―お前、来月からは別の学園に行くことになったから
そう一言親父に告げられたのは今年の夏になる前の話だ。親父に理由を聞くと海外へ仕事でいかなければならないといった。
しかも単身ではなく、お袋まで連れて行くという。親父は俺が海外に行きたくないというだろうと思っていたらしい。
だが別に転校することも無いだろうと俺は反抗したが
親父「前から考えていたことだ」
と、片付けられてしまった。正直な話をしよう。今まで俺は平凡な学生生活を送ってきていた。いわゆる受験に向けた勉強……
とはいってもほとんどやっていない。やってるふりをして凌いできた。誰も勉強がしたいわけじゃない。
自分でもコレではよくないと漠然とは思っていたが、いざ行動に起こすというのは簡単にできることじゃない。
親父「それに、お前にはもっと色んなことを感じてもらいたいと思っていた」
そう格好つけていう親父だが……。
親父「どうだ? かっこいい理由だろう? あーはっはっは!」
もの凄いアホだった。もともと親父はふざけたことをするような人だった。
遊佐「クソ親父が! なんで転校しないといけないんだよ!?」
親父「さっきも言ったじゃないか。前から決めたことだと」
遊佐「そんなことで、納得できるかー!」
親父「えー、もう転校の手続きしちゃったし~」
遊佐「俺に相談もなしかよ!?」
親父「だって言ったら反対するじゃないか」
遊佐「そりゃするわー!」
こうして、俺は考える余裕もなく人生の道を乗り換えを余儀なくされたのであった。

遊佐「ここが、今日から俺の新しく住むところか……」
俺は部屋の真ん中に立って見渡した。まだ、引っ越しの荷物を運んたばかりで箱があちらこちらに積んである。
遊佐「……とにかく整理を始めないとな」
両親は既に海の向こうへ旅立ってしまった。気楽なもんだよ。子供の荷物の世話すらやっていかんのか。
遊佐「……。いや、俺ももうそんなにガキじゃないんだ。これくらい自分でやるのは当たり前か」
遊佐「しかし、いきなりだもんな。ついこの間まであいつらと楽しくやっていたのにな」
とりあえず手前の箱を開けみる、が何が入ってるのかよく分からなかった。
遊佐「ごちゃごちゃだな……これは後回しにしよう」
ダンボールには一応は種類が分かるようにマジックで書かれているのだが使い回しの箱でもあるので
正直あんまり役に立ちそうにもなかった。
遊佐「まず衣類だ。衣類を何とかしよう」
衣類と書いてある箱を開ける。一応その箱は正解だったようだ。
遊佐「さて、ちゃっちゃとやりますか」
………………。

遊佐「…………これで大体片付いたか」
既に時間は夜中になっていた。気がつくと腹が減っている。とりあえずカップ麺で済ますことにする。
遊佐「うーむ、これは気をつけないと体に悪いな……ちょくちょく自分で何か作るようにすべきか」
そうはいっても多分やらないだろうな。めんどくさいし。
遊佐「やめだやめ。コレ食ったら適当に準備して寝よう。明日からは新しい生活なんだからな」

遊佐「……む……ぅ」
だんだんと脳が覚醒していく。違和感を覚える目覚め。あぁ、今日から俺は新しい生活をしていくんだったけ。
起きよう。今何時だ?
遊佐「ぬぁ!?」
時計は残酷な現実をはっきりとその自らの役割をもって示していた。
遊佐「遅刻だぁあああ!」

――――――――――――――――――――……

遊佐「はっ……はっ……ゲホっ」
畜生、早く寝たのになんでちゃんと目が覚めないんだぁ! 最初に下見した以外はその学校に行ったことすらない。
遊佐「こっちであってるな!」
丘の上に見えているのでとにかくそっちへ向かっていくしかないが。
遊佐「なんで丘の上なんかにあるんだ……」
朝からこれはきつい……。
??「そこの人ヤバイよー! 急がないとぉ!」
遊佐「ん?」
何だ?後ろから声が……。と思ったらその主はあっという間に俺の前に出てぐんぐん距離がひらいていく。
??「悪いけどお先に行くねー! 遅刻したくないからぁーー!」
遊佐「は、はえぇ……」
その女生徒はあっというまに丘の上へと消えていった。
遊佐「いや、そんなことより。ま、まじでやばい!」
ぼーっとしてる場合じゃない! 急がないと初日から遅刻のお約束をかましてしまう!
遊佐「ぬぅうどりゃぁああ!」
頑張れ俺の足の筋肉達! 今こそ活躍の時だ!
遊佐「見えたっ……!」
そこだっ! あれが正門だ! ううん、知らないけどきっとそう! だって誰かが遅刻を監視してるもん!
遊佐「ちょ、門閉めるのまってくれ!!」
俺はその門を閉めようとする人に大声で懇願する
??「駄目だ! もう時間は過ぎている。遅刻だ!」
遊佐「そこを何とか! ていうか理由もあるんだ!」
俺は正門になんとかたどり着く。
??「ほう。聞いてやろう」
遊佐「はぁ……はぁ……。実は……はぁはぁ」
遊佐「転校初日で迷ったんだ……げほっ」
じーっとその女生徒は俺の顔をにらむように見つめる。すいません本当はあんまり迷ってません。寝坊です。
??「なるほどな。見ない顔だと思ったらそういうことか。仕方がないな。明日からは遅刻しないように気をつけろ」
遊佐「ふぅ、ありがとう
??「で、この後は職員室にでもいくのか?」
遊佐「ああ、そうなるのかな。うん。多分そう」
そういえば何も考えてなかった。なんて適当なんだ。さすが親父の選んだ学校だ。
??「はっきりしないやつだな。まぁいい。場所はわかるか?」
遊佐「いや、わからない。よかったら教えてくれ」
??「あそこの玄関に入ると右手に階段が見えるはずだ。そこを登っていったらすぐわかる。
   私も教室に行かないといけないからすまないが……」
遊佐「あ、オッケー。あとは一人でできるさ」
??「ああ、それじゃあな」
振り向いて去っていくその人の姿は凛々しかった。なんていうかかっこいいな……。親切だし。
女の子とかにもてそうだ。
遊佐「おっと、職員室に行かないと」
俺はいそいで正面玄関に向かっていった。

