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??「ちょっと待ってよー!」
女の子が叫んでいる。
遊佐「焦るなよ」
??「だってー」
遊佐「ほら」
手を差し出す。
??「えへへ、ありがと」
女の子の手を握る。
遊佐「お前すげーな、女の子なのに」
??「そうかな?」
遊佐「お前みたいな奴、見たいことないぞ」
??「だってキミが絶対すごいって言うから見たかったんだもん」
遊佐「言うんじゃなかった」
??「えー、ひどいよ」
遊佐「まぁいいや。ほら」
後ろを向いて指差す。
??「わぁあ」
女の子のほうから歓喜の声が上がる。
二人が会話をしている。
遊佐「……」
………………。
遊佐「起きた……」
もそもそと這い出る。
結局結論はでなかった。
遊佐「遅かれ早かれ……」
避けられないことなんだよな。
いや、避けられることではあるんだけど。
遊佐「自分自身で決めたことだからな」
ここで曲げるわけにはいかない。
遊佐「うん……。早い方がいい」
と、思う。
窓の外を見る。
まさに、夏の太陽だった。
外はどうしようもなく暑い。
遊佐「……どうしようもないのは俺か」
苦笑する。いや、自嘲だろうか。
気合を入れたい。
遊佐「ここは一発……」
自分を逃げられない状況に追い込む。
受話器を取る。
遊佐「奴には電話代ももったいない」
そして繋がった先は。
中島「はい、中島です」
受話器の前で少し噴きそうになった。
声だけであの中島と分かる。
遊佐「あ、あの。中島蔵人君、い、いますか?」
中島「……俺だけど、何で吹いているんだ?」
遊佐「いやぁ、お前の電話口調が爆笑物だった」
中島「切っていいか?」
遊佐「まぁ、待てって。お前のおかげで緊張がほぐれた」
これは事実だ。
中島「あん?」
遊佐「お前、俺のこと応援してくれるんだよな」
すぐ切り出す。
中島「何を?」
遊佐「それでこそお前だ」
この馬鹿っぷりは間違いない。中島だ。
中島「なんかむかつくな……」
遊佐「今から外で会えないか?」
中島「そりゃ、かまわないが」
遊佐「んじゃ駅前で」
少し焦っている。焦る必要は無いんだけど気持ちが先に行く。
中島「すぐ向かえばいいんだな?」
遊佐「ああ」
中島「思い出したぞ!」
うれしそうに出会うなりその言葉。
中島「あれだろ? 駅前のラーメンの大食い」
遊佐「違う」
全然違う。
中島「まじで? あれは武田かぁ」
誰だよ。
中島「んーじゃあ町内ゴミ掃除をするという」
遊佐「そんなボランティア精神はない」
いや、本当はするべきだけど。
中島「まじで? これは大島かぁ」
遊佐「誰なんだ」
今度は口に出してつっこむ。
いや、大島俺のクラスにいたな。
中島「もうちょいまって」
………………。
中島「あ! 思い出した!」
遊佐「何だ?」
中島「あ、これ関係ないわ」
遊佐「自己完結するんじゃない」
まったく、こいつと話してると暇しないな。
中島「ふ、本当はわかってたぜ」
遊佐「ほう?」
中島「霞ちゃんのことだろう」
やっぱり忘れてなかったか。
遊佐「その通りだ」
中島「やっぱりな。ここで話すのも何だから公園でもいこうぜ」
遊佐「おうよ」
そして二人で場所を変える。
中島「で、なにか進展があったわけ?」
公園のベンチに座ると尋ねてくる。
遊佐「今日が一番の修羅場だ」
中島「まじでか!?」
中島が興奮している。
中島「で、どうするんだよ?」
遊佐「んー、まぁ決意が固まらないというか」
中島「えー?」
そんな残念そうな声だされても。
遊佐「だからお前に話して逃げられないようにする」
中島「ほおう、自分を追い込むというのか」
遊佐「その通りだ」
退路は自分で立つ。
いわゆる背水の陣ってやつだ。
中島「背水の陣だな」
遊佐「……まぁな」
ダメだ。こいつと思考回路が似ているなんて……。
遊佐「で、こっからシリアスな」
中島「あ、ああ」
俺は自分の考えていることを中島に話した。
