電車に揺られ、ようやくたどり着いた目的地。
そこは実家。
遊佐「何で鍵が開いてないんだよ」
くそっ、出かけやがったな。
えーっと、鍵持ってたよな。
遊佐「開いた。ただいま」
自分の部屋へと向かう。
遊佐「……」
久しぶりに来たけど……俺が離れたときのまんまじゃねえか!
遊佐「とりあえず手当たり次第だ」
年代的には結構古い地層にあるはず。
しまってある箱という箱を取り出す。
遊佐「どこかに……!」
あるはずなんだよ!
お守りが!!
遊佐「これも違う!」
くそ、暑い……。
窓を思いっきり開ける。
遊佐「結局箱のなかじゃないか……」
続いて部屋中を探しまわったけど。
遊佐「見つからねぇ……」
暑い……、汗が止まらねぇ。
……あ、多分親が帰ってきた。
居間へ降りる。
遊佐「ただいまー」
母「はぁ!? あんた帰ってきてたの? 連絡くらいしなさいよ」
遊佐「いや、ちょっと急用があって急いでもどってきたからつい」
母「ふーん。どんな用事」
遊佐「探し物。家に忘れてたものがあったから」
その忘れ物は思い出だった。
遊佐「ってなわけで、倉庫探してくるわ」
母「元に戻しときなさいよ」
遊佐「へいへい」
何を?
とか手伝おうか?
とかは言わない。
ま、わかっちゃいたんだけど。
遊佐「あ、その前に暑いから何か飲み物頂戴」
母「しょうがないわねぇ」
遊佐「あっちー」
母「ほら」
差し出された冷えたお茶を一気にあおる。
遊佐「うっし! 回復した」
…………。
倉庫はもっと暑かった!
遊佐「……」
虫干ししねえとだめなんじゃね?
遊佐「あ”づい」
遊佐「ここにはないということで」
なんてできるはずもなく。
遊佐「くそー、どこにあるんだー?」
ここにあるとは限らないけどさ……。
お守りだから多分引出とか収納スペースに入ってると思うけど。
遊佐「んー?」
無さそうだな。
遊佐「……うーん」
母「あんた、何探してるの?」
言われた。
遊佐「お守りだよ」
母「お守り?」
遊佐「うん。大事なもんなんだよ」
探す理由は聞かない欲しいところだ。
母「ふーん。どんなお守り?」
遊佐「たぶん合格祈願って書いてあると思うんだけど」
母「受験でもするつもり?」
遊佐「……一応一年後はその予定」
母「あんたが受かるかねぇ」
いや、それはひどいから。
遊佐「それより見おぼえない?」
母「あるわよ」
遊佐「そうだよなあるわけが……ってある!?」
母「あんたの部屋にあったから箱に入れといたわよ」
遊佐「箱って?」
母「引越しの時に詰めたやつ」
遊佐「え? まじ?」
母「そうよ。だって合格祈願のお守りをおいてけぼりにしてどうすんのよ」
遊佐「……変な理論だな」
母「ずっとあんた部屋に置いてたじゃない」
遊佐「そうだっけ……?」
母「自分の部屋のことくらい覚えておきなさいな」
遊佐「いやー、灯台もと暗いというかなんというか」
ってことは下宿先で封印されたままの箱の中に入ってる?
遊佐「それを聞いたからにはもう戻るかな……」
まさか下宿先にあるとは思わず。
母「その前にご飯でも食べてったら?」
遊佐「そうする」
母「本当に?」
遊佐「母さんが聞いたんじゃないか……」
母「断るかと思って」
遊佐「朝飯も食べてないんだって」
母「そんなにあわててたの? まぁいいわ」
っていうか外で寝てましたから……。

遊佐「んじゃ、ごちそーさん」
母「はいはい。お彼岸にはまた帰ってくるのよ」
遊佐「んー、覚えてたらな」
母「覚えてなさい」
遊佐「へいへい」
さて、この家の玄関をでて、行くとこといえば。
再び玄関をくぐる。
遊佐「ごめーん、やっぱ風呂に入って戻るわ」

遊佐「ただいまーっと」
返事はない。
誰もいないから当たり前だけど。
遊佐「さて、開けるか……」
特に必要も無くずっと開ける事のなかった箱。
箱が夕陽を浴びてオレンジ色になっている、
今ガムテープを……。
遊佐「ぬぎぎぎ……」
はがせなかった!
遊佐「頑丈すぎる!」
こうなったら……。
じょきじょき……。
そう、人間とは頭を使い道具を使える生き物だ。
遊佐「……変な考えが頭をよぎるのはきっと疲労のせいだ」
さて、探そう……。
遊佐「にしても」
まじで使わないような物がいっぱい入ってるな。
遊佐「孫の手なんてどうするんだよ」
いや、確かに背中がかゆいときは欲しいけど。
遊佐「どこに入れたんだ……」
箱の中身をすべて出す。
遊佐「無いじゃねえかぁああ!」
まいったな……。
遊佐「ん?」
間に挟まった袋が目に映る。
見たことある袋だ。
遊佐「この袋……」
んー?
遊佐「どっかで……。あ!」
自分の部屋にずっと置いてあったやつじゃん!
遊佐「あった……!」
袋から出てきたのはお守り。
お守りを開ける。
遊佐「これだよ……」

