聖「このボケども! 呑気に会話してんじゃねえよ!」
剣を薙ぎ払いつつ罵声を浴びせる聖。
中島「わかってるよ! あーくそぅ! この中島蔵人、転んでもただじゃ起きねえぞ!」
だっ、とバスターソードを振りかぶって駆け出した。
敵は全部で六人。全員が手に得物を持っている。
聖「ったく、行くぞ!」
三年生「死ねやぁぁ――――!」
聖が振り返った瞬間、俺の目の前にいた彼女に一太刀あびせようとする男の巨漢がうつる。
聖の、驚いた表情が飛び込んでくる。
その瞬間、俺の脳から体に雷鳴のような命令がほとばしった!
『ヒジリヲ、スクイダセッ!』
遊佐「聖ッ!」
ほとんど無意識だった。
疾駆するチーターのようなスピードで身を投げ出すと同時に、俺は聖の肩を抱える。
俺にはその瞬間だけがスロー再生されているようにすら見えた。
ブンッ!
男の空気を切る斬撃。
しかし、すでにその場所には聖も俺もいない!
俺は男の一撃から、聖を救い出した。
だが、次に俺を待ち受けていたのは迫りくる地面だった。
(くそっ。こいつを傷つけるわけにはいかねえんだよ!)
とっさの判断が俺を最善の挙にいざなう。
いつか柔道の授業で習った受身の態勢をとった。
首を引っ込め、肩を丸めると、うまく地面を転がり始めるという手応え。
地面に激突した肩に痛みが走る。
顔を歪めながらもそのまま半回転したが、俺は途中でバランスを崩してしまった。
聖を抱いたまま、寝転がるような形で土の上をごろごろと転がった。
空と土が交互にぐるぐると踊る視界の中で、聖の怯えるように目を瞑った顔だけが俺についてくる。
ちっ! 受身が成功だとは言いがたいが、衝撃は何とか抑えられた!
聖を抱き、寝転がったまま三回転ほどしたところで仰向けになり回転を止める。
その時にはすでに俺の手のハンドガンはピタリと相手の風船を捉えていた。
たった二,三メートルの近距離にゆらめく男の無防備な風船。
寸分の違いもなく狙いをつけた俺の銃口。
今の俺には……外しようのないシチューションだ。
俺は勝利を確信した。
パァン!
デザートイーグルの銃口が、まるで
予定調和のように火を噴き――もとい、水を吹き男の風船を一直線に貫いた。
男の顔が唖然のそれに変わる。
まさか俺みたいなひょろい男がこんな身軽な動きをするとは思わなかったんだろう。
当然だ。
俺だって驚いているんだからな。
聖「ゆ、遊佐……やるな。お前」
遊佐「……いや、自分でもびっくりしてる」
俺の腕の中で、聖も唖然とする。
もしかして……
愛の力!?
愛があればご都合主義も許されるってこと!?
聖「……って、いつまで抱いてる!」
遊佐「ぐおっ」
拳が飛んでくる。
聖「……」
聖は立ち上がると、壁のように俺の前に立ちはだかった。
聖「……ほら。立ちなさいよ」
目の前に聖の白い指が伸びてくる。
遊佐「あ、ああ」
聖「何だその顔は。いいから早く立て。目立つだろ!」
手を握って、立ち上がる。
遊佐「やっぱり、聖は優しいな」
聖「っ! 心にもない賛美はいい! さっさと残りの奴らを片付けるぞ!」
三年生「おらぁぁぁ――!」
ボーっとしていた俺は絶好のカモだったのだろう。
俺めがけて、三年生が怒号とともに馬鹿でかい両手剣を振り下ろしてくる。
突然の一撃に驚いた俺が出来ることといえば、悪あがきで頭をかばうことくらいだった。
聖「遊佐に手を出すんじゃねえ!」
ガンっ!
何かが何かを強打したような音。
俺は顔を上げた。
俺を襲ってきた三年生が吹っ飛ぶ。
聖が相手の剣を、盾で強打してなぎ払っていたということに気づいたのは、頭を抱えていた両手をはがしたときだった。
聖「もう二度と、護るべきものを失うわけにはいかないんだ! 護るべき者すら自ら傷つけて、今更何が……!」
俺は聖のその背中に、本物の『騎士』を見た気がした。
けど、もう二度と、とはどういう意味だ?
聖はすでに一度、大切な『何か』を失ってしまったことがあるんだろうか。
聖「この世には『謝れば許される罪』もある――」
聖「けど『謝っても許されない罪』もまた、存在するんだよ!」
何を言っているのか、俺にはよくわからなかった。
少なくとも「今」の時点では。
聖「はあぁぁぁ――!」
吹っ飛ばした三年生に、聖の剣――セイブザクイーンが襲いかかる。
パァン!
風船が破裂する音。
遊佐「終わったか……」
そしてその音が、この戦いの終わりを告げる狼煙となった。