殺し合いが始まってから始めての夜。
 暗闇に紛れて参加者を襲おうと考えている参加者も少なくは無いはずだ。

 故に、犠牲者が出るとすると夜に多く出る筈だと皇帝は思った。

「こいつは……思ってたよりも酷いな」

 トンネルから出て移動を再び開始した彼が目にしたのは黒焦げになった木々と誰かが此処にいたという事を証明する『足跡』だった。
 だが、周囲の木々の黒焦げ具合から判断して、

「此処で誰かが武器を使って、戦いがあったのか……」

 否。
 そこで彼は自分の考えを一旦否定した。

 これは戦いではなく、一方的な虐殺だ。
 周囲が焦げ痕のみの中、他の攻撃の痕跡が残っていないという事は恐らくそういうことなのだろう。

(誰がやられた……?)

 ここで問題になってくるのは誰が殺して、誰が殺されたかだ。
 だが目の前に転がる死体は黒焦げで、例え顔見知りでも誰なのか判らない状態だった。

 此処で殺された者の名前はトリガー・マークレイド。
 彼は襲撃者による放電を受け、そのまま死亡した。
 しかし最大の人物特定材料である顔が完全に焼かれているのもあり、

「くそっ! わかんねぇ……」

 だが一つだけ判った事がある。
 『ゲームの乗った参加者』の一人は火炎か電撃を使える、ということだ。

「殺傷力は多分高い方だな。そんな装備の奴が乗ったのか……」

 問題は誰が殺したのか、ということだがそれが判らない。
 此処まで派手に殺しを行っているのだ、
 何時までも同じ犯行現場にいるとは思わないほうがいいだろう。

「この辺りとは別の方に行ったと思っていいだろうな」

 今は支給品のグローブと己の肉体が頼りだ。
 出来れば何かしらの特殊能力を備えた殺人者と戦うのは避けて行きたい。

「だとすれば……そいつは何処に行った?」



 ○



 病院を出た翔也が目指す場所は北西にある山小屋近辺だ。
 小屋がある場所には必然的に誰かが目をつけているはず。
 もしかしたら殺し合いが起きている可能性が高い場所であるとも言えるのだが、

(同時に、一番人が集まりやすい場所でもある筈だ)

 特に地図の端っこに位置する場所にあるのなら、その近辺に飛ばされた者はソコに集う確率が高い。
 如月 和輝がこの近辺に飛ばされたとすれば此処を目指した方が手っ取り早いと判断した。

 実際に和輝はこの近辺に居るといえば居るのだが、今は川に流されてしまっているという参加初日にして一番不憫な目に合っている状況だった。
 しかし翔也はその場に居た訳ではないので当然ながら知る由はないのだが。

(問題があるとすれば)

 病院の屋上から見た光。
 あの閃光は没収される前に自分が使っていた手甲の力に違いないだろう。
 過去に何度も使ったのだ。
 見間違える訳はない。

(こっちの方角か。対峙する可能性は極めて高いな)

 一応、こちらは武器であるブレスレットの能力を把握している。
 幸いにも手甲と大体同じ扱いで能力を発動させることが出来たので、使い勝手がそんなに悪いという事は無い。
 しかし向こうはどうだろう。

(能力に手間取ってくれているなら今はチャンスだ。本来の武器を取り戻せるチャンスでもあるし、何よりも邪魔は減る)

 ゲーム時間が進んでいくのに比例して、参加者もランダムで配布された武器の使い方に気付いてくるはずだ。
 もしかすると本来の持ち主が思いもしなかった使用方法を用いてくるかもしれない。
 そう考えるとゲーム序盤に倒してしまった方が得だ。

 そういう考え方も出来る。

「――――!」

 だが、ソコまで考えたと同時。

 彼の目の前に閃光が走った。
 ばち、という鈍い弾け音。
 ソレと同時にその場に起こりうる現象の正体を翔也は知っている。

「噂をしていれば来たか!」

 あれは見間違うことも無く、自分の使っていた手甲だ。
 その能力は雷発生。
 人の皮膚に当てるだけで大ダメージを与えることが出来る凶悪な武器だ。

(相手は―――!)

 暗がりで周囲の細かな風景までは見ることが出来ない。
 だが、幸いにも自分の武器が発光しているが為に装着している人物の姿を目視することは出来た。

「お前は――――!」

 翔也はその人物の名を知っていた。
 直接の会話は無いが、噂はよく聞く。

「神鷹・カイト――――いや」

 神鷹・カイトとよく似た顔つき。
 だが決定的に違うことは彼よりも好戦的で、白髪を生やしているという事だろう。

「俺をソイツを一緒にするんじゃねぇ!」

 男の名前はゲイザー・ランブル。
 一見するとカイト瓜二つの容姿である彼は、カイトを殺す為に『ゲームに乗った』。
 他の参加者を狙う理由は武器のテスト。
 幸いにもこの手甲は強力な能力を有しているが、まだ『細かい使い道』が判らない。
 故に実際に使ってみて、感触をじっくりと味わいたかった。