約束の居場所は見つけた。
"やくそく"も見つけた。
あとは……。
遊佐「約束の内容だ……」
一番、一番大事なところ。
遊佐「……はぁ」
もし、思い出せるなら夢でもいい。
遊佐「……」
その夢が俺の記憶なら……。

ここは…………どこだ?
暗くて見えるものは道だけ。
遊佐「……そう、都合よくはいかないもんだよな」
俺の記憶はこれ以上進んでくれはしないらしい。
遊佐「自分で探せってことか?」
それでも俺は夢に引っ張られているらしい。
遊佐「もはやこれは夢じゃないな」
何かはわからないけれど……。
遊佐「進んでやろうじゃないか」
……夏とは思えないひんやり感が……。
遊佐「ってここ現実じゃないしなぁ……」
独り言がむなしいぜ……。
遊佐「……やっぱあの人の力なんだろうか」
遊佐「……」
歩き続けてついた場所には。
遊佐「……なんでカレンダー?」
カレンダーが貼ってあった。
八月。
遊佐「八月……っていうか他にはなにもないのか?」
あたりを見渡してみる。
遊佐「行き止まりだしなぁ」
全く意味がわからん。
遊佐「ん?」
上ばかり気にしてたけど下の日にちに丸がしてある。
何日だろ……?

遊佐「ここで目が覚めるとは……」
結局あとは自分で探せということなんだろうか?
遊佐「最近こんな夢ばっかだな……」
平穏な夢をどこへ置いてきてしまったんだろう。
遊佐「で、とりあえずもらったヒントは八月だけども」
八月か……。
遊佐「夏……夏休み……」
…………。
遊佐「わかったことは俺の想像力があまりにも乏しいことだけだ」
ルルルル……。
携帯か……。画面にはクソ虫の文字。
遊佐「はい、もしもし」
中島「よぅよぅ」
遊佐「どうした?」
中島「いや、昨日の結果どうなったかなーとおもってさ」
遊佐「あー、簡単に言うとだめだったんだが。丁度いい相談に乗れ」
中島「まじで!? んー、うまくいくと思ったのにな。わかった昨日と同じでいいか?」
遊佐「ああ」
……クソ虫から格上げしておいてやろう。

中島「八月ねぇ」
遊佐「お前、八月つったらなんか思い浮かぶ?」
中島「海でナンパ」
遊佐「流石だな……」
中島「どういう意味じゃい」
遊佐「そのまんまだ。他には?」
中島「スイカだろアイスクリームだろ」
遊佐「小学生かお前は……」
だめだ、こいつの想像力も当てにならん。
中島「真面目な話このあたりで八月のメインイベントつったら祭りだろうけどな」
遊佐「祭りあんの?」
中島「あるわ。失礼な」
遊佐「……」
中島「んー、たしか日曜日だったなぁ」
遊佐「日曜日……」
中島「まぁこの辺では割と大きな祭りだと思うぞ」
遊佐「ふむ……」
中島「んで花火が川のとこから上げられるのがメインかな」
何かがはまった気がした。
遊佐「……それだ」
中島「あん?」
遊佐「よくやった中島!」
中島「え、えぇ?」
遊佐「今日からお前は中島だな!」
中島「いや、意味不明だからそれ」
遊佐「こうしちゃいられねえ! またな!」
中島「あ、いっちまいやがった……。呼び出したのはお前だろうが」
中島「まぁ、昔からあいつはあんなんだったなぁ」

