黒井先輩と愉快なオカルト研究部


I...


8月1日


「うーわぁーー見えた~~~!」
ましろが電車の窓から身を乗り出さんばかりにはしゃぐ
「ましろっ危ない。ちょ、ちょっと落ち着いて……」(←聖)
「聖、あまり暴れるな」(←杏)
「そ、そんなこと言ったって、ましろが……こ、こらっ」
「っ、ちょっとっ……なんだってこんな席決めに……」
「潮の香りがここまで匂うな」(←早乙女)
穏やかに海を眺める早乙女さん
「うん。風も気持ちいい……来て良かったなぁ」(←神契)
「まだまだ、海は水着が勝負所だぜーー?」(←井草)
「う……じ、自信ないな……」(←神契)
「井草、その中年の様な目つきは止めろ」(←早乙女)
「早乙女、あんたには期待しているよ、うん。
 まさかスク水ではあるまいね?」(←井草)
「そ、そんな訳ないだろう……なんだその目は」(←早乙女)
2年の女子は正に女子高生、話に華が咲きまくっている
「あーーーーちょっと、何よそれーー!」(←霞)
「勝負ハ非情。ワタシの勝ちです……デハ、頂きます♪」(←……)
「……構いませんが、それには媚薬が入って、います」(←青島さん)
「ブホァーーーー!」
「うわ、ちょっとかかったでー。外向いてやってや」(←マトン)
青島さんとその友達は、トランプに夢中の様子
クラスのみんなとの約束
今日は海でキャンプの日だ
「会長、ダメですよ。会長はこっちです」(←狩人の子)
「そんなぁ~。あたしもトランプしたい……」(←しのぶ)
我が校の生徒会長は、サボっていた生徒会活動のツケを払っている
トランプに逃げたがる会長を書記が窘める
「今のうちに終わらせないと、海で泳げませんよ……」
「うぐぅ~~……」
ホント、あの人っていつもああだな。苦笑してしまう
「それでさー。その主人公が最後に親友にいうんだよ
 "俺はもう止まれない、彼女を守りたいのなら、俺を殺せ"ってさー
 そんで2人が激突するときさーあたし興奮しちゃって」(←モの子)
「……立ち上がってしまったと。都は本当に素直ね」(←奏)
「でもさーあたしはまだいいよ。龍子なんてさー」(←モ)
「わ、馬鹿っ、それはいうなっていったじゃな」(←龍子)
「飛び上がっちゃったんだよ。ピョーンと
 後ろの人がうわっ!とか驚いてたし」(←モの子)
「い、いうなっていったろーーー!」(←龍子)
「龍子、もう少し静かに……」(←奏)
あー、3年も賑やかだな。まあなんだかんだで結構な人数が集まった
「いいねー、女子高生だらけのキャンプ……
 遊佐、お前夏の王様だわ……」(←中島)
隣の中島が彼女達を見て感涙する
「そりゃどーも。でもあんま変なことするなよ
 男子比率が少ないからお前がやらかすと俺まで肩身が狭い」
「ふ……俺達の乗った列車は途中下車出来ないんだ……」(←……)
「何言ってんだお前は。降ろすぞ」
他の乗客に申し訳ないくらい、賑やかな列車道中
この場に彼女がいないのは残念だが、まあ仕方ない
車掌が俺達の予定地を読み上げる
「そろそろみたいだな。おーい、降りる準備しろよ~」


