聖の作戦は昨夜のうちに実行された。
幸いましろちゃんに遭遇する事もなく、全て計画通りに事は進んだと言えよう。
ふっふっふ。
俺は勝利を確信していた。
これでましろちゃんは俺のものだ!
くわっ!
と、たわ言はこの辺にしておこう。
そろそろましろちゃんが来るはずだ。
リアクションが楽しみだなぁ。
聖「遊佐。気持ち悪いからニヤニヤするな」
遊佐「ふふっ。お前の作戦のせいじゃないか」
聖「まさか、お前……」
遊佐「ああ、昨晩早速実行しておいた」
聖「…………」
聖があきれた視線を送ってくるけど気にしないぜ?
遊佐「噂をすれば、だな」
ましろちゃんの登場だ。
傍目にも分かるくらい怒っている。
クラスのみんなもドン引きで誰も声をかけられない様子だ。
遊佐「やぁ、おはよう。ましろちゃん」
会心の笑みを浮かべて挨拶する俺。
それに対し、ましろちゃんは憤怒の眼差しで俺を睨みつける。
ましろ「遊佐君。やってくれたね?」
遊佐「ふふふっ。ましろちゃんらしくないね。そんなに激怒して」
クラスのみんなが遠巻きに俺たちを眺めているのが分かる。
あ、聖もそっち行った。
ましろ「こ、これが……」
遊佐「これが?」
ましろ「怒らずに居られると思う!?」
遠くからひそひそと「遊佐の奴何やったんだ?」とか。
「ましろちゃんがあんなに怒ってるの初めて見た」とか。
「何で遊佐はあんなに余裕なんだ?」とか聞こえる。
遊佐「そんな大したことしたっけなぁ」
わざととぼけてみる。
ましろ「遊佐君があんな事を吹聴してくれたおかげで!」
ばんっと机を叩くましろちゃん。
このましろちゃんは本気だな。
ましろ「お母さんがノリノリになっちゃったじゃない!」
ばんばんと再び机を叩くましろちゃん。
また遠くから「お母さん?」とか、聞こえてきたが気にしないでおこう。
遊佐「俺はましろちゃんの理屈に従って、ましろちゃんの許可が取れるようにしたつもりだぜ?」
ましろ「ぐっ」
遊佐「俺は何一つ嘘は言っていない。ましろちゃんのお母さんは大層喜んでたけどね」
ましろ「ぐぐっ」
遊佐「俺は俺の気持ちを、ましろちゃんのお母さんに伝えただけだ」
ましろ「ふにゃぁぁぁぁ!」
ましろちゃんが壊れた。
さすがに俺もびっくりだ。
ましろ「わ、わたしの計画がぁぁぁぁぁ!」
遊佐「まあ、これでましろちゃんは計画を優先する事は出来なくなった訳だねぇ」
ましろ「何であそこまでして、わたしの邪魔をするの!?」
遊佐「ましろちゃんが好きだからだよ」
にっこりと微笑んでみせる。
クラス中が一気にざわっとなった。
ましろ「あああああああ!」
頭を抱えてうずくまるましろちゃん。
イメージがどんどん崩れていくなぁ。
クラスのそこかしこから小声の会話が聞こえてくる。
ましろちゃんの復活にはもう少しかかりそうだから、聞き耳をたてておこう。
生徒A「ねえ、今の告白だよね?」
生徒B「た、多分」
生徒C「お母さんにどうとかって言ってたような……」
生徒A「じゃあひょっとして親公認の仲とかに!?」
生徒D「お、俺は認めん! 認めんぞぉぉぉ!」
生徒E「おい、落ち着けよ」
生徒C「そうだよ。せっかくの門出なんだし」
生徒A「みんなの柊さんを遊佐君が射止めたんだね」
生徒D「ああああ! 俺たちの天使が!」
生徒E「だからお前は落ち着けってば」
ふふっ、自分で傷口を広げたな、ましろちゃん。
ましろ「はっ」
遊佐「やあ、おかえり。ましろちゃん」
ましろ「しまっ」
我に返り、ましろちゃんは状況を把握したようだが、時既に遅い。
遊佐「これで学校にも話題が広がるね」
ましろ「ぐぬっ」
遊佐「ましろちゃんのお母さん含む、多くの人たちが期待するね」
あえて含むような言い方をしてみせる。
ましろ「あああああ、どうしよう。どうしよう……」
遊佐「『みんな』がましろちゃんの幸せを『期待』する」
いかん。にやけが止まらん。
遊佐「『みんなの幸せ』をましろちゃんは裏切れない」
ましろ「くぬぬっ」
遊佐「ふっふっふ。俺の勝ちだ。ましろちゃん」
つまるところ発想の転換なのだ。
ましろちゃんは『みんなの幸せ』の為に俺を切り捨てた。
では、逆に『みんなの幸せ』が俺とましろちゃんの恋仲であれば?
