とりあえず聖の持っている写真を全て没収し、俺は目的地の前についた。
生物準備室。
この中に首謀者が居るらしい。
一人だとすれば、そんなに苦労はしないだろう。

聖「たのもー!」
遊佐「って、またかよ!」

なんでそう堂々と入るんだよ。

生徒「……誰だ?」

奥で教師用のイスに座っている生徒。
ご丁寧にこちらに背を向けている。
……悪役くせーなぁ。

遊佐「君が影井か?」
生徒「そうだ」

ちょっとづつ距離を詰めつつ確認する。
人形とかそういうオチじゃなさそうだな。

遊佐「ましろちゃんの写真をばら撒いた件だが」
影井「ふむ」
遊佐「聖がボコボコにしたいらしいけど、もうしないって誓えば逃げていいぞ」

今だって頑張っておさえてるんだからな。

影井「ふ……ふふふふふ……ふはははは!」

何だ? 急に?

影井「そうか! ようやく来たか!」

ばっと振り向いた影井は、嬉しそうに笑っている。
こえーよ。

影井「待っていた! この時をどれほど待っていたことか!」
遊佐「……聖。何か待たれてたらしいぞ?」
聖「いや、お前だろ? 待たれてたの?」
遊佐「しらばっくれるなよ。俺あいつ知らないし」
聖「私だって知らん」

まあ、何か変態的な気配を感じるし、聖も関わりたくないだろうな。

影井「焦がれて焦がれて、私は狂いそうだった!」
遊佐「好かれてるなぁ。お前」
聖「いや、お前のことだろ?」

あくまでしらばっくれるんだな。

影井「待っていましたよ! 戦乙――」
遊佐「まて、そのワルキューレの読み仮名違いはまずい」
影井「ふんっ。無粋ですね」

アレの変態の模倣だったか。
それでも十分関わりたくないなぁ。
っと、待てよ。と言う事は……。

遊佐「ひょっとして、聖をここに来させるのが目的か?」
影井「ええ。その通りです」

隣で聖がいやそーな顔をしている。
可愛そうに。

影井「月島聖よ! 一目見たその時から、私は貴方の虜となったのです!」
聖「いらん!」
影井「ふふふ。強情なところも愛おしい」

根っから変態だったみたいだ。

遊佐「なあ。普通に手紙とかで呼び出して告白したほうが良くないか?」
影井「浅慮ですね。そんなことをしても、断られるのがオチ」

か、かなしい台詞だな。

影井「ゆえに! 最も記憶に残る方法を選んだのです!」
遊佐「自信満々に言う事じゃあないな……」
影井「インパクトがあれば、繰り返しアタックしていればその内折れるかもしれませんし」
遊佐「地味にセコイな」

というか、繰り返しアタックするなら、普通の方法でもいいんじゃないか?

影井「私のものになるのです。マイエンジェルよ」
聖「断る。それにキモイ」

確かにキモイ。

影井「やれやれ、仕方ありませんね。ぽちっとな」


遊佐「のぅあ!?」
聖「ぐっ!?」

どこからともなく降ってきた投網に捕まる俺と聖。

遊佐「な、何かねばねばしてるぞコレ!?」
聖「ちょっ、お前どこを触っている!?」
遊佐「触ってねえよ!」

やばい、普通に出れん。

影井「ふふふ。特製トリモチ式投網です」
遊佐「用意いいなお前!」
影井「ええ。この日のために準備は大変でしたが」

ほかの事に情熱を向けるべきだと思うんだが。

影井「さあ、もう逃げれませんよ。ふふふ」
聖「来るな! 来るなぁぁぁ!」

聖が本気でおびえながら、俺にしがみついた。
しかし、お構い無しに影井はこちらに歩み寄り……。
手前で止まった。

遊佐「…………」
影井「…………」

何だこの空白の時間。

影井「しまったぁぁぁぁ!」
聖「ひぃっ」
遊佐「なあ、ひょっとしてだが」
影井「な、何ですか?」
遊佐「捕まえた後何をするか考えてなかったとか言うなよ?」
影井「ぎく」

