廊下の方からはどかどかと足音が響き渡っている。
扉はバットと黒板消しで開かないようにしておいた。
ましろちゃんと俺は、外から見えない位置に二人で隠れている。
外からたまに会話が聞こえてくるが、やはり姫乃さんの差し金のようだ。
遊佐「連中しつこいね」
ましろ「そうだねぇ」
ずーっと沈黙してたけど、さすがに疲れてきた。
ましろ「数も多いし、ちょっとどうにも出来ないね」
遊佐「バリスタの時みたいな事もできないしねぇ」
この教室には全く何もないから、プチバリケードとかも作れそうにない。
ましろ「扉を蹴破ってくるくらいはしそうだし」
遊佐「だね。何であんなに必死なんだか」
ましろ「うーん。何かの宗教団体みたいだねぇ」
遊佐「ああ、何となく分かる」
姫乃さんに対するありえないくらいの信奉が、たまに聞こえる会話から理解できる。
遊佐「その上排他的。と」
ましろ「つける薬は無さそうだね」
外の連中が業を煮やしたのか、出て来いとか叫び声が聞こえる。
遊佐「近所迷惑な」
ましろ「警察呼ばれる事とかもう考えて無さそうだね」
遊佐「この調子だと本当に扉蹴破られそうだなぁ」
ましろ「うーん。そうだね」
このままじゃジリ貧だな。
どうにかしないとなぁ……。
遊佐「ねえ」
ましろ「ん?」
遊佐「聖の家行った事ある?」
ましろ「あるけど、どうしたの?」
遊佐「んじゃ、良いこと考えた」
ましろ「というと?」
遊佐「まず、俺が逃げ出す」
ましろ「捕まるんじゃないかな?」
遊佐「多分ね。けど、それは問題ない」
ましろ「っていうと?」
遊佐「まあ、おそらく学校内部で捕まっちゃうだろう」
ましろ「うん」
遊佐「で、連中は俺に聞くよね」
ましろ「ああ、そっか」
全部を理解してくれたみたいだけど、一応続けよう。
遊佐「で、散々抵抗してから、俺はましろちゃんは聖の家に言った。と答える」
遊佐「連中は頭に血が上ってるから、聖の家の人が居ないといっても信じない」
遊佐「連中の人数も全部とは行かなくても、結構な数が聖の家に向かうだろうから、その間にましろちゃんは逃げる」
俺としては完璧な作戦だ。
遊佐「どうかな?」
ましろ「ん……」
ましろちゃんが考え込んでいる。
まあ、希望的観測な部分も多いから、確実とは言い切れないだろうけど。
このままだといずれ捕まるのも間違いないはずだ。
遊佐「ダメかな? 俺に他の手段は思いつかないけど」
ましろ「うー……ん」
はっきりしないな。
ましろちゃんらしくない。
遊佐「ましろちゃん?」
ましろ「確かに、遊佐君の読みどおりにはなると思う……」
遊佐「じゃあ決定だね」
ましろ「でも」
遊佐「ん?」
ましろ「捕まった遊佐君はどうなるの?」
遊佐「あー……。まあ、命は助かるんじゃない?」
軽くどころじゃなくボコボコにされそうな気はするけど。
ましろ「うー……」
遊佐「どうしたの?」
ましろ「分かってるんだよ? うん」
遊佐「ん? 何が?」
ましろ「それが一番効率的なんだろうなぁって」
遊佐「じゃ、問題ないじゃない?」
ましろ「うーん。そうなんだけど……」
遊佐「ん?」
ましろ「あー。今やっと映画のヒロインの気分に共感できたよ」
遊佐「へ?」
脈絡を感じられないセリフに、思わず間の抜けた声を出してしまう。
ましろ「ほら、アクション映画とかで良くあるじゃない? ここで待ってろ! みたいな」
遊佐「あー、あるね。主人公以外が言うと死亡フラグなやつ」
ましろ「ああいうので、いつも待ってなくて外に出ちゃうダメヒロインいるじゃない?」
遊佐「あるね。それで主人公余計ピンチになったりするやつ」
ましろ「あれの気分」
遊佐「何でまた?」
