霞「ねぇ、キミ」
遊佐「ん? 霞ちゃん?」
霞「ありがとう
遊佐「え、何が?」
霞「キミなら、きっと。ね?」

7/18(水曜日)

目を開けると日差しが顔に当たってまぶしかった。
遊佐「夢だったか」
ぼんやりと、覚えているけど殆ど忘れてしまった。
遊佐「誰か居た気がする。誰だっけ」
夢って目を覚ますと大体忘れてしまうものだよな。
夢は置いといて学校行く準備しなきゃな。

遊佐「さて、そろそろか」
俺は耳を澄ませていた。
遊佐「ほいっ!」
俺は咄嗟に横に飛ぶ。それと同時に横を通り過ぎる人。
霞「わ、わ、わ!」
それは霞だった。霞はその勢いで倒れそうになる。
遊佐「毎度のことだけど、止めようね」
霞「先輩がかわしたぁ」
遊佐「だって、なぁ」
霞がふてくされる。
遊佐「ほら、学校行こう」
霞「はーい」
校門まで来ると
早乙女「遊佐と霞か」
霞「おはよーございます」
遊佐「おはよう」
早乙女「うん、二人とも今日は余裕だな」
遊佐「朝からドタバタしたくないからね」
早乙女「いい心がけだ」
早乙女さんと会話をして下駄箱へ。
霞「それじゃあ、先輩。またね」
霞が階段を駆け上っていく。
遊佐「……相変らず、無頓着な」
それを見上げている俺も俺だけど
中島「遊佐ぁ」
中島が急に話しかけてくる。
遊佐「なんだい」
中島「最近霞ちゃんと仲いいな」
そんな恨めしそうな目で見られても。
遊佐「まぁな」
中島「まぁなって何があったんだよ」
遊佐「昨日、色々あったんだよ」
説明するとまたこいつうるさそうだし適当に流しておく。
中島「色々ってまさかお前!」
遊佐「お前の想像するようなことでは断じてない」
断じて無いとも言い切れないんだけど。

中島「へー、それで霞ちゃんと一緒のバイト先だったんですかー」
そんな棒読みで言われても。
中島「狙ってたんじゃないんですかー」
遊佐「だからさっきも言っただろ。知らなかったんだよ」
朝からうっとうしいな。
中島「ま、いいんだけどよ。バイトどうだったんだよ」
遊佐「どうだったんだって言われても、結構大変だなとは思ったぞ」
中島「ふーん」
霞ちゃんがいるからまだマシかもしれない。
知り合いがいるといないまた違うだろう。知り合いがいたらいたで気を使うかもだけど。
中島「おーい、ましろー」
ましろ「何?」
中島「今日ポロゴ行こうぜ。遊佐を見に」
遊佐「お、おい!?」
ましろ「あ、おもしろそうだねそれ」
遊佐「や、止めてくれませんかね……。まだ仕事も全然おぼえて無いからおもしろくないですよー?」
俺は少し下手にでる。
中島「お前をからかう事がおもしふべっ!」
聖「はぁ、他人を巻き込んでさらに他人をからかうな」
ましろ「聖ちゃんもいこうよ」
聖「え、だがそれでは遊佐が困るだろう」
遊佐「ハハハ、もう好きにしてください……」
中島「決定決定! 楽しみだどぁあ!」
とりあえず中島のイスの足を思いっきりぶち蹴っておきました。

