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前項では求人が減って失業率が高まっていると書いた。その中でもとりわけ減っているのは正規雇用の求人で、小杉の言うように、アルバイトに代表される非正規雇用の求人はむしろ増えている(小杉編 2005: 201)。実際に非正規雇用で働く人は増えており、とりわけ若年者の中では非正規雇用の割合が高い[*9]。一般に正規雇用のほうが非正規雇用よりも収入が多く、社会保険なども含めるとその差は相当な額になる。雇用の安定性も正規雇用のほうが高く、技能訓練が受けられる可能性も高い。正規雇用から非正規雇用への移行がなぜ起こったのかは逆にこれらの特徴から説明できる。橘木も説明しているように、企業にとって非正規雇用は正規雇用と比べて、技能訓練などの育成にかかるコストや社会保険料を含む人件費を削減でき、人員調整が行いやすいのである(橘木 2004: 144-6)。また、本田由紀が指摘しているように、もともと非正規雇用の割合が多かった第三次産業の比率が高まるサービス経済化もその理由の一つである(本田由紀 2005: 45)。この正規雇用から非正規雇用への移行に伴って、内閣府が認め、熊沢誠が強調するように、正規雇用の労働条件が悪化している(内閣府 2003: 147; 熊沢 2006)。このことには労働組合の組織率の低下も影響しているだろう。また、橘木が「若者は、企業が人材育成コストを抑えるための犠牲になっている」と言うように(橘木 2004: 143-4)、非正規雇用のため職業訓練が受けられず、経験のなさを理由に非正規雇用から抜け出せない悪循環に陥ることもある。
 次に就職する時点に注目しよう。日本では1990年代までは学校経由の就職が一般的であった。そのシステムは、本田由紀の言うように、いくつかの要因が重なって歴史的に形成されてきた奇妙な慣行であったのかもしれないが(本田由紀 2005)、若者に職を保証するという役割を果たしてきた。ところが本田由紀に従えば、1990年代後半から新規学卒労働市場の自由化が進み、大卒では就職協定が廃止され、高卒では「一人一社制」の緩和が進行している(本田由紀 2005: 181)。インターネットの普及と相まって、大卒の文系では一人当たり数十社を受けるのが当たり前とされ、他方人気企業では膨大なエントリーを受けることになる。志望者にしても、多数の内定をもらえる人と一社からも内定をもらえない人とに分かれる傾向にあるそうである。小杉によると、高卒に関しては、地方部では真面目に高校に行っていても就職できないこともある(小杉編 2005: 103)。
 非正規雇用の増大という問題への対策を考えてみよう。非正規雇用そのものが問題なのではなく、非正規雇用における労働環境の悪さが問題なのである。企業に任せておくと劣悪な労働環境になるという点では新しい問題ではないかもしれない。歴史的には、それに対応するために、労働組合が運動をし、労働法が整備された。また、単純に労働が偏在していることに対しては、ワークシェアリング[*10]という考え方もある。学校経由の就職の衰退は、教育と関わっている。この学校経由の就職の衰退という問題の論者の多くは職業教育の充実を訴える。



[*9]
巻末資料の図3「雇用者に占める非正規雇用者割合の推移」、図4「年齢別非正規雇用者の割合」を参照。
[*10]
一人当たりの労働時間を短くすることで、雇用機会を増やすこと。オランダの事例が有名である。
最終更新:2007年05月02日 18:43