「どこの弓兵と修行バカの彼女だ!」

先ほど顎を殴りつけた男――ガレッドの周りに浮いているナイフを見た皇帝の一言はこれだった。
因みに後者は言うまでもなく和輝の恋人である美咲だ。
などと言っているうちに皇帝の声に反応したのかナイフが一斉に動き出し、皇帝へと弾丸の如く向かっていった。

「うぇッ!?」

一瞬の恐怖に駆られながら皇帝は近くの大木に身を隠した。
そしてナイフはその横を素通りし、地面に落ちた。
金属音が大量に鳴り、最後の一本が落ちたのを聞いた皇帝は顔だけ大木の陰から少し出す。

「マジかよ……」

皇帝が見た光景は、ガレッドの周囲にナイフがまだあった光景。
あれだけ大量に向かって来たにも拘らず次の弾丸(ナイフ)が用意されているのだ。
今飛び出せばまた同じようなパターンになるだろう。

(迂闊には飛び出せねぇよな……)

大量のナイフを掻い潜って接近するのに少し骨が折れる。
かといってこのままの状態だとガレッドの意識が回復してしまう。

(逃げるって選択肢があるけど……)

つい先ほど刺さった左腕を見る。
一応力は入るが、若干痛みがするだけ。何も問題はない。
それだけなら良い、しかし彼にはどうしても我慢できないことがある。

(一発ぶっ飛ばさねぇと気がすまねぇよなぁ……!)

やられっぱなしはムカつく、ちょっとキレた、一発ぶん殴ろう。
皇帝は逃走を捨て、闘争を選んだ。

     ◆     ◆     ◆

(何だよあいつは……!)

突然殴り掛かって来た男――皇帝に対してガレッドは明確な怒りを持っていた。
こいつも殺し合いに乗っているのか、そう考えられる。

(なんで俺を殺そうとするんだよ!)

自分は人を殺したくないのに、ただ人を探しているだけなのに……。
ガレッドの精神は限界までに達していた。 
『殺したくない、けど殺されたくない――殺されたくない、なら殺すしかない』2つの矛盾の板挟み。
どこにいるのか分からないリーダー――カイトの行方。
親友であるトリガーの死。
様々な思考が入り混じり、ガレッドは情緒不安定に陥り、遂に彼は考えるのを止めた。

(もう、どうでもいいや……)

瞬間、ガレッドの思考がクリアになる。
そして徐々に殴られて飛んだ意識が回復し、後から皇帝に対する怒りが再燃する。
同時に宙に浮かぶナイフの数が増えていく。

「お前のせいだ、お前のせいで俺は人を殺したいと思っちまったじゃんかよぉ……」

ゆったりとした動作で立ち上がり、皇帝が隠れている大木に視線を向ける。
それから一呼吸してガレッドは吼えた。

「お前を殺したいと思っちまったじゃねぇかぁッ!!」

     ◆     ◆     ◆

ガレッドの発言を聞いた皇帝は殴りかかったことを少し後悔した。
が、今更後悔しても遅い。向こうが殺す気になった以上、こちらも迎え撃たねばならない。
ただし、殺しはしない少し眠ってもらうだけ。
使用するのは己の肉体、支給された能力付きグローブを装備し情報を得たが、皇帝の頭では理解できないことがあった。
分子構造? 並行処理? 精度? 射程? そんなことは分らん、理数系は専門外だ。
だから考える前に行動する――覚悟を決めた皇帝は大木から飛び出して一直線にガレッドへ疾走する。

「げぇ!?」

目の前にさっきよりもナイフの数が多いことに皇帝は驚愕する。
しかし、やることは変わらない。
マシンガンの如く向かってくる無量大数のナイフ。
皇帝は直撃するタイミングを見計らって地面に倒れこんだ。
否、倒れこんだのではなく、体勢を低くし、脚に目一杯力を入れ、低空に跳んだのだ。
同時に数十本のナイフが背中をかすめるが、構わず進んで右腕を伸ばして、地面に手を着き、それを軸にして勢いよく自分の左脚でガレッドの足を払った。

「うわっ!?」

遠心力が掛かった足払いにガレッドはバランスを崩し、地面に倒れこむ。
その隙に皇帝は立ち上がり、倒れたガレッドの胸倉をつかみ、自分のところまで引き寄せる。
そして一言、

「殴って悪かったな、じゃ、お休み」

ガレッドの右側頭部に手刀を当てて気絶させた。
操っていた本人が気絶したのと認識したのか、大量にあったナイフも消えた。
それから彼を偶然見つけた大木の穴に入らせ、適当に集めた岩で穴を塞いだ。
少し押せば崩れて出られるように調整をし、皇帝はこの場から去った。

     ◆     ◆     ◆

皇帝がいたトンネルから遠く離れ、映画館の近くにあるビル。
その建物内の一室にパソコンを起動させてインターネットを見る者が1人。
因みに部屋の電気は点けていない、他の参加者(特に殺し合いに乗る者)に自分の存在を知らせないためだ。

「ふーん、この世界にもwindows7があるとはな」

バラバラに切り揃えた水色の髪にピンク色の瞳、顔には眼鏡を掛けた女――皇妃が感心した声を上げる。
皇妃――皇帝が女となった姿。しかし、彼女は本人であって本人ではない。
性格が彼とは違うのだ。多少短気な皇帝に対し、皇妃は全く短気ではない、この違いだ。

「『死霊戦争』で消滅したのかと思ったら殺し合いが許される世界で殺し合いか……、そしてまさかお前がいるとは思わなかったよ」

インターネットの検索サイトにこの世界に関する情報を調べながら、皇妃は自分の背後にいる人物に声を掛けた。
彼女の背後にいる人物は何の反応もせず、ただじっと突っ立っているだけ。
尤も、本人は周囲の警戒をしているのだが、皇妃はそれに気にせず会話を続ける。

「なぁ――レイ・アスカ」
「…………」

名前を呼ばれた男――レイ・アスカ。
灰楼ロワイヤルに参加している和輝、美咲、シュヴァルツ、死亡したレミエルがいた世界で共に暮らし、己の身に潜む『世界を滅ぼす竜』と共に消滅した男がここにいた。


【北 トンネル付近森/1日目/深夜】

【ガレッド・バスタード@紫色の月光】
[状態]:気絶
[装備]:美咲のリボン
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本・カイトを探し、合流すること。
1:しまっちゃおうおじさんという名の皇帝によって大木の穴にしまわれる。

【皇帝@理由の無い日記】
[状態]:左腕・背中負傷
[装備]:緑色のグローブ@誰かの館(瀬戸アカル)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
(基本):市街地へ
1:ガレッドの撃退、大木の穴にガレッドをしまう。
2:能力把握。
3:出来れば剣龍帝と接触する。


【南西 ビル/1日目/深夜】

【皇妃@理由の無い日記】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考・状況]
(基本):この世界の情報収集。
1:レイ・アスカと一緒にいる。
2:支給品一式の確認はしていない。
(備考)
第七部・発狂編中に皇帝と入れ替わった後の皇妃。

【レイ・アスカ@希望と絶望の協奏曲】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考・状況]
(基本):不明
1:皇妃と一緒にいる。
2:ただ突っ立っているが、一応周りを警戒している。
3:支給品一式の確認はしていない。
(備考)
SS第四章「破滅」にて、邪龍と共に消滅した時のレイ。



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年11月24日 18:07