あははははは~。
お花畑を2人の少女がスキップする。ウサ耳とネコ耳が上下あわせて浮かんだり、沈んだり。

「待てよう、シィル~」
「あはは~、嫌ッスよ~」

それを眺める蒼い髪の女性は満足そうに笑っている。
本日も晴天。ぽわぽわしながらいい陽気。おなかも一杯だし、好きなだけ遊んでしまおう。

「こらこら、あんまり走ると転ぶぞー」
「そんなドジ踏まないッスよ、カティsぶへぁ!」
「はは、シィルはドジだなぁ」

笑い声が上がる。カティとアーニャは微笑みながら、シィルに手を差し伸べる。
情けなく思いながらも、その手をとり立ち上がる。

「えへへ。コレ、花の首飾りッス。どうッスか、2つ作ったスけど」
「は?」
「は?」




突然、その幸せな空気は音を立てて崩壊した。
花の首飾りは急激に枯れ、周りの風景から花は消えた。いつの間にか砂漠のようなひからびた世界が周りを蹂躙する。

「え・・・これ・・・どういうコトっスか・・・」
「何言ってんの? 今時首輪とか。ありえねークマーwww」
「そうだな、こんな幼稚な人間だとは思わなかったよ、シィル」

冷たい目でこちらを2人が睨み付けている。今までの慈愛の目とはまさに180度違う。

「ふ、2人ともどうしちゃったッスか・・・なんで急に、そんな・・・」
「は? 急にも何も昔からこうだっつーの」
「そうだな、アーニャと私は仲良しだが、シィルは知らんな」
「そ、そんな・・・」

大地にひびが入り、砂が飲み込まれていく。そのアリ地獄のような渦に、シィルだけが取り込まれていった。
砂に溺れる。手を必死に伸ばしても、冷たい目をした2人は助けてはくれない。
意識は、黒い濁流に飲まれる。
意識が、無くなる。


「ッッ!!?」
「あ、意識が戻りましたか。良かった」

起きる。起きた?
起きたということは、今までの悪夢のような出来事は、その名の通り・・・

「ゆ、夢ッスか・・・?」
「ひどくうなされてたでござるが、大丈夫でござろうか?」
「そう・・・ッスか・・・」

はあぁあ、と深い溜息をつく。
良かった。あんな冗談みたいな出来事、怖すぎる。恐怖のどん底に叩き込まれたかのような気分になった。
周りにいる2人が介抱してくれたらしい。ヒメルとジーナ。そう名乗ってくれた。アーニャとカティではないが、怖い人じゃない。朦朧とする意識の中、そう思った。
シィルはひとまずの安心を得たことになる。―――しかし。

「さっきはごめんなさい。気絶させるためとはいえ、民間人に暴力を振るってしまいました」
「そ、それを言うなら拙者もヒメル殿に・・・!」
「ははは・・・。 ? シィルちゃん、状況は分かりますか? シィルちゃん?」

恐縮するジーナに苦笑いしながらシィルに体調を聞こうと思えば、肝心の彼女は何がなんだか分からないという顔をしていた。
シィルが戻ってきた現実は、悪夢よりも悪夢で、非情なまでに非情な、恐怖のどん底だった。


     ◆     ◆     ◆


大変だった。
意識を取り戻したシィルが、錯乱し、それをなだめるので精一杯だった。
覚悟はしていたが、無理に能力を発現させた為に精神的に参っていたのだろう、今でも震えている。
ヒメルが懸命になだめている間、ジーナは当てもなくおろおろしていたため、彼女に周囲の警戒を頼んだ。ジーナは刀が無いと本調子が出ないとは言っていたが、それでも実力者だと言う事は一目で分かったため、適材適所であると言えるだろう。
ゲーム開始から2時間以上経過している。本当はすぐにでも戦場の鎮圧に精を出したいのだが、シィルを放置するわけにも行かず。