先生「それじゃあ遊佐、入ってこい」
遊佐「……」
全員の視線が俺に向けられている。
先生「あー、こんな時期だが家庭の事情により転校してきたそうだ。みんな仲良くしてやってくれ」
家庭の事情ね……。
先生「ほら、遊佐。自己紹介」
遊佐「遊佐です。なんかよくわからない事情でここに来ることになりましたが、よろしくお願いします」
??「事情ってなんなんだー?」
先生「中島っ! いらんことを聞くな!」
中島「すんませーん」
なるほど。あのバカそうな面をしたやつは中島っていうのな。覚えておこう。
先生「おっと忘れていた。机はどうするかな」
あれ。一個席が空いてるからてっきりあそこだと思ったんだが……。休みなんだろう。
いかにも誰か取ってきてくれな空気の中一人の女生徒が手を挙げる。
??「先生、取ってきましょうか?」
お、結構かわいい子だな。名前なんていうんだろう。
先生「そうだな。どっか適当な部屋から頼む」
おいおい。なんか適当だな。席も用意してないくらいだからな……。
??「まて、私も行こう」
そう言って隣の女生徒も手を挙げる。なんだか気の強そうなやつだな。
先生「そうだな、聖。一緒に行ってやれ」
聖「行こう、ましろ」
ましろ「うん」
ほうほう。ましろちゃんか……。それであっちのが聖ね。
先生「よし、それじゃあ朝のHRは終わりだ。とりあえず遊佐の席はこの列の一番前で他の者は一個ずつ下がるように」
そういって先生が出て行くとがたがた示された窓側の席の一列の人が机を下げていく。
机がくるまで所在なくその俺の机を立って待つ。
中島「おっす!」
例の中島が早速俺に話しかけてきた。
遊佐「……ども」
中島「まぁまぁそう堅くなるなよ。な、これから一緒の学舎でやってく仲だしな」
遊佐「そうだな。よろしく、中島」
中島「おぉ!? なんで俺の名前知ってるんだ」
遊佐「俺は顔で大体名前の判断ができるんだ」
中島「まじ!?」
??「おもしろいこと言うね~君。ていうかさっき先生に名前呼ばれてたしねー、中島」
遊佐「……平坂」
??「残念だけどはずれ。ボク井草千里! よろしくね!」
遊佐「ああ、よろしく。ま、適当にいっただけだからそりゃ外れるさ」
中島「んだよー。俺が馬鹿みたいじゃねえかよ!」
井草「実際、ぶっちゃけると馬鹿だよねぇ……?」
中島「ちくしょー。やっぱりか……。うすうすそうじゃないかと思ってたんだ」
中島は悔しがっている。……こいつは馬鹿だな。良い方向で。
ましろ「おまたせー」
聖「待たせたな」
気づくと二人が机と椅子を運んできてくれた。
遊佐「あ、ありがとう」
ましろ「高さはこれくらいでいいかな?」
遊佐「ああ、もうちょっと……」
聖「問題ないな!?」
遊佐「えぇ!? あ、ああ。問題ないです」
問答無用で問題がないことにされた。やべえ、この人結構怖い。
中島「なぁなぁ。やっぱり俺馬鹿かな?」
聖「案ずるな。紛れもない馬鹿だ」
井草「だよねぇ」
??「おい、井草」
井草「ん?」
??「今日は日直だ。黒板を消すんだ」
声を掛けてきのは後ろから朝校門で出会った彼女だった。
井草「あ、ごめんごめん早乙女さん。今日はボクだったね」
そういうと"転校生"と書かれた黒板を消しに井草さんは向っていった。
早乙女「ああ。頼んだぞ」
遊佐「なあ、朝は助かったよ」
早乙女「うん。まさかうちのクラスだとは思わなかったが」
遊佐「とにかくこれからよろしくな」
早乙女「うむ。だがこれからは遅刻しないように気をつけるんだな」
遊佐「あ、あぁ。全力を尽くすよ」
寝坊しない自信もないし、体力もない気がするので正直遅刻は免れないだろう。
ましろ「朝、いきなり遅刻しそうになったんだ?」
遊佐「ちょっと道に迷ってね……」
中島「気をつけろよー? 遅刻したら早乙女のきつーいお仕置きが待っているからな」
ましろ「そんなことないよね?」
早乙女「……ああ」
なんか返事遅い!
聖「……すまないな早乙女」
早乙女「……気にするな。仕方がないことだ」
どういう話なんだろうか。さっぱり意図がつかめない。
早乙女「授業が始まりそうだ。話はこれくらいにしておこう」
聖「ああ。そうだな」
遊佐「わかった。ところで」
ましろ「どうしたの?」
遊佐「一時間目って何?」

