朝日が昇り始め、闇が薄らぐ。
夜とは違う街並みが顔をのぞかせると、多少は安心感が芽生える。
トーイことトイ・ボックスは空を旋回していた。メタルボディに東からの光が反射する。
(こりゃ夜と違っておおっぴらに空を飛びまわるわけにはいかないある)
グレーの装甲と鳥型という体系は、闇夜には迷彩となり自由に空を闊歩できるのだが、その逆は然り。
徐々に高度を下げ、民家の屋根に留まる。朝日が昇ったとは言え、見つかる可能性はほぼ無い。
さらに見つかったとしてもまさかそれが"参加者"だと思う人間がいるだろうか。ただの野鳥だと思うのが関の山である。
(・・・と、言いたいところあるけど)
そう、本来ならば取り越し苦労に過ぎない。
だが今回のゲームでは少々勝手が違う。何故なら、最初のみせしめでリレッドが殺害された際にトーイの姿は見られてしまっているからだ。
喋る鳥。それは間違いなく最初の広場内にいる人間全員に認知されただろう。
殺害されてしまったリレッドを亡くした悲痛な叫び、という点からリレッドとは知り合いであるという情報は既に漏れていると断定していい。
そこでトーイがリレッドを蘇生するために優勝を狙っているのではないかという疑問を持つ参加者も出てくるだろう。
勿論そのような事は無いのだが、何より優勝を狙う危険人物からしてみればトーイは厄介な存在である。何故なら"隠れてやり過ごす"のに特化しすぎているから。
最後の2人になったはいいが、トーイを見つける事が出来ずに必死に会場内を駆け回るのは、御免こうむるワケだ。
(ま、注意するに越したことは無いある)
とある民家の屋根に付いているアンテナへと取りつく。
こうしてみれば風見鶏のようなオブジェに見え無くもない。このままじっと放送を待つのも手だな、とトーイが考えた矢先の事だった。
「トーイ!」
その民家の隣から、声が聞こえた。間違える事無く、彼女の声はリレッドの次に慣れ親しんだものだった。
思わず憎まれ口をたたきながらもトーイは安堵の様子を隠せなかった。
「・・・やれやれ、ちょっとした偵察が思わぬ誤算を呼んだみたいネ」
◆ ◆ ◆
「10人も・・・あるか」
「・・・勿論、リレッドさんを含めですけどね」
トーイと会合を果たしたアカルは、ふん、と苦虫を噛んだような顔をした。
放送まで潜んでいた民家の窓から、外をうかがうと呑気に空を飛ぶアホ鳥を見つけたのだ、と彼女は言う。
そのアホ鳥はまごうことなきトーイそのものなのだが、兎も角、トーイとアカルはその民家――図書館に最も近い1つ――の2階にいた。
この会場で初めて身内に会う事が出来た喜びを分かち合う間もなく、死者を告げる放送が開始された。
告げられた名前に対し、広げた名簿にアカルはチェックを入れるべくペンを走らせる。最初のリレッドのところには既に朱色でチェックがされていた。
「さて、改めまして久しぶりですねトーイ。無事で何よりです」
「そっちもよく生きてたあるな。話したい事は山ほどあるけど、まずは無事なことを喜ぶべきある」
「・・・ええ、そうですね」
ふう。一息つく。何から話せばいいのだろうかと迷うところだったが、その前に伝えるべき事があったとトーイは先に口を開いた。
「話は移動しながらするネ。ワタシの同行者を置いてきたあるから、合流しに行くある」
「同行者、ねぇ。まあ私は1人ですから構いませんよ」
「じゃあ・・・まずゲームが始まってからワタシ達は――――――」
◆ ◆ ◆
3分経つのを待たずにラーメンをすする。少し麺が固いが、悠長に待っているわけにはいかなかった。
カノンの"頭痛"とやらが妙に気になる。彼の言う(書く)、引っ張られる方向に何があるのか、まだ皆目見当が付いていない。
若干あわて気味の食事となったが、ソレは功を奏した。食事が終わった直後に、首輪が放送を開始したのだから。
「そんな・・・シュヴァルツが・・・!?」
震えた声で、名簿を見つめる美咲。禁止区域の事が放送されているがあまり耳に入らなかった。
カノンは黙し、手元のペンを走らせている。恐らく禁止エリアと自分たちのいる場所がかぶっているかを確認しているのだろう。
美咲は正直、自分の知り合いが"死ぬ"だなんて、思いもしなかった。いくつもの修羅場を潜ってきたのだし、今回もどうとでもなる、と思っていた。
シュヴァルツに関してもそうだ。純粋な腕力という面ならば、彼女が後れをとるような事は無いと踏んでいた。
―――甘かった。
悔やむ。
だが、悔やんでも仕方が無い。既に死んでしまった者に対して出来ることなど無いのだから―――。
『最後に、優勝者ボーナスについてだ。』
―――。
放送が、まだ続いていた。
『先ほど述べた名前に大切な人はいたか?絶望して立ち止まったか?