分かりやすいっつーかベタなリアクションだな。

影井「ま、まあ。時間はあることですし、気が変わるのをゆっくり待たせていただきましょう」
遊佐「地味にいやなことを……」

そのままイスに戻って偉そうに座る影井。

遊佐「よし。今の内に何とか脱出しようぜ」
聖「あ、ああ」

もぞもぞ……。
もぞもぞもぞもぞ……。

遊佐「出れん!」
聖「叫ぶな」
遊佐「何で出れないんだ?」

結構真面目に脱出口さがしたんだが。

聖「アレを見ろ」
遊佐「ん?」

部屋の出口の方を見ると、いつの間にか網が一つに束ねられて上に吊ってあった。

遊佐「どうやったんだ?」
聖「知らん」

分かることは一つだけだ。

遊佐「出れないな。これ」
聖「だな」

うーん。仕方ないなぁ。

遊佐「おーい。影井君~」
影井「何ですか?」

ずーっと聖を眺めてた影井は、少し機嫌よさそうだった。

遊佐「コレをあげるから出してくれ」
影井「私は買収には……」

俺が提示したものを見て硬直する影井。

影井「そ、それは、幻の第6の写真!」
遊佐「え? そうなの?」

聖の写真なら喜ぶんじゃね? と、いつぞやましろちゃんが撮ったのを、懐から取り出しただけなんだが。

影井「い、いやしかし。そんな一枚如きで揺らぐ私では……」

どう見ても揺らいでるけど、もう一押しか。

遊佐「じゃあ、もう一枚つけよう」
影井「そ、それは失われた第7の写真!」

何か知らんけどレア物がダブルだったらしい。

遊佐「じゃあ、捨てるか」
影井「ああああ何て勿体無い!」
遊佐「しかしなぁ」
影井「あ、あなた! それがいくらするか分かっているんですか!?」
遊佐「え? いくら?」
影井「第6のはコピーでもン千円しますよ!?」
遊佐「え? マジデ?」
影井「それのオリジナルだなんて、3倍は下らない!」
遊佐「ほんとに?」
影井「もちろんです! 金で買えるならいくら積んでもかまわない!」
遊佐「じゃ、第6の方2万くらいで」
影井「!?」
遊佐「……だめかな」
影井「ぜひ! 売って下さい!」

懐からサイフを引っ張り出して、諭吉を取り出す影井。

遊佐「わーい。儲かったー」
聖「ドアホ。脱出する手を失ってどうする」
遊佐「しまった!?」
聖「後、その金は没収だ」
遊佐「な、なにをするきさまー!」
聖「私の写真で儲けようなんぞ許すわけがないだろうが!」
遊佐「ちょっ、やめっ!」

狭い網の中で聖が襲い掛かってくる。
しかし、せっかくの大金だ。死守せねば。
体をひねって制服に押し込む。

聖「こら! よこせ!」
遊佐「いやだ!」
聖「ええい! よこせというに!」
遊佐「いーやーだー!」

どたばたしてると、影井が少し羨ましそうな視線を送っていた。

遊佐「影井君! 助けて!」
影井「え? あ、いや。それはダメです」
遊佐「他にも写真あるよ!?」
影井「分かりました!」

手早く俺だけを網から脱出させる影井。

遊佐「ど、どうやったんだ?」
影井「企業秘密です」
遊佐「まあ、いい。はい。これ」
影井「こ、これは第2写真のオリジナル!?」
遊佐「聖の私服シリーズは12枚まであるぞ」
影井「ばかなっ。アレは合計7枚という話だ!」
遊佐「ましろちゃんが撮ったのは12枚だ。一応全部あるぞ」
影井「!? 譲ってください!」
遊佐「もう写真ばら撒かないというのなら、もう1枚くらいはいいぞ」
影井「はい! もうしません!」
遊佐「じゃあ、これな」
影井「なんと! 本当に実在したのか!」
遊佐「ああ、まあ、機会があれば他のも見せてやるぞ」
影井「ぜ、ぜひに……」
遊佐「ふっ、こういうものは一度に見てもつまらないだろ?」
影井「し、しかし」
遊佐「次はどんなものだろうか? って想像を膨らませるのがいいんじゃないか」
影井「た、たしかに!」
遊佐「じゃあ、今日はここまでだな。帰っていいぞ」
影井「はい! ありがとうございました!」

