なんでメイド服ってこんなに動き辛いのだろう。給仕するスペシャリストならば、ちゃんとした設計の下、動きやすいような格好の方がいいんじゃないかしら。
アステリアは抜けた腰をようやく回復させながら、全くどうでもいいことを考えつつも周りを改めて見渡す。
「ところで龍帝さん。こんな道中のど真ん中を歩いて平気なんですか?」
「物陰から奇襲を受けるよりはマシだろう。
それにここは殺しあいの場ではあるがサバイバルでもある。最終的に生き残った者が勝ちなのだから、人数が多い集団にむやみやたらと仕掛けてくることは無いはずだ」
ここがおかしくなければな、と剣龍帝は頭を指さしながらアステリアに答える。
それに対して集団という言葉に、アーニャはクロードの事を思い出した。というかまさに今クロードと合流するために橋へ向かって歩いているのだが。
剣龍帝は付け加えるようにアステリアに話す。
「それに単独での襲撃で複数人を殺害した例は今のところ無い。被害者と加害者は1対1の比率だ」
「!? ちょ、ちょっと待て、なんだそれ!?」
「? どうしたウサミミ」
「ウサ言うな! そんなことよりなんで被害者とか加害者とか知ってるんだよ!」
「ああ、WEBで調べた。公開してたからな」
「は、はぁ!?」
「実は本当なんです、アーニャちゃん・・・」
呆れた顔をするアーニャに、こちらも呆れ顔のアステリアが説明する。
ネット環境が繋がっているPCがあったことと以下のような情報が入手出来たこと。
死亡者:トリガー=マークレイド 殺害者:ゲイザー=ランブル(雷殺)
死亡者:セレナーデ=コランダム 殺害者:リース(刺殺)
死亡者:リッター=シュナイド 殺害者:ディアナ=クララベラ=ラヴァーズ(銃殺)
死亡者:レミエル 殺害者:メシア(投擲殺)
死亡者:リメイカー 殺害者:エヴァ(斬殺)
「勿論鵜呑みにしているわけじゃありませんけど・・・もし嘘の情報を主催者側が流していても、誰が亡くなったかは本人が会場にいる限りすぐにバレますから、ある程度は信用していい情報だと思います」
「・・・これ、そこの剣龍帝てのが調べたら出てきたんだよな」
「え? ええ」
「ふうん」
剣龍帝を一瞥してからアーニャは考える。
この情報を信用していいものか。それとも、そもそも剣龍帝という人物そのものを信用していいか。
アーニャの知り得る人物は何人か先ほどの情報の中で確認出来た。
その中で、彼女が知るなかで最も強いと思われたのはリメイカーだった。アーニャ自身、ヤツの事を変態以外のなんでもないとは思っているが、それ以上に常人では太刀打ちできない強さを持っている事も知っていた。
それが、ゲーム開始からたった2時間でリタイア?
合点がいかない。というよりも腑に落ちない。シィルとカティの名前が無いのは僥倖だったが、だからと言ってこの情報を鵜呑みにすべきかどうか。
(保留、だな。 実際の放送を聞いてその時に判断しよう。 それまでは警戒するだけにしとこ)
ぴょこんとウサミミを垂れたところでクロードがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
◆ ◆ ◆
レミエルを殺害したメシアは機を失っていた。
剣龍帝が不機嫌そうな顔で周りを警戒していたのに加え、もう1人増えてしまっていた。子供とはいえ、人数が多ければ多いほどやりにくい。できれば周りを巻き込んで一網打尽と思っていたのが仇となったか。
カイトのために1人でも多く消さなくてはいけないのだが、ここで返り討ちにあっては意味がない。
いや、正確には返り討ちにあっても手傷を負わせることで少しでもカイトが優勝に近づけばそれでいいのだ。
だがしかし、十分ではない。
4人のグループになってしまっている以上、仕留められて1人か2人。理想は単身でグループから離れてくれること。そうでなくても情報収集のために半分に分かれることもあるかもしれない。また、仲たがいでもしてくれればそれはそれでいい。
メシアは警戒網にはかぶらないよう暗闇と民家の蔭に隠れて、機を待っていた。
しかし、確実に殺す。特にカイトの武器をわがもの顔で持っている、ヤツだけは。
◆ ◆ ◆
「さっきの見た!?超でっかいドリルついてるよね絶対!!」
「・・・リレッドお義姉さまだったら勝手に改造とかやりかねないから、突っ込めない・・・」
「んなことよりどーすんだよ、あのロボんとこ行くの?わたしは反対だけど」
「行く行く行く行く!絶対行く!」
「あー、頭がグレンでラガンなのはわかるけどちょっと黙れ」
「・・・能力の暴発にせよ、殺意を持った攻撃にせよ、アレを呼び出せる人間があそこにいるのは間違いない」
「じゃあ行くんだね!ひゃっほう!!」
「・・・その悩みのなさそうな思考を少しでいいからあたしに分けてくれ」
ため息をつきながらアーニャはクロードを見たが、アーニャはその純真無垢に興味を傾ける彼女の姿にある意味ほっとしていた。
死者が出たという情報は入ったが、真偽は不明だし、何よりまだゲームに乗った人物にも被害者にも遭遇していないのだから、ここまで緊張感がないのも仕方がないかもしれない。
しかし。
まさかこの先に、これから向かおうとしている先にクロードの姉が死体で転がっていることになっていようとは、このときのクロード自身、考えるなんてことがあっただろうか。
