7/17(火)
今俺は人生最大のピンチに出会ってしまった気がする。
聖『弁当を作ってきた。だから私達4人で食べよう』
朝の聖の提案。
昨日のそういえば弁当を作るとかどうのこうの話をしたな。
だが、しかし! しかしだ!
遊佐「いきなり手作り弁当を食べるというビッグハプニングに俺はいま直面している。しかも女子3人に囲まれてだ」
ましろ「ハーレムだね」
ましろのすっとぼけた反応。ハーレムって……古すぎる。
只今昼休み。4人で2つくっつけた机を囲んでいる。
聖「そんなこと気にすることじゃないだろうそれに遊佐が昨日私の弁当を不味いと疑ったからな」
遊佐「疑ってねえ……」
周りの眼が気になって仕方ない。明日には三股野郎とか呼ばれそうだ。
まぁ、聖と杏が少しでも仲良くできるようならそれでいい。聖もきっとそれを考えてこういう用意をしたのだろう。それなら乗ってやらなくてはならないだろう。
遊佐「はいはい、諦めましたよ。覚悟を決めて食べてやりますよ」
覚悟を決めたのは聖の弁当の味ではない。この状況だ。
聖「杏も食べてね」
杏「うん……」
ましろ「私もいいかな?」
聖「ましろとはいつも交換してるでしょう」
ましろ「あ、そっか。じゃあ今日も貰うね」
確かに食費は浮くからいいのだが、俺の小遣いから出すわけじゃないしな。
まぁ、このままパクっちまえば俺の小遣いだけど。
聖「さぁ、食べてみろ遊佐」
遊佐「おうよ」
俺は取り合えずここは無難にご飯を……。
聖「何故ご飯を選ぶ」
遊佐「ご飯なら当たり外れがなさそうだから」
ベシッっとチョップ。さ、流石姉妹。怒ったときの反応が似てやがる……。
遊佐「ち、じゃあしょうがねえ。定番の卵焼きからいくぜ」
何が定番かわからんが……。
遊佐「ふーん。ちょっと甘いけどなかなかおいしいな」
聖「不味くないか?」
遊佐「言ったろ。なかなかおいしいって」
聖「だから不味くないと言ったんだ」
聖「はいはい、見直しましたよーっと。杏もほら、食べてみ」
まだ杏は箸をつけていない。
杏「うん……」
おずおずと箸を伸ばしてやはり卵焼きから。
杏「うん、わるくない」
真顔で言う。表情からは判断できないがこのニュアンスは肯定だ。上手いということだ。だんだん分かるようになってきたな。バイリンガル、だな。
聖「そう、よかった。これも食べてみて? 自信作だから」
杏「ん……」
そしてパクっと一口。
杏「おいしい」
お、初めて曖昧な表現から抜け出したぞ。バイリンガルの役目はもろくも崩れ去った。
最近、杏の聖に対する態度、昔より硬さが抜けてきたな。いいことだよな。
聖もがんばってるしだんだんいい方向に向かってるってことだ。
遊佐「そういえば、杏は料理できるのか?」
杏「興味が無い」
杏の反応。
遊佐「やっぱり?」
ましろ「私は興味はあるけど、全然上手くできないんだー。何でだろう」
ましろは首をかしげる。
聖「練習してないからよ」
至極真っ当な意見である。
ましろ「そうだねー」
そんな感じで俺の息苦しい昼飯は終わった。

今日は久々に中島と帰ることになった。男同士の付き合いも大切だからな、うん。決して逃げてるワケじゃないぞ?
遊佐「と、いうわけだから今日は中島と帰るから。んじゃ3人ともまた明日な!」
おれは中島を強引に連れ出して教室を出て行った。
中島「ちょ、待てって、いきなり何ですかぁーー!」
遊佐「いや、ちょっと男同士で遊んで息抜きをしたくなった」
中島「贅沢な悩みだなお前。久しぶりにゲーセンか?」
遊佐「悪くないな。よし、行くか」
今日は中島とゲーセンで盛り上がって遊んだ。

遊佐「久々にエキサイトしたぜ」
俺はゲーセンを出て背伸びをしながらいった。
中島「あー、疲れた……。格ゲー連続は止めようや……」
遊佐「そうか?」
中島「俺は格ゲー苦手なんだよ」
忘れてた。中島格ゲー苦手だったっけ。
遊佐「悪いな、お前の得意のUFOキャッチャーやらせりゃよかったな」
だが、それでは一人でエキサイトしてむなしいな。
遊佐「まぁUFOキャッチャーは一人でやってくれ。俺と居る時は格ゲー付き合えよ」
中島「強引すぎだよ」