ましろ「だってほら、今そんな感じの状況じゃないかな?」
遊佐「そういえばそうか」
ましろ「ああいうヒロインとか嫌いだったから、映画苦手だったんだよね」
遊佐「そうなんだ?」
ましろ「だから、この前のデートでも料理の選んだんだよ」
遊佐「あー、なるほどね」
そうだったんだ~。
遊佐「って、ちょっとまった」
ましろ「ん?」
遊佐「こんな世間話してる場合じゃないってば」
ましろ「うーん。そうなんだけどねぇ」
遊佐「煮え切らないなぁ。どうしたの?」
ましろ「えー? 遊佐君自分で気づいてないの?」
遊佐「へ?」
ましろ「遊佐君の作戦は、遊佐君を切り捨てて現状を打開する物だよ?」
ああ、そういえばそうだったなぁ。
ましろ「で、簡単に遊佐君を切り捨てられないで困ってるわたしに、それを選択させようとしてる訳」
遊佐「ごめん。普通に忘れてたよ」
ましろ「まあ、わたしが選べない事が分かってもらえたなら良いけど」
そうだったなぁ。
でも、俺の事を気にかけてくれているのがちょっと嬉しい。
遊佐「じゃ、この前のルール適用させようか」
ましろ「ルール?」
遊佐「つまり、俺が決めるって事さ」
そう、俺が前にましろちゃんに言ったルールだ。
俺が言い出した作戦なんだし、俺がノーというわけも無いが。
遊佐「俺内部議会で、決議、反対0賛成100で可決。作戦を承認。と」
ましろ「だ、だめだよっ」
遊佐「ん? 何が?」
ましろ「ダメダメっ、わたしが認めないよ」
遊佐「うーん。心配してくれるのは嬉しいんだけどねぇ」
必死に止めてくれるのは想像してなかったので大変嬉しく思うぞ。
遊佐「でも、前のルールでましろちゃんの意見は参考程度だから、今回は却下します」
ましろ「ダメだってばっ」
遊佐「じゃあ、他に手段ある?」
ましろ「うっ、それは……」
遊佐「じゃ、しょうがないよね」
立ち上がろうとする俺の腰に、ましろちゃんが抱きついて止める。
危うく転ぶところだった。
ましろ「わ、わたしは認めないんだからっ」
遊佐「うーん。困ったなぁ」
ましろ「もし実行しようとしたら、大声あげるからね」
遊佐「うわ、それはダメだ」
ましろ「じゃあ、座って座って」
ぐいぐいと引っ張られてましろちゃんの横に座らせられる。
遊佐「でも、どうするの?」
ましろ「うっ」
やっぱり他に手段は無い気がするんだけどなぁ。
遊佐「ここまで引き止めてくれるなんて思ってなかったなぁ」
ましろ「うっ」
ましろちゃんが真っ赤になった。
ましろ「わたしだって、今の状態になるまで思ってなかったよ……」
遊佐「うーん。二人とも無事に脱出する手段かぁ」
何人いるのかわからないけど、何も思いつかないなぁ。
二人同時に駆け出したとしても、どちらかが捕まりそうだし。
捕まったら、ただじゃすまなそうな雰囲気がバリバリしてるし。
さすがに命までは取られない……と思いたいが……。
それもいまいち保証できそうにないなぁ。
外の声、殺気立ってきたし。
うーん。正直まだ死にたくないんだが。
遊佐「ファーストキスくらいしてから死にたいなぁ」
ましろ「ふえ!?」
俺の独り言にましろちゃんが真っ赤になった。
遊佐「どしたの?」
ましろ「え? あ、いや……」
遊佐「ん?」
ましろ「えっと、その……」
ましろちゃんがもじもじしている。
なんだろう?
ましろ「考えてた事……一緒だったから……」
今度は俺が真っ赤になる番だった。
遊佐「そ、そっか」
ましろ「う、うん……」
気まずい沈黙。
えっと、どうしたらいいんだ?
この空気。
遊佐「じゃあ、する?」
おいおい。何いってんだ? 俺。
ましろ「え? あ、その……うん……」
OKが出てしまいました!
出てしまいましたよ!?