勘のいい人間ならば気付いているだろうが、死者の蘇生は可能だ。"どんな事でも"叶えてやる。そう言ったはずだ。
故に諦めなければ可能性などいくらでもあるということだ。 』
悪魔のささやき。
そうか。こういう気持ちになるのか。身内を殺されて、甘くて甘美な可能性を差し伸べられる気持ち。
良かった、最初にトーイと『こうなる可能性』を話して置いて。
あの時は他人事だと思っていたけれど、自分自身に降りかかるとここまで信念が揺らぐのか。
けど――。
「乗らないわよ。乗ってたまるもんですか、こんなゲームに!」
言ってやった。センライってヤツは殺し合いを促進させるために餌を捲いてるにすぎない。
だったらその思惑を裏切ってやる。あんな連中の手のひらの上にいるなんてまっぴらごめんだわ!!
アイツだって、きっとそう思ってるはず。
私は知らずのうちに震えていた手を見つめ、握りこぶしを作った。
気合い一線。決意の証として、思いっきり机に拳を叩きつけようとした。
「待たせたあるね」
「お邪魔しま~・・・・・す?」
ドアが開き、トーイと知らない誰かが入ってきた。
絶妙のタイミングで、まさに今拳を振りおろした直後で、けたたましい音を立てながら机がしなった。・・・所を見られた。
空になったカップ麺の容器が机から転がり落ちた。
「・・・なんかこう、見かけによらずワイルドな女性ですね」
「わあああ、違う違う!」
「猫かぶってただけだったあるか、美咲・・・。まあ新しい一面が見れたというか、なんというかある」
「違うってば~~!!」
カノンは筆談しようと文字をメモに書いていたのだが、華麗にスルーされていたため蚊帳の外だった。涙。
◆ ◆ ◆
「これで対主催者チームが4人集まったあるな」
「正確には3人と1羽だけどね」
「わ、突っ込み取られた。なんか新鮮な感覚ですね。美咲さんはアレですか、常識人ポジションですか」
『でも良かったですね。アカルさんに会えて。チームを組むためには必ず信頼できる人を集めなくちゃいけないって、トーイさん言ってましたから』
「へえ。私の株も上がったもんですねぇ」
「うっさいある。アカルが開幕からゲームに乗ってるかどうかが心配だっただけある」
場所を若干北の民家に移し、再び会議。
お互いの自己紹介を兼ねて現在までの行動を洗い出しなおしていた。そして、これからの行動も。
「ゲームに乗るって言ったって、参加者全部シバキ倒して生き残らなくちゃいけないんでしょう?だったら、さっさと首輪外してトンズラですよ」
今も私の能力は使えませんし、とぼやく。ひんやりとした首輪が、リレッドの命を奪ったものだと思いだし、全員うつむく。
「・・・能力と言えば、アカルの支給武器は何だったあるか? まさかとは思うあるけど、その頭の・・・」
「あ、分かりました? コレです、うさみみ。 しかも能力は何にもなし。 ふざけてると思いません?」
「なんつーか、ご愁傷様ね、それは・・・」
トーイからアカルの能力について聞かされていた美咲は、苦笑する。
アカルは人間体では脆弱極まりないが、それとは逆にチートクラスに高い『ナノミスト調合能力』を持つ少女だと。
結局、弱いところしか残らなかったというわけだ。アムンゼンの人間体だからというのもあるが。
「アムンゼンと言えば・・・騎士団のエヴァが、やられたある。アレはアカルと違って人間体でも十分な強さのハズあるけど・・・」
「誰かに、やられたってワケね。トーイが言ってた、リメイカーも名前呼ばれていたわね。コレをぶん回せるほどの力を持ってたんでしょ、その人」
美咲自身に支給されたナワノツメを見る。これを容易に扱えるほどの腕力の持ち主が、最初の6時間、たった6時間で殺されるとは。
今までゲームに乗った人間に遭わなかった事を幸運に思わざるをえない。
『少なくとも、彼らを倒せるような実力の持ち主がいるという事ですから警戒するに越したことはありませんよ』
「そうですね。こうやって知り合いで合流できるというのはある意味幸運でした。私も一度襲われてますからね」
「アカルちゃん殺し合いに乗ったヤツに遭遇したの!?」
「ええ。実力的には―――大目に見て騎士団レベルでしょうか。黒い装束を着てジーナちゃんの刀を振り回してました。確か10本セットになってるあの刀ですね」
「ジーナちゃんの・・・刀?」
「私も全部見た事があるわけじゃないですけど、そのうちの4本ぐらい持ってましたよ」
『あの場所に残っていたのは・・・6本。計算は合いますね』
「・・・あの場所と言うと?」
「ちょっと話を整理するネ。ごっちゃになってきたある」
アカルに襲いかかってきた少年は黒い装束でジーナの刀を武器にしていた。そしてその武器は10本セットになっていて、残りの刀は南東の山に置いてあった。
それは、トーイ、美咲、カノンが先ほど確認したもので、彼らは"能力憑き"を警戒して回収はしなかった。
