中島「メインイベントキタ! これで勝つる!」
遊佐「落ち着け中島。まだ競技すら始まってないから」
中島「お前マジでダイヤの結婚指輪のネックレス指にはめてぶん殴りますよ? 君はこの美しい光景を見て何とも思わんのか!」
遊佐「光景ったって、全校生徒が応援席に並んでるだけだろ。別に何とも思わん」
中島「えっ! マジで? オレの友人でありながらこのありがたさに気付かないの!?」
中島「しょうがない。いいかい? まずはごまんといる全女子を見渡すんだ」
遊佐「ああ、見たぞ」
中島「違う」
遊佐「何がだ」
中島「オレは主に、女子の下半身を見ろと言っているんだ」
遊佐「お前変態な」
中島「黙れ。シャントット先生風に言うとだまらっしゃい」
中島「この光景を見ても楽しめないなんて、それだったら俺は変態でいい」
遊佐「お前今すごいこと言ったぞ。変態でいいのか?」
遊佐「向こう一年間ペンネーム:スパッツ☆大好きさん、って呼ぶぞ?」
中島「ああもう、うるさい。何でもいいから」
いいのか。
中島「女子の下半身を見て何か気付かないか?」
遊佐「気付かん」
中島「バッカだな遊佐。お前の目には何が映っている?」
中島「初夏の光をうけて健康的に踊る女子のブルマとスパッツだろうが!」
遊佐「おーい早乙女ー。ここに風紀を乱す変態が――」
早乙女「ん? 何事だ」
俺の声に気付いてくれたみたいだ。
風紀委員、早乙女不二子はさっそうと現れた。
中島「ちょ、おま、なんて奴呼ぶんだよ」
早乙女「何だ中島。私に何か用か?」
中島「ふむ、早乙女はブルマか。すらっとした体によく似合うぞ」
中島、お前は本人を目の前になんてことを言うんだ。
早乙女「なっ、こ、この下郎がぁ!」
中島「ちょ、ま、ぷげらッ!」
早乙女の愛刀、天の村雲の刀身が鈍く光る。
短い暗転。
刀を閃く早乙女の姿と、ペンネーム:スパッツ☆大好きさんの姿だけが白く浮かび上がった。
次の瞬間には無様に切り捨てられた中島の骸が転がっていた。
目にも止まらぬ居合い斬りだ。
チン、と刀を納める音だけが辺りに響く。
こ、これが早乙女北辰一刀流剣術極意『音無しの剣』なのか!
早乙女「貴様健全なる体育祭の最中に何を考えているのだ!」
早乙女「もうじき競技が始まるというのに、この破廉恥め! 大人しく座っていろ!」
早乙女は鼻をならし、中島を一瞥して歩いていった。
おぉ怖っ。
遊佐「お前すげえ、よく早乙女にそんなこと言えたな。感動した。
ありがとう」
中島「べ、べつに遊佐のためにやったんじゃないんだからねッ!」
遊佐「わかっとるわ」
中島はジャンク街の浮浪者のようによろよろと立ち上がった。
中島「突然だがここで解説しよう」
中島「このヴァナ・ディール学園、通称ヴァナ学は去年体操着が変更になり、今までブルマだったのが今年からスパッツになったのだ」
中島「なので一年諸君と一部上級生はスパッツで、それ以外はブルマとなっている」
遊佐「誰に喋っとるんだ中島」
中島「そりゃ君を通してこの世界を見てるキモオt――」
突然何かが目の前を一閃した。
ズバビシッ!
月影を残した美しい太刀筋が吼える。
中島「なんなんスかああぁぁぁ――」
次の瞬間には中島は大空に旅立っていった。
彼の悲鳴がドップラー効果とともに遠ざかっていく……
遊佐「おーおー、飛ぶ飛ぶ。人間ってあんな風に飛んでいくものなのか」
早乙女「す、すまんな遊佐」
早乙女「突然きゃつを斬らねばならぬと何者からかお告げがあったのだ」
早乙女「ふむぅ、これが神通というものなのか……?」
遊佐「いや、いい。神からのお告げは確かに届いたな」
遊佐「よくやってくれた早乙女」
早乙女「そうか? ふむ、礼には及ばん」
納刀し、ビロードのように美しく長い黒髪をひるがえす。
遊佐「ところで早乙女は今日なんの種目に出るんだっけ?」
早乙女「種目? 百メートルリレーとバリスタだ」
遊佐「ほほう。俺もバリスタに出るんだ。同じクラス同士互いにがんばろうぜ」
早乙女「ああ、もちろんだ。ともに全力で挑もう」
早乙女「さて、そろそろ一種目目が始まる。遊佐もいつまでも油を売っているでないぞ」
かくして体育祭は開幕した。