店長「それじゃ、今日はこれくらいにしておこうか」
霞「はーい、おつかれさま」
どうやらこれで終わりのようだ。
遊佐「お疲れ様でした」
俺は体を思いっきり伸ばす。
店長「はい、お疲れ様。明日からもよろしく頼むよ」
店長がお金を渡してくる。
霞「
ありがとうー」
遊佐「えっと」
俺は少し戸惑ってしまった。というのも働いてお金をもらうなどということは初めてで。
遊佐「ありがとうございます」
受け取ったお金は自分が働いたからもらえたお金である。
遊佐「なんだか、いつもとは違ったお金っていうのか、そういう何かがあります」
俺はお金を見つめる。
店長「働いてもらったお金は、親からもらうお金とは違うね」
店長「だけどね。親からのお金も、親がちゃんと働いているからあるんだ」
単純だけど、その通りだ。
霞「…………」
これが働くって事だろうか。実感がいまいち沸かないが、確かにこのお金は重みが違った。
遊佐「大事にします」
ちょっと何か変だけど、そういう気分だ。
霞「でも、お金って使うと無くなっちゃうんだよ」
遊佐「まぁ、当たり前だよな」
当たり前すぎて、気が付かなかった事だよなぁ。
霞「だけど、お金は必要だからね……」
霞の顔が曇る。
店長「……」
霞「よしっ。帰ろ、先輩」
霞が振り返る。その顔はもう笑顔だった。
遊佐「あ、ああ」
霞がドアを開ける。
店長「気をつけるんだよ」
遊佐「それにしても、まさか霞が居たなんてね」
霞「あはは。実は店長に頼んだんだ」
遊佐「頼んだって?」
霞「先輩を採用してください、って」
ああ、そっか……。
遊佐「それで、あっさり採用されたんだな」
霞「うーん、でも」
霞が考える顔をする。
霞「まっつんはその子次第だーって言ってたから、先輩気に入られたんじゃないかなー」
遊佐「そうかなぁ」
霞「そうだよー。人手が少ないから早く採用しようって言ってもなかなか採用しなかったんだもん」
そういえば中島の話だとなかなか採用してもらえないって話だったよな。
遊佐「んー、それじゃああの質問はなんだったんだろうなぁ」
霞「あの質問ってどんな質問だったの?」
遊佐「……内緒だ」
霞「あー、ケチ!」
遊佐「恥ずかしくて言えるか」
好きな人が出来たらなんて……。
霞「恥ずかしいことなの?」
遊佐「……微妙にな」
霞「ますます知りたいー」
霞が俺の腕を引っ張りながらただをこねる。
遊佐「だぁあ、止めい」
俺は何とか振りほどく。
遊佐「で、霞ちゃんの時はどんなこと聞かれたんだ?」
霞「わたし? わたしは何も聞かれなかったよ」
……………………
遊佐「はぁ?」
霞「ほんとほんと、名前聞いて少し話しただけで採用されたんだよ」
遊佐「なんじゃそりゃ」
ただあの店長の好みだったとか。だってあの服だし。
いや、でもさっきの話と店長の人柄(ちょっとしかまだ話してないけど)からそんなことしそうにないけどな。
霞「あー、でも初めて会ったとき何か驚いた顔をしてたかなぁ」
遊佐「ますますわかんねー」
店長の謎がますます深まってゆく。何だか謎多き人なんだよな。
謎といえばそういえば店長って何歳なんだろ。
遊佐「店長って何歳なの?」
霞「んー55歳だったかな」
遊佐「え、マジ? もうちょっと若いと思った」
霞「わたしも。若そうに見えるよね」
遊佐「うーん、俺もそうなりたいぜ」
霞「あははー、先輩には無理だよきっと」
背中を叩きながら笑う霞。
遊佐「……まじかよ」
こうやって霞と話してるだけで楽しくなってくる。
霞「あ、それじゃわたしはこっちだからまたねー」
遊佐「そっか。また明日な」
霞は手を振りながら駆け出して行く。
俺はその背中を見えなくなるまで見送った。
最終更新:2007年03月06日 21:42