そしてその自称死神の少年が、1番最初にトーイが見かけ、今名前が呼ばれたセリナという少女を手にかけた線が濃厚ということも話しているうちに推測できた。
名前は分からないが、あの時時計のディスプレイに表示されていた『リース』というのがあの少年に関係ある単語なのは間違いない。
時間も大体辻褄が合う。合うが―――。
「トーイ。貴方、なんでジーナちゃんの刀のこと・・・・・能力憑きだと思ったんですか?」
「ワタシはジーナの刀についてロクに知らないある。警戒に越したことは無いあるしね」
「・・・・まあ、いいです。それよりもトーイ」
「? どうしたあるか」
「首輪なんですけど、解析しました? ホラ、あの便利なケーブルで」
「・・・無理だったある。というかそれを含めて没収されてたあるから、特殊な方法での解析は無理あるね。専門知識があれば別あるけど」
「そうですか・・・」
「ほら、しんみりしない!トーイもアカルちゃんも、これからどうやってこの殺し合いゲームをぶち壊すか考えないと!」
『ですね。この頭痛の正体も知りたいですし』
「じゃあ今後の方針を考えるためにも、もうちょい話を整理していくあるかね」
彼らの朝は――早い。
ここに3人と1羽の新たなパーティーが生まれた。
【南 図書館付近の住宅街―民家/1日目/早朝】
【神堂 美咲@希望と絶望の協奏曲】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ナワノツメ@吼えろ走馬堂(リメイカー)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:仲間を集めてゲームを破壊、あるいは脱出する
1:和輝との接触
2:トーイと共に他の参加者と接触する
3:危害が加わるようならば対抗して戦う意思あり
4:カノンをやや警戒 (殺し合いに乗った者が襲ってきたら生贄にする気満々)
5:新チームで情報交換
【トーイ@誰かの館】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:無し(地図と名簿はHDに書き込んであります)
[思考・状況]
基本:仲間を集めてゲームを破壊、あるいは脱出する
1:美咲とカノンと共に安全そうな参加者に接触 (殺し合いに乗った者が襲ってきたらカノンを生贄にする気満々)
2:首輪の解除をする
3:ケーブルを奪還。無ければ代用品を探す
4:リースという名に対して警戒(リース=死神装束の少年と推測)
5:新チームで情報交換
【カノン@紫色の月光】
[状態]:顔面に痣 、頭痛(軽)、疲労(小)
[装備]:黄色いリボン@理由のない日記(剣龍帝)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:仲間を集めてゲームを破壊、あるいは脱出する
1:トーイと美咲と共に参加者への接触を図る
2:身内(カイト、ガレッド、トリガー、メシア)との接触
3:出来ればマスクを回収したい
4:新チームで情報交換
トーイは、リレッドさんが殺された事を、どうとも思ってない。
とは思わないけど。リレッドさんの死を受け入れて、なお現実を直視している。強いなあ。
私はそんなに強くない。リレッドさんの死を受け入れたくない。助ける道があるなら、それが自分を捨てることであってもその道を進む。
身内に甘いと、だから言われるのだろう。
トーイは、コンピュータだからなんとかなる。データの復旧もどうにかなるだろうというのは、私の能力がナノミスト調合能力だから。
能力と言えば、いくつかウソをついた。このうさ耳には何も能力が付随していないと。
これで私は間違いなく弱者と認定された。トーイもそう言ってくれたことだ。残りの2人もそれを信じている。
まずはこのチームに溶け込み、生き延びる。
そしてある程度人数が減ったら・・・私が全員仕留める。
だから、待ってて。
リレッドさん。
騙してごめんなさい。
トーイ。
私は、ゲームに乗っています。
【瀬戸アカル@誰かの館】
[状態]:健康
[装備]:ウサ耳@アーニャ(T.C UnionRiver)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
(基本):殺し合いに乗り、リレッドを生き返させる
1:対主催者を利用し最後に裏切る
2:首輪を外す
3:トーイ、美咲、カノンを騙しながら情報交換
4:リースを警戒
(備考)
参戦時期は誰かの館SS2『ただそれだけのために』の直前。
刀は武器に出来ないのでそのまま放置する事にしました。
首輪は伸縮することが分かりましたが、解除の糸口にはなっていません。
また、自分が能力を保有している事や、殺し合いに乗っていることについては情報交換していません。
最終更新:2010年04月17日 01:45