電車を降り、駅を出て10分程歩く
眼下の海に、歓喜の声が上がる
ましろが駆け出して、聖が後を追う
「はしゃいでるなぁ……」
その横をごつい車に乗ったミスターサベッジが通る
「よーしお前達!テントを持ってきたぞ!
 私のテント張りを見て惚れるなよ?」
あ、しまった、テントのこといってなかったな
「あーすんません先生。実は近くの宿見つけて、予約入れちゃいました」
「は……?何ぃ!?」
「すんません、テントいらないです」
「遊佐洲彬ーーー!何をいってるんだああああ」
フルネーム止めてくれよサベッジ
「ホントすんません。連絡し忘れてました」
「私はテントで寝るぞ!宿など……そんなもの邪道だ!」
いや、まあそれは別に構わないけど。監督務められてないよなそれ
海につくと男女それぞれ水着に着替え、浜辺へ出る
「うわ、つめたーーー」(←誰でもいい)
「早くーーー、はいろはいろー!」(←誰でもいい)
「おわっ、大胆ねえ……」(←誰)
「あたし泳げないんだよ~~」(←でも)
「んじゃいくよー、せーのっ」(←いい)
「遊佐君、中島君、早くーーバレーやろーー」
ましろが手をぶんぶん振っている
「遊佐、早くいこうぜ」
「ああ、今───」
浜辺へでようとした時、後ろの方で見慣れた顔を見つける
電車には乗っていなかった、現地合流の彼女に手を上げて挨拶する
「よっ。悪いな、面倒なことやってもらって」
「全くです。貴方が企画した旅行に、
 何故無理矢理付き合わされた私が協力など……
 まあ、貴方のセンスで選んだ旅館で眠れる気はしませんが」
彼女には、先に現地へ行って、今日泊まる宿の手続きをやってもらった
…………というより、宿についてあまりに煩いので、自分でやらせた
「まあそういうなよ。そのことはもうお互い納得したろ」
キャンプ……まあ今じゃプチ旅行だが
……への参加を頑なに拒んでいた茜を連れてくるのには、ホント手間がかかった
最終的に、俺の6元素の魔法知識を彼女に教える、
という取引によって、茜買収は成功した
6元素の力を本当に引き出せる式は、俺の中にしかなく
俺以外の人間には使うことは出来ないのだが
それに似た代用の式を使う事で、茜にも、性能は劣るが6元素を使う事は出来る
まあ、それじゃ癪なんで
俺も、彼女の魔法を教えてもらうという条件も潜り込ませた
「全く……あれだって、海へ行く交換条件のはずが
 結局わたしも貴方に教えることになってしまいましたし……」
「んまーそういうなよ。うちの部2人しかいなくて
 教師たちもそろそろ怪しみ出すだろうからさ」
茜とは6元素の魔法継承権を賭けて、かなり危ないことをした仲だ
最終的に継承権は俺のものになったが、決め手がなんだったかは思い出せない
まあでもそのおかげというか、彼女とは気安く話せる関係になった
「それに、その指輪もまだつけているし……
 不吉だから手放した方がいいと忠告したはずですよ」
「ん……ああ」
言われて、左手の中指の指輪を見る
銀色の、くすんだ色の目をした猫の指輪
この街にくる前の街で、300円で買った安物の指輪
「そうだな、俺もこれにはなんか変なものを感じる」
「世界の真実を知る私達が、どちらもそう感じているのです
 丁度いい機会です、この浜辺に埋めるとか────」
指輪を取ろうとする彼女から逃げるように、前に進み、振り返る
「いや……悪い。変な感じだけど、気にいってるんだ、これ」
「……全く」
呆れたような彼女に笑って返す
「ところで、そのチョーカーをつけたまま海に入るつもりですか?」
「あ……そうだった。さすがにそれはないな」
チョーカーを外し、バッグの中のケースに入れる
「はぁ……そのチョーカーにもあまりいい気はしないのですが」
「んー、そういえばこれ、俺が買った記憶ないんだよな」
「"知識の守り手"が絡んだものかも知れませんね
 彼らはさまざまな形態を取るといわれていますから」
「このチョーカーが、その守り手だったって?
 そりゃないだろ。だって今も残ってるし」
知識の守り手────
俺に6元素の知識を渡した、世界の力の一部
俺が知識を吸収した今となっては、
その存在は、初めからなかったモノとして、俺達の記憶から消えている
俺と茜は、「そういう存在がある」ということと
俺が6元素の知識を継承した、という事実から
その存在の干渉を事後的に認識しているだけだ
だからそいつがどんな形だったとか、どんな教え方をしたとかは、分からない
ここ1ヶ月の記憶は、全てそいつの所だけ霞がかかっていて
結果以外はよく思い出せない。いや、記憶から消えているのだ
だけど
「……だけど、いいやつだった、気がする」
「覚えているのですか?」
「んな訳ないだろ。でもさ、これって夢みたいなものじゃんか
 目を覚ますと思い出せないんだけど、でも感じだけは漂ってるみたいな」
「……そうかもしれませんね」
「それでさ。俺今すごく……なんてったらいいかな
 晴れ晴れとしてる、っていうか……いい気分なんだよ
 いやな夢の後だったら、なんとなく気分も悪いだろ?」
「…………そうですね、悪夢は覚えていなくても、後味が悪い」
「だから、こんないい気分の夢が、いい夢じゃないわけない、ってな
 そいつのことはもう分からないけど……それだけは言える」
「もしかしたら、貴方好みの女性の姿をしていて
 貴方はそれに絆されていたのかも知れませんよ」
「はは……切ないなそれ」
苦笑する。そんな継承だったら、そりゃ悪い気はしないよなぁ
「まあ、いくら能天気な貴方でも、
 守り手に恋をするなんて馬鹿な間違いはしないでしょうけど
 …………ねえ、やっぱりその指輪外しません?」
「なんだよ、外さないっていってるだろ。
 ほら、ましろ達が呼んでる。お前も早く着替えてこいよ」
呆れたような茜に手を振って、浜辺へ駆ける
その一瞬
誰かの笑い顔が目に映った気がした
「……眩暈か。ちょっと眩しすぎるもんな」
でも、なんとなく悪い気がしない
視界の先には、みんながいる
転校した先で出会ったみんな。
ああ、そうだな。この1ヶ月は色んなことがあった
そしてこれからも色んなことがあるんだ、きっと
"守り手"がくれた力を持って、未来に進む
夢の中から見守っててくれる"そいつ"の分まで
俺は今を、これからを楽しもう

最終更新:2007年03月13日 11:59