一日の終わりを告げるチャイムが鳴った。今日も今日とてすることはなく。
中島「おーっす、遊佐。また捕まる前に帰ろうぜ」
遊佐「そんなこと言ってるとまた捕まるぜ?」
と、言いつつ別に捕まってもいいやと思っている自分がいる。むしろ、自分から行きたい……のか?
遊佐「はっ……いかんいかん」
中島「どうしたんだよ? いきなり」
遊佐「ちょっと変な考えを持ってしまってな」
忍「変なことって何? ねぇねぇ?」
な、な、な……
中島「で、でたーーー! 逃げるんだぁああ!」
そう言うと中島は走って出て行ってしまった。
遊佐「……それじゃ、俺もコレで」
ここは一つ、穏便に逃げてみる方向であえて挑戦する。
忍「逃がさないからね!」
遊佐「なんでですか……なんで俺達ばっかりなんでしょう」
忍「だって、遊佐君おもしろいもん」
遊佐「先輩に言われても嬉しくありません」
もっと普通の女の子に言われたら嬉しいのに、褒められてる気がしない。
忍「とにかく、今日は遊佐君に料理を教えることにしてあるから、行くよ」
遊佐「ちょ、ちょっとまってください。それ、確定事項なんですか?」
忍「ほら、ぎゃーぎゃー言わずにだまってついてくる!」
がしっと手をつかまれ引張られる。
遊佐「たったった、行きます行きます! ていうか先輩からは逃げられませんから!」
忍「あ、そう? んじゃ行こうか」
遊佐「まったくもう……どこいくんですか? 家庭科室とか?」
忍「そこはつまんないからダメ。とにかくついてくる」
他に料理なんて教えられるところなさそうだけどな。
忍「こっちね」
そして学校から離れて、って
遊佐「ちょ、ちょ……なんで学校の外に行くんですか」
忍「まーいいから着いてきて! で、トレーニングついでにちょっと走るかな」
遊佐「走るって先輩むちゃくちゃ早いから!」
忍「どんっ!」
だー! 本当に走り出した!! くそっ! 追いかけないと!
遊佐「無理ですって! まじで!」
忍「ゆっくり目に走るから大丈夫だよ! あとあんまり喋らない方がいいよー!」
全然ゆっくりじゃないです! みるみる離れていきます! ていうかスカートめくれそうです!
遊佐「ぜ、全然おいしくねえ!」
やっぱ普段から鍛えとかないとダメだこれ! 痛感した!
忍「遊佐君走るときはねー! 上体を安定させた方が疲れないよ!」
上体を安定させるって全力疾走に近いのにできるかー! どれだけ早いんだ-!
忍「ほら、頑張れ!」
遊佐「ふおらー!」
俺は訳の分からぬ雄叫びとともに、足に全身全霊の力を込めた。
忍「よし、その意気だ! ゴーゴー!」
それから三分後俺はへたり込んだ……。
遊佐「……もう、無理……ていうか……心臓いたい……超痛い」
忍「ま、よく頑張った方だよ」
遊佐「ていうか、全然……疲れてませんね」
忍「慣れてるしね~」
慣れるってどれだけ走ってるんだろうか。
遊佐「で……目的地って……あとどのくらいですか……?」
忍「ここだよ」
そういって指を指したのは本当にすぐ目の前にある家だった。
忍「ま、上がって上がって」
からから、と音を立てて開ける引き戸がなんとなく古い家を感じさせる。が、見た目は立派だ。
遊佐「えーっと……お邪魔します」
玄関はちょっとひんやりしていた。そして家が暗い。誰もいないのだろうか?
忍「ちょっとそこに座って待ってて、お茶もってくるから」
遊佐「それじゃあ、失礼します」
座って一息つく。はぁ……ここは涼しくていいや。
奥から冷蔵庫を開けて何かを取り出す音がする。
なんだろう。すごく落ち着く。下を向いて流れてきた汗をぬぐう。まだ体は熱いけど。
忍「はい、おまたせ」
遊佐「
ありがとうございます」
お茶を受け取るとゆっくり飲み干した。はぁ……生き返る。
遊佐「ふぅ……」
忍「ちょっと休憩したら、早速始めるからね。時間もないし」
遊佐「時間って……」
忍「晩までに作らないと意味ないでしょ?」
遊佐「まぁ、そうなんですけど」
忍「それじゃ、やろうか」
それから先輩に料理を教わりながら作業したが、先輩は器用だった。
慣れた手つきでどんどん作業を進める。
これはちょっと予想外で、意外な一面を知ったようなきがする。
忍「ほら、手が止まってる」
遊佐「あ、ああ。すいません」
ぼーっと先輩を見ていて注意されてしまった。
忍「ちゃんと教わる気あるの?」
遊佐「あんまりありません」
忍「バカ!」
すかん!
遊佐「いったぁ! お玉で殴ることないでしょ! しかもそれ小麦粉ついてる!」
忍「これくらいしないと遊佐君は反省しない」
遊佐「無理矢理つれてきておいて……まったく」
忍「遊佐君は楽しくない?」
遊佐「……うーん」
忍「私は楽しいけどな」
とんとん、と包丁で野菜を切っていく音がする。
遊佐「まぁ、家でぼーっとしてるよりは楽しいですね」
忍「素直じゃないねー」
遊佐「……うるさいですよ」
最終更新:2008年12月14日 23:21