遊佐「はぁはぁ……」
【画面次々切り替え】
遊佐「げほっ……」
病室の前にきた。
息を整える。
深呼吸、そしてノック。
遊佐「……ども」
昨日の二人も居づらいのか挨拶しか返してこない。
やはり閉じられているカーテン
遊佐「よぉ……」
霞「……」
こっちに背を向ける霞。
遊佐「ちょっと話したいことがあるんだけどいいか」
霞「……」
遊佐「よーし、それじゃあ勝手に喋る」
遊佐「俺さ。忘れてたんだわ。こっちに来ていたころのこと。何もかもというわけじゃないけど」
遊佐「それでも、大事なことは忘れていたんだな。それは俺も反省している。それに許してもらえるとも思わない」
遊佐「……夢を見たんだ。俺を導く夢。お前に導く夢。そこでも俺は忘れていたことを探した」
遊佐「それで実家までもどって探して、結局そこじゃ見つからなかったけどな。それでもやっと見つけたのが……お守り」
遊佐「お守りは見つけた、それでも何を忘れている? 約束って何だったか? その時は思い出せなかった……」
霞は沈黙を保っている。
遊佐「だけどな、やっとわかったんだよ。……中島のおかげだけどな」
霞「……じゃあ、最後にさ……」
遊佐「……」
霞「わたしを、捕まえて?」
布団が投げられる。
遊佐「ぶはっ」
遊佐「な、何だ?」
走っていく音が聞こえる。
遊佐「ま、まさか!?」
患者1「何やってんのよ!? 早く追いなさいって!」
患者2「がんばって!」
遊佐「……っ!」
無茶しやがって……!
絶対捕まえてやる……!
そしてもう離してやらない……!
遊佐「……すいません!」
病院を駆け抜ける俺は、形振り構わなかった。
俺ならどこに行く!?
遊佐「くそっ!」
今はしらみつぶしだ!
一階か!?
外は!?
中か!?
二階、三階、五階!!
遊佐「はぁ、はぁ……げほっ」
こっちにきてからは走ってばっかりだなまったく……。
でも、おかげで体力はついたぜ!
そもそも霞がとどまってる可能性だってないんだから
遊佐「動くしかねぇ!」
だから体を動かす!
遊佐「……!」
階段に躓いたことなんて気にしてられるかっ!
駆け上がり、駆け上がりようやく見えた!
遊佐「ここかぁっ!」
埃を上げながら、鉄のドアを開ける。
遊佐「はぁ……ふぅ……」
汗を拭きとる。
遊佐「みつけた……ぞ」
霞「……」
さて、腕を掴んで……。
霞「ひょい」
遊佐「む」
もういっちょっ!
遊佐「ていっ!」
霞「ほいっ」
遊佐「ぐぬ」
フェイントも混ぜて!
霞「さっ」
遊佐「やるな……霞」
霞「へへーん」
遊佐「それなら」
一歩前へっ!
遊佐「ていていっ!」
霞「……っ」
すんでのところでよけられる。
遊佐「とぁっ!」
もういっちょ!
霞「はっ」
遊佐「このやろっ!」
霞「甘いよっ」
遊佐「っと、あ、ありゃ」
渾身の一撃を避けられると、膝から力が抜けた。
遊佐「痛っ」
霞「わー、大丈夫?」
遊佐「……っ!」
と、見せかけて足首を掴む。
むんずっ。
霞「あっ」
遊佐「よっしゃぁあ! 俺の勝ち!」
霞「今のはずるいよ!」
遊佐「はっ、立派な作戦だろ?」
でも、もう限界。
っていうか、何でこんなことしてたんだっけ……?
遊佐「はぁ、よっこいしょっと」
フェンスの金網の力を借りなければ立てないとは……。
霞「でも、つかまっちゃったね~」
遊佐「……そうだな。正直、本気で逃げる気……なかったんだろ?」
霞「そうだよ」
遊佐「……やっぱりか……」
屋上に居たという時点で確信した。
まぁ、ここに来てからだけど。
霞「でも、気持ち的には追いかけて欲しかったんだよ」
遊佐「そっか……、ふぅ」
やっと落ち着いてきた。
霞「捕まえたんだから、ちゃんと話してよ?」
遊佐「ああ、任せとけ」
一つずつ語る。
約束のこと。
俺の今の気持ち。
謝罪も。
だから、罪の告白と愛の告白の両方を……。
遊佐「……どうだ?」
霞「うんっ!」
一応、罪の告白はオッケーがもらえたようである。
遊佐「よーし、じゃあ正式に言うぞー」
霞「わー」
遊佐「霞!」
がっと肩を掴む。
霞「わぁっ」
遊佐「好きだぞ!」
霞「へ、変なの~」
遊佐「変でもいい! このさい!」
霞「えー」
遊佐「……だから、キスしていいか?」
霞「それは、おあずけだよ」
遊佐「ちっ……でも、それなら好きだってのは?」
霞「もちろん、わたしも好きだからオッケーだよ」
さらっと言ってしまう霞は、やはり大物だった。
遊佐「そう、だな」
俺の彼女は、少し変わっていて、恥じらいが無くて、すごい奴。
遊佐「……うーむ」
霞「どうしたの?」
遊佐「プラスが足らないな」
霞「?」
遊佐「……かわいいからいいか」
霞「何それ?」
遊佐「わからなくていいぞ」
どうやら俺も、変な奴になっているらしい。
それは、それで霞に染まっているってことで。
最終更新:2007年05月10日 01:42