ましろ「遊佐君聞いたよ~?」
遊佐「ん? 何を?」
授業が終わると同時に、ニコニコしたましろちゃんがやってきた。
ましろ「聖ちゃんと決闘するんだって?」
遊佐「あー。うん。そうなった」
己のノリのよさが恨めしいぜ。
ましろ「やっとステップアップだね」
遊佐「え? 何が?」
ましろ「うんうん。応援してるからね~」
一人で納得されても困るんだが。
まあいい。とりあえず応援してくれるなら、情報入手のチャンスだ。
遊佐「勝てる自信ないけどね」
ましろ「そうかなぁ?」
遊佐「聖の実力も良く分からないし」
ましろ「結構強いほうだと思うよ」
遊佐「ふむふむ。どういう戦い方を?」
ましろ「んーっと、どっちかというと持久戦の方が得意かな」
遊佐「持久戦?」
ましろ「うん。攻撃より防御の方が得意みたい」
遊佐「ほう。あの聖が?」
あの暴力的なイメージとは対極だな。
ましろ「性格は関係ないと思うよ?」
遊佐「まあね。で、得意な武器とかは?」
ましろ「んっと、片手剣と盾の黄金セットだね」
遊佐「ふむふむ」
ましろ「両手剣も使えるけど、あんまり練習してないはずだよ」
遊佐「なるほど」
ましろ「片手剣セットの方はみっちりやってるから、結構手ごわいかも?」
遊佐「うーん。どうやったら勝てるかな?」
ましろ「得意な武器とかで正面勝負じゃダメかな?」
遊佐「得意なのとか特にないよ」
ましろ「うーん。難しいね」
遊佐「一撃の重いので一発を狙うかなぁ」
ましろ「それはギャンブル過ぎるんじゃないかな?」
遊佐「うーん。そうかな」
ましろ「やっぱり扱いやすいもので堅実に行ったほうがいいかも」
遊佐「かなぁ」
ましろ「長物は習熟に時間かかるだろうし……」
遊佐「確かに」
ましろ「やっぱり、短剣とかハンマーとかナックルかなぁ」
遊佐「ハンマー……危険すぎる」
ましろ「え? でも、使いやすいよ?」
遊佐「そりゃ、誰しも扱ったことはあるだろうけど、生々しすぎていやだな」
ましろ「使いやすいのになぁ……」
残念そうだけど、深く突っ込むのはやめておこう。
何となく怖いし。
遊佐「うーん。大人しく短剣かな?」
ましろ「ふむふむ」
遊佐「ナックル類だとリーチが厳しそうだし」
ましろ「なるほど」
遊佐「他にも色々考えておく必要があるな……」
ましろ「卑怯なことはしちゃダメだよ」
遊佐「え? ああ、それはないけど」
ましろ「ならいいけど、ズルして勝っても聖ちゃんは納得しないだろうからね」
遊佐「確かに」
せっかく勝負するのに、結果をうやむやにされては意味がない。
ましろ「とにかく、これから特訓だね」
遊佐「え? いや、俺は作戦を立てておきたいんだけど……」
ましろ「それは寝る時にも出来るよ。時間は大切なんだから」
遊佐「まあ、それはそうかもしれないけど」
ましろ「じゃあ、早速行こう!」
遊佐「え? ちょ、ま――」
襟元を捕まれ、ずりずりと引きずられる。
…………
……
たどり着いたのは道場だった。
ましろ「しつれいしまーす!」
武僧「お、よう来たな」
こ、このおねーさんは!
武僧「彼が話の子なん?」
ましろ「はい。そうです」
超胸でけー。
浪漫の塊だな。うむ。
ましろ「遊佐君。空手部部長の武僧先輩だよ」
遊佐「あ、はい。よろしくお願いします」
武僧「ははは。堅苦しいのは無しや」
遊佐「は、はあ」
武僧「得物使うんは専門外やねんけど、一応使えるから安心し」
遊佐「へ?」
ましろ「特訓の相手になってもらうんだよ」
武僧「ほなやろか」
道場の隅っこからバットを拾い上げる武僧さん。
って、おい!
遊佐「いやいやいや! 何かもっと穏やかな特訓はないの!?」
ましろ「ふふふ。遊佐君は知らないみたいだね」
遊佐「な、なにが?」
ましろ「1の実戦は10の訓練より効果的なんだよ!」
遊佐「いやいやいや! 死ぬって!」
武僧「一応加減はするやん?」
遊佐「しかも何でバットなんだよ!?」
ましろ「長さ的に丁度いい鈍器がこれだったんだよ」
遊佐「何気なく鈍器って言わないでよ! 怖いじゃない!」
ましろ「あ、これ遊佐君用のね」
ぽんと手渡されたのはちょっと短くなっているバット。
切断面が滑らかだ。
遊佐「どうやって切ったの?」
ましろ「武僧先輩がスパーンと」
ましろちゃんが空中にチョップを繰り出す。
まさか、素手で?
ましろ「野球部の人も笑顔で承諾してくれたから、思う存分振っちゃっていいよ」
多分引きつり笑顔だと思うな。それ。
武僧「ほないくで?」
遊佐「え? ちょ」
遊佐「くぎゅう!?」
…………
……
武僧「あ、そろそろ下校時間やね。かえろか」
ましろ「はーい」
遊佐「あ、
ありがとう……ございまし……た」
ましろ「じゃあ、またね遊佐君」
武僧「ほなな~」
電気の消えた道場に、粗大ゴミのように転がる俺。
人生って何だろう?
最終更新:2008年10月19日 01:00