霞「それで、この前の先輩達が来るんだ?」
遊佐「俺をバカにしにな……」
今日も二人で屋上で食べていた。中島は今頃一人食堂だろう。
霞「それなら早く仕事覚えないとね」
遊佐「お願いします、先輩」
霞「先輩に先輩って言われると変な感じだね」
遊佐「そうだな」
二人で笑う。
霞「それなら、わたし先輩のこと遊佐君って呼んでもいいかな」
遊佐「え? ああ、全然構わないぞ」
霞「それでね、遊佐君はわたしのこと霞って呼んで欲しいな」
霞がこっちを見ながらそう言う。
遊佐「……霞ちゃんがいいならな」
霞「やった!」
こんなにうれしそうにしてくれたら、俺もよかったと思う。
遊佐「霞、はそういえば何でバイトしてるんだ?」
霞「え、わたし? わたしはねー。そう、欲しいものがあるんだよ」
遊佐「へぇ、偉いな。何が欲しいんだ?」
霞「えへへ。それは、内緒」
遊佐「……そっか」
霞「それじゃあ遊佐君は何で?」
遊佐「俺? 俺は、生活費を稼ぐため」
霞「え?」
遊佐「いや、ある事情で実は俺って実家から離れて一人暮らししてるんだけどこの前中島達と遊びすぎちゃってさ」
遊佐「親に頼むのも嫌だし、この際だし自分でがんばってみようかなぁなんて」
霞「そうだったんだ」
少し暗くなる霞。
遊佐「ま、自分でなんとかやらないとこの先何もできないからな」
霞「そうだね」
遊佐「さて、そろそろ戻ろう」
俺はベンチから立ち上がる。
霞「うん、それじゃあまた後でね」
俺は少し考えて。
遊佐「よかったら一緒にポロゴまで行かない?」
そう提案してみた。
霞「え、いいの?」
遊佐「いいのって、俺は全然問題ないぞ」
霞「うん! じゃあ一緒に行こう」

待ち合わせの下駄箱へ俺は急ぐ。
遊佐「今日に限ってHRがながかった」
階段を一段飛ばしで駆け下りる。
遊佐「よっと!」
最後の三段ほどは飛び降りる。
やっぱり既に霞は待っていた。
遊佐「悪い、遅れた」
霞「まだまだ時間は余裕だからいいよ」
遊佐「待たせるのが悪いし、俺が嫌だからな」
俺は靴に着替える。
遊佐「んじゃ行こう」
霞「うん」
夏が来ていることを予感させる日差しだった。
霞「暑いね」
既に前がはだけている霞の服。暑いからってなぁ。
遊佐「暑いからって前をはだけすぎ……」
俺もはだけてるけど。
霞「遊佐君だって……」
遊佐「……まあな」
男女差別はよくない、ってことか? そういう問題ではない気がするけど。
ポロゴへ到着する。
霞「あー、涼しい」
遊佐「ふぅ」
店長「やぁ、二人とも。今日は一緒かい」
霞「うん。約束して一緒に来た」
遊佐「こんにちは、今日もよろしくお願いします」
店長「そう固くならなくてもいいよ」
霞「まだわたし暑いから、先に遊佐君着替えて……」
遊佐「俺も暑いんだけど」
店長「ははは、お客様が今は居ないから焦らなくてもいいよ」
霞「向こうで涼んでようかな」
遊佐「それじゃあもう暫くこのままで」
その内お客さんが来たので霞が先に着替えて仕事を始める。
遊佐「今日も俺は皿洗い……しかできないわな」
朝からの分も溜まってるし、やるっきゃないな。
とにかく、やれることをやって仕事を覚えないと。
入り口が開いた鈴の音が聞こえる。
霞「いらっしゃいませー、あ、この前の先輩方と中島先輩」
何!? 忘れていた!
中島「やぁ霞ちゃん、すごい格好だね」
霞「制服だからね」
ましろ「かわいいー」
聖「……ん」
三人の反応。
中島「それで遊佐はどこ?」
聞くんじゃねぇよ。
霞「あっちだけど、あっちには入っちゃダメです」
霞ナイス!!
中島「ち……まぁ後でちらっと見ておくか」
店長「立ち話はそれくらいにして座ったらどうだい」
店長が話しかける。
霞「あ、忘れてました。では三名様こちらへどうぞ」
確かに同じ学校の生徒がちらほら入ってくるようで、ましろ達も時々くるらしい。
霞「遊佐君」
遊佐「ん?」
霞「先輩達にはい、これもっていって」
遊佐「……なんで俺が?」
霞「遊佐を出せーって中島先輩が」
遊佐「あのやろう……。でも俺そういうのまだやったことないよ」
霞「知り合いだし適当でいいよ」
それでいいのか?
俺は逆らえるはずもなくそれを持っていく。
遊佐「ご注文のアイスティーです……」
中島「ぶはははは!!!」
中島が大笑いする。
ましろ「わー、すごい。まるで別人だね」
聖「なかなか似合っているぞ」
二人が感想を述べる。
遊佐「……それはどうも」
中島がまだ笑っている。明日学校で見ていろよ……。
遊佐「お客様、店内では騒がしくしないでください」
中島「わ、わりいわりい、ひぃひぃ」
思いっきりにらんでやった。
ましろ「あはは……」
聖「……ふぅ」

