遠くの方で歓声やらが聞こえる。
体育祭というものはもっとやる気のないものかと思っていたんだが。
この学校の生徒のやる気の高さがうかがえる。
盛り上がってるなぁ。
まあ、それはおいておいて。
今日は決戦の日だ。
特訓はボコボコにされ続けただけだから、思い出したりしない。
いや、思い出したくない。

聖「ふむ。逃げずに来たようだな」

どーんと仁王立ち。
お前はどこの悪役だ。

遊佐「ま、お手柔らかに頼むよ」
聖「ふん」

一応作戦やらは立てた。
立てたけど、あんまり自信はない。

ましろ「二人ともがんばってね~」

満面の笑顔が眩しい。

遊佐「って、何で居るの?」
聖「立会人だ」

何か本格的だなぁ。

聖「ちなみに私が勝ったらお前は農耕部で1年無料奉仕な」
遊佐「農耕部って何?」
ましろ「裏の畑でお米を作ってるクラブだよ」
遊佐「マジで?」

そんなんあるのか?

ましろ「収穫されたお米はちゃんと売られて、利益は部員に還元されるんだよ」
遊佐「それ大丈夫なのか?」
ましろ「表向きは打ち上げで全部使ったことになってるんだよ」

アウトじゃないか?

聖「ちなみにあそこを仕切ってるのは……」
ましろ「聖ちゃん」
聖「……いや、なんでもない」

ましろちゃんの目が怖い。
触れてはいけないことらしい。

ましろ「そろそろ始めないと、時間きちゃう」
聖「ん。分かった」

時刻は昼前、バリスタが始まる前で、用具が隅っこにおいてある。
実行委員とかはバタバタしてるから、ちょっと借りても分からない。
と言う事でこっそりと借りておいた。
聖はやはり片手剣と盾のセット。
俺はとりあえず長めの短剣。
ナイフ的なものを腰に一本オマケで用意しておいた。

ましろ「遊佐君の武器はバゼラード型、全長50センチ。と」

なぜかメモを取るましろちゃん。

ましろ「聖ちゃんのは、ブロードソード型、全長70センチ」

20センチの差か、あんまり大きくないな。

ましろ「ねえねえ。バゼラードってサイズ的には片手剣に近いと思うんだけど」
遊佐「いや、それはどうでもいいと思うよ?」
ましろ「それにブロードソードって馬上で使うのが多かったんじゃ?」
遊佐「史実云々にしつこいとうざがられるよ?」
ましろ「むぐっ」

細かいことを突っ込んだらイケナイと思うのでやめておこう。

ましろ「えっと、ルールは?」
聖「遊佐は一撃いれれたら勝ちでいいぞ」
ましろ「聖ちゃんの方は?」
聖「遊佐が気を失うまでだ」
遊佐「ハンデのつもりか?」
聖「いや? 徹底的に叩きのめさせてもらうだけだ」

怖いことを言うなよ。

ましろ「じゃ、時間も無いしそろそろいくよ?」
遊佐「分かった」
聖「いつでもかまわない」

聖が構えた。
空気が冷える。
やれやれ、こういうのガラじゃないんだけどな。

ましろ「はじめ!」

ましろちゃんの号令で、聖が盾を構えながら突進してくる。

聖「はっ!」

横一閃!

遊佐「っと!?」

遠慮容赦のない斬撃を何とか受け流し、距離をとる。
追撃は……来ない。
ちっ、まずは様子見って事か?
特訓してなかったら今の一撃でやられてたかもしれないな。
あれで目を養えたなら、ぼこぼこにされた甲斐もあったってものだ。
とはいえ、守ってばかりじゃダメだ。
打って出るか?
いや、危険すぎる。

聖「来ないのか?」
遊佐「分かりやすい挑発には乗らないようにしてるんだ」
聖「ふん」

じりじりと間合いを計る。
素人目でも、付け入る隙が見当たらない。
参ったな。
カウンター狙いなんて高尚な技術はないしなぁ。
ともかく、聖の癖か何かを見つけないと……。

ビュッ

構えからの高速の突き。
慌てて身をよじると、軌道を変えてのなぎ払い。

遊佐「ちっ!」

何とか受け流すが、しびれるような衝撃が腕に走る。
あんまりゆっくりも出来そうにない――。

聖「せぇっ!」

再び横からの斬撃!

遊佐「つぅっ」

剣で受け止め、鍔迫り合いに持ち込――。
ごんっ。

遊佐「いでぇ!?」

聖が盾で強打し、距離を離す。

遊佐「盾で殴るなよ!?」
聖「聞く耳もたんな」

ったく。力勝負には持ち込みたくないってか。

聖「行くぞ」

腰溜めに剣を構えてから、大振りの上段。
そんなみえみえの一撃、当たるわけにはっ。

ビュンッ

振り下ろされた剣をバックステップで回避。
しかし、下段の剣がそのままこちらを追撃する!