そしてまさに今、背後の死角からは殺しあいに乗ったメシアがこちらを狙っているとも思いもしなかっただろう。
時間にして3時間。
ゆっくりと歩を進めて展望台の付近まで移動した。というのも、剣龍帝の飛行スピードでの移動は叶わず、かといってクロードの爆走にもついていけないアーニャとアステリアがいる以上、仕方がないことではあるのだが。
集団での徒歩で会場を歩くとなるとこの程度はかかる。そもそも最初のクロードの爆走が意味不明な勢い過ぎたというだけの話。アーニャは苦い思い出に苦笑する。
「そろそろ展望台だな」
「ええ。幸い今まで敵襲と思われるものは無かったですし・・・やっぱり集団だからでしょうか」
「そうだな。まさに今集団だからこそ、襲いかかってこない人物もいるようだしな」
「・・・?」
小声で剣龍帝は他の3人に伝える。表情は変えずに、さも世間話をするように。
「気をつけろ、先ほどの橋から尾行されている。表情には出すな。どうやら俺が狙いのようだしな」
「ッ・・・はい」
「ボクも気づいてたよー。でもこっちの隙を窺ってるみたいだったから様子見してたー」
「・・・気付かなかったぞオイ。なんで言わなかったクマー」
「俺とそこのクロードってのは気づいてたらしいけどな。表情に出ればそれが隙になるというのもあるが・・・」
「あるが?」
ここで剣龍帝は口を閉じる。答えが出ることはない。何故なら答えを知らないから。
彼らの背後を着けまわしている人物が何を狙っているのかが分からない。殺気を感じることからゲームに乗っていることには間違いはない。そしてこの4人を相手に一網打尽にできるのならばすでにやっているだろう。
だが、機をうかがうに徹している。こちらの様子を窺っているだけ。事態が進展するはずもないのに?
ここで時計を何気なく見ると、短針が一番下に来ようとしていた。
かちり、かちり、かちり。
かちっ。
時計を半分にする一本の線が出来上がる。
すると同時に
ビッ―――――――――!
その衝撃はまるで電流が身体を駆け巡るかのような、耳を劈くような電子音が、その場に響いた。
「…これはッ!」
「何の音ですか!?」
「首輪からだぞ!」
「カッコイイ」
『あー、あー。テステス』
センライという主催者の声。驚きを隠せない一同だが、それ以上にこの現状を、この先に待っている状態を予想できてしまった剣龍帝は歯噛みする。
(そうか、尾行者の狙いは、隙を見つけることではなく、”隙を待つ”ことだったのか・・・!)
メシアの狙いは大人数の不利を逆手に取ること。
人数が多ければ多いほど、知り合いがゲームによって死亡する確率は高くなる。そして誰かがショックをうければそれをフォローする役回りが出てくる。つまり、烏合の衆。
『えー、それでは第一回中間放送を始めたいと思う』
彼らにとって分岐点。
1回目の放送が始まる。
【南西 展望台と灯台の中間あたり/1日目/早朝】
【アーニャ@T.C UnionRiver】
[状態]:健康
[装備]:???(確認済み)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない
1:大帝の出現場所(展望台)へ向かう
2:アステリア、剣龍帝、クロードと共に行動する
3:死者リストの真偽に疑問
4:剣龍帝に不信感
【剣龍帝@理由の無い日記】
[状態]:健康
[装備]:ダークネイルブレード@カイト(紫色の月光)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:終盤まで傍観しつつ黄色いリボンを探す。隙あらば主催側を壊滅する。
1:大帝の出現場所(展望台)へ向かう
2:アステリアを泣かせたことに深く反省中
3:大帝を警戒
4:尾行者を警戒
5:放送後の隙について思案
【アステリア@T.C UnionRiver】
[状態]:健康
[装備]:グラビィの操作書「ケフェウス」 @アステリア(T.C UnionRiver)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗らない、誰かが殺しに来ても殺さない。不殺。
1:大帝の出現場所(展望台)へ向かう
2:剣龍帝の飛行で腰を抜かすが復活。
3:クロード、アーニャと共に行動
【クロード@T.C UnionRiver】
[状態]:ちょっと興奮状態
[装備]:真凰・炎魔@如月和輝(希望と絶望の協奏曲)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:騒ぎを見つけて首を突っ込む
1:大帝の出現場所(展望台)へ向かう
2:( ゚∀゚)o彡°ドリル!ドリル!
3:尾行者に対して警戒
【メシア@紫色の月光】
[状態]:健康
[装備]:天津風吹雪・瀧波時雨@レニー(T.C UnionRiver)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗る。マスター以外を皆殺し
1:カイトの武器を持っている剣龍帝を殺す。
2:放送時まで尾行を続け、死亡者にショックを受けたところで奇襲する
3:大帝を目撃、さほど気にしせず。
最終更新:2010年02月08日 21:35