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ロップは赤い真珠亭の厨房を預かるいわゆる料理人ってやつで、長い寿命を持ってたいてい若く見えるエルフの中でも、ロップはきっとかなりの高齢なんだと思う。先に逝った爺さんよりロップは年上で、だけど爺さんがみるみる年老いていった数年で、ロップは全然変わらなかった。
俺がロップを知ったのは、狭い世界しかない子供の事、ごく当たり前のように「爺さんの友達」だからだった。ロップは爺さんの冒険者仲間で、何年も前に冒険者を辞めたんだと言っていた。辞めた理由は、詳しくは聞いていないけれど、彼が今でも少し足を引きずるように歩くことと同じ理由なんだろう。
ロップは俺にとって、2人目の師匠みたいなものだ。
爺さんとケンカして家出するたびに、俺は1時間てくてくと歩いてロップのところに逃げ込んだ。ロップのところに行けばひとまず飯にはありつけるし、タイミングがよければ料理だって教えてもらえた。
元仲間の拾い子が家出した、そんな自分には関係のない事にも親身になってくれるお人よしがロップだ。ロップはいやな顔ひとつしないで、一晩中話を聞いてくれて諭してくれたり同情してくれたり、一緒に愚痴をはいたり叱ったりしてくれた。翌日は少し仕事を手伝って、それから少しの手伝い賃で燻製肉のきれっぱしを買って帰るのが、いつもの家出の結末だった。
その頃もロップは真珠亭で仕事をしていたから、店主のベンが一度、こんなことを言った。印象的だったから、今でも覚えている。あの時ベンはカウンターの上の皿をトレイに乗せているロップと、その後を拭いている俺にこう言ったんだ。
「なあ坊主、ジョージじゃなくて、ロップの子になればいいんじゃないか」。
だけどロップは笑うだけだった。俺は5秒くらい考えてから、ロップの顔を見上げた。ロップはおどけた顔で俺を見下ろして、「俺は構わんぞ」なんて言った。それから俺はまた2秒考えて、首を振った。ベンは片眉を跳ね上げて、ロップはやっぱり笑い声を上げて、「そうか」って言いながら厨房に引っ込んでいった。だから俺はその背中に、「ならねえから」って言葉で付け足したんだ。
ロップはそんな俺の答えを知っていたからこそ、笑っていたんだと思う。
俺の師匠はジョージに他ならないし、家を飛び出したってそれは結末のある家出だ。俺は翌日に必ず、燻製肉のきれっぱしをぶら下げて森のあの家に帰る。それをわかっていたから、ロップも俺も安心して家出なんてしていた。ジョージだけはいつも渋い顔をして「街になぞ染まらんでいい」って言っていたけど、家出は一日だけで、俺が何をしていたかわかっていたから、帰ってたときの拳骨だけで済ませていたんだ。
ジョージは俺の師匠で、ロップはジョージの友人で、俺はロップの隣人。それは交わした師弟の誓約から導かれる結論で、絶対に揺るぎのない事実だけど、ジョージと俺の中でしか決まっていないことだ。
けど、ロップはそれを知っていた。どうしてなんかは知らない。
<中略>
俺はロップほど年を経ていて、それでいて町に住んでいるエルフを知らない。
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