ガッ

何とか受け止めるが、体勢を崩してしまう。
聖は勢いを殺さず、体をひねる。
やばい。もう一発来る!

ガスッ

っつぅ。
左腕に激痛が走るが、構っていられない。

遊佐「せいっ」

崩れた体勢から、無理やり突きを放つ。

ギンッ

慌てた風もなくきっちりと盾で防がれる。
とはいえ、さすがに追撃は来ないか。
しかし――。
押し込むしかない!
一瞬で決め、弾かれた剣でそのまま足を狙う。

ガッ

剣で受け流され、空を薙ぐ。
まだだ!

ギンッ ギンッ ギンッ

聖の盾めがけ、叩きつけるように剣を振るう。

聖「ちっ」

俺の力押しに、聖が少しだけ後退する。
このまま押し込む!

ガギィンッ

続けて剣を振るが、聖の盾がそのままこちらに押し出される。

遊佐「ぐっ」

勢い良く強打され、たたらを踏んでしまう。

聖「もらった!」

再び体勢を崩した俺の頭めがけ、聖が横薙ぎに切りかかる。

遊佐「なんとぉっ!」

ビュンッ

そのまま背中に倒れこむ俺の目の前を聖の剣が通り過ぎる。
こ、こえー……。

聖「しつこいっ」

倒れこんだ俺に向け、聖が剣を振り下ろす。

ガスッ

横に転がって何とか急場を凌ぎ、起き上がる。
押し込み切れなかったか。
正直危なかったから、無事なだけでよかったとしよう。
左腕は痛いが、まだやれる。
とはいえ、振り出しに戻った感は否めないな。

聖「良く頑張った。といったところか」
遊佐「ん?」
聖「正直、ここまで持つとは思っていなかったぞ」
遊佐「それはどうも」
聖「そういえば、お前は何を望むんだ?」
遊佐「何って?」
聖「もしも勝ったら。だ」
遊佐「さぁな。俺が勝ったら分かるんじゃないか?」
聖「じゃあ、私がそれを知ることはないな」
遊佐「言ってろ」
聖「さて、そろそろ終わりにしようか」
遊佐「同感だな。疲れるし」
聖「ふん。減らず口を」
遊佐「ほっとけ」

聖が姿勢を低くする。
ピンっと張った緊張感。
感覚が研ぎ澄まされ、時間が引き延ばされていく。

聖「はぁぁぁっ!」

横薙ぎの鋭い剣閃が俺に迫る。


――――――好感度判定
――――――好感度8以上の場合 聖ルート10の続きに飛ぶ
――――――好感度8未満の場合以下に続く

ギンッ

何とか受け流すが、一撃の重さに体勢を崩してしまう。

ごすっ

遊佐「ぬぉ!?」

さらに盾で強打され、後ろに倒れこむ。

聖「せいっ!」

ガスッ

座り込んだ俺の頭に聖の剣が降り注いだ。

遊佐「ぶべらっ」

混濁する意識のなか、聖の靴が視界に広がった。

…………
……

??「――て――君」

うー……。
あたまいたい。

ましろ「遊佐君!」
遊佐「ふぉあ!?」

気がつけばあたりは夕暮れだった。

ましろ「残念だったね」
遊佐「う?」

あ、そうか。

遊佐「……負けちゃったか」
ましろ「善戦したほうだったけどね」
遊佐「聖は?」
ましろ「どっかいっちゃったよ」
遊佐「……そうか」

作戦は失敗か。

遊佐「うーん。次の手を考えよう」
ましろ「ん? 次って?」
遊佐「秘密だ」
ましろ「うーん。次はないんだけど……」
遊佐「え?」
ましろ「ほら、聖ちゃん言ってたでしょ?」
遊佐「何を?」
ましろ「負けたら農耕部でただ働きって」
遊佐「ああ、そういえ……ば……」

いまさらだが、屈強な男達が俺の後ろに整列していることに気づいた。

ましろ「というわけで、みんなよろしくね」
男達「ウス!」
遊佐「ちょ!?」

両端からがしっと腕をつかまれる。

ましろ「お米楽しみにしてるからね」
男達「ウス! 任せてくださいッス!」
遊佐「待って! 待ってくれぇぇぇぇぇ!!!!!」

夕日の中、俺の叫びはむなしくこだましていった。

…………
……

その後、拉致された俺はほとんど授業にも出してもらえず、農作業に明け暮れることになった。
まさか、売り上げのほとんどがまくぁwせdrftgyふじこlp;

―――――――バッドエンド
最終更新:2008年10月23日 04:30