ゲーム開始から3時間。
 各所で脱落者が続出する中、カイトは思う。

 爆弾解除の道は思っていたよりも厳しい、と。

(なんてこった……)

 爆弾解除の実験を行うため、首輪がついたエリシャを生きたまま捕まえた。
 だが、眠ったままの彼女の首輪に自分が支給されたケーブルを接続してみた結果、

(何にも見えん)

 それが問題だった。
 明確な何かが見えればまだ対処法が思い浮かぶかもしれない。
 だが、彼が首輪経由で見た光景は漆黒の闇。

 夜よりも深い、暗黒の闇だった。

(ケーブルを繋げるだけじゃ駄目みたいだな)

 もしかしたら首輪に繋がれている人物の状態にも関わるのかもしれないが、それは置いておく。
 問題は此処からだ。

 頼みの綱のケーブルが爆弾解除の直接の鍵にならないというのなら自分で調べるしかない。
 だが、その具体的なプランは無い。

 それならば、

(作ればいい、か)

 ちらり、とエリシャに目を向ける。
 彼女は確か殺し合いに『乗っている』側だったか。
 目を見た感じ、この状況を楽しんでいるようだ。
 そういう『目』は何度も見た頃があるし、自分もそうだった時期があるから理解は出来る。
 だがもしも『楽しめなくなる要素』を彼女に突きつけたとしたら?

(さて、何処まで行けるかな……?)




 ○




「ううん、あねうえぇ……それ私のぉ……」

 頭突きの傷跡から未だに血がだくだくと流れている状態の中、エリシャはすっかり夢の中に浸かっていた。
 正直なところ、頭ぶつけすぎたかと少し反省する。

(まあ、いいや。俺も痛かったし)

 しかし直ぐに撤回した。
 恨み言は何時までも引きずっておくに限る。
 そう簡単に忘れたら『何をされるか』堪った物じゃない。

「ひどいよあねうえ……にくだんごたのしみだったのにぃ……」

 どうやら彼女の『あねうえ』というのは相当なジャイアニズムの持ち主らしい。
 夢の中に出張ってまで何やってんだ。

 だがその『あねうえ』にはご退場願おう。
 時間が惜しい以前にさっさと済ませたいからだ。


 それ故にカイトはエリシャに向けてぶっ掛ける。


 水が入っているバケツを、だ。



「ぶぷぅっ!?」



 外見の幼さ=身体の小ささに比例する為、顔だけではなく全身びしょ濡れになるエリシャ。
 結構冷たい水なので、目が覚めるところが頭突きの傷にジンジンと響いてくる。

「う、あ――――?」

 強制的に夢の中から引きずり下ろされただけあって、彼女の思考は完全にクリアになっていない。
 元からクリアでは無かった気がするが、この際どっちでもいい。

「よ」

 それだけ言うと、カイトはバケツをその辺に置いてエリシャと向き合う。
 彼女の支給武器になった大鎌は自分の後ろに置いてある。
 だから今のエリシャは完全に丸腰の状態だ。
 しかし彼女の怪力をカイトは身をもって味わっている。

 だから身体中を縄できつく縛っている。
 傍から見れば完全に変質者だが、状況が状況なので気にはしない。
 陰口言う奴がいれば肉体言語で語り合えばいい。

「…………?」

 エリシャは一回首を傾げると、軽く周囲を見渡す。
 数秒した後、カイトと後ろにあるクロアを視界に入れるが、

「あねうえとにくだんごは?」

「夢です。現実に戻りましょうね」

 もう一回バケツで水汲んできたほうがいいかな、と真剣に考える。

 だがその必要は無かった。
 カイトの声を聞き終えたと同時、彼女の目は一瞬にして覚醒。

 すぐさま彼に飛びつこうとするが、

「うあああ!?」

 全身を縄できつく縛られて、上手く飛びつくことが出来ない。
 だから彼女がカイトに向けたのは『威嚇行動』。

「ふーっ……! ふーっ……!」

「獣かテメーか」

 純粋に感想を言うならそんな所だった。
 しかし実際はそれ以外にもある。

(なんで死んでないんだろ……?)