「・・・大丈夫ですか?」
「・・・・・ぐすっ、大丈夫じゃないッスけど・・・大丈夫ッス・・・」
「名簿を見ると、アーニャさんとカティさんも参加させられています。一刻も早く、知人の捜索や危険人物の排除に向かいたいというのが本音です」
「ぼ、ボクも戦うッス!」

ここで意外な言葉。
あれほど怯えていたのに、冷静になったのだろうか。いや、逆に冷静になれば成る程、この会場の恐ろしさも分かるはずだ。
ヒメル自身も、これほど分の悪い戦場に出たのは初めてだ。最初から生命与奪権は主催者側にある。これはどう足掻いても負け戦。
だからこそ、参加者対参加者ではなく、参加者対主催者の構図を作らねば、勝利はおろか、勝負にすらならない。まずは参加者が団結しない事にはどうしようもないのだ。
ヒメルはシィルの申し出自体は嬉しく思った。だが、しかし。

「無理はしないで大丈夫ですよ。安心してください、貴女のひとりやふたり、十分守れます。その気持ちだけ貰っておきます」
「で、でも・・・」
「まずは疲弊した気持ちを元に戻してください。魔力を元々持たない人が無理やりそれを行使するのは精神的にダメージが来るかもしれないので」

ま、私も魔術は使えないんですけどね。
ヒメルは苦笑いしながら付け足す。シィルは精神的に参っていたので悪夢を見た。それを加味した上でのアドバイス。
シィルの震えは、収まっていた。

「・・・分かったッス。ご迷惑をおかけするッスね」
「いえいえ」
「話は終わったでござろうか」
「ジーナちゃん、お待たせしました。それじゃあ予定通り、そろそろ行きましょうか」
「どこに行く予定だったッスか?」
「地図では一番近い住宅街にある『学校』でござる。保健室かなんかもありそうでござるし」
「医薬品を纏めて手に入れておきたいんです。長丁場になる場合、怪我でもしたら大変ですしね」
「そ、そうッスね・・・」

ヒメルはなるべく言葉尻を優しくしたつもりだったが、怪我という単純な単語でも少し怯えるシィルを見て、住んでいる世界の違いに気付かされた。
一同は、荷物をまとめて下山し、学校へ向かう事にした。


―――ヒメルの住んでいる世界の
―――ヒメルが頼っていた
―――ヒメルを守っていた

リッター=シュナイドが、そこで死んでいると言う事を知らないまま。


     ◆     ◆     ◆


「あいつらは気に喰いませんが、乗ってやりましょう」

リットを殺害し、彼のコートを羽織ながら、緑色の髪をした少女は呟く。
彼女は、義妹であるリレッドを無条件に、無慈悲に、無関心に殺されたコトに、内心怒り狂っていた。
だから、彼女はセンライを殺す。
優勝して、願いを叶える。ディアナ=クララベラ=ラヴァーズの願いは『自身を除く全てを元に戻す』。
自身とは言うまでも無くディアナのコト。それを叶えたら、目の前にいるセンライを問答無用に、リレッドがやられたように、コロス。
最終的に元の場所に1人だけ帰ることが出来なくなるかもしれないし、行方不明扱いになってしまうかもしれない。
どこかの馬鹿にしられたら、「ナメック星に残る悟空かよ」とか悪態つかれそうな気もする。だが、コレだけは引けない。
半端はいけない。中途半端に殺したら、殺し合いを促進させてしまうだけ。
だから、殺して殺して、殺しまくる。私ならば、それは可能。私に不可能は無い。
最後に自分を犠牲にしてしまうが、それは単純に復讐の意味もあるが、それ以上に諸悪の根源を残したら『"全て元に戻りこのゲームに参加した記憶の無い"参加者を呼び出して繰り返す』可能性もあるのだ。
全てが終わったら、謝ろう。
全員殺しつくしてしまった事に。

「思う存分実力が振るえて楽しいなー、と☆」

これを主催者に気付かせてはならない。
センライは観戦するような口ぶりでこの会場に全員を放った。つまり、何時行動が見られているか分からない。
もしかしたら、首輪に盗聴機が仕掛けられている可能性だってある。
迂闊に『センライを殺すために乗ってやる!』とかなんとか、作戦を独り言で呟いたら、問答無用で爆破だ。
そして誰にも説明することはできない。元々説明する気など無いのだが。

