ゲーム開始から2時間が経過した。
依然、最初の地点からあまり移動できていない神堂美咲であった。
原因は言うまでも無く支給武器に問題がある。
重い。その重さに振り回されるも、振り回すことは叶わず。
改造人間であるリメイカーならともかく、美咲には引きずって歩くことしかできなかった。
結果、のろのろとスタート地点から移動するしかなかったのである。
「和輝ぃ~、どこよ~」
一応ここが殺し合いの場であることは理解しているつもりだ。だから、大声で喚くような事はしない。
かといって、何もせずに和輝と入れ違いになるのは本末転倒だ。よって、大きな声は控えるというどっちつかずな態度をとっている。
「・・・すぐに駆けつけてきなさいっての」
うわ。
呟いた後に、頬が赤くなる。んな、ヒーローじゃないんだから、何期待してるのよ私は。
"あの時"のようなピンチに颯爽と駆けつける、なんていつも出来る芸当じゃないっての。
恥ずかしい事をボソッと言ってしまったせいで、自分自身で勝手に気まずくなる。
ぶんぶんっ、と頭を振って気持ちを切り替えた。いつもはポニーテールだった髪が、綺麗に靡(なび)く。
最初に会う人間が和輝である確率なんて低いに決まっている。もしかしたら殺し合いに乗った人間がいきなり襲い掛かってくるかもしれない。いや、むしろそちらの方が可能性としては高い。
彼女は何度か頬を叩き、今後の方針――即ち、遭遇した人間の対処方法の目途をつけながら移動をしようとした。
その場にならないと状況なんて分からないしね。と考えたその時。
「動くな、ホールドアップある」
「・・・ッ!?」
咄嗟に振り向く。
誰も居ない。先程考えた。問答無用で殺し合いに参加する人間も居るのだ、と。
つぅ、と汗が流れるのが分かる。姿が見えないのに、声がする。
「誰? 姿を現しなさいよ」
「ワタシの引き当てた能力は、"ステルス迷彩"ある。どんなに探しても無駄あるよ。そういう、能力ある」
(・・・ッ! 確かに、そういう能力があってもおかしくは無いわ。"時を止める能力"なんてのも、実際にあるわけだし)
「1つ質問したいある」
「何よ」
「小娘は殺し合いに乗っているあるか?」
「乗ってないわ」
即答した。"小娘"と言われて内心ムッっとしたが、表情に出さないようにした。
続けて回答を告げる。
「とは言っても、自衛ぐらいはするわよ。タダで殺されるのはゴメンだし」
「和輝、ってヤツにも会いたいオトシゴロあるか」
「えっ、なっ!!」(き、聞かれてた!?)
「・・・その様子じゃ、本当に乗ってないみたいあるね。試して悪かったある、姿を見せるあるよ」
慌てふためく美咲を他所に、姿を現したのは小さな灰色の機械鳥だった。
◆ ◆ ◆
「で、殺し合いに乗ってるかどうかを試したくて色々ウソついたわけね」
「その通りネ。ステルス迷彩ってのも嘘あるよ。ま、こんな小さい参加者だったらステルスなんて能力不要あるけどね」
「・・・ふうん。じゃあ貴方・・・えーと、トイ・ボックスだっけ?」
「トーイでいいある」
「じゃあ、トーイ。私はトーイが殺し合いに乗っていないってどういう風に判断すればいいの? 査定方法が一方的だと思うんだけれど」
「最初の会場での出来事覚えてるあるか?」
「・・・ええ、勿論」
あの凄惨な出来事。1人の女の子が殺された。
思い出しただけでも、ココが殺し合いの場だと認識させられる、主催者のデモンストレーションだ。
「あの殺された娘・・・リレッドという娘とワタシはパートナーだったある」
「あ・・・」
その一言だけで、理解した。トーイというこの握りこぶし1つ程度の大きさの身体に込められた信念を。
主催者に決して屈する事は無い。反逆の意思を。リレッドという少女を殺した主催者を、絶対に許さないという不屈の意思を。
「――ごめんなさい、嫌な事思い出させちゃって」
「気にする事無いある。これから仲間になってもらうお譲ちゃんには色々話しておきたい事も山積みネ」
「・・・さっきから小娘だとか、お譲ちゃんだとか言ってるけど、私にはちゃんと神堂美咲っていう名前があるわ。名前で呼んで頂戴」
「で、和輝とやらのコレあるね」
トーイは器用に翼を挙げ、人間で言う小指をひょいと立てる。
即刻トーイは美咲によってギリギリと握りつぶされた。ぐぇ、とカエルの鳴き声のような悲鳴を上げたトーイを尻目に、美咲は溜息をついた。
「じゃあ美咲。お互いの知っている情報を交換するところから始めるあるかね」
「こんなところで話し込んでで大丈夫なの?」
「美咲に声をかける前に上空を旋回した限りではここらへん一帯には人影は無かったある。死体が1体あったのを除けば、あるけどね」
「し、死体!?」
驚く。ナワノツメをベンチ代わりにしていたのだが、思わず腰が浮く。
まだ2時間と少ししか経っていないのに? もう殺し合いが始まっている?