遊佐「はぁあぁ……疲れた」
俺の学校……いや、前の学校よりちょっと先に進んでてわけがわからなかった。
中島「もうダウンか」
遊佐「……頭悪くてすまなかったな」
中島「気にするなよ。俺だって頭悪いしな」
まぁそうだろうな。とにかく外でも眺めていよう。
遊佐「ん?」
何だあの子。木の上……!?
遊佐「お、おい。あれ、やばいんじゃないか?」
木の上に人がいる。なんだってあんなとこに!?
中島「ん? んー? あー。あれか。大丈夫じゃね」
遊佐「大丈夫って……ちょっと見てくる!」
中島「いつものように、っておい!」

遊佐「おーい!」
木の上に居たその子に声をかける。
??「?」
遊佐「どうしたんだ-?」
??「どうモしてないよー」
遊佐「そんなとこ居たら危ないぞ」
??「平気だヨー」
そう言うと片足と片手を使って木につり下がった。
遊佐「うわっわっ!」
げ! なにやってんだ!
??「やほほほ」
危ないのもそうだけどスカートは完璧めくれてしまっている。
声「わー! 駄目だってば毛森さん!」
うしろから慌てた声がする。
遊佐「お?」
あれは……さっき見たクラスの顔ぶれの中にいたような気がする。
毛森「やほー。晶子。元気?」
晶子「元気ですけど、ってそうじゃなくて早く降りてきてぇー」
毛森「んー。わかったー」
体勢を戻すとするする木を降りてくる。その動きは慣れたものだった。
晶子「もうっ。木は登っちゃだめってば」
毛森「だって、木の上は気持ちいい」
晶子「そう言う問題じゃないんだよ。落ちたら危ないよ」
毛森「うーん、私落ちない」
二人はなにやら討論を始めてしまった。
中島「おーい、遊佐、神契に毛森! そろそろ授業始まっちまうぞ!」
教室から中島が声をかけてきた。
神契「ほら、中島君もいってるし、もどろ」
毛森「うー」
しぶしぶ毛森さんは納得したようだった。何をそんなにいやがってるのかわからんが・
遊佐「あのさ、神契さん……だよな。一緒のクラスだよな?」
神契「ひゃ、ひゃい。そうです。遊佐さん……でしたよね」
遊佐「ああ、そうだ。今日転校してきた遊佐さんだ」
毛森「ほー? 転校生なのか」
遊佐「ああ、さっきHRいなかったのか?」
毛森「うん、いなかった」
遊佐「あ。そう……
遊佐「とにかく、戻ろう。時間やばそうだし」
神契「そういえば、なんで私の名前を……」
……うん、まぁねぇ。

中島「危なかったな」
遊佐「うーむ。俺には何が何だかさっぱりだぞ」
毛森は木の上にいるわ、神契さんは説得しにくるわ。
中島「だから大丈夫だと言っただろ?」
遊佐「どういう意味だったんだよ?」
中島「毛森はいつもああで、神契があーやって説得にいってるってことだよ」
遊佐「で、その説得はいつも大丈夫なのか? さっきの雰囲気からはそうは思えないぞ」
中島「あー、そこらへんはな?」
やっぱ駄目なんじゃないか……。
遊佐「そういうの見て見ぬふりすんの、よくないだろ」
中島「……」
ぽかんとした顔で俺をみつめてくる。
遊佐「……なんだよ?」
中島「いや、お前って意外に……っと先生がきたぜ。あの先生鬼怖いんだ」
遊佐「……なんのこっちゃ」
そう言うと先生が入ってきて、軽くはぐらかされてしまった。

遊佐「ふぅう……」
やっと……HRまで終わった。
ましろ「おつかれー」
中島「おー」
ましろ「大変だったね、今日は」
遊佐「ああ……特に質問攻めの休憩時間のおかげでな」
聖「仕方ないだろう。みんな転校生ともなれば」
ましろ「時期が時期だけにね」
中島「ああ、普通ないぜ……こんな中途半端な時に」
とにかくそういう理由が重なり俺は休憩時間も体力を削られるはめになったわけだ。
最終更新:2008年09月23日 02:31