ギンッ

正面から受け止め重い衝撃を凌ぐ。

タンッ

勢いのまま、聖が盾を構え、タックルしてくる。
これだ!

遊佐「うなっ」

半歩横に跳び、反復横跳びの要領で即座に戻る!

聖「なに!?」

驚愕する聖の顔が間近に迫る。
腰のナイフを抜き放ち、聖の剣に叩きつける。
そしてそのまま聖の左腕を巻き込んで押し倒す!

聖「ぐっ」

倒れこんだ聖に馬乗りし、剣を突きつける。

遊佐「俺の……勝ちだ」
聖「…………」

呆然とした様子の聖。
うーん。どいていいのかな?
でも一応当ててはいないし、屁理屈こねられたらいやだしなぁ。

ましろ「あっ、勝負あり!」

立会人のましろちゃんがちょっと遅れて宣言。

遊佐「ふぅ~」

あー。疲れた。

ましろ「すごいね! 聖ちゃんのシールドバッシュにあわせて懐に飛び込むとか!」
遊佐「詳細な説明をありがとうましろちゃん」

聖がシールドバッシュを多用してくれたおかげで、突発的に思いついた作戦だ。
盾なのに本気で痛かった。
多分かなり力を込めてあったんだろう、回避したらがら空きになると踏んだ。
とはいえ、その後普通にせめても勝てそうには無い。
だから、半分賭けで戻ってみたのだが。

遊佐「大当たりだったな」
ましろ「ナイスファイトだったよ」
遊佐「うん。もっと褒めていいよ」

褒められてのびる子だからな!

聖「……そろそろどけ」

俺の下で聖の不機嫌ゲージが上昇していた。

遊佐「あ、すまんすまん」
聖「ふんっ」

慌てて退くと、聖はやっぱり不機嫌そうに砂を払いながら、立ち上がった。

遊佐「ともかく、俺の勝ちだな」
聖「私の方が先に一撃入れたぞ」

あ、言い逃れするつもりだなこいつ。

ましろ「ぽちっとな」
聖『遊佐は一撃いれれたら勝ちでいいぞ』
ましろ『聖ちゃんは?』
聖『遊佐が気を失うまでだ』
聖「んな!?」

ましろちゃんがカセットテープからお届けしました。
……いつの間にそんなものを?

ましろ「ふふふ。聖ちゃん?」
聖「ぐぬぅっ」
遊佐「俺の勝ちだぞ」

あえて偉そうに言ってみる。

聖「仕方ない。認める」
遊佐「素直でよろしい」
聖「じゃ、私はこれで……」

そそくさと帰ろうとする聖。

ましろ「ダメだよ。敗者は勝者の命令に一つ従うって話でしょ」
遊佐「うむ。重要なポイントだな」
聖「……くっ」

いやそーな顔な聖。

遊佐「そんなに嫌か?」
聖「当たり前だ。お前の命令なんてロクでもないに決まっている」
ましろ「例えば?」
聖「それは……」

口を開きかけて固まる聖。

遊佐「言えないようなひどい事を想像したのか?」
聖「きっ、貴様ならそれくらいやりかねん!」
遊佐「おいおい、それはひどいな」
ましろ「ここは、毎日俺の朝食を作ってくれ。とかでもいいんじゃない?」
聖「ひぃっ」
遊佐「いや、それはこちらからごめんこうむる」

っていうか『ひぃっ』って何だよ。

遊佐「まあ、元々決めてあったんだよね」
ましろ「ふむふむ」
聖「アーアーキコエナイー」
遊佐「耳を塞ぐなよ」

全くこいつは。

遊佐「そんなにひどい話じゃないから安心しろ」
ましろ「ふむふむ」
遊佐「ずばり!」
ましろ「ずばり?」
遊佐「杏と仲直りしろ!」
聖「アーアー」

しつこく耳を塞いでる聖の両腕を掴み、引き離す。

遊佐「杏と、仲直り、しろ」
聖「なん……だと……?」
ましろ「えぇ~……」
遊佐「いや、何でましろちゃんが残念そうなんだ?」
ましろ「だって~……」
遊佐「だってじゃありません!」
ましろ「つまんにゃ~い」
遊佐「んまっ。そんな子に育てた覚えはありませんよ!」
ましろ「育てられてないもん」
遊佐「だから、育てた覚えはないって」
ましろ「なるほど」

俺とましろちゃんがバカな掛け合いをしてる横で、聖が困ったように思案していた。

遊佐「何だ? 無理っぽいのか?」
聖「え? あー。まあ、うん?」
遊佐「何だ、仲直りしたくないのか?」
聖「仲直りというか、仲良くはしたいと思うが……」
遊佐「何を困っている?」
聖「それが出来てたら苦労しないというか何と言うか……」
遊佐「ふむ」

それもそうか。
じゃあ、罰ゲーム的に何かを杏のためにさせよう。

遊佐「うむ。じゃあアレだ」
聖「何だ?」
遊佐「杏に毎日弁当を手作りして渡すように」
聖「む?」
遊佐「ちゃんと食べてもらわなかったら罰ゲームな」
聖「いや、話のつながりが見えないんだが」
遊佐「仲直りの第一歩的な感じだ。ありがたく思うように」
ましろ「罰ゲームって何なのかな?」

ましろちゃんが食いついた。
罰ゲームとか好きなのかなぁ。

遊佐「うーん。ナースのコスプレで一日過ごすとか」
聖「うげっ」
遊佐「あ、バニーでもいいぞ」
聖「絶対断る!」
遊佐「嫌なら杏にお弁当を作って、しかもちゃんと食べてもらうことだな」
聖「ぐぬぅ」
遊佐「これが出来ないと言うのなら、下だけブルマで1週間過ごしてもらうことになる」
ましろ「何か卑猥だよ?」
遊佐「うん。わざと」
聖「……分かった」
遊佐「なに!? 下だけブルマを了承だと!?」
聖「アホか! 弁当の方だ!」

ごすっ

遊佐「盾で殴るなよ! マジで痛いんだぞ!」
聖「やかましい! お前なんか死んでしまえ!」
遊佐「終わったんだから武器をしまえ!」
聖「うるさいうるさいうるさい!」

自棄になった聖がめったやたらと剣を振り回す。

ましろ「全くもう。仕方ないなぁ」

逃げる俺と追う聖を眺めながら、ましろちゃんがため息をついていた。

遊佐「突きはやめろ! マジで死ぬ!」
聖「知るか! むしろ死ね!」
遊佐「っていうか何で俺追われてんの!?」
最終更新:2008年10月23日 04:31