「多少ワタシが慎重になったのも理解してくれるあるね?」
「え、ええ。ちなみに、その死体っていうのは・・・?」
「金髪の女の子だったある。年は・・・8ぐらいあるかね。あんま発育よくなかったみたいある」
セクハラ発言はさておき、美咲の知り合いでは無さそうな事にほっと胸を撫で下ろす。
ナワノツメにもう一度腰掛けて、トーイと向き合うことにした。
「じゃ、早速始めるある。まずは知ってる人間で、信頼出来る人間と、逆に信頼出来ない・・・つまりは殺し合いに乗りそうな人間を教えて欲しいある」
例えば"和輝"のような、とニヒルな笑みを浮かべて付け足すトーイは、また握りつぶされた。
美咲は、トーイが機械なのにそんな表情が器用に出来るのか不思議でならなかったが、今はおいておくことにした。
「そうね。まずは如月和輝。赤い髪の毛のツンツン頭よ。彼は絶対信頼は出来る。何かしら、突破口を開いてくれるような気がするわ。能力は――そうね。簡単に言うと炎の剣なんだけれど・・・今回はきっと没収されてるわね。
あとは・・・、霜月翔也。危険人物、というよりも単純に戦闘を楽しんでいそう。銀色の髪で目つきがギラギラしてるから見れば分かると思うわ。協力は・・・どうだろう、あまり、期待出来ないと思う。
続いて、シュヴァルツ。茶髪の女の子。殺し合いには乗らないと思うし、なにより和輝を慕ってるから暴走もしないハズよ。あとは――――」
ここまで一気に喋っていた美咲だったが、トーイに一度ストップをかけられる。
「言い忘れてたあるけど、誰かを慕っているっていう事は、ソイツが殺されたら殺し合いに乗る可能性が出てくるって事あるよ」
「え・・・・なんでよ」
「忘れたあるか。優勝商品ある」
「ああ、成る程。なんでも願いを聞くって言ってたわね。それを使って死人を生き返らせるってコトね」
「そうある。つまり、死者蘇生の権利を奪い合うため、本来は正義っぽい考え方の人間が、殺し合いに乗って潰しあうっていう可能性だってあるわけネ」
「・・・もしかすると、シュヴァルツとかも危ないって事が言いたいワケ?」
(オマエも含め、あるよ、美咲。和輝が殺されたら、間違いなくこの小娘は、乗る。そんな気がするネ)
「?」
トーイはその一言を言う事が出来ない。
流石に、それは、信頼関係が崩れる。まだ、培ってすらいないのに。
口をにごらせたトーイだったが、続けてこちらの情報を提示する。
「いや、ワタシの身内に1人危ないのがいるって言いたかっただけある」
「あ・・・」
美咲は思い出す。先程言っていた、リレッドという子が既に殺されていた。
ということは、トーイの知り合いは、リレッドとも知り合いで―――。
「アカルというチャイナ服を着た金髪の幼女がいるネ。普段はいいヤツあるけど―――もしかしたら殺し合いに乗ってる可能性も否めないある」
「そっ・・・か」
若干重苦しい空気になった。
2人が黙ると、深夜の森の木々がざわめく様が良く分かる。暗闇と相まって、一層回りが不気味に感じられる。
たしかに大事な人が、居なくなって、心が引き裂かれそうになるのは良く分かる。
そこで、救いの手を差し伸べる、甘い誘惑。即ち、"優勝による死者蘇生"。なんという狡猾な手口だろうか。自然と怒りが沸いて来る。
助けるために、殺し合いに乗る。なんて――皮肉。
20分以上かけて、トーイと美咲は一通り情報交換をした。
お互いの知りうる人物は、情報を共有したといってもいい。
「で、美咲はどうするつもりあるか」
「どうする・・・って、和輝達と合流して主催者をぶっ潰すのよ!」
