-自宅-
遊佐「よし、腫れも完全に引いたし、もう大丈夫だな!」
あの大事故から○日。
大げさな包帯のせいで、ダンプカーに撥ねられただの、熊に殴られただの、マンドラにヘッドバッドを食らっただのと言う噂が流れたが、そんな事故を連想させた怪我も、すっかり治り、俺の額も元通りとなった。
あの事故で得たものは二つ。
1つは、椎府霞という子と知り合えたこと。
もう一つは、事故以前より2分も早く家を出る習慣がついたことだ。
これで遅刻はしない。まさに七転八倒!
ん?何か違う気がするが、まあいいか。
-通学路-
ふふふ、毎朝の走り込み。身体を鍛えるには最高のトレーニングだぜ!
そう、2分早く出たからと言って、走らなければ間に合わない!
よし、そこの十字路を曲がれば後は100メートル一直線!
ほぼ直角なカーブも、完璧なラインを描くことで、最小半径かつ最高のスピードで曲がることが可能になる!
瞬時に頭の中に複雑な計算式が浮かび上がる。カーブの角度、走る速度、遠心力……
それらを瞬時に計算し、解を
霞「先輩、おはよーーーー!」
遊佐「おお、おはよ……ってはや!!」
ワトソン君(仮)改め、椎府霞が、目の前を横切って行った。
あの子メチャクチャ足速いな。おお、すげー。人間でもドップラー効果って生み出せるのか。
それにしても、毎日あのスピードでこの角を飛び出してると、そのうち車に撥ねられるぞ……
-教室-
遊佐「中島、知ってるか?」
中島「内容を言え」
遊佐「人間の筋肉は、運動したあと休ませることで、より成長、発達するのだ。というわけでお休み」
中島「お前、そのうち脳みそ溶けるんじゃないか?」
ましろ「遊佐君、次シャントット先生の授業だよ?」
遊佐「やっぱり授業は真面目に受けなきゃね、中島君!」
中島「……」
ましろ「……」
-中庭-
何とか午前の授業を乗り切った俺は、中島と一緒に中庭の一角で
昼休憩を満喫していた。
この場所は、校舎と植木のちょうど影になり、直射日光が当たらない上に、風通しがいいため、とても気持ちがいい。
かなりの穴場だが、やはり知る人ぞ知る場所となっているようだ。(俺も中島に初めて教えてもらった。)
加えて、先着がいる場合は、遠慮するのが暗黙のルールらしい。今日は運が良かったようだ。
野郎二人で昼食を貪ったあと、俺たちは昼のまったりタイムを満喫していた。
遊佐「あー、1限目から起きてたせいで、無性に眠い……」
中島「ダメ。寝かせない♪」
遊佐「ヤメテー。お嫁に行けないー!」
中島「これを見てもそんな台詞が吐けるか!?」
遊佐「な!これは"月刊Voluptuous Vivian"!」
中島「今回の袋綴じはレベルが違うぜ!?」
遊佐「中島!お前ってやつは!」
中島「いざ!」
遊佐「待てゴルァ!カッターナイフを使えとあれ程……」
???「はい、どうぞ。」
遊佐「お、サンキュー。ほら見ろ、袋綴じ用にカッターナイフを常時持ち歩く!これこそ基本中の基本……っておわぁ!」
俺の背後から伸びた手に持たれたカッターナイフ(刃が出てた)を受け取りつつ、それを差し出した相手を見ると、そこにはワトソン君(仮)改め、椎府霞がいた。
遊佐「いつからそこに?」
霞「んと、『君のためなら死ねる』辺りからかな。」
中島「それは3日ぐらい前じゃないかい?」
霞「え?そんなこと言ったの?」
遊佐「俺が?こいつ(中島)に?死んでも言わない。 むしろ、自分が助かるためならこいつを殺す。」
中島「俺はお前のそういうところが気に入ってるよ……」
霞「ねねね、それより、その中どうなってるの?」
中島「さすがにコレを女子と一緒に見るのはどうかと思うんだ。」
遊佐「珍しく同意見だね。」
霞「それじゃ、カッターナイフ返して」
遊佐「中島!覚悟を決めろ!!」
中島「ちょ!何で俺にカッターナイフ押し付けるの? ってお前それでいいのかよ!?」
遊佐「これも美しい袋綴じを守るためだ! だが決して俺自身の手は汚さん。」
中島「お前いつもは嬉々として袋綴じ開けるくせに! ええい、自棄だコノヤロウ!」
霞「おぉー。これはすごい!」
遊佐「いや、君は少し恥ずかしがるべきだろう」
霞「そうかなぁ? ほら、あたし胸あんまり無いから、おっきなのに憧れるんだよねー」
遊佐「そんなもんか?」
霞「ローラちゃんなんかは、『オッキクテモ、イイコトナイデース』って言ってるけど、それは持ってる人の悩みだよねー」
中島「ローラって、"ローラ・コルセール"?」
霞「そうそう。ボインボインなのよねー。うらやましい。」
中島「今度紹介してくれ!俺のイーグルアイを持ってしても見抜けないあのスリーサイズを知るチャンスが!これで俺のデータも完璧に!」
遊佐「鷹の目とは大げさな。というか、データってなんだよ。」
中島「ちょっと待て。それは俺に"お前の存在って何?"って聞くのと同義だ!」
遊佐「え、そうなの?って、それはもういいから!」
霞「先輩は、やっぱり胸の大きいほうが好み?」
自分の胸に両手を当てながら、椎府さんが尋ねてきた。
この場に彼女の"先輩"は二人いるが、視線から察するに俺に対する問いかけなんだろう。
遊佐「さー、でかいのに越したことはないと思うけど、そんなのは相手に依るだろうしなぁ。」
中島「だなぁ。バスト100、ウエスト100、ヒップ100とか勘弁してほしいよな。」
あははは。と椎府さんが笑う。お、今まで気づかなかったけど、結構かわいいなこの子。
そう思うと、一緒にエロ本を見てるのが妙に恥ずかしくなってきた。
誤魔化すように本を見る。
遊佐「お、これはなかなかのチラリズム!」
中島「まだまだ青いな遊佐。時代はもうメイド服だ!」
霞「え?そうなの?」
遊佐「中島!お前どんどんコアな方へ行ってしまうな……」
中島「バッカ、お前、今巷ではメイドカフェが大流行だぞ!」
遊佐「時代に飲まれるな!」
霞「あははは、やっぱり二人とも面白いー!」
女子生徒「かすみー!次の授業いくよー!」
霞「あ、わかったー!すぐ行くねー!」
そんなやり取りをしていると、椎府さんのクラスメイトと思しき数人が、彼女を呼んだ。
霞「それじゃ、あたし行くね。またねー」
遊佐「おう、いてらー。」
中島「それじゃ、俺たちも行きますか。」
こうして、すっかり眠気から覚めた昼休みは終わりを告げた。
最終更新:2007年01月25日 00:08