中島「まじでか」
遊佐「ああ、多分まじだ」
中島「……お前、それってすごいんじゃねえの?」
遊佐「ありえない事じゃあないだろ?」
俺はそう思うけど。
中島「いや、普通ないって」
遊佐「んー、まぁそうかもなぁ」
考えてみれば俺がかなり特殊な例なのかもしれない。
遊佐「他にも色々あると思うんだがとりあえずそれだけ」
中島「そっか」
遊佐「で、今日こそ俺は」
中島「……」
深呼吸を一つ。ここで緊張してどうするんだ。
遊佐「告白する」
暑い……。こんな日くらいは涼しく。
遊佐「なんて都合良くいかないよな」
俺は炎天下、のもと視界が揺らぐコンクリートの上を歩いている。
遊佐「……」
白い建物が見えてくる。
大きな関門にも見える。
遊佐「間違いなく関門だけどな」
独り言もむなしい。
そう、ここは言わずもがな病院だ。
俺は今そこに踏み込んだ。
さぁ、いまこそ階段を駆け上る。
遊佐「……心の中で混乱しているようだ」
普通に階段を上っていく。
階段のある場所の空気はひんやりしていた。
思いっきり吸い込む。
体の中から冷静になれる気がしたから。
遊佐「……」
歩きながら言おうと思ってたことを思い出す。
遊佐「よし」
階段を昇りきった。
後は部屋に行くだけだ。
部屋の前に着いて思い出した。
遊佐「……ぅ」
ここ四人部屋じゃないか……。
しかも一人増えているじゃないか……。
ハードルが上がっていく……」
だが!
遊佐「失礼します」
う、なんで今日に限ってカーテン全部開いてるんだよ。
霞「あはは」
霞がベットの上で笑ったいた。
どうやら同室の患者の人と話していたようだ。
霞「あ、遊佐君」
遊佐「よお」
俺はあくまで冷静を装っている。
これが精一杯だ。
患者1「あら、やだ! まさか霞ちゃんのこれ?」
声がかかったのは明らかにおばさん。しかも世話焼くのが好きですと言わんばかり。
霞「まさかー」
う、これからなのに……。少し心が折れそう。
患者2「えー、違うの?」
今度は中学生くらいかと思われる、ませてそうな女の子……。
遊佐「……」
俺はどうしていいかわからず立ち尽くす。
霞「昨日はごめんね」
遊佐「いや、俺は寝ててくれたほうが……」
遊佐「その、調子が良くなるからいいと思うぞ」
何を言ってるんだ俺は。
霞「そう?」
遊佐「ああ」
患者1「そうそう。過労なんだから」
患者2「過労って疲れすぎってことだよね」
二人が会話をしている。
霞「そんなに疲れてた自覚はなかったんだけどなー」
患者1「またまたー」
手首を振る動作。あれは一体なんだ?
…………どうすればいいんだ。ここから抜け出したい。
遊佐「……あのさ」
霞「ん?」
遊佐「今歩ける?」
ええい! ここはさっさとここを霞と抜け出すのが上策と見た!
霞「大丈夫だよ」
遊佐「ちょ、っと話したいことがあるんだけど」
俺は視線を宙に泳がせる。
霞「わかった」
俺は霞と一緒に部屋をでた。
後ろからきゃーきゃー声がする。
…………もうあの部屋には入りたくない。
遊佐「……屋上です」
その通り、屋上。
こんなところしか思い浮かばないって、と誰かに言い訳をする。
干してあるまっしろな
タオルが目に入る。
霞「屋上だね」
遊佐「あのさ」
俺は神社の見える方向に立つ。
霞「うん……」
遊佐「俺達ってさ……」
少し考える。
ええい、どうにでもなれ!
遊佐「何年も前に会ってた、よな」
霞「……そうだね」
遊佐「もしかして。いや、もしかしなくても覚えてた、よな?」
霞「覚えてたよ」
背中の後ろに霞がいる。
どんな顔をしているのだろう?
悲しい顔? 暗い顔?
今まで霞が見せたこと無い顔だろうか。
遊佐「霞?」
霞「約束は……、覚えてないんだ?」
背中に重みを感じる。
手が添えられていることがわかる。
遊佐「約束……」
霞「覚えてないんだね……」
遊佐「……」
霞「それじゃ、駄目なんだよっ!」
霞が走り出す音が背中越しに聞こえる。
遊佐「霞!?」
追いかけないと!!
