「はぁ……! はぁ……!」
何とかビルの入口まで辿り着くことが出来た和輝。
休みながらの全力疾走をしたせいかかなり疲れていた。
(こんな時に、シュヴァルツがいりゃぁ楽なんだけどなぁ……)
呼吸を整えながら和輝はシュヴァルツの触れるだけで負傷・疲労を回復させる能力を思い出す。
あれはかなり便利な能力だったなぁっと、社会人である和輝にとってはありがたいものだった。
「と言っても、能力取り上げられたんじゃ無理だろうなぁ……」
盛大に溜息を吐いた和輝はビルの中へと入って行った。
そこに嘗ての仲間がいるのを知らずに……。
◆ ◆ ◆
一方、皇妃とレイは武器をやっと探し当てた。その時間なんと1時間半。
レイの目が余り見えていない故にここまで掛かってしまったのである。
そして漸く見つけたのだった。
「ったく、灯台下暗しってのはこのことだな」
レイの武器を見つけたというのに皇妃はかなり荒れていた。
なぜなら――
「お前の武器が元いた場所にあったなんてな!」
1時間半前にパソコン室にそれはあったからだ。
精神的に疲れた、と言いながら皇妃は近くにあった椅子にだらしなく座る。
着ているのが着流しの様なものなのか若干見えそうで見えない。
「…………」
そんな皇妃を余所にレイは目の前にあるシュヴァルツの大斧――ドラゴントゥースに手を触れて能力を把握した。
能力は相手に触れるだけで負傷・疲労の回復。ただし、自分には作用しない。
1人ならいらない能力だが、2人以上ならかなり重宝出来る能力。
「で、把握したか?」
だらしなく足を延ばして皇妃はレイに尋ねる。
レイは把握したと言うように首を縦に振る。
「さて、これからどうする?」
「…………」
「俺としては皇帝と合流したいんだけど……」
「…………」
「お前がアグニさんに会いたいなら一緒に探してやるが……」
「…………」
「聞けよ」
ガスッと空手チョップでレイの頭を叩く皇妃。
その際に着流しの裾が乱れるが、彼女は全く気にしていない。
「お前なぁ……少しは意思疎通ぐらいしてくれよ」
「…………」
「……もう良いや、無口な奴には慣れてるし」
半分諦めた皇妃。激流に身を任せて同化しようという考えに至った。
「……誰か来るぞ……」
「は?」
突然レイが口を開き、素っ頓狂な声を上げる皇妃。
彼に言われて彼女は耳に意識を集中させて音を聞く。
すると微かに人の足音が聞こえ来た。それも徐々に自分たちがいる部屋へと近づいてくる。
直ぐに皇妃はバッグの中にあるREXを取り出してレイにそのうちの一丁を手渡す。
「持ってろ、あれをぶん回すのには大きすぎるからな」
「……分かった」
短い会話を終えて、皇妃はパソコン室の扉に向かう。
それから扉の前には立たず、その隣に廊下側から見えないように立つ。
さらに耳を澄まして段々近寄ってくる足音を聞く。
やがて足音が止む。どうやらこの部屋の扉の前に止まったようだ。
そして、扉が開かれて人が入ってくると同時に皇妃が行動を起こした。
「動くな……!」
「ッ!?」
低い声で扉に入った人物の頭に銃口を向けた。
何の警戒もなかったのか、銃を向けられたその人物は身体を硬直させた。
皇妃は名前と殺し合いに乗っているのか、武器を持っているのか聞き出そうとした瞬間、予想外な言葉を聞く。
「レイ……?」
その名に皇妃は驚いて思わず銃を降ろす。
近くだったので分からなかったが、よくみると見覚えのある人物だった。
「アグニさん?」
「え?」
皇妃に呼ばれて横に振り向いて反応した。
「……そこにいるのはアグニなのか?」
「えぇ!?」
続けざまにレイに呼ばれて反応した。
◆ ◆ ◆
「いやぁーやっと知り合いに会えて良かったぁー!」
心底嬉しそうに皇妃とレイに向けて話すアグニと呼ばれた者――和輝。
彼の話によれば、ビルに入って30分ぐらい歩いて情報収集しようと思い当ってここに来たのだと言う。
因みにかなり疲労が激しかったため、会話する前にレイが引き当てた能力で回復した。
「にしても……マジで皇帝さんの女体化した姿っすか? 皇帝さんが女装してそうなったわけじゃないですよね?」
「いやいや、正真正銘身も心も女さ。確かめたいなら胸、触ってみるか?」
「…………遠慮しときます、死にたくないんで」
少し間があったが、和輝は死亡フラグを回避した。
むしろ、彼の恋人である美咲の――包丁を持って物凄い形相で目に涙を浮かべて猛ダッシュしてくる幻影が見えたから思いとどまったのだ。
本音としては触りたかったようだが……。
「ちょっと、俺が変態だと言いたいのかよ」