「獲物は居ないかなー、とね☆」

なるべく陽気に。
なるだけ殺人を楽しむ風に。
可能な限り矛盾が無く。
完全に全員を殺し尽くす。

「人殺しは楽しいなー☆」

ディアナは、心の中で、泣いていた。
最強の碧(みどり)に、立ちふさがる、正義を殺さなくてはならない事に。


     ◆     ◆     ◆


学校の校門へたどり着いた。
誰も居なかった事に、シィルはほっと溜息をつき、ヒメルは落胆し、ジーナは刀欲しさにガクガク震えていた。

「せせせせ拙者の刀がががが」
「ちょっとジーナちゃん、トリップしてる場合じゃないです。早く保健室に行きましょう。もしかしたら刀は無くとも、竹刀ぐらいだったら剣道部があれば調達できますって」
「そ、そうでござったな。拙者としたことが・・・」
(だ、大丈夫ッスかねこの人たち)

シィルが不安に思うのも仕方が無いようなコントが繰り広げられるが、少なくともヒメルの実力は折り紙付きだ。
殆ど覚えていないが、一瞬でシィルの背後に跳躍したときのあの力強さとスピードは、大した力を持たないシィルにとっては驚愕の一言だった。
間違いなく、ヒメルは強い。きっとジーナも刀を求めているあたり、強いのだろう。
その2人が最初に出会う人間であったのは、幸運以外の何物でも無い。殺し合いに乗った人間だったのならば、まさにシィルは格好の獲物なのだから。

灰楼中・高等学校と書かれた校門を潜り抜け、昇降口へ向かう。
最短距離の校庭を横切ろうとシィルが歩き出そうとすると、ヒメルにやんわりと止められた。なんでも、遮蔽物が無さ過ぎるため、狙撃されるかもしれないとのこと。
尊敬する気持ち半分と、恥ずかしさ半分に、学校の外を覆う塀を辿りながら昇降口――即ち校舎の入り口へとたどり着いた。
律儀に靴を脱ごうとするシィルを微笑ましいと思いながら、ソレをする必要は無いと声をかけようとしたとき。


背後から、強烈な威圧感。
ジーナとヒメルはとっさに振り向く。気配を敏感に察知したなんてものじゃない。殺意を押し付けられた。
2人の額から顎にかけて、汗が流れる。呼吸が荒くなる。なんて純粋な殺意だろうか。なんて強大な闘気なのだろうか。
全身をフル稼働させて、シィルの前に立ちふさがる。

「シィルちゃん・・・裏口から静かに出て行ってもらえますか」
「え・・・どうしたッスか?」
「いいから・・・ゆっくりと、迅速に、お願いします」
「わ、分かったッス・・・」

尋常ではない様子のヒメルに、疑問を持ちながらも彼女は了承し、校舎の中へ入っていった。
恐らく非常口かなにかがあるだろうコトを見越しての判断だった。
隠れろ、ではなく、逃げろ、という騎士らしくもない言葉。そうまでさせる実力者が校庭を挟んで反対側に佇んでいるのだ。
その実力者は、言葉を交わすまでも無く、殺気と殺意で"ゲームに乗ってしまった"事を感覚で表現していた。そして、"その意思を変える気も無い"事も。

「ディアナ殿・・・」
「おや、ジーナちゃんじゃあないですか。ご自慢の刀が無くてつらそうですね」
「・・・生憎没収されてしまったようでござる。良かったら探すのを手伝ってくれぬか」
「残念ですね。私は別の仕事が入っていまして」
「・・・・・仕事、とは何でござろうか」
「参加者全員を皆殺しにする仕事ですよ」