遊佐「えっと、その……」
ましろ「あ、うん……」
ましろちゃんが目を閉じる。
俺はその両肩に手を添えて、そっと顔を近づけ……。
甲賀「やあ、お取り込み中すまないね」
遊佐「ぶふぅっ!?」
ましろ「ここここここ甲賀先輩!?」
いつの間にか教室のど真ん中に甲賀先輩が立っていた。
遊佐「どど、どこから?」
甲賀「窓からだが」
ましろ「な、なんで?」
甲賀「今回はどうやら『話は聞かせてもらった』キャラと言う事らしい」
先輩はえっへんと胸を張りながら、わけの分からないことを言い出した。
遊佐「何でこんな時間に学校にいるんですか?」
甲賀「それは私が忍者だからだよ」
遊佐「訳が分かりません」
甲賀「まあ、それは置いといて」
ジェスチャーでわざわざ『置いといて』を強調する。
甲賀「不法侵入者たちはどうやら扉を蹴破りだしたようだね」
遊佐「え?」
あ、遠くで何か爆音が聞こえてきた。
甲賀「ここが見つかるのも時間の問題だ」
遊佐「そうですね」
ましろ「甲賀先輩が助けてくれるんですか?」
ましろちゃんが期待の眼差しで先輩を見る。
甲賀「いや、私は隠れている」
遊佐「なんでやねん!」
思わず突っ込みを入れてしまった。
甲賀「うむ。良い裏拳だ。私には当たらないが」
ましろ「えっと、じゃあ、何で出てきたんですか?」
甲賀「本当はもう少し影で見てたかっ、コホン、まあ、連絡とかに手間取ってね」
出歯亀っすか……。
甲賀「不法侵入と器物破損で逮捕してもらってもいいんだが、もう少し罪を重くしておこうかと」
ましろ「はあ……」
甲賀「まあ、私が隠れて録音しておくから、連中に散々脅し文句とか言わせてやってくれ」
遊佐「あの、危なくなったら助けてくれるんですか?」
甲賀「いや、私は最後まで隠れているが?」
ダメだこの人。早く何とかしないと……。
ましろ「じゃあ、警察くるまで頑張って耐えろと?」
甲賀「あ、警察に連絡するの忘れた」
遊佐「ちょっ!?」
甲賀「まあ、安心するといい。警察じゃないけど援軍は来る」
ましろ「そうなんですか?」
甲賀「ああ、警察にも連絡しておくぞ。今から」
遊佐「今からですか……」
甲賀「と、言うわけで大船に乗ったつもりで連中を迎え撃つといいぞ」
全く安心できないんだが……。
甲賀「おっと、もう近くの教室まで来ているようだな」
確かに、爆音はだんだん近くなってきている。
甲賀「遊佐君には特別にこれを貸しておこう」
遊佐「これは……」
一度だけさわったことのある感触。
甲賀「懐かしいかな? デラックスカービンだ」
遊佐「確かに威圧には使えるかもしれませんけど……」
甲賀「では、隠れているから後は頑張るといい」
しゅたっと甲賀先輩は窓から外に出て行った。
遊佐「隠れるって、窓の外ですか……」
甲賀「武器をちゃんと装備するのを忘れないようにね」
遊佐「何のRPGですか……」
ため息を吐く俺の肩をましろちゃんがぽんぽんと叩く。
ましろ「とりあえず、窓側で急に距離がつまらないようにしておこうよ」
遊佐「あ、ああ。そうだね」
ましろちゃんは律儀にもちゃんとバットを装備していた。
いつの間にかバットには『であぐらちあ』と書かれていた。
これはスルーしておこう。
ましろ「来たよ」
遊佐「うん」
男達が扉に体当たりしてる様子が見える。
静かな教室に響き渡る轟音。
扉はものの数秒で破壊された。
遊佐「動くな」
デラックスカービンを構えて突入してきた男達に狙いを定める。
男B「やっと見つけた」
男A「手間取らせやがって」
俺の武器が見えてないのか、ただの脅しだと思っているのか、悠々と近づいてくる二人+いっぱい。
ぱんっ!
男A「ぐほぁっ」
遊佐「動くなと言った」
なるべく平静を装いながら、とりあえずガタイのいい男の方に当てた。
一発でのびている。
さすがだ、デラックスカービン。
男B「おいおい。ずいぶん物騒なもの持ってるね?」
遊佐「借り物だ。それ以上近寄るな」
男B「それ以上近寄るな。か」
軽薄そうな男の声音に、黒いものが混ざる。
男B「ふざけんじゃねえぞ? このクソガキが」
急にドスの利いた声を出す男に、思わずたじろいでしまう。
男B「ちょっと痛い目見せりゃ姫乃さんも満足するだろうと思ってたが、やっぱお前ら姫乃さんの指示通りにするわ」
遊佐「指示って何だ?」
男B「娘の方はあの話通りにAVに出演させてその後殺す。手前はボコった後その光景見せてから死なす」
立派な脅迫で言質とったなぁ。
何て考えてる場合じゃねーな。
時間稼がないと。
男B「姫乃さんに恥かかせたんだ。その位覚悟出来てんだろうな?」
遊佐「あんたら姫乃さんの何なんだ?」
男B「俺らにとって姫乃さんは大切なアイドルだよ」
若干答えになってねーよ。
まあ、いいや。
遊佐「アイドルったって、あの人もう30過ぎてんだろ」
男B「あん? ふざけた事いってっとマジで舌引っこ抜くぞ?」
おいおい、本気であの人が20代に見えるんか? お前ら。
遊佐「っていうかあの人、伊従さんの嫁さんだろ」
男B「姫乃さんが結婚届けだしてねーんだよ。あいつはただの金づるだ」
結婚詐欺っすか。
大物だな。悪い意味で。
男C「姫乃さん小学生くらいの頃の話だろ? ロリコン相手に結婚はねーわ」
お前ら本気で眼科行って来い。
男D「俺らもロリ趣味はねーけど、姫乃さんが言うんだからそこの嬢ちゃんの相手してやるんだよ」
男E「感謝されたいくらいだね」
何かもう気持ち悪いんすけど……。
男C「姫乃さん以外のドブス相手じゃたつものもたたねー気がするけどな」
男E「違いない」
下品な笑いが充満する。
こいつら頭おかしいな。うん。
っていうか援軍まだか?
