お呼びでなくてもブロン子なんだが?


主人公×晶子

○ 夕方・帰路

  夕焼けに染まっている帰路。歩く二人の間に割って入る存在はいない。

  ……一頭のワンコを除いて。

 晶子「フェンリルって言います」
  主人に頭を撫でられ、フェンリルは猫撫で声ならぬ犬撫で声を上げた。
 俺「大きくて、なんというか、強そうだね」
 晶子「でしょう? 家の近所で拾ったときは、カー君より一回り大きいくらいのサイズだったのに」
  言って、自分の両肩の上で丸まっているフェレットの顎をくすぐる少女。カー君は気持ちよさそうに目を細めている。
 俺「カー君も拾ったんだよね」
 晶子「ええ」
  表情に陰りが灯った。
 晶子「みんな独りぼっちなの。放っておけないでしょう?」
  きっと、彼らに自分を投影しているのだろう。自分と同じ孤独を抱えている彼らに共感を覚え、共有し合うことで傷を舐めあう。
  彼女の孤独の源は分からない。彼女の心を満たしてくれる、人間の友達はいるのだろうか。
 晶子「内藤くん」
 俺「は、はい!?」
  突然自分の名前を呼ばれて内心飛び上がってしまった。
 俺「な、何でしょう?」
  少女はためらいがちに吐息を漏らす。
 晶子「え、えと、また、いいかな」
 俺「え?」
  何がいいのだろう? なんて疑問に思う俺の鈍感なことよ。
  この場にブロン子さんがいたならば、きっとグラットンの餌食になっていたことだろう。
 晶子「また、たまに、帰ってくれますか……一緒に」
  なるほど、一緒に……
 俺「それは、もちろん。いつでもいいけど」
  それはきっと、俺が一瞬期待してしまったほどの特別なことではなく、いや、それでいて彼女にはきっととても特別なこと。
  俺は、カー君やフェンリルのような、いい友達になれるのだろうか?
 晶子「ありがとう
  少なくとも、今の少女の顔には笑みが存在していた。
 晶子「お礼に、もう一人友達を紹介します」
 俺「他にもいるんだ?」
 晶子「ええ。どこにでも」
  晶子は髪留めの羽飾りを取り外して俺に差し出した。
 晶子「これ」
 俺「これ?」
 晶子「そう。フェニックス」
  フェニックス――
 晶子「の、尾羽根です」
  フェニックス、不死鳥? というよりは、ただの鳩か何かの羽根に見えるような。鳩の友達だろうか。
 俺「これが友達?」
 晶子「はい。フェニックスからもらった、友達の証です。
  わたしの前には時々しか現れないけど、大切な友達の一人」
  そして――
  少女の瞳は、希望を秘めてどこか遠くを見つめていた。
 晶子「そして、わたしに「道」を教えてくれるの」
  彼女が何を言っているのか、今の俺には推し量る術が無かった。


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最終更新:2006年12月26日 22:55