一試合目-同学年同士-

遊佐「で、リーダーは早乙女じゃなくて俺なのか?」
ましろ「え、そうだよ?」
さも当たり前のように返答される。
聖「まぁ妥当だろうな。さっきの宣言からしてもな」
中島「嫌なら変わってやるぞ!」
早乙女「男ならびしっとやってみせろ」
神契「が、がんばってくださいね。リーダー、大変そうですけど」
全員から一致の意思が読み取れてしまった。
遊佐「はは、やってみるよ……。よっしゃ、話し合うぞ!」
遊佐「中島、最初の俺たちの相手はどんなだ?」
未だに同学年の顔もいまいち覚えてないというのに、個人個人のキャラクターなど把握しているはずもなかった。
中島「とりあえず全員男子ということだが、問題でもないな。運動のできは中の上ってところだ」
聖「だが林には気をつけたほうがいいんじゃないのか?」
中島「そうだな、あいつは陸上部だからな。だがやつは、森と仲が悪い」
指をさした方にいるのが森なのだろうか。ていうか、仲が悪いのに一緒なのはどうなんだ?
ましろ「じゃあ別にすればいいのにね」
早乙女「仲が悪いというのは言い変えれば、好敵手というのだ」
神契「ライバルというやつですねっ」
遊佐「つまり、そいつらは競い合ってて普段より力を発揮する可能性があると?」
早乙女「そういうことだ」
中島「そしてやつらは全体的には仲良しグループだからな。うまい連携の可能性もある」
連携を取るというのは作戦では非常に重要だ。後方、中堅、前衛……。
聖「それなら」
遊佐「ばらばらにして戦わせる方がいいか」
聖「む……、私が言おうとしたことを……」
遊佐「あ、悪い。それなら聖はどういう風にばらすように作戦を立てる?」
ここは聖に意見を聞いてみる。かしこさでは俺なんかよりは数倍いい。
聖「そうだな、一つ目に罠を張るとかはどうだ?」
遊佐「罠、ね。具体的には」
ましろ「机が倒れてくるようにするとか?」
聖「そんな罠を張ったら危険だから……。うーん」
早乙女「さっき話していたの囮はどうだ?」
遊佐「囮、ね。俺がやるって話だったけども……」
俺は神契さんを見る。
神契「?」
早乙女「獲物を探しているものは弱いものを見つけたら追いかけてくるものだ」
そこで全員の視線が神契さんに集まる。そこでぎょっとする神契さん。
神契「え、ぇええー?!」
早乙女「例えば中島。神契がひとりではぐれてうろついてたらどうする?」
中島「まぁチャンスだと思って仕掛けにいくだろうな」
早乙女「つまりそういうことだ、が。神契に囮が務まるだろうか」
中島「どうだろう早乙女が傍にいれば絶対安全領域保証付きだとおもうがね」
その通りだろう、と思う。
遊佐「それなら最初の作戦の通りでよさそうだな。俺囮で中島が攻撃。聖、早乙女はそれぞれましろ神契を守る」
聖「言われなくてもそのつもりだ。可能な限り神契も守ろう」
神契「あ、ありがとうございます。がんばります」
遊佐「あー、あと俺がやばいときは、早乙女に助けを求めてもいいか?」
早乙女「ふん……。情けないことを言うな」
ま、実際は助けを求めることは多そうだ。
中島「お前には俺がいるだろ!」
遊佐「よっしゃ、行こうぜ!」
まもなく、戦闘開始だ。
中島「スルーすんなよ!」

武器を選択……。
中島「よっしゃー! 今回はこれだ!」
無難に片手で持てる斧―片手斧―を選択していた。威力は高い。威圧感もあるし投げも許可されてはいる。(回収がめんどう)
聖「盾とこれだな」
聖は盾と片手剣をチョイス。流石に無難な選択をしていた。
ましろ「あ、これかわいい」
と言って選択したのは片手でもてるメイスと呼ばれるもの、だがかわいいようには思えなかった。それは鈍器です。
早乙女「……」
言うまでもなく早乙女は刀(模造)を選んでいた。
神契「……どれにしましょうか」
神契は難しいな。体が小さいから振り回されないような物が望ましいと思うが。
早乙女「神契は、これだな」
と言って細長い棒、を一本渡していた。
神契「わ、わわ。あ、ありがとうございま……す」
既に振り回されている、ような気がするぞ。
中島「お前はどうするんだよ?」
遊佐「今考え中だ……。小回りが利く方がいいな。武器はなしでもいいんだが……」
やはり持てるなら持っておきたいからな。
遊佐「決めた。短剣とダーツもっていく」
中島「ダーツね……実際あたるかな?」
遊佐「牽制用だから当たらなくていいさ」

バリスタが始まった―

俺と中島が動き回り敵をうまく釣る。聖はこっちの意図をうまく読み取ってくれて非常にいい動きをした。
早乙女の居場所へ逃げこめば早乙女が難なく処理してくれた。
中島「お前ら木が多いんだよーっ!」
と中島は林と森の連携にやられていたが……。ちなみに俺は逃げ回ってばかりだった。
作戦が功を労して一戦目は勝利を得られた。