遊佐「ちくしょう!」
何が思い出しただ……!
一番大事なこと思い出してないじゃないか!
遊佐「約束を忘れてるのか……!」
くそっ! 今は……!
どこだ……!?
病院から離れたりはしないはず……。
遊佐「どこに……」
早足で探しまわる。
病院といっても結構広い。
遊佐「駄目か……」
もし女子トイレに隠れられたら無理だ。
遊佐「……」
一応病院周辺も探した方がいいか……。
遊佐「俺の馬鹿野郎……」
外へ飛び出す。
こんな暑い中には流石に……いないと思う。
遊佐「……冷静になれ」
部屋に戻ってるかもしれないじゃないか……。
遊佐「戻ろう……」
霞の部屋の前に着くと。
遊佐「……張り紙が」
"遊佐君立ち入り禁止!"
……はぁ。居るには居るらしい……。
遊佐「……霞、絶対思い出すから。思い出したらまた来るから」
今は思いを伝えるだけ。
遊佐「だから、待っててくれ」
ここが病院だなんて関係ない。
遊佐「じゃ、俺は帰るから……」
俺の声は届いただろうか?
どちらにしろ俺は約束を思い出さなくてはいけない。
思い出す、といっても自分の記憶の中になければそれまでだ。
だけど霞にあって俺にないはずがない。
なにかきっかけがあれば……。
遊佐「……何かないか」
それとも霞に何かヒントがなかったか。
夢で何か思い出せてもいい……。
遊佐「……」
………………。
遊佐「駄目だ……何も思い浮かばない」
あれから考え続けている。
既に窓の外は闇に包まれている。
遊佐「あー、くそ」
唯一ヒントになりそうなのは神社なんだけど……。
遊佐「……」
行こう。じっとしてられない。
遊佐「はっ……はっ……」
見えた……階段。
一段、一段、焦りながら登る。
だが足がついてこない。
遊佐「もっと、鍛えておけばよかった……な」
……ついた。
遊佐「何も見えないな……」
光の源は何もない所だ。
遊佐「ふぅ……」
神社へと近づいていく。
遊佐「何かないか……」
答えを探して、神社の扉を開く。
遊佐「ここは、違う……」
ただの勘だけど、それでも違う。
もっと、高いところ……。
遊佐「上……」
俺は自然と足が外へ向く。
横に生えた木が目にとまる。
……!
遊佐「まさか!」
これだ……!
遊佐「この上で俺は約束をした……?」
何の約束だ?
遊佐「何を約束した?」
自問する。答えは返ってこない。
遊佐「……行動あるのみ」
ここまで来たんだ。屋根の上だって行ってやる。
木を登ればいけそうだな。
少しずつ、枝を昇っていく。
遊佐「っと……」
正直足の疲労がやばい。
うわっ!
遊佐「あ、あぶねぇ」
足を踏み外した……。
遊佐「くぬ……」
たどり着いたそこは沈黙を保っていた。
遊佐「……」
何も見えない。
正面に回り込むと街の光が見えてきた。
光が足らない。
遊佐「懐中電灯でも持ってくるんだったな」
足場を確認しながら座る。
ここにくれば何かを思い出せると思ったんだが。
遊佐「駄目か……」
そこに寝っ転がる。
大した数じゃない星が見える。
汗をかいた肌に風があたり冷たい。
目をつぶる……。
遊佐「ほら、これ」
??「何?」
遊佐「やくそくだ」
??「ふーん?」
遊佐「これを入れておいて、持っとけば忘れないだろ?」
??「うん!」
遊佐「……うぅ」
朝か……。朝焼けが眩しい。
遊佐「ん、ん、……っくしょい!」
遊佐「って、うお!?」
夢が続いてる!?
遊佐「いや、これは現実……だ」
あのまま眠ってしまったらしい。
ありえねー。
遊佐「でも、ここで寝た甲斐があった」
遊佐「思い出したからな……!」
急いで戻らないと!
屋根から素早く降り、階段を駆け降りる。
遊佐「いったん部屋に……いや、このまま!」
最終更新:2007年04月28日 18:48