遊佐「はぁ、終わった」
最後のお客さんを見送って店を閉めた。
霞「お疲れ様ー」
遊佐「ほんと、もう勘弁してくれって感じだよ」
霞「でも、これから他の仕事の仕方覚えてもらわないとね」
遊佐「そうだったな……」
やれやれ。まぁしょうがないよな。
遊佐「それじゃあお願いします」
俺は頭を下げてみる。
霞「よーっし、それじゃあレジ打ちからね」
遊佐「はいよ」
レジの前に立つ。
霞「まずねー」
霞がまず手本を見せてくれる。
遊佐「ふむ。ここを押すとレジが開くのか」
見ていたら結構分かってきた。
霞「そそ」
そして暫く練習した。
遊佐「大分覚えたぞ」
これなら何とかできる気がする。
霞「飲み込み早いねー」
遊佐「そうか?」
これくらい誰でもできると思うけど。
霞「それじゃあ今日はここまで」
遊佐「ふう」
霞「で、掃除ね」
遊佐「……忘れてたよ」
そうだった。掃除しないとな。
店長「掃除はきちんとしないと、お客様は掃除していないことに気付くものなんだ」
遊佐「なるほど……」
昨日と同じ手際で掃除を進める。
とにかく早く仕事を覚えないと役に立たないからな。
霞「ほら、そこそこ」
遊佐「へーい」
そして掃除も終わる。
店長「おつかれさま」
今日のバイトもなんとか終了した。
霞「おつかれー」
遊佐「おつかれさまです」
店長「遊佐君がよく働いてくれるから助かるよ」
遊佐「そうでしょうか……。まだまだ仕事全然覚えてませんよ」
霞「でも、やっぱり一人でも増えるとラクチンだよ」
遊佐「それなら、いいけど」
店長「そうそう、大いに助かってるさ」
うーん。それならうれしいな。
霞「それじゃあ帰るね」
店長「気をつけて帰るんだぞ」
遊佐「失礼します」
俺は霞と一緒に店を後にした。
霞「楽しいな」
遊佐「ん? 何が」
霞「遊佐君と一緒にバイトできるのが」
遊佐「迷惑かけてるだけだと思うけどな」
霞「そんなことないよー」
遊佐「そっか」
霞「まだまだ暑いね」
霞は夜空を見上げる。
遊佐「これからもっと暑くなるんだろうけど」
霞「そうだね」
夏がくるのか。この前まで冬だと思っていたのにな。
霞「それじゃあ、またね」
気付くと別れる所まで来ていた。
遊佐「ああ、またな」
霞が走り去っていく姿を見ていた。
遊佐「うーん」
最近なんだかんだで霞と一緒に居ること多くなったよな。
遊佐「楽しいんだよなぁ、霞といると」
霞は俺の事どう思ってんだろうな。
遊佐「やっぱり、あそこまでされては意識するわな」
っていうか普通はしないよな。
遊佐「あー、もう。忘れようとしてたのに!」
帰ろう帰ろう。

遊佐「ふぃー」
バイト二日目が終わって何とか生活費が溜まったって感じ。
遊佐「いい機会だし長く続けてしまおう」
自立には丁度いいだろう。
遊佐「それに霞が居るしな……」
辞める理由もないし辞めるつもりもないさ。
遊佐「さて、寝るか」
明日もがんばるぞーっと。
最終更新:2007年02月21日 01:40