@廊下

おや? ましろちゃんだ。
何か大きいダンボールを抱えてよたよたしてる。

遊佐「手伝おうか?」
ましろ「あ、遊佐君」

こちらに気づいたましろちゃんが、額に汗を流しながらにこにこ笑顔を浮かべる。

遊佐「何の荷物?」
ましろ「さあ? 先生に頼まれたんだけど……」
遊佐「重そうだね……」
ましろ「まあ、そこそこね……」
遊佐「手伝おうか?」
ましろ「う~ん。お願いしても良い?」
遊佐「もちろん」
ましろ「ごめんね。ありがとう
遊佐「どういたしまして……よっと」

う、おも……。
中身何なんだろう?

ましろ「そこの準備室までなんだけど、ちょっと疲れちゃって」
遊佐「おっけー」

@準備室(聖で使ったとこで

ましろ「ご苦労様。ありがと」
遊佐「結構重かったけど、どこから運んでたの?」
ましろ「3階からだよ」
遊佐「うへ……大変だったね……」
ましろ「ちょっとだけ、ね」
遊佐「こういう重労働は聖にでもやらせればいいのに」
ましろ「あはは、聖ちゃんがかわいそうだよ」
遊佐「いやいや、肉体労働は聖にぴったりだし」
ましろ「そんなことは――」

不意に硬直するましろちゃん。

遊佐「ん? どうかした?」
ましろ「あぅ……」

何かに怯えながら俺の後ろを指差すましろちゃん。

遊佐「ん?」

不審に思いながら後ろを振り返ってみる。

遊佐「別に何もいないよ?」
ましろ「う、うえ……」
遊佐「上?」

天井? は何も無いし……棚?

遊佐「あ、トカゲだ」

ちんまい茶色のが一匹、棚の上からこちらを見下ろしていた。

遊佐「でも、ヤモリとかイモリとかかな?」

まあ、どうでもいいか。

遊佐「ましろちゃんって爬虫類苦手なの?」
ましろ「…………」

完全に石化している。
とりあえず追い払うか。

遊佐「あっちいけー。しっしっ」

って、犬猫じゃないんだから効果ないよな。
とすると、ましろちゃんを外に出したほうが早いか。

遊佐「ましろちゃん。気をしっかり」
ましろ「う、うん」

やっと石化から回復したようだ。


ましろ「ゆゆ遊佐君。と、とりあえず外に出よう」
遊佐「あ、うん。そだね」

ましろちゃんは必死に視線をそらしながら、廊下に向かって足を進める。
ちっちゃい茶色が、ましろちゃんをガン見してるように思えるのは気のせいだろうか?
何か身構えてるような……。

遊佐「あっ」
ましろ「えっ?」

俺に反応して振り向いたましろちゃんに、ちっちゃい茶色が降り注ぐ。

ましろ「ひっ!?」

ましろちゃんのおでこに激突して、茶色が地面に落ちる。

ましろ「――!!!!!!!!」

声にならない悲鳴を上げて俺にしがみつくましろちゃん。
何か良い匂いがする。ってそんな場合じゃない。

遊佐「ま、ましろちゃん!? 落ち着いて!」

無言でぷるぷると震えるましろちゃん。

聖「何をしている?」
遊佐「キタ! 救いの神キタ! これでかつる!」
聖「よくわからんがしばき倒して良いのか?」
遊佐「いやいやいや、待て待て。トカゲが出てだな」
聖「で、ましろを脅して今に至るのか?」
遊佐「何か地味に違うっ!」
聖「5秒やろう、念仏でも唱えろ」

やばい、このままではやられる……!

ましろ「聖ちゃん。待って」

俺の胸元からましろちゃんが、か細い声をあげる。

聖「しかしましろ……」
ましろ「ちょ、ちょっとびっくりしただけだから」
聖「むぅ……」
ましろ「もう平気だし、ね?」

儚げな笑顔のましろちゃん。
トカゲとぶつかっただけだが。

ましろ「遊佐君が居て助かったし」
聖「何か納得できないが、ましろがそういうなら……」

ましろちゃんのおかげで助かったな……。

ましろ「ありがと」
聖「いや、問題ない」
ましろ「遊佐君もありがとう」
遊佐「どういたしまして」
聖「さあ、ましろ教室に戻ろう」
ましろ「あ、うん」
遊佐「じゃ、俺も」
聖「は? お前は一人で帰れバカ」
遊佐「ひでぇっ!?」
聖「お前と一緒に居たらましろが穢れる」
遊佐「どんな罵倒だよ……」
聖「理解したら1時間はそこに居ろ」
遊佐「いや、それ授業出れないじゃないか」
聖「知らん。じゃあな」
ましろ「え? あ、聖ちゃん??」

ましろちゃんをずりずり引っ張りながら聖は去っていった。
ほんとに俺を置いていきやがった……。
最終更新:2009年02月04日 18:16