男B「まあ、処女なら俺はかまわねーけどな」
男D「こいつら付き合ってんだろ? ガキ同士もうやっちまったんじゃね?」
男B「あー、だったら萎えるな。病気貰いそうだ」
お前らの方が病気だ。
まあ、ほっとこう。
勝手に時間浪費してくれるならその方が楽だし。
男C「もういいからさっさとこいつら始末しちまおうぜ?」
男B「あー。そうだな。けど、さっさと始末したらダメだろ」
男C「指全部折るんだったっけ? あれ面倒なんだよな」
男D「他人の骨折るの趣味なお前が言うなよ」
男C「かっかっかっ、あの音と感触がいいんじゃねーか」
男B「ま、という訳で坊主。色々諦めな」
遊佐「来るな」
デラックスカービンを構えなおす。
男D「おいおい震えてるじゃねーか? そんなんで当たるのか?」
男E「大体構え方がド素人だ。銃ってのはこう撃つんだよ」
後ろの方にいた男が懐から何か取り出した。
ドンッ
と、思った瞬間に閃光。
後、顔の横に何かが通り過ぎた風が起きた。
何か臭い。
って、まさか……。
男B「おい。当てるなよ?」
男E「ちゃんと外したさ」
男B「お前、前当てただろ」
男E「あの時は酔ってたんだよ」
本物の銃かよ……。
洒落にならねーな。
どうする……?
男E「まあ、肩くらいなら当てても良かったかな?」
男C「やめろよ。俺の楽しみが無くなるだろ?」
男E「けち臭い事を言うぶべっ」
??「そこまでだ!」
銃を持ってた男が倒れたと、同時に教室に聞きなれた声が響き渡った。
遊佐「聖!? と、杏?」
聖「こら杏! 私がかっこよく登場しようとしてたのに何をする!」
杏「先手必勝」
聖「不意をつくなぞという姑息な手を使わなくても、こんな連中私一人で倒せるぞ!」
杏「卑怯万歳」
二人がそんな掛け合いをしてる間に教室の電気がついていく。
鳥山「我々も居るぞ」
遊佐「鳥山! というか、ましろちゃんを以下略の会!」
鳥山「略すな!」
遊佐「すまん。立ち絵がないから分からなかった」
鳥山「なくぞ?」
教室に入り込んでいた男の数、およそ15人くらい。
それより若干多い数の生徒が、男共を包囲するようにいつの間にか入り込んでいた。
男B「何だ手前ら!?」
あっけに取られてた男連中だが、ようやく我に返ったらしい。
鳥山「我々か? 我々は……」
聖「ましろ親衛隊+αだ!」
鳥山「俺のセリフ……というか+α・・…」
が、がんばれ。鳥山。
男C「邪魔するなら手前らもぶっ殺すぞ?」
聖「ふんっ。やれるものなら……」
杏「やってみるがいい」
聖「ああ! また私のセリフを!」
因果応報だな。
男B「お前ら死なすわ。こいつら先に片すぞ」
男C「おうよ」
男連中が揃って聖たちに向かい合う。
聖「ふふふっ。ましろに不埒な行いをしようとした報い、その身に受けて」
杏「死ね」
ごすっ
男D「げふっ」
杏の先制攻撃!
男Dは倒れた。
聖「だから私のセリフ……」
男B「やっちまえ!」
そこからは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
リアルスマッシュ○ラザーズと言った感じ。
親衛隊+αはバリスタの時の得物を持っていて、大半が徒手空拳の男共を順調に倒していた。
甲賀「ふふふ、彼らにあれを支給したのも私だ」
遊佐「隠れてないでいい加減出てきてくださいよ」
甲賀「面倒だから嫌だ」
この先輩は……。
聖「サベェェェッジ! サベェェェッジ!」
鳥山「あはははは! 飛燕双脚!」
二人はピョンピョン飛びながらノリノリで技の名前とか叫んでる。
杏「……ギロティン」
あ、杏が恥ずかしそうに技名言った!