ゴウ、と笑顔とは裏腹な殺気が沸き立つ。
言葉を発した瞬間、威圧感が学校中を支配する。
ヒメルとジーナは実力者である事は言うまでも無いが、彼女達は震えていた。武者震いでもなんでもない。
緊張で喉がへばりつきそうだ。唾液を飲み込む暇も無い。カラカラになる。
両手に汗を握る。なんだこれは。―――化物。そう評さざるを得ない。

―――しかし。

「ならば止めるのが騎士の務め!」
「拙者も同意権でござる!微力ながら助太刀いたす!!」

それで止まるような軟弱では無い。

「そうですか。まあ無抵抗のまま殺されるよりは気分は悪く無いですが」

間違った世界を正すため。己の信念を貫くため。

「Vulneris draco equitis・basii virginis ヒメル!」
「蒼龍騎士団が1人、ジーナ!」
「「参るッッ!!」」

最強にして最凶の碧(みどり)に、地面を蹴った。



間合いを詰める前に、ディアナが両者に銃撃を放つ。
ディアナが持つ、グラムとガルムは二丁拳銃であり、スナイパーの異名を持っていた彼女からしてみれば反則急の当たり武器だ。
本来の持ち主がリットであり、それを最初に殺した事も、目の前にいるのがその部下であるヒメルということを、まるで運命の悪戯だな、と考えがディアナの脳裏に掠める。
この銃は魔力を込めれば炎などの特殊な弾を魔術として放つ事が出来るが、彼女がとった行動は"魔力でそのまま鉛玉を撃つ"ことだった。
主催者を打ち倒すという不屈の精神を持つ彼女。故に、弾切れは皆無。しかし丁寧に、冷静に、正確に両者の眉間に向けて弾を放ち続ける。
それを銃を取り出す動作だけで予測したヒメルとジーナは、突撃しながらも左右に展開。校庭を大きく迂回しながらディアナへの距離を縮めていく。
ヒメルは武器を構える様子は無いが、ジーナは手に持っていたビーダマンのような武器をディアナに向ける。
ジーナが持つのはディアナと同様、二丁拳銃の白騎(びゃっき)・夜皇(やこう)。妹のクロードの武器であるが、ジーナ自身に射撃の腕があるわけではない。
故に、牽制。どうせ当てる事は出来ないが、ディアナの動きを鈍らせる事ぐらいは出来る。ひたすら撃ち続けながら前進する。

ヒメルが地面が爆発するぐらいに踏み込むと、土ぼこりを発生させながらディアナの2mほど手前まで近づく事が出来た。
それを見たディアナは銃を仕舞う。ディアナの向こうに逆側を迂回してきたジーナが迫るが、彼女も同様に当てにならない銃を仕舞う。
3者が素手になるが、肌が切れそうな緊張感は一向に途絶えず、むしろ増加する。

「は、あああぁあぁあああッッ!」
「ぬ、りゃぁあああああぁッッ!」

ヒメルの右拳とジーナの左手刀が空を割く。常人には目視すら不可能な攻撃速度。常人なら一撃で骨まで粉砕するその威力。
それを軽々と、ディアナは受け止める。右手で彼女の右側に居るヒメルを。左手で彼女の左側に居るジーナを。
それぞれ指2本で受け止めた。
ヒメルは拳を引き、力任せに足を振ってハイキックの軌道に乗せる。それを見たジーナはディアナの死角に入るように腰溜めに低く構える。
ディアナの首元にヒメルの足が迫るが、ディアナは軽くスウェーバッグするだけで紙一重に避ける。その隙に、抜刀のような構えで拳を溜めていたジーナが全力で突く。
しかしディアナには通じず。拳は真上から落とされた手刀で落とされ、それにガクンと体勢を崩されよろけたジーナにむけてノーモーションのアッパーカットを繰り出す。
顎を的確に捉えたソレは、止まることなく天まで延びる。その過程に居たジーナはのけぞりながら空中へと舞う。
意識が刈り取られそうになったのを気力で繋ぎ止めるが、ダメージは一撃で深刻なレベルまで達していた。もう少しでも溜めたアッパーだったらならば、確実に首の骨は粉砕していただろう。

(ジーナちゃん!)

