…………
……
授業が終わり、何となく屋上にやってきた。
遊佐「よぅ」
先客に軽く挨拶をしてみるが、返事はない。
遊佐「何してるんだ?」
杏「……別に」
遊佐「相変わらず無愛想だな」
杏「…………」
肩をすくめてもこちらを見ようともしない。
ま、いつものことだな。
遊佐「授業も終わったけど、帰らないのか?」
杏「……そうね」
返事はあったものの、動く気配はない。
遊佐「ちょっと気になったんだけどさ」
杏「…………」
遊佐「やっぱ迷惑だったか?」
杏「……?」
遊佐「聖に弁当作らせたこと」
杏「…………」
遊佐「お前らの為だと思ってるんだけどなぁ」
杏「……に?」
遊佐「え?」
杏「本当に?」
遊佐「あ、ああ。そのつもりだけど」
杏「……何のために?」
遊佐「? お前ら姉妹の――」
杏「違う」
遊佐「え?」
杏「……ふぅ」
遊佐「何だよ?」
杏「何故?」
遊佐「何故って……気になったからだけど……」
杏「……それだけ?」
遊佐「あ、ああ。多分」
杏「もし本心なら、ただのお節介よ」
遊佐「……そうか」
杏「……善意の押し売りは嫌いよ」
杏の目が――冷たい。
これまで見たことのない類の冷たさだった。
杏「それが偽りなら、もっとね」
遊佐「……俺は……嘘なんか……」
杏「……もう、関わらないで」
遊佐「ま、待ってくれ」
杏「……」
杏は答えず、静かに去っていった。
遊佐「…………」
やっぱり、うざがられてたかなぁ。
でも、最近は少し仲良く出来てたと思うんだけど……。
遊佐「……とりあえず、帰るか」
…………
……
鞄を取りに教室に戻ると、俺の机で誰かが寝ていた。
……?
遊佐「聖?」
聖「ふぁ……ん?」
遊佐「何してるんだ?」
聖「…………」
遊佐「…………」
なぜか見つめあう俺と聖。
聖「うわっ!?」
遊佐「何してるんだ?」
聖「えっ……と、寝てた……かな?」
遊佐「なぜ俺の机で?」
聖「た、たまたまだ。うん」
遊佐「たまたま? 変な奴だな」
何か突っ込みを入れる気分でもないので、適当に流そう。
聖「ん? どうした?」
遊佐「何がだ?」
聖「いや、心なしか覇気がないような……」
遊佐「気のせいだろ」
聖「……何かあったのか?」
遊佐「ないさ。別に何も、な」
聖「嘘つけ」
遊佐「ほっとけよ。ましろちゃんのとこにでも行って来い」
聖「……そうか」
何かしょんぼりしてるように見えるけど、フォローする元気はなかった。
聖「そうだ」
遊佐「まだ何かあるのか?」
聖「元気になるおまじないをしてやろう」
遊佐「は? 何いって――」
不意打ちだった。
気がついたら、間近に聖の顔があって……。
唇に、柔らかい感触が……。
一瞬だったのか、数秒だったのか。
俺が呆気にとられてる間に、聖はいつの間にか離れていた。
聖「じゃあな! 何かあったら相談に乗るぞ」
遊佐「あ、おい……」
呼び止める間もなく、聖は教室を出て行った。
遊佐「いや、わけがわかんねーよ」
今のって、キス……だよな?
杏に絶縁を言い渡され、聖にキスされ。
俺の頭はパンク寸前だった。
いや、訂正しよう。
パンクしていた。
最終更新:2008年10月28日 02:32