 翔也も彼からすれば実験台だ。
 しかし翔也から彼を見た場合、手甲の使い方を理解してるくせに使い方が間違ってるという事からやや余裕が生まれていた。
 自分よりも感情のコントロールが下手糞すぎて、電撃を制御し切れていない。
 それ故に、この真夜中では迸る電撃は他の参加者達への目印でしかない。

(だが)

 感情的な動物同然のゲイザーだが、それでも厄介な事はある。
 感情の制御が下手なだけに、『力を制御していない』のだ。

(振り回されたら危険、か)

 しかし自分の今の装備品であるブレスレットだって似たようなものだろう。
 振り回せば風が巻き起こり、超常現象で相手を倒す。

「取り戻させてもらうぞ!」

 故に、翔也に迷いは無かった。
 彼はブレスレットを通じて風を精製し、それをゲイザー目掛けて投げつけるようにして放つが、

「!」

 ゲイザーもまた同時に、手甲を通じて電撃を翔也目掛けて放っていた。
 正確に言えば高い身体能力を活かして一気に突撃して、手に装着されている手甲で殴りかかってきていたのである。

(何時の間に!)

 それは正しく一瞬の出来事だった。
 距離にして大凡2,30mしかなかったとは言え、あまりにも突然すぎた。
 ダッシュで距離を詰めたにしては余りにも速過ぎる神速。
 それ故に、彼は防御本能に基づきブレスレットに命じる。

 距離を取れ、と。
 ゲイザーが走っても簡単には戻って来れないほどの距離を作れ、と。

「お――――!」

 それだけだった。
 結果的に風で彼を切り裂こうとも思えない程の突然の出来事。
 だがソレと同時に、ゲイザーを吹き飛ばすことには成功した。

「――――ハアッ! ハァッ!」

 ゲイザーの姿が風と共に消えたと同時、翔也はその場で倒れこんだ。
 初めてこの戦いの場で『ゲーム』を行ったが、

(危な、かった……!)

 判断が遅ければそのまま雷の顔面ストレートで決着がついていた。
 自分の黒焦げ死体が出来るという、悲惨な結果で。

(決して利口な使い方とは言えない。だが、感情の変化が起こりやすいあの男なら、あの速さと『電撃』があればそれで十分だ)

 簡単な使い方とは言え、立派な戦法だ。
 身体能力の特徴を活かしていると言ってもいい。

 きっと彼以外にも本格的にゲームに乗った参加者は居るはずだ。
 それらと戦いながら和輝を葬るとなると、効率が悪い。

(なら、もっと効率よくすればいい)

 その為にはもっと力の使い方を知る必要がある。
 生き延びる為に。

 そして如月 和輝をこの手で葬る為に。



 ○



(た、助けてくれええええええええええええええええ!!)

 如月 和輝は今もまだ川に流され続けていた。
 声を出して助けを求めたいところだったが、水が口の中に入ってくるために上手い具合に声が出せない。
 そして同時に、水がそんなに綺麗とは言えないが為に凄まじく気分が悪くなった。

(くそおおおおおおおおおおお! 脱出できて、尚且つ生き残ることが出来たら全国の川を綺麗にしましょうって運動をしてやる!)

 流され続けて早30分。
 如月 和輝は何もしないで病院付近へと移動を開始していた。

(納得いかねええええええええええええええええええええええええええ!!)








【北―トンネル付近の山/1日目/深夜】


【皇帝@理由のない日記】
[状態]:健康
[装備]:グローブ(まだ装備してない)(アカル@だれかや!)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:外の様子の確認
1、トリガーの死体を発見するが、誰か判らない
2、殺人犯の存在を認識する
3、他の参加者には見つからないように行動しようと考える
4、能力把握
5、剣龍帝との接触



【北―トンネルと病院の中間地点/1日目/深夜】


【ゲイザー@紫色の月光】
[状態]:吹き飛ばされた際に打撲
[装備]:手甲(翔也@キボゼツ)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:ゲームに乗り、手甲の力をテストしつつカイト抹殺
1、翔也と戦い、吹き飛ばされる
2、カイト最優先
3、参加者を見つけたら手甲のテスト名目で殺す
4、既にトリガーを殺害


【翔也@キボゼツ】
[状態]:健康
[装備]:ブレスレット(アージェント@IOS)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:和輝抹殺
1、ゲイザーと戦い、退ける
2、能力の更なる把握と応用を考え始める
3、和輝どこいったん?



【北西ー川/1日目/深夜】


【和輝@キボゼツ】
[状態]:溺れる
[装備]:ティアマット(皇帝@理由のない日記)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:川からの脱出
1、水が汚いから出来るだけ飲みたくない
2、誰か助けて(切望)
3、知り合いと合流したい(切望その2)


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年10月27日 23:26