承知でほむらを追って手助けをして種を仕込むか...女を傷つける手前、気は進まねえが
1.傷の治療をする。ある程度済ませたらいまの部屋を引き払い別の拠点を探す。
2.DIOと似たサーヴァントは何なんだ…?
[備考]
※玉藻を『キャスター』クラスだと誤認しています。
※弥子&アーチャー(魔理沙)の主従を確認しました。
※
アイルがマスターであること把握しました。
※アヴェンジャー(ディエゴ)を確認しました。
※ほむらからはあまり情報をもらえていません。少なくともまどかに関することは絶対に教えられていません。
【バーサーカー(
西条玉藻)@クビツリハイスクール】
[状態]肉体負傷(中)魔力消費(中)居眠り中
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯って……えーと、なんでしたっけ?
1.ズタズタにしますー……あたしがズタズタになってますー?
2.DHCでお得なキャンペーンが行われるらしいですよぉ、急ぎましょう
3.間違えました。DNA検査場でイベントがあるみたいです
4.DHAでしたっけ?
5.まあいいか。全部記号です。
[備考]
※ホル・ホースの影響でなんとなーく『DIO』に関する覚えが残っているようです。
※戦闘しましたが、あまり記憶は残ってません。(平常運転)
最終更新:2018年07月22日 22:51