ホコリっぽい校庭に陽炎が揺らめく。
見てるだけでげんなりする光景だ。
やっぱり暑いなぁ……。
こんな日に体育とか勘弁してくれ。
しかも教師まだこねーし。

中島「確かに暑いな。死人とか出てそうだ」
遊佐「お前は平気に見えるが……」

このクソ暑い中仁王立ちしてるバカが居る。
暑さで脳がやられたか?

中島「モンハ○印のクーラードリンク飲んだからな」
遊佐「おい。作品が違うぞ」
中島「冗談だ。我慢してるだけに決まってるだろ」
遊佐「今度手作りキノコキムチ食わせるぞ……」

キノコは近所の土手で、名前も分からないヤツを選ぶからな。

中島「気を抜くと溶けるからな。注意しろ」
遊佐「はいはい。俺はむしろ溶けちまいたいけどな」

しかし、これだけ暑いと誰か倒れたりしそうだな。
ほら、あっちで女子がふらふらしてるし……。

遊佐「って、アレは聖か?」

聖がフラフラというのも珍しい。
っと、それより大丈夫だろうか?

遊佐「おーい。聖。どうした?」

あれ、聞こえてない?
ちょっとやばそうか。

遊佐「おい。聖」
聖「……ん?」

駆け寄って声をかけてみると、やっと聖がこっちに気づいた。
やはり、顔色が悪い。

遊佐「大丈夫か? 顔色悪いぞ」
聖「……ちょっと、寝不足なだけだ」

大丈夫じゃなさそうだな。

遊佐「中島。ちょっとコイツを保健室に運んでくる」
聖「私は平気だ」
遊佐「いや、どうみてもダメだろ」
聖「しつこ……」

言葉の途中で不意に聖がよろめいた。

遊佐「おっと」

半ば反射的に聖の腕を掴む。

遊佐「んじゃ、行ってくる。後は任せた」

仕方ないので、肩に担ぎながら中島に後を頼む。

中島「おう。遊佐が聖を保健室に連れ込んだって言っておいてやる」
遊佐「その言い方を本当にしたら、目からコーラ飲ませるからな?」
中島「冗談だ。行ってこい」

ったく。あいつも暑さで頭のネジが溶けてるのか?
まあ、聖が動けるようになる前にとっとと連行してしまおう。

…………
……

保健室まで半ばまで来た頃、俺は気づいた。
この運び方って、動かない人間相手だときついな。
うーん。
地味に意識はあるみたいなんだが……。

遊佐「よし」

気合をいれ、決意をしてみる。

遊佐「ちょっとすまんな」

一応ワビを入れ、聖のふとももと背中に腕を通す。

遊佐「よい……しょっと」

そしてかかえあげる。
いわゆるお姫様だっこというヤツだ。
……ちょっと恥ずかしい。
腕は疲れるけど、歩きやすくはなった。
なるべく人に見られる前に保健室に行かねば……。

…………
……

到着っと。
さっき気づいたんだが、おんぶでもよかったんじゃないか?
……忘れよう。

遊佐「失礼しまーす」

ずりずりと足で扉を開けつつ、中に入る。
行儀悪いからまねしちゃダメだぞ♪

遊佐「あれ? 誰もいない」

どっかいってんのかな?
とりあえずベッドに寝かせて応急処置でもしておくか。
軽い熱中症っぽいし。

遊佐「よっと」

そっとベッドに寝かせて、冷蔵庫っぽいものを漁る。
…………。
……見なかったことにしよう。
冷やすものは冷凍庫にあるはずだしね。
…………。
……あ、氷枕あった。
なぜかケーキとかについてくる保冷剤もあった。
他あった物については聞くなよ?
見なかったことにするから。

遊佐「えーっと、確か……」

軽くタオルで氷枕とかを個別に包んで、聖の首の裏に置く。
確か、太い血管のあるところを冷やすと良いんだったな。
ちなみに知識の元は何かの漫画だ。

遊佐「わきも冷やすといいらしいが……」

寝込んでる聖をちらっと見る。

遊佐「うん。これは、応急処置だ」

そうだ。何もやましいことは無い。
無いったら無い。
と、言うわけで、わきに保冷剤を挟ませる。
む。
二の腕がプニプニだ。
ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに。

遊佐「はっ」

つい我を忘れてぷにぷにしてしまった。
良い感触だったなぁ。
あ、保冷剤はちゃんと挟んであるぞ。

遊佐「とりあえず、先生が戻ってくるまで待つか」

病人をほったらかしもまずいだろうし。
校庭に戻りたくないし。
保健室涼しいし。
いやいや、聖を看護しないといけないからであって、サボリじゃないからな?
まあ、しばらくぼーっとするか。
ぼー……。
…………。

遊佐「……暇だ」

ものの5分で投げ出す俺。

遊佐「聖。気分はどうよ?」

……って、寝てるし。
そういえば、寝不足って言ってたなぁ。
病人相手だし、悪戯するのもなぁ。
ぷにぷに。
寝顔かわいい。なんて、ベタな事は言わないぜ。俺は。
ぷにぷにぷにぷに。
クマやライオンだって、寝てるところは可愛いんだからな。
ぷにぷにぷにぷにぷにぷに。

