喫茶店の前の入り口には確かにアルバイト募集の張り紙がしてあった。
喫茶店の外見は洋風で俺の目から見てもおしゃれだ、と思えるものだった。
遊佐「ここ、か」
よく見るとこの時間でも客が結構いる。
入ってみないことには話しにならない。思いきってそのドアを開ける。
遊佐「すいませんー?」
店長?「いらっしゃいませ」
店に入ると同時に声をかけてきた人はぱっとみ40代後半くらいと思われるような男性。
きりっとした面立ちで、どこかのバーでバーデンダーをしていてもおかしく無いような人だった。
遊佐「あの、アルバイト募集の張り紙を見たんですけど」
店長?「ああ、面接かな」
遊佐「はい」
店長?「そっちの部屋で少し待っていてもらえるかな」
客が居るので流石に今は無理なのだろう
遊佐「わかりました、失礼します」
俺は指差された部屋に入った。
その部屋は着替えをする場所も兼ねているのかさっきの人が着ていた男用の服と
遊佐「……メイド服っぽいのがある」
メイド服っぽいのがあった。
といっても派手すぎるわけでもなく男用とかけ離れているわけでもない。
遊佐「店長の趣味なんだろうなぁ」
こういう趣味もわからんでもないけど……思いきったな。
そして待つこと数分
店長?「やあ、待たせたね」
店長が待っていた部屋に入ってきた。
遊佐「いえ」
店長「私がこの喫茶店ポロゴの店長の松下です」
この喫茶店ポロゴっていうんだ。
遊佐「あ、遊佐洲彬といいます」
店長「ヴァナディール学園の子だね」
遊佐「あ、はい」
店長「よくこの喫茶店にヴァナ学の生徒の子が学校の帰りに来てくれるからよく知っているよ」
確かに帰りに気楽に寄るにはいい場所なのかもしれないな。
店長「君は二年生かな」
遊佐「え、何でわかるんですか?」
スリッパ意外に何か学年を示すものあるのかな
店長は微笑んで
店長「いや、何となくね」
とだけ言った。
店長「それでは、面接を始めようか」
遊佐「はい、お願いします」
面接……。その単語を聞くだけで緊張してきた。
店長「君は好きな子がいるかな?」
はい?
遊佐「え?」
予想外の質問に俺は素っ頓狂な返事をしてしまう。
店長「大事な事なんだ」
真面目な顔をして聞いてくる
遊佐「好きな子……ですか?」
店長「そう」
遊佐「好きな子、と言うのかはわかりませんが気になる子はいますが……」
というか何で他人にこんな話をしなけりゃいけないんだという疑問が頭を埋め尽くす。
店長「なるほど……。それでもしその子を好きになったら君はどうするかね」
何だ一体。
まったく予想もしなかった質問に俺は困惑するしかない。
遊佐「や、やっぱり告白する、と思います」
店長「そうか」
店長が何度かうなずく
店長「それで、断られたら君は何ていうかな?」
……断られたら何て言うんだろう。
友達でいてください?
遊佐「よくわかりませんが……」
相手の気持ちを考えると何を言うべきなのかを考えてみる。
遊佐「俺ならありがとうって言う気がします」
気持ちを聞いてくれてありがとう、かな……
店長「なるほどね」
店長が再び微笑んで手を伸ばしてくる
店長「それじゃあこれからよろしく頼むよ」
遊佐「え?」
俺はその手の意味を掴み損ねて店長の顔を覗き込む
店長「君を採用するよ」
遊佐「え、あ。ありがとうございます」
俺はあまりに唐突に採用が決定してしまいよくわからないまま店長と握手をしていた。
店長「人には、その心が大事なんだよ」
その気持ち、とはどのような心なのだろうか。
遊佐「は、はぁ」
俺はまだ状況をつかめないでいる
店長「それで、学校でもらった紙があるんだろう?」
遊佐「はい、あります」
俺は慌ててカバンからそれを取り出す
店長「店の前に張っていたように基本給の時給800円、時間は4時半から8時半まででいいかな」
店長「それと、アルバイト理由が生活費となってるけど日給にしたほうがいいのかな?」
アルバイトもしたことない俺にはよくわからなかったので取り合えずOKをした。
店長「それじゃあ、これを学校に必要事項を埋めて出せばいいから」
店長がサインをして返してくれる
店長「絶対親御さんにはちゃんと言わなきゃだめだよ」
俺は親にバイトの事は言うつもりは無かった。
けどこの人に言われると何故か言わなくちゃいけない気持ちになった。
もうバイト決まったことだし、一応話しておくべきかな。
遊佐「わかりました。親には言っておきます」
店長「うん。それじゃあ明日からでいいのかな?」
遊佐「はい、お願いします」
お金も厳しいことだし早目が助かる。
店長「うん、こちらこそ」
俺は明日からバイトをする店内を見渡して店を後にした。
遊佐「……なんだか変わった雰囲気を持った人だったな」
最終更新:2007年02月16日 20:19