レアな光景だ。
甲賀「うむ。これは別にダビングして保存しとこう」
遊佐「だから、いい加減出てきません?」
甲賀「面倒だから嫌だ」
どうしようもない人だ。
ましろ「何とかなりそうだね」
遊佐「ああ、そうだね」
何か急に室内の空気が変わって置いてけぼりな気分だけど。
ましろ「じゃあ、降りかかった火の粉、払いに行こうか?」
遊佐「え? ああ、良いかもね」
ましろ「じゃあ、行こう」
遊佐「おっけー」
俺たちも戦線に加わり、男達をボコボコにし始めた。
ましろ「へきさすとらいくっ!」
撲殺天使ましろちゃんの本領発揮だ。
デラックスカービンは仲間に当たりそうだから置いとこう。
甲賀「俺を使わないのかよ。寂しいじゃないか。byデラックスカービン」
遊佐「そんな事やってる暇があるなら手伝ってくださいよ」
甲賀「嫌だ」
もう良いや。
とりあえず逆襲してこよう。
…………
……
どのくらい戦ったか分からないけど、何とか終結した。
ダウンした男は片っ端から甲賀先輩が縄で縛ってくれていた。
ましろ「終わった~」
遊佐「だねぇ」
甲賀「はっはっは。諸君ご苦労様」
くたくたになった俺たちの中で、一人だけ元気な人が居るけど、気にしないでおこう。
甲賀「親衛隊+αの諸君。こやつらを正面玄関まで運んでくれたまえ」
鳥山「りょーかい」
聖「私はましろの傍に居たいのだが」
甲賀「異論は認めないぞ」
聖「生徒会長だからって横暴な! こらっ杏! 引っ張るな!」
何だかんだで一瞬にして、教室の中には俺とましろちゃんと甲賀先輩だけが取り残された。
甲賀「そういえば遊佐君」
遊佐「なんですか?」
甲賀「ここがヒミツの教室の理由を知っているかね?」
遊佐「いや、知らないですけど」
甲賀「じゃあ、あとは任せたぞ!」
遊佐「説明してくれるんじゃないのか!?」
ってもう窓から出て行ってるし!
ましろ「あ~」
遊佐「どうしたの?」
ましろ「ここがヒミツの教室の理由はね」
遊佐「ふむふむ」
ましろ「何が起ころうが物証が無い限り、何故か外では何事も無かった扱いになるからだよ」
遊佐「というと?」
ましろ「当人達は例外だけど、さっきの乱闘も、外ではなかった扱いになるの」
遊佐「治外法権みたいなもの?」
ましろ「まあ、そんなところ」
遊佐「極端な話、死人が出てもいいの?」
ましろ「それは死体っていう証拠が出るから……ん? どうだろう?」
遊佐「いや、否定して欲しいんだけど……」
ましろ「ともかく、ここで何が起きても外ではなかった事になるから、ヒミツなんだよ」
遊佐「へぇ。そうなんだ」
つまりここは、不思議空間なんだな。
遊佐「まあ、ともかく」
ましろ「ん?」
遊佐「疲れたね」
へたり込むように床に座る。
ましろ「今日一日でほんと疲れたね」
遊佐「正直。もう動きたくないや」
ましろ「同感」
遊佐「ましろちゃんも座ったら?」
ましろ「んー」
遊佐「どうかした?」
気になったのでましろちゃんに振り向く。
ましろ「……チュ」
…………。
……え?
ましろ「えへへ」
恥ずかしそうに視線をそらしながら、ましろちゃんが俺の横に座った。
俺は不覚にも、さっきの
不意打ちで完全に硬直していた。
えーっとその……。
さっきはましろちゃんの顔が目の前にあってだな。
んで唇になんかやわらかーい感触が。
遊佐「はっ」
今のはもしかして……。
遊佐「不意打ちはずるいってば」
ましろ「何のことかなぁ」
遊佐「良く分からなかったからもう一回」
ましろ「記憶にないなぁ」
くっ、どこまでもとぼけるかっ。
遊佐「じゃあ、俺から……」
甲賀「生徒の不順異性交遊は禁止されているぞ?」
遊佐「甲賀先輩!?」
あんたほんとにどっから出て来るんだよ。
甲賀「保護者のみなさんがお待ちだ。怒られてきなさい」
そういうとまた窓から出て行った。
むやみに謎な人だ。
ましろ「とりあえず」
遊佐「行きますか?」
ましろちゃんと手を繋いで教室を出て行く。
今日は本当に長い一日だった。
最終更新:2008年08月15日 18:58