もう、ましろちゃんはそれを裏切れない。
聖の提案は、ましろちゃんのお母さんを巻き込む事だった。
ましろちゃんのお母さん、略してましママは、ましろちゃんにとっても大切な人だ。
俺は、ましママの仕事帰りを、ましろちゃんの家の前で待ち伏せした。
そして見事に遭遇し、俺の想い等をましママに伝えたのだ。
個人の自由とか言われたら終わりだったんだが……。
ましママ「まあ! あの子ったら浮いた話一つないと思ってたのに!」
とノリノリになったのである。
さらには……。
ましママ「大丈夫! おばさんに任せて! これもあの子の為よ!」
とまでノリノリになったのである。
予想のはるか斜め上にまで突っ走ってくださった。
そして現在、ましろちゃんは見事に自爆して、さらに後戻りできない状態にまで進んだ。
遊佐「ましろちゃんは鉄壁じゃなかったんだねぇ」
ましろ「あうー……」
ましろちゃんが床に orz ←みたいな形でうなだれた。
遊佐「という訳で今度の休日にでもデートしようか?」
ましろ「がーんがーん……」
ふっ完璧すぎるぜ。聖。
中島「おっはよーっす。あれ? どうした? みんな」
遊佐「よう中島」
中島「おう。あれ? ましろちゃんが撃沈してる」
遊佐「ああ、今日から俺とましろちゃんは付き合う事になったぞ」
中島「は?」
遊佐「作戦勝ちだ」
中島「え? ましろちゃん? どゆこと?」
倒れ付しているましろちゃんの肩を揺さぶる中島。
ましろ「ふふっ。負けた。負けちゃったよ……」
地面にのの字を書きながらふてくされてるましろちゃん。
中島はましろちゃんから事情を聞くのを諦めたようだ。
中島「何か賭けでもしてたのか?」
遊佐「まあ、俺の恋心を賭けた大勝負ではあったな」
中島「訳わからんのだが」
遊佐「はっはっは」
気分が良いぜ。
っとイカン。大事なダメ押しを忘れていた。
遊佐「聖! お前の助言のおかげで助かったぜ!」
教室の隅っこで知らないフリをしていた聖に向かって、あえて教室中に聞こえるように言う。
また教室のそこかしこからごそごそと会話が聞こえてくる。
生徒B「まさか……『あの』聖公認なのか!?」
生徒A「これは確定的だね……」
生徒D「馬鹿な!? あの難攻不落の盾が!?」
生徒E「良いからお前は落ち着け」
これで聖のお墨付きの印象までつけれた。
ましろちゃんは常に聖がガードしていた。
その聖が妨害に入らず、今の言葉にも否定をしなかった。
みんなの印象としては、聖が認めたようになるだろう。
聖が認めたとなれば、実質生徒のほとんどが認める事になるだろう。
遊佐「ふっ。ましろちゃん。もう逃げられないな」
ましろ「うう、計画はもうどうにも出来ないね……」
中島「計画?」
置いてけぼりの中島がきょとんとした声を出す。
遊佐「俺と聖をくっつけようというましろちゃんの計画だ」
中島にしか聞こえないようにこそっと教えてやろう。
中島「そんな計画があったのか……」
遊佐「しかし、俺はましろちゃんラヴなのでこの計画は頓挫だ」
遊佐「あ、ついでに言っておくけど、この話は絶対内緒な」
中島「え?」
遊佐「ましろちゃんがそんな計画を立てていたと漏れれば、俺の作戦に支障が出る」
中島「お前の計画?」
遊佐「ああ、ましろちゃんの『みんなの幸せ補完計画、かっこ自分を除くかっことじる』妨害してましろちゃんとラブラブになる作戦だ」
中島「無茶苦茶なげーよ」
遊佐「でも、内容大体分かっただろ」
中島「ああ、一応」
まあ、中島は重要なときは空気読める男だから大丈夫だろ。
後は……。
遊佐「何気なく俺の背後に居る杏。お前もだからな?」
杏「…………」
いつから居たのかは俺も分からんが、杏にも念を押しておく。
遊佐「杏?」
返事が無いので振り返ってみる。
杏「…………」
びしっと親指を突き上げる杏。
そして静かに席に戻って言った。
遊佐「なんだったんだ?」
中島「うーん。多分だが」
遊佐「ん?」
中島「ぐっじょぶ。だと思うぞ」
遊佐「良く分かるな」
中島「まあ、なんだかんだでましろちゃんと一緒に昼飯食ってたからな」
対杏コミュニケーション能力が磨かれたのか。
教師「お前ら席につけ~。おや? どうした? 柊」
遊佐「突然の幸せに打ち砕かれてるみたいです」
教師「そうか。じゃあ授業始めるぞ~」
この教師のスルースキルもたいしたものだ。
後
おまけに、このクラスの席につく速度も。
遊佐「さて、こっからが正念場か」
教師「遊佐。何か言ったか?」
遊佐「何でもありません」
外堀は埋めきった。後は本丸を落とさないとな。
理論防御も打ち砕いたけど、頑固なましろちゃんをどうやって崩すかが問題だ。
…………。
とりあえず地道にデートにでも誘うことにしよう。
うん。そうしよう。
最終更新:2009年02月04日 19:08