家に帰っても何もする気が起こらない
遊佐「ふう」
風呂入るかな、昨日入ってないし……
遊佐「現実離れした話、だよな」
でもこれが現実。逃げることは許されない。
遊佐「杏、待ってろよ」
風呂から上がる。
俺は電話を待った。
…………
ルルル……ルルル……
遊佐「来た!」
ピッ
遊佐「はい、遊佐です」
月島父『遊佐君、月島の父だが』
遊佐「あの、それで杏は」
月島父『ああ、杏は自分の記憶喪失を聞いたときもあまり取り乱す事なかった』
……取り乱さなかったのか?
月島父『というより、興味が無いという風にも思えた……』
遊佐「そうですか……。医者は会っても大丈夫と言ってますか?」
月島父『医者が杏に直接尋ねたら、一応は了承してくれた』
一応ってどういうことだろう。
遊佐「わかりました。ましろには?」
月島父『これから連絡するつもりだ』
遊佐「朝からでも、大丈夫でしょうか」
月島父『朝は検査があるので……昼からということに』
遊佐「わかりました。それではまた」
ピッ……
ついに明日か。杏、やっと会えるな……。

ましろ「おはよう」
遊佐「ああ、おはよう。ついに会えるな……」
ましろ「うん」
遊佐「今日は先生にお願いして俺は四限終わったら病院向かうつもりだけど、ましろはどうする?」
ましろ「私も、そうするよ」
遊佐「……悪いな」
何となくいたたまれなくなって謝る。
ましろ「ふふ、遊佐君は悪くないのに」
遊佐「そう、だな」
そうだ。俺達は一人じゃないんだ。

四限目が終わった。
俺とましろは教員室で頼み込んで何とか外出許可をもらった。
俺は熱く太陽が照らす道を真っ直ぐ見つめた。この中を歩いていくのは辛い。太陽が眩しい。
遊佐「よし、行こう」
ましろ「うん」
俺達はその中を歩き出した。

病院に着くと聖が待っていた。
聖「二人とも」
ましろ「聖ちゃん、大丈夫?」
聖「ああ、もう大丈夫」
遊佐「疲れたら無理すんなよ」
聖「うん」
ましろ「聖ちゃん」
聖「ああ、行こう。杏の所へ」
三人で向かう。
そして扉の前―
今、開けられる。
がちゃ……
白い壁がまぶしい。
杏「……」
杏が寝ていた。頭と左手首に包帯を巻いている。
月島の母と昨日の医師も居る。
月島母「わざわざ……どうもありがとうございます」
杏「あの、お姉ちゃん」
聖が歩み寄る
聖「どうしたの?」
杏が起き上がるのを聖が支える
杏「ましろちゃんと、誰?」
俺重たいものが俺の心にのしかかってきた。
こうなることは昨日から予想はついていたんだ。だから俺はずっと返答考えていた。
遊佐「俺の名前は遊佐洲彬。最近になって同じクラスに転入してきたんだ」
うん。そうだ、言おう。
遊佐「俺と杏は彼氏と彼女。つまり付き合ってたんだ」
この言葉がどれだけ杏にショックを与えるか分からなかったけど、引いちゃ駄目だ。
ましろ「杏ちゃん」
杏「わたしが、あなたと?」
遊佐「そう」
杏「ごめんなさい……、わたし記憶喪失らしいから」
遊佐「うん、聞いてる」
杏「でも、あなたの声聞いてると、何だかうれしい気分になる」
遊佐「そっか。それは俺もうれしいな」
杏「ましろちゃん。ありがとう、わざわざ」
ましろ「ううん。杏ちゃんに会えてうれしいよ」
杏「うん」
聖「気分はどう?」
杏「平気だよ」
…………
杏「あの、遊佐さん」
遊佐「遊佐でいいよ」
杏「えっと、遊佐?」
遊佐「何かな?」
杏「こっち来てくれる?」
俺はベットの横へ歩く
杏が白い右手を伸ばしてくる。
俺も右手を伸ばして手を掴む。
杏「温かいね」
遊佐「ああ、温かい」
俺のことは忘れているけど、杏が普通に俺と話してくれることがうれしい。
杏「何だか安心する」
遊佐「俺も、今安心した」
杏「あはは」
遊佐「ははは」
これなら大丈夫だよ。杏はここに居る。
最終更新:2007年01月19日 06:51