遊佐「はっ」

またぷにぷにしていた。
二の腕の魔力は恐ろしいぜ。

しかし、誰も戻ってこないな。
これからどうするか……。

1.ぷにぷにする。
2.大人しく待つ。


――――――1選択時(聖好感度ー1

起きる気配はないし、もうちょっとぷにぷにしておこう。
ぷにぷに。
やはり良い感触だ。
ぷにぷにぷに。
何かの話で、二の腕は女性の胸と同じ弾力を持つらしい。
ぷにぷにぷにぷに。
重要な血管や神経が多数通っているため、保護しているからだ。
ぷにぷにぷにぷにぷに。
だから、ダイエットとかしてもこのプニプニは無くならない。
ぷにぷにぷにぷにぷにぷに。
むしろ、このプニプニをなくす前に胸とかが減っていくんじゃないだろうか。
ぷにぷにぷに……。
そろそろ俺自重すべき?
でも、見えてたら触りたくなるし。
……つまり見なければ良いのか。


――――――2選択時(聖好感度+1

まあ、大人しく待とう。
決して二の腕プニプニするなんて事はしない。
そんな選択肢を選ぶわけが無いんだぜ。
俺は紳士だからな。
しかし、大人しくといっても暇だ。
ぼんやりと聖の顔を見つめつつ、俺はこれからどうしようか考えていた。
あー、寝てると杏と似てる。っていうかそっくりだな。
やっぱり表情の違いってのはでかいな。
杏の寝顔は見たことないけどな。
何でそんな仲たがいしたのかねぇ。
心地良さそうな寝顔を眺めながら、ふと思った。
こうしてれば美人だよなぁ。と。
窓から零れ落ちる日差しが眠り姫を照らし、幻想的な光景を……。
やっぱ俺には詩の才能は無いな。
しかし、聖も大人しくしてりゃ、引く手あまただろうに。
それで言えば杏もか。
困った姉妹だな。全く。


――――――選択分岐終了

何か眠くなってきた。
だが、俺はこの程度では屈しないぞ。
……ぐぅ。

…………
……

聖「……佐。お……てば」
遊佐「ふぇ?」

何か肩をゆすられてる。
ほっといてくれ、俺はもう少しこのまどろみを……。

聖「起きろ!」
遊佐「おふぁ!?」

耳元で急に大きな声が響き、俺は覚醒した。

遊佐「はっ。ここはどこだ!?」

知らない天井だ。

聖「全く。寝ぼけているのか?」

ん? 聖?

遊佐「俺をこんなところに連れ込んでどうするつもり!?」

おびえるように自分の体をかばいながら叫んでみる。

聖「……はぁ」

重いため息をつかれた。

遊佐「冗談だ。つっこみを入れてくれないと恥ずかしいじゃないか」
聖「はいはい」

ちぇ。つまんにゃーい。

遊佐「で、体調はどうだ?」
聖「おかげでだいぶ良くなったぞ」
遊佐「それはなによりだ。寝不足の方も解消か?」
聖「ああ。どのくらい寝てたかは分からんが」
遊佐「ふむ。ところで寝不足って何をしてたんだ?」
聖「ああ、ちょっと面白い本を見つけてな」
遊佐「ほうほう」
聖「暴食の剣というタイトルで、光と闇が合わさって最強に見えるんだそうだ」
遊佐「なんだそれ」

全く分からん。

聖「まあ、それはともかく」
遊佐「ん?」
聖「その……ありがと……な」
遊佐「ああ、気にするな」
聖「いや、私がお前だったら多分放置してると思うし」

何気にひどいな。

遊佐「まあ、お前も女の子だしな。このくらいは当然じゃないかと」
聖「は、恥ずかしい事を言うんじゃない」

照れてる照れてる。

聖「途中まではうっすらとだが覚えてるが、アレは恥ずかしいな」
遊佐「アレ?」
聖「アレだ。アレ。……お姫様だっこだ」

お、覚えてなくていい物を覚えてやがる。

遊佐「むしろ忘れててくれないか?」
聖「ん?」
遊佐「いや、うん。あの時は俺もイッパイイッパイだったしな」

忘れてしまおう。

聖「そういえば先生とかは?」
遊佐「いや、俺も待ってたんだが、見てないな」
聖「ふむ。一体どこに……」
遊佐「さあ? ところで今何時だ?」
聖「そういえば……」

時計を見た聖が硬直する。

遊佐「どうし……」

俺も硬直する。
えっと、2時限目が始まるころに来て、とすると……。

聖「なあ。今何時限目に見える?」
遊佐「……4時限かな」

それも半ば。

聖「…………」
遊佐「…………」

黙ったままベッドから降りる聖。

遊佐「落ち着け、もう慌てるような時間じゃない」

人間諦めが必要な時もある。

聖「し、しかし」
遊佐「一応お前は病人だ。多少遅くなっても問題ない」

むしろ問題なのは。

遊佐「俺はマズイ」

どうしようかな。
どうしようもないな。

遊佐「よし。昼休みからこっそり戻ろう」
聖「いや、授業出ろよ」
遊佐「怒られるのイヤだし」
聖「成績が良いならそれもいいかもしれないが」
遊佐「俺は超優等生だぞ」
聖「嘘付け。さっさと行ってこい」
遊佐「でもなぁ」
聖「でもじゃない。さもなくば……」
遊佐「実力行使か? 病人相手におくれを取るほど……」
聖「ここで悲鳴あげるぞ?」

…………。

遊佐「すんませんっした!」
聖「ふん。さっさと行ってこい」
遊佐「へいへい」

追い払われるように、俺は保健室から出て行った。
教室戻りたくないよママン。
最終更新:2008年10月15日 10:17