事実だろうに……。
「誰と話している……」
「いや、なんつーか妙な電波を受信してしまって……いや、そんなことより、お前本当にレイなのか?」
「信じられないけど本物だ。邪龍持っている記憶もあるみたい」
「そっか……まぁ、取りあえずまた会えて良かった」
「……そうだな」
本物のレイであることが余程嬉しかったのか自然と笑顔になる和輝。
それに釣られてレイも和輝ほどではないが小さく微笑む。
2人を見て皇妃も笑顔になるが直ぐに真剣な表情をして和輝にいくつか質問をする。
「配布された武器はティアマット、能力は龍眼発狂……。なるほど、皇帝のを引き当てたのか」
「そうなんっすよ、能力の方は一応ラッキーですけどね。ただ、これ発動した後メチャクチャ疲れるんです」
「まぁ疲労回復の問題は直ぐに解決できるとして、一番問題なのは龍眼の制御だな。よりによって龍眼の最終形態とは……」
と言いながら難しい顔をする皇妃。元々は皇帝だったため、彼女は龍眼の危険性を熟知している。
「やっぱり、あまりこれを使わない方が良いですかね……」
「だろうな。龍眼発狂は皇帝しか使えないし。というかアグニさんは発狂しないよな」
「……こいつが発狂したところなど見たことがない」
「いや、皇帝さんみたいにはなれねぇーし」
「まぁ、あいつみたいなことは出来ねぇだろう。完璧に制御するならそうだな……龍眼を進化させればいい」
「…………はぁ? どういうことですか?」
「簡単なことさ、アグニさん専用の龍眼にしちまえば良いってこと」
至極あっさりと断言する皇妃。
言われた和輝は、開いた口が塞がらなかった。
レイの方は我関せずと、ドラゴントゥースの刃で手を切らないように慎重な手つきで斧全体の確認を含めて触っている。
「なに、ただイメージするだけで良いさ。龍眼を何のために使うか、自身がどう進化させたいのか。某弓兵的に言えば『現実では敵わない相手ならば、想像の中で勝て。自身が勝てないのなら、勝てるモノを幻想しろ』だな」
「……それって、他の参加者にも当てはまりそうなセリフっすね」
「まぁな。さて、こっちが持っている武器と能力はまぁ大体分かっているだろうから説明は省く。最も重要なのはこのゲームをどうするかだ。アグニさんはどうなん?」
「決まってますよ、俺はこんなゲームを終わらせて灰楼をぶっ潰す」
確固たる決意を表すかのように力強く和輝は断言する。自身と目の前で殺されたレミエルに立てた誓いだから。
そう言った和輝の答えに満足したのか皇妃はニィッと笑う。
「なら、俺も灰楼をぶっ潰すのに協力する。レイも良いだろ?」
「……好きにしろ」
「と、言うわけだ。これからよろしくな」
「はい、こちらこそ!」
ガッチリと握手を交わす和輝と皇妃。
その後、3人は他にもゲームの破壊を目指す参加者を探すためビルから出た。
同時に、時刻は5時を過ぎていた。
「さて、どっちに行く? 住宅街か展望台方面か」
「展望台方面だとまたあのデカイロボットに出くわしたくないんでパス」
「なら決まりだな、多少危険かもしれないが住宅街に行くか」
「…………」
短い協議の結果、一行は参加者たちが多くいそうな住宅街へと向かった。
【南西 ビル/1日目/深夜】
【如月 和輝@希望と絶望の協奏曲】
[状態]:健康
[装備]:ティアマット@皇帝(理由のない日記)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:ゲームを何とかして終わらせる
1:皇妃、レイと合流。
2:皇妃から龍眼を自分専用の龍眼に進化させろと言われる
3:メシアと大帝を警戒
4:仲間を探しに住宅街へ
【皇妃@理由の無い日記】
[状態]:健康
[装備]:REX@ディアナ(吼えろ走馬堂)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
(基本):この世界の情報収集。
1:レイ・アスカの行動サポート。
2:レイ・アスカの支給された武器を発見
3: 和輝と合流。灰楼を潰すことに賛同する。
4:仲間を探しに住宅街へ
【レイ・アスカ@希望と絶望の協奏曲】
[状態]:視力の喪失
[装備]:ドラゴントゥース@シュヴァルツ(希望と絶望の協奏曲)(未装備でどこにあるか知らない)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
(基本):不明
1:支給武器発見
2:和輝と合流。
3:仲間を探しに住宅街へ
最終更新:2010年02月13日 03:38