思わず声を出したくなるが、ヒメルはそれをする際の隙を考慮して全神経をディアナに向ける。
いや、そもそも他人の心配をするような余裕は一切無いのだ。最初から全力でぶち当たっても、いつ死ぬか分からない。

「はあっ!」

ハイキックを避けられたが、その勢いを利用して逆足で横に薙ぐ。完全にジーナの方向を向いていたのにも関わらず、ディアナはそれを左手で捌いた。
続けて攻撃を仕掛けようとしたヒメルに向けて、ジャブ。パパンッと軽快な音が聞こえてヒメルの顔面に拳という名の銃弾が被弾する。
勢いのまま、吹き飛ばされる。軽いジャブなのに、肉薄していた距離から3mは吹き飛ばされた。
ジーナとヒメルは空中から開放され、同時に地面に着地する。遅れて、ジーナの口元から血が。ヒメルの顔から鼻血がつぅ、と流れる。
彼女達が戦闘を開始してからたったの8秒の攻防であったが、体感した人間にとっては1時間は過ぎたような感覚を受けた。勿論、ディアナを除いて。

「はッ・・・はッ・・・」
「はぁッ・・・なんて・・・出鱈目なッ・・・はぁッ・・・」

一呼吸置くと、どっと全身に汗が流れ出た。
ジーナは刀が無いというハンデはあるものの、身体能力に関してはエリシャ同様の実力があると言っても過言では無い。
そしてヒメルはそれ以上のポテンシャルがあり、自他共に認める戦士タイプである。今まで苦しめられてきたのは、大抵トリッキーな魔術を使う人間ばかりだった。
だからこそ、白兵戦に関しては会場において一日の長があると踏んでいたのだが、考えが甘すぎたのだろうか。

否。
確かにヒメル以上の力を持つ者は会場にはいるだろう。だが、それでもヒメルならばある程度以上の戦いは出来るはずだ。
しかしその規格に収まらない、規格外の人間が目の前にいるのだ。それが―――ディアナ=クララベラ=ラヴァーズ。

「どうしました? 私を止めるんじゃなかったんですか?」
「いいえ・・・はぁ・・・まだまだ・・・はぁ・・・これからですよ」
「そう・・・で、ござる・・・ッ」

全身に叱咤し、ギンと睨み返す。
ひたむきな正義で、身体を持ち直す。

「安っぽい感情で動いているんじゃぁ無いッ!」

ディアナはその行動が癇に障ったのか、今度は彼女がそのまま突撃する。方向は、いうまでも無くダメージが深刻なジーナの元。
ディアナがラッシュをかける。無数の拳が雨のようにジーナへ降り注ぐが、その1つ1つが必殺クラスの重さである。それをジーナは・・・見切ろうとする。
6発目まではギリギリで避けることが出来た。しかし、それだけ。攻撃は百烈拳であるからして、残りの94の拳が残っている。
ジーナの全身をくまなく拳が襲わんと向かうが、ジーナが見切った分の6発の時間でジーナの運命は変わった。

「いくらディアナさんでも足元がお留守ですよッ!」

ぱんっ、と小気味のいい音を立てて真後ろから迫ったヒメルがローキックを放っていた。
右足で放ったそれによって、ディアナの身体は宙に浮く。時計の針が時計回りに回るように、腰を基点として25度ほど。しかし百烈拳を中断させるには十分だった。
ヒメルは歯噛みする。

(全身全霊で放ったのに・・ちょっと浮くだけってどういう事よ!)