 確かこの男は何度も自分に頭突きをかまして来た筈だ。
 今も頭に傷跡がある。
 故にその事実に間違いは無い。

「まあ、色々と思うことがあるだろうが単刀直入に言うぞ」

 しかし混乱する頭に対し、目の前の男はあくまで冷静に言い放つ。

「コイツ、邪魔だと思うか?」

 自分の首にはめられている銀の首輪をつついてみせる。
 このゲームに参加を余儀なくされた者ならば誰だって判る代物だ。

「…………いちおーは」

「ん」

 一種の不快感を得ているのは確認できた。
 しかし彼女にとって首輪は『大きな』足枷にはなっていない。

(当然か。ルールに乗って殺せば何も問題ないんだから)

 そうやって殺していって、最終的には首輪を外してもらえばいい。
 何でも願いを叶えてくれるんならこれほど簡単な願いも無いだろう。
 設置した側から見れば尚更だ。

 しかし、

「これ、自分で解除したいとは思わんか?」

「…………」

 カイトの提案を聞いたエリシャは黙って彼を睨む。
 外見のまんまで中身もかなり幼い方だと思うが、言葉の意味は大体判っているのだろう。

「……わたし、別にきょうりょくしたくない」

「まあ、言うだろうとは思った」

 寧ろ、簡単に納得されたらリアクションに困っていたところだ。
 何といっても向こうはこちらに協力するメリットが何一つ無い。
 こちらにはいざという時の『カード』の補充と言うメリットはあるが、一方のメリットの押し付けは交渉としてはナンセンスすぎる。

 だから彼はエリシャにそっと囁いた。

 『疑念』と言う名の種を、だ。





「俺の支給品を見せてやる」

 そう言ってカイトはケーブルをエリシャの目の前に突き出した。
 長さは大凡1,2m。
 どう見ても鞭としては使えなさそうである。

「お前の鎌とは違って、俺は自前の腕っ節で何とかするしかない。だが幸いにも機械関連には強くなれるが……残念な事に首輪の解除は不可能だった」

「むー……意味無い」

 全くその通りだ。
 だから別のルートから解除方法を考えないといけない。

「簡単に首輪の解除方法を挙げていこう。
1つ、ゲームに勝って首輪を外してもらう。恐らく『乗ってる』奴はお前も含めてそう考えてるはずだ。
2つ、主催者側から止める。外からが駄目なら内側からってのは昔から変わらんな。
3つ、首輪そのものを『爆発しないように』破壊する。最も、センライとか言う奴曰く、首輪に下手な衝撃を与えると爆発するそうだからあまり有効な策とは言えないだろうが、そういう『破壊』に特化した奴がいれば可能かもしれない。
4つ――――」

「うぅ……あねうえ、この人話長いよぉ」

「はい、あねうえ此処にいないから。もうちっと我慢して聞きなさい。この4つ目が一番重要なポイントだ」

 仕方が無いな、と言った感じでエリシャが再びカイトを見る。
 どうせ今の自分は武器も没収されていて、ぐるぐる巻きになっていて退屈なのだ。
 話程度なら聞いてもいいかもしれない。

 そう言った目だった。

「4つ……そもそも首輪の役目は本当に爆弾なのか?」

「え――――?」

 だが、4つめの『考え』はエリシャの興味を引くのに十分な威力を持っていた。

「お前が寝ている間に色々と調べさせてもらったが、首輪は取れない仕組みになっている。首に密着した状態で爆発されたらそれはひとたまりも無いだろうな」

 現にそれで死んだ者もいる。
 最初の脱落者、リレッド。

 彼女は爆弾によって『見せしめにされた』。

「しかしゲーム参加者の名簿をざっ、と見たが何人かは再生能力持ちだ。今回は能力が没収されているとのことだが、武器に付加するなら再生能力持ちは必ず居るだろう」

 では爆弾で再生能力を持った彼等を殺すことが出来るのか?
 それが疑念その1。

「んでもって……お前、リレッドとか言う奴が死んだ時の事を覚えてるか?」

「……うん」

 彼女は爆弾によって首から上が文字通り『無くなった』。
 それは明確に爆弾がお前達を殺すぞ、と言う主催者側のメッセージが込められているのだとは思うが、

「実を言うと俺は彼女に近い位置にいてな。――――あの現場を近くから見ていた奴の一人だ」

 だから彼女の首が吹っ飛ぶ姿も殆ど認識することが出来た。
 問題はソコに至るまでの過程だ。

「吹っ飛んだのは間違いない。だが首輪が光った瞬間、俺にはな」


 リレッドの頭が膨らんだように見えたんだ。


 詰まり、首輪はあくまでカムフラージュで

「本当の爆弾は俺達の頭の中にあるんじゃないかって可能性だ」

 それが疑念その2。
 結局のところ結論としては爆弾が仕掛けられているのは変わらないのだが、大分意味が違ってくる。

 自分の身体の中に不純物が含まれている。
 そう意識した瞬間、殆どの人間がパニックに陥ってゲームどころではないだろう。

「ただ、この疑念には疑問点が挙がる」

 例えばトーイやメシアのように純粋に人間として違う『機械』に属する者はいいとして、人間の頭に爆弾を仕掛けるとなるとどうしても『痕』が残る。
 頭の中に爆弾を入れる際にはどうしても爆弾を入れるだけの『穴』を作らないといけないからだ。

 しかし、そんな痕跡はエリシャにも見られなければ自分にも見られなかった。

 それに頭の中に爆弾を入れるとしてどこにそんなスペースがある?
 下手に頭の中身を削ろうものなら人間としての機能は一気に失われる。
 それではゲームを行うどころかまともに動かないのではないだろうか?