ましろ「お疲れさまー」
遊佐「ああ、なんとか勝てたな。この調子で勝ち進んでいこう」
かなりいい連携が取れていたと思う。
早乙女「その心意気はいい。が、油断をするな」
中島「……」
一人だけやられてしまっていた中島が落胆していた。
遊佐「気にするなよ、お前二人も倒したじゃないか」
早乙女が三、聖が一で中島が二というなかなかの好成績だった。
中島「そ、そうだよな! よーっし次もがんばるぜ!」
聖「単純なやつ」
神契「中島さん、がんばってください!」
早乙女「しかし、忍先輩は何を考えているのか……」
遊佐「あの人は何考えてるかよくわかりませんからね。困ったもんです」
試合前に俺を応援してくれることになったメンバー達だが、良く考えるとなんだかおかしな感じがする。
中島「まー、あの人の場合愉快犯だろ。楽しめればオッケーみたいな」
ましろ「うーん、どうだろう……」
聖「……わたしは違うと思うが」
遊佐「ん……何でそう思うんだ?」
聖「いや、ただ漠然と違うと感じただけだ。何か確信があるわけじゃない」
遊佐「神契さんはどう思う?」
神契「わ、わたしですか。わたしも聖さんと同じで、今回は何かあるんじゃないかなって」
遊佐「うーん……難しいな」
神契「何か、無理をしているようにも見えましたけど……あ、全然そういうのじゃないかもしれません……だから、そのですね」
中島「あー、落ち着け落ち着け。神契さんの言いたいことはなんとなくわかったよ」
自信のもてなさそうな神契さんを中島がたしなめる。
遊佐「無理をしている、か。わからないな」
聖「私は、なんとなくあの雰囲気を知っているような気がした。だから遊佐、がんばろう」
遊佐「あ、ああ」
聖がちょっと沈んで見えた、ように思えた。
放送『次の試合が始まります。選手は開始地点に移動してください。繰り返します』
ましろ「よっし、次もがんばろ!」
中島「おっしゃ! 次はやられないぜ!」
聖「行こう、遊佐」
遊佐「おーっし! 行くぞ!」
早乙女「……」
神契「はいっ」

そして次々と勝利していった俺たちはついに決勝まで登りつめた。最後は甲賀先輩率いるチームだが。
村崎「遊佐、今ちょっといいか?」
遊佐「村崎先輩。どうしたんですか?」
村崎「大事な話があるんだ」
遊佐「わかりました。みんな、ちょっと行ってくる」
聖「わかった。早く戻ってこい」
校舎裏の誰もいないようなところへ連れて行かれる。が、そこには弓削さんもいた。
弓削「ごめんなさい遊佐さん」
遊佐「弓削さん。村崎先輩の話ってもしかして」
村崎「その通り忍のことだ。忍のことなら弓削のほうがよく知っているからな」
弓削「……遊佐さん。聞いてくれますか? 忍ちゃんの、本当の忍ちゃんの話……」
本当の忍ちゃん?
遊佐「……本当に俺に話していいの?」
弓削「はい。遊佐さんなら絶対大丈夫だと思います」
遊佐「わかった。それなら聞くよ。大事なことなんだろ?」
弓削「ありがとうございます」

弓削さんの話はこんな話だった。

ある雨の日だった。
ある交差点で一台の車と、中学生の女の子が事故にあった。女の子は病院に運ばれたが意識がなかった。
女の子はある物を買いに行った帰りだった。リボンで装飾された小さな細長い赤い箱が現場に転がっていた。
それはその女の子にとって大切な人への贈り物だった。誕生日の贈り物だ。
お姉ちゃんへの誕生日プレゼントだ。大好きだったお姉ちゃんへの誕生日プレゼント。
結局その子は四日後のお姉ちゃんの誕生日に亡くなってしまった。家族全員より、先に旅立ってしまった。
家族全員で泣き、その子は自身の誕生日を恨んだ。
お姉ちゃんは妹が大好きだったんだとおもう。ずっと大切にしていた。
少しずつ元気になってきたお姉ちゃんに異変があったと気づいたのは家族ではなかった。
私、であった。幼いころからそばにいた私。
家族もつかれていた。女の子を溺愛していた母は沈みに沈み、父は何にも力が入らなかった。
だから気付かなかったのだろう。
お姉ちゃんは、前より明るくなった。自分を変えようとするかのように。
その時だった。またお姉ちゃんが尊敬していたある人も、死んだ。事故だった。
しかしお姉ちゃんは前のように取り乱さなかった。ただその人に一番近い子とよく話をしていたと思う。
悲しみで心がつぶされないように、体がそうしたのかもしれない。
その時からだった、お姉ちゃんと呼べなくなったのは。