そして去っていく影井。

遊佐「計算どおり」
聖「何が計算どおりだ」
遊佐「これでお前を救出できるんだろうが」
聖「まあ、確かにそうだが……」
遊佐「というわけで、これから脱出させるが」
聖「ふむ」
遊佐「その前に一つ約束してもらおう」
聖「何だ?」
遊佐「俺が持っている写真に関して、一切の権利を侵害しないと」

便利だし、高く売れるし。

聖「ふざけるな! 被写体が私の時点で存在自体許せたものではない!」
遊佐「ふん。そう言うだろうとは思っていたさ」
聖「ならばどうするというのだ?」
遊佐「それはな……」

1.くすぐりの計
2.人質の計

――――――1選択時(変化なし

丁度おいてあった羽ペンを手に取りニヤリと微笑む。

遊佐「イェスと言うまでくすぐるのさ」
聖「や、やめろっ」
遊佐「そ~らファサファサ」

鼻の下とか首筋とかに羽部分でサワサワする。
ちょっとイケナイ気持ちになりそう。

聖「あひゃっ。こ、こら、はぅっ」
遊佐「ふふふ、ギブアップするんだな」
聖「ふぁっ、やめ、んっ」
遊佐「やめて欲しければ約束するのだ。ふふふ」
聖「わ、はぅっ、分かったからっ、やっ」
遊佐「ふ、最初から正直になればいいものを」
聖「はふぅ……」

聖がぽーっとしている。
ほんとにイケナイ気持ちになりそうだ。
っと、網を外さないとな。


――――――2選択時(聖好感度-1

遊佐「このましろちゃんの写真がどうなってもいいのか?」

突入前に没収しておいた写真の群れ。
まさか役に立つとは思ってなかったぜ。

聖「ひ、卑怯だぞ!」
遊佐「ふふふ。何とでも言え」

一枚を手に取り、そっと力をかける。
ぴりっ。

聖「や、やめろ!」
遊佐「約束すればやめてやるぞ」

びりびり……。

遊佐「あーあ。ましろちゃんが一枚ダメになった」
聖「ああ、ましろ。ましろ……」
遊佐「お前が強情だからだ。ほら、もう1枚」
聖「やめろぉぉぉ!」
遊佐「お前もやはり、自分の身の方が大事だったんだな。ふふふ」
聖「分かった! 分かったからやめてくれ!」
遊佐「ほう? 何が分かったんだ?」
聖「お前の持っている私の写真に関して、もう何も言わん!」
遊佐「ふむ。いいだろう」


――――――選択分岐終了

ごそごそ……。

遊佐「危ないところだったな」

網から聖を脱出させ、朗らかに微笑む俺。

聖「やかましい!」
遊佐「でゅくしっ!?」

強烈なストレートが俺の顔面に直撃する。

遊佐「な、なにするんだよ」
聖「私にあんな嫌がらせをした罰だ」
遊佐「すまんすまん」
聖「全く……」
遊佐「だが、約束は約束だぞ」
聖「分かっている」

しかし……。

遊佐「お前も人気あったんだな」
聖「は?」
遊佐「お前の写真も取引があるみたいだし」
聖「やめてくれ、できれば記憶すらしたくない」
遊佐「天晶堂とやらに問い合わせたら売ってくれるのかねぇ」
聖「想像すらしたくない」
遊佐「やれやれ」

まあ、気持ちは分からんでもないが。

遊佐「ところで、特に相手とか居ないなら、影井にオーケー出しても良かったんじゃないか?」
聖「私にだって選ぶ権利くらいある」
遊佐「まあ、確かになぁ」
聖「全く……む、遅くなってしまったな」
遊佐「そうだな。帰るか」
聖「その前に、服についたトリモチをどうかしたいが」
遊佐「諦めるしかないんじゃないか?」
聖「……だろうなぁ」
最終更新:2008年10月15日 10:19