「まあ、こんな感じだ。いずれにせよこのケーブルに頼らないで首輪を解除したいが、協力して欲しいって話だな」

 延々と続いていた話がようやく終わったと思った瞬間、エリシャに問いかけが来た。
 今自分に迫られている回答は二つ。

 YESかNOか。

「…………ううぅ、気分が悪い」

「まあ、頭の中に爆弾があるんじゃないかって思うと普通そうなる」

 だがあくまで今の時点では疑念だ。
 リレッドの頭が膨らんだように見えたのは目の錯覚だったのかもしれないし、首輪の仕組みが『そうなってる』という可能性だってある。

「いずれにせよ、爆弾を解除することが出来れば後は主催者側を何とかして逃げればいい。それまで協力が要る。どんな形でも、だ」

「ううぅ……」

 確かに自分では気味が悪くなってきたこの『爆弾』の存在をどうにかできる自信はない。
 解除してもらうのも未だに選択肢の一つではあるが、幾つ物『疑念』がエリシャの中で浮かんでは消えていく。

「爆弾、解除できるの?」

「出来るかは判らん。だが、多分だが俺が一番やりやすい位置にいるとは思う」

 ケーブルをちらり、とちらつかせて見せる。
 機械の解析を行うことが出来る電子機器のスペシャリスト。
 首輪解析の直接の役には立たなかったが、電子機器系統をほぼ把握できるのは爆弾解除と言う点では強みだ。
 間接的に解除するのなら大きな武器になりうる。

「一つ言い忘れていたことがある」

「?」

 答えを出そうか迷っている時、カイトの口から再び言葉を聞く。
 一体この男は自分に何分間話を続ける気なのだろうか。

「お前の基本スタイルは変える必要は無い」

 その言葉を聞いた瞬間。

 エリシャの思考回路が急速に回転をし始めた。

(え? だからそれはつまり――――?)

「必要があれば殺すのは自由だ。ただし俺の指示には従ってもらう」

 詰まり『殺してはいけない』っていう変にモラルを語るつもりは一切無い訳で。
 だから自由を制限されたとしても一番の楽しみは実行できる訳で――――

「は、はは――――」

 なんだ。
 それなら何も迷う必要が無いじゃないか。

「話が判る人って、いいよね」

 にへら、と笑いつつもエリシャは呟く。

「気が合うな。俺も話が判る奴は良いと思う」





 こうしてゲームの舞台の上に殺人をよしとするチームが生まれた。
 主催者側からすれば彼等の存在は殆ど想定外だっただろう。

 しかし彼等が行く道は修羅の道。

 ただ目の前の障害を破壊し、切り裂き、叩き潰す。
 その矛先が会場全体から少しだけ変わっただけのこと。

 しかしあくまで殺人も良しとするその考え方は、他の参加者から見れば脅威の一つなのは違いない。






【中央 映画館付近の住宅街 一軒家/1日目/深夜】


【エリシャ@T.C UnionRiver】
[状態]:頭部にダメージ。びしょぬれ
[装備]:クロア@リース(NOVELS ROOM)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:カイトに協力。爆弾解除のために協力するが、必要あらば『楽しみは』続ける
1、自分の武器を見つけたらそっちに乗り換える
2、『爆弾』に危機感と寒気を覚える
3、出来ればカイトやカティとリベンジしたい
4、殺人許容範囲と聞いてノリノリ




【神鷹・カイト@紫色の月光】
[状態]:頭部にダメージ&右腕にやや不具合
[装備]:ケーブル@トーイ(だれかや!)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:ゲームからの脱出を図る。エリシャと協力
1、首輪の解除をしたい
2、ケーブル以外での首輪の解析をしたい
3、爆弾に関して幾つか考察
4、目的達成の為なら殺人実行も躊躇わない



補足:トーイのケーブルを繋げただけでは首輪の解析は不可能。
また、爆弾について幾つか考察を出してますがその中のどれか一つが正解と言う訳ではないのでその辺は皆さんの想像に任せたいと思ってます。



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最終更新:2009年11月24日 18:10