@教室

中島「ぴくしぶっ」

聖の鉄拳制裁で中島は教室の藻屑となった。

遊佐「何かこの光景見慣れたなぁ」
ましろ「前は遊佐君が飛んでく役だったけどねぇ」
遊佐「そうか、俺はあんな綺麗な放物線を描いていたのか……」
ましろ「飛距離も2メートルはかたかったね」
遊佐「俺も中島も頑丈だなぁ」
ましろ「正直、けが人が出ないのが不思議だよね」
遊佐「確かに」
中島「あぽかりっ」

まっすぐこっちに降ってくる中島。

遊佐「レシーブっ」
中島「まんだうっ」

聖のほうにけり返しておいた。

遊佐「さすが親切な俺だ」
ましろ「中島君がかわいそうな気が……」
遊佐「気のせいさ。むしろ喜んでるに違いない」
ましろ「そ、そーかなー?」
聖「すぱいなるぐりーぶ!」
中島「いーじすっ」

ほのぼのと談笑する俺たちの足元に中島が放り込まれる。

遊佐「それはちがくないか?」
聖「やかましい!」
遊佐「何だ? カルシウム不足か?」

ぷりぷり怒って何が気に食わないんだろう?

聖「まったく……お前のせいで私の寿命がストレスでマッハなんだが?」
遊佐「見に覚えの無い事で怒られても困るんだが」
聖「これを手引きしたのはお前だろう」
遊佐「……中島のことか?」
聖「お前一人で手一杯なのに全く……」
ましろ「まあまあ、にぎやかになるのはいい事だし」
聖「ましろ……しかしだな」
中島「ははん? さては流行のツンデレか?」
聖「やかましいわっ!」
中島「みょるにるっ」

再び中島をお手玉し始める聖。
8コンボ以上続いてるが不毛だからやめておこう。

遊佐「ところで、ましろちゃん」
ましろ「ん?」
遊佐「何であんな暴力的なのと一緒に居るの?」
ましろ「あはは、ひどいなぁ。聖ちゃんかわいいのに」

指差しても居ないのに聖の事と分かってる時点で……。
暴力的なのは否定しないんだな……。

ましろ「本当だよ? ためしに付き合ってみたら?」
遊佐「いや、ごめんこうむる。ってか、ましろちゃん本人のほうはどうなんよ?」
ましろ「え? どうって?」
遊佐「人をくっつける前に自分の相手を見つけなきゃ」
ましろ「わたしは相手もいないしねぇ」
遊佐「ファンも多いし引く手数多じゃない?」
ましろ「そんなこと全然無いよ?」
遊佐「謙遜は良いって」
ましろ「本当に無いってば、も~」
遊佐「本当に?」
ましろ「うん。残念ながらね」
遊佐「じゃ、俺立候補しようかな?」
ましろ「ほえ?」
遊佐「ましろちゃんの彼氏に立候補」
ましろ「あはは、お気持ちだけ頂きます」
遊佐「高い回避能力だ」
ましろ「たしなみだよ」
遊佐「いやいや、やはり振り慣れてるとしか」
ましろ「そんなこと無いってば」
遊佐「じゃ、好きな人とか居るの?」
ましろ「うーん。わかんないかなぁ」
遊佐「わかんないって?」
ましろ「好きって良く分からなくなっちゃったんだ」

少し悲しそうに、ましろちゃんがつぶやいた。

遊佐「え?」
ましろ「聖ちゃんは多分、遊佐君の事好きだよ?」
遊佐「冗談きついよ?」
ましろ「結構本気だけど、まあ、いいか」
ましろ「でね、人のことは分かるんだけど、自分だと分からないの」
遊佐「まあ、自分のことは分かりにくいよね」
ましろ「本とかだと、気になって眠れなくなったりとか、色々と手につかなくなったりとか」
遊佐「ああ、良くあるね」
ましろ「人間の気持ちって難しいよね。経験しないと理解できないから」
遊佐「そうだね」
ましろ「だから、私は好きとかってよく分からないんだ」
遊佐「つまり、初恋もまだって事?」
ましろ「そうなるねぇ」
遊佐「そっかぁ」
ましろ「遊佐君は経験あるの?」
遊佐「……どうかな? 覚えてないや」
ましろ「そっか、残念」
遊佐「話戻すけど、理解しようとすると分からなくなるってことはさ」
ましろ「ん?」
遊佐「考えるな、感じろ。ってやつなんじゃないかな?」
ましろ「ああ、そうかも」
遊佐「結局、色々経験してみるしかないよね」
ましろ「そうだね」
遊佐「俺でよければ、色々手伝うよ」
ましろ「ん。ありがとう

少しすっきりした笑顔。
今まで何度か聞いた「ありがとう」の中で、一番暖かい気がした。

遊佐「う」
ましろ「ん?」
遊佐「ちょっぴりときめいた」
ましろ「ふふふっ」

本心だったけど流されちゃった。

中島「かりばるっ」
遊佐「うわっ」
ましろ「きゃっ」

俺たちの足元にお見せできない中島が降ってきた。ショッキング映像的な意味で。

遊佐「お、おい。中島、生きてるか?」
中島「…………」

虫の息だった。

ましろ「さ、さすがに聖ちゃん止めてくるね」
遊佐「う、うん。お願い」

ましろちゃんが聖の元に向かうと、ぴくりと中島が動いた。

遊佐「おい、大丈夫か?」
中島「……ひ」
遊佐「どうした?」
中島「ひじりの……」
遊佐「聖がどうした?」
中島「ぱん……つ……しろ……」

ぱんつしろ?
聖のパンツ、白?
…………。

中島「がとらっ」

さらば、中島。この大馬鹿やろう。
足元の物体をかかとで踏みにじりながら、俺は空に映る友人に敬礼した。
最終更新:2009年02月04日 18:16