(尾行者の狙いはこれか……!)
剣龍帝は尾行者――メシアの狙いと自分と共にいる3人の状況を理解した。
メシアの狙いはこちら側の知り合いがゲームによって死亡し、その内の誰かがショックを受ければそれをフォローする役回りが出てくる。
そして今、死亡者を告げる放送によってショックを受けているのはアステリア、アーニャ、クロードの3人。
「そ、そんな……」
「カティとシィルが、死んだ……?」
「ねぇ、嘘だよね……? 姉上が死んだって嘘だよね……!?」
やはりと言うべきか今の放送で死亡者の中に知り合いがいたようだ。
特にクロードは姉が死亡という最悪な事実を告げられて普段の天真爛漫さがみられない。他の2人は、アステリアは目に涙を浮かべ今にも声を上げて泣き出す寸前で、アーニャはその場に力なく座り込んで呆然としている。
もしその後、3人が上手く立ち直れたとしても、親しき者を生き返らすために他の参加者を殺しに行くのかもしれないし、逆に立ち直らず、そのまま殺されるかもしれない。
(最悪だな、尾行者にとって好都合な展開……。この放送が終わった瞬間、一気に仕掛けてくる!)
ショックを受けている3人の中、剣龍帝は冷静に背後から来る尾行者の襲撃についてどう対処するか考えていた。
今の放送の中に彼の知り合いであるレミエルとシュヴァルツも死亡者の中に含まれており、ショックを受けていないとは言えば嘘だ。
知り合いが殺されてショックを受けない人間はいない。
しかし、剣龍帝はそれを押し殺す。ここで立ち止まるわけにはいかない。
今この状況で動けるのは自分しかいないのだから。
「(3人には悪いが、ショックを受けてくれて助かった)……アステリア」
「……はい?」
剣龍帝から声を掛けられてアステリアは泣き顔のまま振り向く。
彼女の顔を見た剣龍帝は少し顔を顰めて唇を噛む。
何時見ても女の泣き顔は苦手だ。彼はアステリアの泣き顔を殺してしまった天妃の泣き顔を重ね合わせてしまう。
「2人を見ていてくれ、尾行者が仕掛けてくる」
「え……!?」
剣龍帝の一言で一気に現実に引き戻されるアステリア。
そんな彼女に目もくれず、剣龍帝は目を閉じて邪眼を発動するために意識を集中させる。
『それではまた6時間後の放送で会おう。諸君らの健闘を祈るぞ!』
センライが第一回目の放送を終えた瞬間、剣龍帝は邪眼を発動した。
同時に空気を裂くような音が背後から耳に聞こえる。
一瞬ナイフの類かと思ったが、背後から飛んで来たのは鋼鉄のワイヤーだった。
「龍帝さん!?」
ワイヤーに絡まれた剣龍帝を見てアステリアは悲鳴に近い声を上げる。
心配する彼女を余所に剣龍帝は内心落ち着いていた。
幸いにも3人が固まっている御蔭で自らの身体を盾にすることが出来た。
そしてまた空気を裂くような音が聞こえる。恐らく今度はナイフだろう。
このままの状態でいればまた盾となれるが、身長が高い剣龍帝でも体型は若干細いため何本か擦り抜けるのは明らかだ。
それならば盾の防御範囲を広くすれば良い、とっておきのモノを用意して。
◆ ◆ ◆
放送を終えた瞬間に左手に装着されたワイヤーシュート用の時雨を放ち、剣龍帝を拘束したメシア。
3人がショックを受け、1人がフォローをするという狙いが成功した。
後は全員を殺害すれば、4人のうち剣龍帝が持っているカイトのダークネイルブレードを取り返すことが出来る。
そう思いながら、フォローに回った剣龍帝の後頭部と背中、おまけとして彼の前にいる3人に向けて投擲ナイフの吹雪を投擲する。
最初のナイフが剣龍帝に迫った時、まずは1人目を殺ったと、メシアが確信した瞬間、我が目を疑った。
「なッ……!?」
ありえないモノを見た彼女は驚きを隠せなかった。
何故なら剣龍帝の背中から一瞬のうちに黄金の翼が生え、ワイヤーの拘束をぶち破り、それをクッションにしてナイフを受け止めたのだから。
さらに驚くことがもう1つ。剣龍帝の後頭部と背中に刺さる筈のナイフが弾かれたのだ。
「狙いは、完璧だったはず……!?」
相手にショックを与えた筈が、今度は自分にショックを与えられた。
普通だったら刺さる筈のナイフが何の道具も使わず身体一つで、あろうことか回避行動もせずにただ突っ立ったまま防ぐとは思ってもみなかった。
それもその筈、彼女が殺そうとした男は人間をやめた人間なのだから。
◆ ◆ ◆
剣龍帝が身体一つで3人の盾になり、地面にナイフが落ちる音を聞いてアーニャは彼の方に振り向いた。
自分より少し前にいるアステリアは、彼の行動を一部始終見ていて絶句していた。
隣にいるクロードはまだショックを受けているようだが。
「大丈夫か?」
剣龍帝はナイフが背中と後頭部に当たったことを気にせず3人の無事を確認した。
慌ててアステリアは自分とクロードの安否を確認して「はい」と肯定。
それを聞いた彼はホッとして小さく微笑む。
剣龍帝の笑みを見たアーニャはやっと、この男が自分たちを守ってくれたことを理解した。
そして少しずつ冷静になり、3時間前の不信感が徐々に薄れつつある。
だが、1つだけ聞きたいことがあった。
「お前、何者なんだよ……」
そう、目の前にいる男がどんな存在なのか。アステリアとクロード、自分を含めて害をなすのかそれとも……。
「味方だよ、お前たちの……。だから俺が、お前たちが立ち直るまで護る、約束だ……!」
決意を固めた顔で剣龍帝は断言し、宣言する。
それから彼は背中の翼と邪眼を収め、背後にいる襲撃者に振り向いて自分たちを護るように前に出た。
◆ ◆ ◆
正直に思えば人の身を捨てた身体で良かったと、この時ばかり剣龍帝は感謝した。