仮に大木に今のローキックを放てば、根元から折れるかもしれない。そんな威力の一撃を受けて平然としているディアナ。
しかも完全に無防備な背中を向けていたのにも関わらずだ。化物であることを再認識させられる。

「いやいや、効きましたよ。ほら、今じ~んと来てますもの。いいキックです、お姉さんが満点あげちゃおう☆」

空中に浮くと言う行動しようの無い状況においてもこの余裕。しかしそれに感心している暇など無い。
一気にたたみ駆けるために、両拳でハンマーナックルのように手を握る。それは、剣を正眼で打ち下ろすときの構え。
ヒメルがそんな型を取る傍ら、ジーナは手刀で無構えを作る。手を大きくスイングさせて、手でもって逆袈裟に斬る。

「「うおおおおぉおおおおおおおおぉおおおッッ!」」

咆哮。
ディアナに穿たれる必殺で不可避の一撃。
骨ひとつ残さぬつもりで撃たれた一撃だった。







「あぁ、さっき満点あげちゃいましたね」





何故に、そうも笑う。
まるで、悪魔の微笑み。
腰を捻るだけでネコのように空中で体勢を変えて、攻撃を正確に受けるなんて。




「じゃあ、今度は花丸をあげましょうか☆」

にこりと笑うディアナを見て、ジーナとヒメルは愕然とした。
彼女達の運命は果たして、どうなるか。
最強に打ち勝つことは、出来るのだろうか。


【北東 学校/1日目/深夜】

【ディアナ@吼えろ走馬堂】
[状態]:健康・魔力消費(極小)・疲労(極小)
[装備]:グラム・ガルム@リット
[道具]:支給品一式、コート@リット
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗る
1:ヒメルとジーナを始末する
2:優勝して願いで『自分以外の全員を元に戻して』もらう
3:センライ達を殺す
4:会場を歩き回り、全員を殺して優勝する
5:罪悪感はあるが表には一切出すことは無い

(備考)
参戦時期不明。
最強の核兵器。 最凶の碧。
首輪盗聴の可能性があると予想。
何らかの方法で観戦していると予想。
主催者に感付かれるような発言はしません。


【ヒメル@Vulneris draco equitis・basii virginis】
[状態]:顔面出血(鼻血)・疲労(中)
[装備]:不明 & 騎士甲冑
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:弱者を護る、ゲームには乗らない
1:ディアナを止める
2:ディアナに対して恐怖するが、それ以上に使命感がある
3:殺し合いに乗った人間の無力化
4:弱者の保護をする
5:仲間と合流したい
6:首輪の解除・ゲームからの脱出案を練る

(備考)
参戦時期:『BRAVE DRAGON』後、『Get Your NAME』前
ヒメル=シュナイドではなく、ヒメル。
装備は小道具系統。能力は取得済みだが不明。


【ジーナ@T.C UnionRiver】
[状態]:刀不所持による不安・顎損傷・吐血(小)・疲労(大)
[装備]:白騎(びゃっき)・夜皇(やこう)@T.C UnionRiver(クロード)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:ディアナを止める
2:刀を探す
3:姉妹達との合流
4:他人と接触し、情報を集める
5:主催者に天誅!
6:・・・もう手合わせとか言ってる場合じゃ無いでござるな


















大地を揺るがすような音が聞こえる。
まさかそれが肉と肉が当たる音だとは信じたくは無いシィルだったが、勇気を振り絞って保健室に立ち寄ることにした。
薬や包帯を回収すると、そそくさと廊下を走って裏口の方向へと向かう。
そこで、見てしまった。倒れる男の姿を。リッター=シュナイドの成れの果てを。

「ひっ・・・!」

吐きそうになるのを必死でこらえ、泣き叫びそうになるのを気力で我慢する。
涙を浮かべながら、裏口へと向かって走る。

彼女は無事にディアナの手から逃れることが出来るのだろうか。
逃れた先には、彼女の求める楽園はあるのだろうか。

シィルは、夢に見た悪夢よりも、悪夢な現実に追われて走っていた。


【シィル@T.C UnionRiver】
[状態]:恐慌・混乱・体力消費(小)・精神疲労(中)
[装備]:筆箱@ヨミ(Vulneris draco equitis・basii virginis)
[道具]:支給品一式・医薬品一式
[思考・状況]
基本:助かりたい
1:裏口から逃げる
2:アーニャ・カティを心配
3:ジーナ・ヒメルに感謝と心配
4:怖い、怖い、怖いッス



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最終更新:2009年11月27日 17:14