中島と帰り道。久々に馬鹿な話に花を咲かせながら帰る。
中島「ん? なぁ、なんか喧嘩してるような声聞こえないか?」
中島が唐突に俺にたずねて来る。
遊佐「喧嘩? 今時どこの不良だよ喧嘩なんかやってんのは」
中島「不良っつうよりか、男と女が言い争ってるって感じだけどな……」
耳を澄ましてみる。
遊佐「あー、確かにそう聞こえるな。珍しい喧嘩だなそりゃ」
なんか嫌な予感するな……。
遊佐「ちょっと行ってみるわ、俺!」
中島「お、おい。待てってあぶねーよ!」
俺はその声がする先へ走っていった。

―丁度その時―
男「だからさぁ、俺もさぁ、反省してるって言ってるじゃん? だからさぁ、その犬返して欲しいんだけどさぁ。ほらちょっとカッとなって捨てちゃったみたいなぁ?」
何なのこの男?
神契「で、でも、一度捨てた飼い主さんにこの子返せません!」
晶子が叫んでる。
杏「そうね、あなた。自分がこの犬に何をしたか分かってるの?」
私がこんなことを言う。言うつもりはなかった。でも口に出ていた。
杏「知らないでしょうけど。怪我していて何週間も入院してたのよ? 何で怪我をしていたのかはいわなくてもわかってるでしょう?」
言葉が止まらない。
杏「あんたなんかに動物を世話する資格なんてないのよ、この下衆野郎!」
怒りのままに言葉が飛び出す。
男「んだと!? 俺が買った犬だぞ? 俺が何したって別に問題ねえだろが!」
神契「そ、それじゃあ生きてるこの子をいじめて怪我をさせてもいいんですか!」
晶子がまた叫ぶ。
男「あぁん? 怪我させたからなんだってんだ? 誰が困るってんだ?」
神契「こ、この子がかわいそうじゃないですか!」
晶子は犬をかばいながら叫んでいる。犬はかなりおびえてた。
男「いいから返せっつてんだろうが! お前らも怪我させてやろうか? あぁ!?」
姉さんが静かに言い放つ。
聖「もし、妹とこの子達に何かしてみなさい。許さないわよ?」
姉が一歩ふみでて私達をかばうような位置に立つ。
男「へぇ? そうかよ……」
鈍く銀色に輝くものが懐から出てくる。
何こいつ、ヤバイ。イカれてる。
男「へ、人間をやるのは初めてなんだがな……。どけっつってんだろうがぁ!」
ナイフを構えて男が突っ込んでくる構えをした。
杏「姉さん!」
私はとっさに叫んだ。誰か……!

遊佐「おい! お前、何やってんだ?」
男「あぁん? 何だてめぇ? てめえから殺されてえのか?」
男がこっちを向いた。
遊佐「何してるんだと聞いてる」
こいつ、ナイフもってやがる……イカれてんな……。
落ち着け、落ち着けよ俺!
「へ、別にちょっとコイツで傷つけてやろうと思ってた、だけだ!」
そういいながら男は走り出した!
そこからは何も覚えてない。
まず蹴りを腕に一撃、ナイフを横にはじき飛ばす。その勢いのまま前にでる。
そのままアゴにもう一撃右を入れる。
相手が怯んだところで俺は足をかけ押し倒し腕を後ろに回した。
遊佐「おっさん、いま何しようとしてたんだ? 言ってみろよ?」
内心俺は焦ってた。どうすりゃいい? 怒りと焦りで何も考えられない。
中島「おい、遊佐! 大丈夫かよ!」
中島も遅れてやってきた。正直これは助かった。
男「んだ、お前ら……」
遊佐「いいから中島こいつ抑えるの手伝え! 聖携帯もってんだろ、警察呼べ!」
駄目だ、聖は力が抜けて座り込んでる。
杏「私が電話する! 晶子、姉を見てて!」
その後警察が来て、俺たちは事情を聞かれてそのあと返された。
俺と中島はとにかく警察に注意された。危ないマネをするなと。
聖はかなりの放心状態だった、うんとかはいしか言えない様な状況だった。
晶子はかなりショックを受けたようで犬を抱きしめて
大丈夫、大丈夫だからね···とつぶやいて泣いていた。
杏は聖の手を握って隣に座っていた。
最終更新:2007年02月19日 23:01