最愛の人を殺したのと同時に、自らの心臓を対価にして身体を龍の硬い皮膚と同じようにし、進化させた龍眼を心臓代わりにして今まで生きて来たことを
「さて、尾行者の面を拝むとするか」
そう言いながら地面に落ちていたワイヤーを拾う。
拾ったワイヤーは襲撃者であるメシアの存在を導くかのように伸びていた。
さらに精神的ダメージを受けていたメシアはワイヤーの回収を忘れていたようだ。
「フンッ!」
カツオの一本釣りのようにワイヤーを引っ張り上げる。
それに伝ってメシアが軽く宙へと釣り上げられ落下、そのまま引き摺られてしまう。
しかし、このまま黙って引き摺られるほど彼女は甘くなかった。
メチャクチャながらも身体を起こし、立ちあがると同時に剣龍帝に向かって走る。
手の感覚でワイヤーの張りが緩んだことを感じ取った剣龍帝は、ワイヤーを手放した。
剣龍帝がワイヤーを手放したのを察したメシアは深追いせずにその場に立ち止まる。
気づけば、距離はお互いに顔が見えるぐらい近くにいた。
「やはりお前か、メシア。ネットで位置と名前を確認してもしやと思ったが……」
「……私は貴方に一度も会ったことありませんが」
剣龍帝の発言に一瞬だけ驚くが、直ぐに思考を切り替え、警戒しながら向こうの出方を探る。
無論、剣龍帝も彼女を警戒し、いつでも攻撃が出来るようにダークネイルブレードを構える。
「だろうな。だが俺はお前を知っている。まぁ、今はどうでも良いことだ。お前の目的はこれだろ?」
「ッ……」
彼女に見せ付けるように剣龍帝は装備しているダークネイルブレードを突き出す。
その行為が癇に障ったのかメシアの表情は険しくなる。
自分の主であるカイトの武器を我が物顔で使っている剣龍帝がこの上なく腹立たしかったようだ。
「で、だ。これと交換条件で俺たちを見逃せ」
『え!?』
まさかの見逃せ発言で自分も含め、剣龍帝の後ろにいたアステリアとアーニャが驚きの声を上げた。
何を言っているんだこの男と未だショックを受けているクロード以外の3人は思った。
そんなこともお構いなしに剣龍帝は続けて言う。
「お前の狙いである死亡者の放送を利用して俺たちにショックを与え、その隙に一網打尽とする策は失敗した。ここで強引に行動をすれば大ダメージを受けるのはどっちだ?」
あえて剣龍帝は戦うことを選択せず、口論に持ち込んだ。
確かに3人を護ると言ったが、戦うことで彼女らを護り通すことが出来るとは限らない。
戦闘中に隙を突かれて3人のうちどちらかが殺されるという危険性があるからだ。
尤も、一番の理由は不殺を貫くと言ったアステリアとまだ幼い(剣龍帝から見れば)アーニャとクロードに血生臭いことを見せたくないからである。
ここでメシアが承諾すれば戦いは避けられるし、断って仕掛けて来た場合は戦うことになる。恐らく、後者の方を彼女は取るかもしれないが……。
もし、戦闘となればクロードをアステリアとアーニャの護衛に付けさせたかったが、生憎クロードも他の2人同様ショック状態なので、3人を護りながら戦わざるを得ないだろう。
「選べ。これを受け取って引くか、俺を強引に殺しに行くか」
「…………」
果してメシアの選択は剣龍帝の思惑に乗るか、反するか。
【南西 展望台と灯台の中間あたり/1日目/早朝】
【アーニャ@T.C UnionRiver】
[状態]:精神的ショック(中)
[装備]:???(確認済み)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない
1:死亡者の中に身内がいてショックを受ける
2: 剣龍帝に不信感
【剣龍帝@理由の無い日記】
[状態]:健康
[装備]:ダークネイルブレード@カイト(紫色の月光)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:終盤まで傍観しつつ黄色いリボンを探す。隙あらば主催側を壊滅する。
1:3人が死亡者にショックを受ける。
2:立ち直るまで護ると3人に約束する。
3:尾行者の奇襲を防ぐ。
4:メシアにダークネイルブレードを逃走の交換条件とする。
5:大帝を警戒
【アステリア@T.C UnionRiver】
[状態]:精神的ショック(小)
[装備]:グラビィの操作書「ケフェウス」 @アステリア(T.C UnionRiver)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗らない、誰かが殺しに来ても殺さない。不殺。
1:死亡者の中に知り合いがいてショックを受ける。
2:剣龍帝に声を掛けられて少し現実に戻る。
【クロード@T.C UnionRiver】
[状態]:精神的ショック(中)
[装備]:真凰・炎魔@如月和輝(希望と絶望の協奏曲)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:騒ぎを見つけて首を突っ込む
1: 死亡者の中に身内がいてショックを受ける。
【メシア@紫色の月光】
[状態]:健康
[装備]:天津風吹雪・瀧波時雨@レニー(T.C UnionRiver)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗る。マスター以外を皆殺し
1:死亡者にショックを受けさせたが、奇襲に失敗する
2: カイトの武器を持っている剣龍帝を殺す。
3: 剣龍帝の交換条件を選択中。
最終更新:2010年04月17日 01:44