「そうあるね。信頼出来る仲間を集めて、主催者に反逆するっていうのはワタシも賛成ある。問題はそのための道のりあるね」
「道のり?」
「1つ、首輪の無効化。2つ、主催者の場所の特定。3つ、戦力の補充。4つ、テレポートの正体解明。こんなもんあるね」
「お、多いわね」
「首輪に関しては言うまでも無いある。ボタン1つでこっちの命を自由に出来る事はリレッドが証明済みあるね。解除は最優先事項ある。
続いて場所ある。敵がどこにいるのか分からなければ攻め込みようが無いある。まあ逃げるだけなら首輪を外してトンズラできない事も無いかもあるけど・・・
3つ目。主催者に対する戦力というのもあるけれど、コレ幸いとばかりにゲームに乗ってる人間は絶対にいるネ。その差し引きが重要ある。
最後にワタシ達を拉致した方法あるね。敵の根城に乗り込んだはいいものの、また強制テレポートみたいな事されたら勝ち目は無いある」
「じゃあ首輪を外して逃げられたとしても、またつかまっちゃうかもしれないわね」
「そういうコトある。大体ココがどこだかも分からないあるから、どこへ逃げればいいかも分からないってのが現状あるけどね」
「・・・頭いいわねトーイ」
「伊達に超高性能なCPU積んでないあるよ」
「ふうん」
「後は、主催者の目的あるね。コレによって打つ手が変わってくるネ。ま、それはおいおい話すとして、取らぬ狸の皮算用しても仕方ないあるね」
「確かにそうよね。こうしてる間にも、人殺しゲームは着々と進んでいるわけだし」
「ゲームに乗ってるとは言っても、殺しをするために乗る、優勝権利を得るために乗る、自衛のために乗る、と様々に分岐するある」
「・・・あー、頭痛くなってきた」
「まあ、なるようになるネ。とりあえず行動する他は無いある」
「そうね。じゃあ、行きますか、トーイ!」
「了解ある、よろしくあるよ新パートナー!」
心新たに、対主催者の熱い意思が生まれた。
ここに1羽の鳥と大荷物を抱えた少女という奇妙なチームが発足したのだ。
果たして彼らはこのゲームにどんな転機を齎すのだろうか。
勿論、ナワノツメを引きずっての移動で出鼻がくじかれ、2人のテンションが急激に下がったのは言うまでも無い。
【南東 山中/1日目/深夜】
『幸せの灰色の鳥ペア』
【神堂 美咲@希望と絶望の協奏曲】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ナワノツメ@吼えろ走馬堂(リメイカー)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:仲間を集めてゲームを破壊、あるいは脱出する
1:この重いのをなんとかしたい
2:和輝との接触
3:トーイと共に他の参加者と接触する
4:危害が加わるようならば対抗して戦う意思あり
(備考)
トーイと情報共有をしました
【トーイ@誰かの館】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:無し(地図と名簿はHDに書き込んであります)
[思考・状況]
基本:仲間を集めてゲームを破壊、あるいは脱出する
1:美咲と共に安全そうな参加者に接触
2:首輪の解除をする
3:ケーブルを奪還。無ければ代用品を探す
4:エリア中心部へ向かう
5:アカルに対して警戒しながらも接触したい
6:リースという名に対して警戒
(備考)
美咲と情報共有をしました
最終更新:2009年12月11日 00:30