弓削「……私は忍ちゃんじゃないから何を考えているのかわかりませんが」
遊佐「……」
弓削「悲しくて、悔しくて……。いや、それだけじゃないと思うんです」
遊佐「弓削さんは、その……どうだったの?」
弓削「私は……、悲しかったけどそれ以上に辛かったです。忍ちゃんの壊れてしまいそうな姿を見るのが辛かったです」
弓削「段々元気になって、気がつくと……まるで妹のくーちゃんのように明るくなっていました」
遊佐「その、ずっと前の先輩はどんな人だった?」
弓削「……今よりずっと静かで大人しい人でした」
かなり衝撃的な話だった。甲賀先輩がそんな人だったとはとても想像がつかない。
それ以上に、なんて悲しい過去があったんだろうか。
村崎「遊佐君は……今の忍と、昔の忍はどっちが本当の忍だと思う?」
遊佐「俺は……どうなんだろう。村崎先輩はどう思いますか?」
俺の中では今の先輩が本当の忍先輩……なんだろうか?
村崎「私は、どっちも本物だと考えるかな」
遊佐「どっちも本物ですか」
村崎「本当なら私が決めることじゃないけど、どっちもやっぱり忍だと思う」
弓削「でも、私は……。昔から知ってたお姉ちゃんが本当だと思ってます……」
遊佐「俺はさ。本音で言うと良くわからない。でもそれを決めるのって俺達じゃないよな。先輩の言うように」
弓削「そう、でしょうか」
遊佐「それにその人人格って他人の数だけあるような気がするんだよな」
遊佐「俺から見た――忍先輩。弓削さんから、村崎先輩からみたそれぞれの忍先輩」
村崎「難しい話だな。本当なんてわからないな」
遊佐「結局本人が決めることかもしれないな」
弓削「本人が、決めること……」
村崎「そうだな……私もそう思える」
弓削「それなら、遊佐さんお願いします」
弓削「迷っている忍ちゃんを助けてくれませんか……? 行き詰っているお姉ちゃんを導いてくれませんか……?」
弓削さんは目をぎゅっとつむって涙を抑えているように見えた。必死な願いが伝わってくる。
遊佐「……。俺はそんな大それたこと出来ないと思う」
村崎「……遊佐」
遊佐「でも手助けくらいなら、俺にだって出来る。だから弓削さんも一緒に、ね?」
弓削「はい、だからお願いします……遊佐さん。お願いしま……す」
その声が震えていた。俺に何ができるだろうか……。
遊佐「忍なら……大丈夫だ。弓削さんが一緒で、俺が居て、友達がいて、支えてくれる人がたくさんいる」
村崎「そうだな……。いつでもあいつの周りには誰か居るからな」
弓削「……そうですよね。私も頑張りま……す。だから、ひっく……泣きやみます……」

遊佐「ただいま戻りましたよ」
中島「遊佐ぁ! 遅かったじゃねえか。間に合わないかと思ったぞ!」
遊佐「間に合ったんだからいいじゃねえか」
中島「いーや、今度俺に食堂でなんかおごれや」
聖「中島、うるさいぞ」
遊佐「あー、おごってやるから許せって」
中島「うっし、許してやろう」
早乙女「で、調子は……悪そうだな。遊佐?」
遊佐「……お前よくわかんな? さっきからかなり緊張してる」
実は相当、緊張している。さっきの話もあってかなりがちがちっぽい。
ましろ「うーん、そんなこと言われると私も緊張しちゃいそう」
神契「…………ほぇほぇ~」
神契さんは初めから飛んでいた。
聖「……負けてもいいんじゃないか?」
中島「なっ、何言ってんだよ?」
早乙女「そうだな。試合に負けることは悪いことじゃない。真の負けは自分に負けることだと私は思っている」
遊佐「真の負けは、自分に負けるか……」
早乙女「負けて悔しくて、さらに鍛練することを忘れないのが大事だということだ」
ましろ「なるほどぉ」
中島「でも、今回は負けたら次はないんだぜ!? 先輩は卒業しちまうし」
聖「中島の言う勝負はバリスタの勝ち負けの話だ。遊佐の勝負は、どこにあるんだ?」
遊佐「俺の勝負は、言うまでもなく忍にある」
聖「ならしっかり狙って見せろ。かっこよくな」
ましろ「がんばれっ遊佐君! 応援してるよ!」
中島「ばっか、聖。会長の言葉を忘れたのか? はじm」
ぶほぁっ! と叫び声をあげて中島が飛ぶ。
聖「バカはほっとけばいい」
遊佐「……いや。でもやっぱり初めてには興味g」
次は俺がふっとぶ番になった。
遊佐「ててて……。冗談だって冗談。結構本気で殴りやがって」
聖「ふふ。結構いいのが入ったと思うが?」
遊佐「ああ、ありがとう。これで戦えそうだ」
聖と早乙女に助けられたかな……。リーダーとして一つ俺も働かなければならないだろう。
遊佐「神契さん?」
神契「が、がんまりまふ」
遊佐「神契さん、落ち着いて……とりあえず負けてもいいから、割られちゃってもいいから」
神契「は、はい」
遊佐「自分が良いと思うように、がんばってみてくれないかな?」
神契「自分が、思うように……ですか」
遊佐「そう。それが一番大切だと思うから」
神契「わかりました……やってみます」
遊佐「そうそう。それじゃあ早乙女、後は任せた」
早乙女「ああ。任されたぞ」
最終更新:2008年03月01日 23:23